表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十二話「アリスインジャパン」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

481/1515

双子との別れ

「未来予知がそれこそ誰でも知ってる魔術だったらいろいろ変わってただろうな・・・そのあたりは陰陽師の家系ならではか」


「うちの場合それは顕著ですね・・・俺らなんかは子供のころからそういう教育受けてましたし」


「そういえば知りたいことあったんだけどいい?京都の魔術師って式神みたいなのって使うの?」


よく物語などで出てくる式神。陰陽師が使役する術によって稼働する特殊なゴーレムのようなものである。

紙でできていたり適当な動物を媒介にして発動するものであるように康太たちは認識していた。そしてそれは文も同様だった。


だが式神という言葉を聞いて土御門の双子は眉をひそめて複雑そうな表情をする。


「一応似たような魔術使える人はいますけど・・・あれ式神っていうんかな・・・?」


「ちょっと判断できないよね。見た目はそれっぽいんだけど・・・」


見た目はそれっぽい。話を聞く限り陰陽師の式神に見た目だけは近いのだろうがそれが本当に式神なのかは判別できないようだった。


康太や文としては式神のような魔術があってもいいと思うのだが、実際は物語のようにそううまくはいかないのだろう。


「うちの人が使うのはどっちかっていうと方陣術っぽいんですけど、よく神社とかで見る人型を使ってるんですよね」


人型とは文字通り紙を人の形に切り取ったものだ。人についている厄を本人の代わりに吸い取ったり、逆にやってくる厄を引き受けたりと用途は数多く存在するらしい。


ただ康太たちはそう言ったことに詳しくないために実際それを使うことで何かしらの意味があるのか不思議に思っていた。


ただの方陣術であるのなら別に人の形に切る必要はない。むしろただの紙のほうが使える面積が広いため有用そうに思えるのだ。


「ただの方陣術なら私でも使えるけど・・・ただの方陣術ではないのよね?」


「はい。なんて言うか・・・勝手に動くように見えるっていうか、そういう風に操ってるんだと思いますけど」


「人型がそれぞれ使える術が違って、いろんな場所に配置させてから一斉攻撃するんですよ。でもなんか術の発動タイミングも微妙に違ったりして・・・」


「あとこっちが攻撃しようとするとひらひらよけるんですよ。そのせいでなかなかそれを妨害できなくて」


康太は方陣術のことに関してはまだそこまで詳しくない。そのため文にその効果が方陣術ではあり得るのかを確認しようと視線を向けた。


どうやら彼女も方陣術でそれらが可能かを考えているのだろう。自動で動く、あるいは任意のタイミングでの発動。


前者は難しいかもしれないが後者に関してはそう難しくはない。それに前者の自動で動くような動きも、最初からインプットしておけば決して不可能ではないのだ。


自動で動くというよりは最初からそう動くようにあらかじめプログラムしておくというべきだろうか。


だがひらひらよけるというのはなかなか難易度が高い。あらかじめ決めた動きをするというのはそこまで難しくはないが、相手の攻撃に対する対応というのはどうしたって後出しの命令を出さなければ回避は難しい。


相手の攻撃を完全に予測できるようであれば、その攻撃をよけるように仕込んでおくことも可能だろう。そう考えると予知との組み合わせを使えば不可能ではないように思える。


「ちなみにその式神っていうのはあんたたちはよく手合わせしてるの?」


「はい、なんていうか・・・体験しておいてもいいだろって感じで最近は練習相手になってもらってます」


「万が一私たちの攻撃が命中しても誰もケガしませんし」


生身の人間同士での訓練は当たり前だがけがなどの危険が付きまとう。最初から人間相手に魔術を使い、けがをさせるという意識を強めて萎縮させるよりは紙相手に魔術を使わせて命中精度や立ち回りを学ばせようとしているのだろう。


相変わらず過保護な指導法だなと思いながら康太は首をかしげる。そんなことで本当に魔術師としての訓練になるのだろうかと疑問を持っているのだ。


相手はあくまで人間だ。人間の動きをいくらまねさせたところで相手の体にダメージを与えることを念頭にするのであれば実際に人間にあててみるほかない。


自分の所有している魔術がどの程度の威力を持っているのか、それを相手がどれほどの脅威に感じてくれるのか、そういったことは実際に使ってみない限りはわからないのだ。


「なるほどね・・・確かに紙なら操作も比較的簡単だし、不可能ではないかもしれないわね。いくつか術を組み込む必要があるけど」


「そうなんですか?具体的には?」


「私だったら二種類の魔術といくつかの条件を組み込むわね。基本移動は風、攻撃が自分に近づいてきたときに自動発動でちょっと強めの風を吹かせて緊急回避、あとは配置についたら攻撃。それだけでさっき言った動きは十分再現できるはずよ」


人型のように特徴的な形をしていれば風によって不可思議な動きができる。移動時と違い強い風を利用した回避の動きはまるで自分でそう動いているかのように見えるだろう。


方陣術の利点はある程度術の発動条件を指定できることである。例えば攻撃が近づいてきたときに自動発動するといった効果も付け加えられる。


ただ今回の式神の場合その分術式が複雑になり、複数の術式を組み込む関係から互いが干渉しあわないように、また矛盾しないように術式を組み込まなければならない。


少なくともある程度方陣術に長けたものでなければ扱うことはできないだろう。文もその術式をある程度説明することはできてもそれを満足に使えるかは自信がなかった。


だが方陣術というのはその場その場で扱う必要はないのだ。使用したいときになったらそれに魔力を通してしまえばあとは勝手に発動する。問題なのはそれを用意するところまでだ。


あとはそれを扱えるだけの環境をそろえるだけで多数の移動砲台を作り出すことができる。そう考えるとその式神もどきは非常に有用な術だ。


相手の注意を自分だけではなくほかの紙などにも移すことができる。これは魔術戦においてかなり優位に状況を進めることができる。


遮蔽物の多い地形ではより効果的に相手をコントロールできるだろう。それを予知の魔術と併用して扱うとなるとかなりの脅威となりそうだ。


周囲一帯を炎で包んだり、水や風で一気に紙を押し返すなりの広範囲攻撃をしなければ対処しきれない。


紙に込める魔力などは紙を飛ばせるだけの弱い風、緊急回避用の強い風、あとは攻撃用魔術の三種類だけだからそこまでの量はいらない。それに対して相手には広範囲に紙に対して対応できる魔術を強要することになる。


相手の魔力を削るためにはかなり有用な魔術だ。自分の魔術との相性もいいなと文は本格的に自分も使うことを考え始めていた。


予知がない分自分でいろいろ考え、相手の動きを予測して配置しなければいけないだろうがそのあたりはいくらでもやりようはある。


それに何よりこの方法は相手にばれても何ら問題がないというのが魅力的だ。


式神もどきが飛翔して攻撃するというのは相手もすぐに気づけるだろう。そうなれば相手は飛ぶ紙に意識を割かなければならない。たとえそれが移動以外何の術式も込めていないものだろうと同様だ。


こちらが消費するのは魔力だけ。対して相手は飛翔する紙とそれらへの対処、必要なら魔力を多量に消費しなければならないだろう。


魔術師戦において射程や戦い方のほかにも重要なのは消費する魔力の量だ。


いかに効率的に魔術を使い相手に攻撃するか、またいかに相手に魔術を使わせるかというのが求められるのである。


自分が攻撃だけに集中できれば、相手は防御に集中せざるを得なくなる。攻撃と対応、それを繰り返すことで魔術戦は成り立っている。


相手の集中を乱すと同時に相手の保有する魔力や集中力を削れるという意味では件の式神の魔術はほぼ最適といえるだろう。


これは本格的に採用をするべきかもしれないなと文は本気で考えていた。


何せ使用するのは紙だ。大量に保有することも難しくなく、動かすのにそこまで労力もいらない。


何より文自身方陣術を扱う際は紙をよく使う。そのため使い慣れているし一度その術式を確立できてしまえばあとは量産し放題だ。


もし方陣術の技術が向上すれば式神のようなある程度大きさのあるようなものではなく紙吹雪のような極小の紙にそういった仕掛けができるようになるかもしれない。


そうなれば目くらましに加えて相手への攻撃と攪乱も可能になる。


文の扱う魔術は主に雷水風光の四つの属性だ。むろん無属性魔術に加え、それ以外の属性の魔術もある程度は扱える。


瞬間的な発動が求められる通常発動魔術と違い、事前に準備できる方陣術ならばある程度精度と威力を保持した状態で作ることができる。


「なかなかいい情報をもらったわね。これは私も利用させてもらおうかしら」


「文は式神使いになるのか?でも紙とお前の魔術じゃ相性悪くないか?」


「そうでもないわよ。あくまで紙は魔術を運ぶ媒介に過ぎないもの。数が用意できるなら使い捨てにしてもいいし、何より自分以外に意識を向けられるってのが気に入ったわ」


文は自他ともに認めるほどに接近戦が得意ではない。エンチャントの魔術の習得で多少ましになったとはいえやはり康太のような高威力の応酬は向いていないのである。


向き不向きがある以上無理にそれらを習得しても先は見えている。ならばある程度対応できる実力をつけつつ自分の得意分野を伸ばしたほうが良いと考えたのだ。


自分以外のもとに意識を向けさせつつ、自分に有利な環境をそろえてから攻撃する。


もし射撃系を完全に無視して攻撃して来ようとするのならエンチャントの魔術を使って対応。射撃系の攻撃に重きを置きつつも近接戦闘もこなせるようにすれば文の戦いの幅は大きく広がるだろう。


文が思い描く理想の戦闘にまた一つ近づくのを実感しながら実際どのような術式にするべきか思案を重ね始めていた。


「必要ならアリスに技術指導お願いしようかしら・・・さすがにその人が使う術式教えてくれるわけにもいかないもんね?」


「はい・・・たぶん教えてくれないと思います」


「そうなるとアドリブか・・・術の開発はあんまり得意じゃないんだけどなぁ・・・」


身近に術式が保管してある魔導書がたくさんあったからか、文は自ら術式を作り出すということが得意ではない。


それは方陣術でも同じらしく、誰かが作った術式をまねたりアレンジしたりすることは得意なのだが一からすべて自分が作るというのはなかなかに難易度が高いらしい。


「よし、ここは俺が知恵を貸そうじゃないか。何でも聞いてくれていいんだぞ?」


「そういうことはせめて方陣術で手紙を出せるようになってから言ってよね。最近ようやく筆と同じような字が書けるようになったペーペーのくせに」


少しでも文の力になりたかったのだがバッサリと切り捨てられ康太はうなだれてしまう。


確かに康太は文の言うように方陣術の作成に関しては素人同然だ。まだまともに文字を書くことも形を作ることもできない。


そんな状態で文の力になれるとは毛ほども思えなかった。











「んじゃもう帰るのか?もうちょっとゆっくりしててもよかっただろうに」


「いえ、一応身内の仕事で一緒に来ただけなんで長居するのは・・・」


日が傾こうというころ、康太と文は土御門の双子を校門の前まで案内していた。


ある程度見て回り魔術師としての話をした後もう京都に戻ってしまうらしい。向こうの都合もあるのだろう。致し方なしという話である。


「時間制限もかけられちゃってるし・・・それにたぶんそろそろ呼び出しが・・・」


明がそういうとまるで見ていたか聞いていたかのように彼女が持つ携帯が震えだす。すぐに彼女は携帯をとり通話を始めた。


「ということなんで、今日はありがとうございました。いろいろためになったんで」


「そう、とりあえず修業頑張りなさい。私たちもあんたたちに負けないよう頑張るから」


「お二人にはまだ勝てる気はしないっすよ。追いつけるように頑張ります」


まだ勝てる気はしない。つまりこれから修行して勝つつもりでいるということだ。


年下であり実力面で劣っているからこそまだ気を使っているのかもしれないが、もとより晴は攻撃的な性格だ。この二人には勝てるとどこかしらで思っているのかもしれない。


だが康太も文もそう簡単に追いつかれるわけにも、ましてや勝たせるわけにもいかなかった。

もっともこの二人と矛を交えるなんてことがこれからさきあるとも考えにくいのも事実ではあるが。


「追いつかれるのは早そうだよな・・・とりあえず早いところ簡単な案件にかかわれるように交渉してみな」


「はい、わかってます。俺も早いところ一人前になりたいっすからね」


経験のない未熟な魔術師。素質だけでいえば文さえもしのぐかもしれない実力差。その差を実感しつつなおかつこの二人に勝つには康太と文はそれぞれ自分にしかないものを磨いていくしかない。


文は二人に若干素質面では劣るものの高い処理能力を持ち、複数の魔術を同時に発動できるだけのキャパシティを有している。別の種類の属性の魔術も同時に容易に扱えているためそのあたりを徹底的に伸ばし、同時に近接戦もある程度こなせるようになれば彼女に勝つことができる魔術師はそうそう現れないだろう。


じゃんけんの相性のようなものではないが、魔術師の戦闘にもそれが当てはまることが多い。


康太のように徹底的に近接戦を望むタイプは高い射撃能力に加え近接戦も行える魔術師には苦戦する。戦いにおける選択肢と射程距離の問題から接近するしかないのに、接近し相手に組み付いても決定打を与えられないのが原因だ。


逆に射撃能力と近接戦闘に割り振ったものは自分よりも高い射撃能力を持つ者に対して苦戦する。近接戦闘はあくまで防御や対応するためのものであってそもそも自分より高い射撃能力を持つものに近づくことが難しいのだ。自分より高い射撃能力を持っていれば徐々に削られ、ゆっくりと勝負がついていくだろう。


そして土御門の双子のように近接能力がほとんどなく完全に射撃戦のみの魔術師は康太のような近接戦を望むタイプに弱い。これは一般的な魔術師のほとんどとエリート気質のものに多くあてはまるが、遠くから敵を攻撃するということに慣れると近接戦の攻撃頻度とその切迫感に頭と心がついていかずにパニックになることが多いのだ。そのため最悪何もできずに負けることも多々ある。


三つのタイプの魔術師は互いに弱点があるためにそういう異なるタイプの魔術師が手を組むと高い実力を発揮することができるだろう。


「お待たせしました。晴、やっぱもう戻らないとまずいっぽい」


「わかった。それじゃお二人とも、今日はもう失礼します」


「お世話になりました」


「おう、また来いよ」


「元気でね」


二人が帰っていくのを見送りながら康太と文は校門で二人に軽く手を振り別れの挨拶をする。


まさかの来訪にだいぶかき回された結果になったが、まだあの二人だからよかったと思うべきだろう。


これでやってくるのが小百合の兄弟子の幸彦や師匠の智代だったらさらに面倒なことになっていた可能性がある。


二人の姿が見えなくなったところで康太と文はようやく一息がつけると同時にため息をついていた。


「まさかこんなところで京都の人間に会うことになるなんてね・・・全く驚いたわよ」


「驚いたのは俺も同じだって。ていうかこっちに来るなんて一言も聞いてなかったっての。師匠も人が悪い」


「あの人が人が悪いのはいつものことでしょ」


そりゃそうだと苦笑しながら康太と文は高校の敷地内へと戻っていく。まだ文化祭自体は終わっていないのだ。


何よりこのあたりに潜伏、もといこのあたりをぶらつきながら文化祭を楽しんでいる奏とアリスを探さなければならないだろう。


二人が気を使ってくれて文化祭を案内する必要がなくなったのは良いことなのだが、あの二人をフリーにしておくというのはそれはそれでいろいろと不安になる。


何せそれぞれ一癖も二癖もあるような人間なのだ。奏は言うまでもなくアリスはアリスでいろいろと問題がある。


早く二人と合流して行動を逐一監視したいところなのだ。そうでなければ安心できない。主にほかの先輩魔術師への干渉という意味において。


余計なことをしていなければいいのだがと康太と文は互いに索敵の魔術を発動し手分けして二人を探すことにした。


日曜日、誤字報告を五件分いただいたので三回分投稿


活動報告を投稿しました


これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ