たどり着いたその家
「・・・ここがそうね・・・」
康太たちは度重なる情報収集の末その家にたどり着いていた。
「ようやく見つけたな天野家。ここがそうなのか確証ないけど」
「たぶんあってるわ。ここ数日この家の子を見てないって言ってたし・・・問題なのは・・・」
「・・・この家の人が生きてるかどうか・・・か・・・」
康太と文は探していたみかの家と思われる天野という表札の掲げられた一軒家にたどり着いていた。
欠落が激しい文の描いた絵のそれと大まかではあるが一致している。周囲の人間の証言から鑑みてもおそらく間違いないだろうと文は確信していた。
今問題なのはこの家の人間が生きているかどうかという話だ。周囲の人間の意見を参考にしているために正直生死不明に近い状態である。
康太と文は互いに視線を合わせて同時に索敵の魔術を発動する。建物の中の状態を確認することで中に人がいるかどうかを確認しようとしたのだ。
生きていたとしても死んでいたとしても、人の有無を把握する第一歩としては索敵は間違ってはいないだろう。
いきなり鍵開けの魔術で中に侵入して遭遇するよりは精神衛生上まだよいと思ったのだ。死体を見たとしても、生きていた家族にばったり会ったとしても。
康太と文が索敵を初めて数十秒、家の隅々までしっかりと索敵を終えた二人だが、その表情は芳しくない。
結果から言えば家の中には誰もいなかったのだ。日曜日ももうすぐ夕方になろうというころ、日が傾きそろそろ帰宅している時間でもおかしくないというのにこの家の中には誰もいない。
康太と文はこの状況を説明できる条件を考え始めていた。
「どう思う?」
「いくつか可能性があるな。そっちも考え付いてるだろ?」
康太も文もある程度想定はできていた。最悪の想定からまだましだと思えるようなものまで多種多様である。
この後どうするかを決めるためにも互いに意見を交換しておいて損はないだろう。
「じゃあ一つずつ言ってきましょうか・・・二人はすでに死んでいてどこか別の場所に遺棄されている」
「可能性としてはあり得るけど、それならさっきの時点でみかだけじゃなくてその家族も最近見ないってことにならないか?二人は生きていてみかを探しに行っているとか」
「娘がいなくなっているっていうことに気が付いているのに警察を呼ばないのは不自然ね。二人は生きていて、日常生活に支障がない程度の暗示をかけられている・・・例えば娘はどこかに留学してるとかいって家にいないのが当たり前の状況を作り出しているとか」
「一番あり得そうなパターンだな・・・家にいなくても不自然じゃない、なおかつ日常生活も送れる。両親にそういう暗示をかけてちょっと書類をごまかせばうまくだませる・・・じゃあ今二人がいないのはただ出かけてるか、仕事中かってところか」
「そのどちらなのかはちょっとわからないわね・・・とりあえずもう少し待ってみましょ。それで帰ってこなかったら・・・」
日曜日でも仕事があるような職種は往々にしてあるものだ。人を相手にするような仕事もそうだがインフラ関係の仕事も基本的に曜日というものは関係なくなってくる。
みかの両親二人ともそういった仕事についているかはわからないが、両親が日曜日に同時に家にいなくても別段不思議なところはない。
問題は日曜日の夜になっても家に帰ってこない場合だ。さすがに一日の終わりに家にいないという状況は少々特殊な仕事である可能性が高くなる。
片方だけ帰ってこないというだけならば仕事の都合ということも考えられたが、両親が二人とも帰ってこないとなると話が変わってくる。
「ひとまず家の場所だけはメモっておくぞ。この場所にはまた来るかもしれないからな」
「みかちゃんの家がわかっただけでも十分収穫はあったってことになるものね・・・必要とあらば別の日に改めて確認しに来てもいいし」
「数回確認してそれでも毎回いなかったら・・・さすがに覚悟しなきゃいけないかもな・・・そうなったら・・・」
康太は本当に最悪の事態を想定しつつあった。今日文と康太がやってきたのはみかにあってすぐに事情を察したからでもある。
彼女が魔術師グループに攫われてからどれほどの時間が経過したのか二人は知らないが、少なくとも数日という時間が経過しているのは間違いない。
そうしている間に両親が平常通りの生活を送っていたとしても何の不思議もない。そういった暗示をかけられている可能性だってあるのだから。
問題なのは今日この家にいないのが偶然なのか否かである。
本当に康太と文がこの場にやってきたタイミングで運悪く外出中というのであればまだいいのだが、これが先に文がいったようなすでに死んでいてどこかに死体が遺棄されているなどということになったら目も当てられない。
そういう状況を康太はすでに想定しつつあった。とりあえず考えたのはみかのこれからの生活である。住所を調べることはできたためにあとは市役所などに言ってみかの戸籍を確認し正確な年齢を把握、そのあとで住処を変えるなり新しく生活するための環境作りに取り掛からなければならないだろう。
彼女の生活費に関しては康太のポケットマネーからでも出せばいい。幸か不幸か魔術協会からいくらか高校生の身に余るだけの金額をもらっている。
仮にそれで足りなくとも小百合に頼んで金を出させればいいだけの話だ。奏曰くかなり稼いでいるようだからそこまで気にすることもないだろう。
どうせ使わない金ならばと、自分の弟弟子のために使うことに康太は何のためらいもなかった。




