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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十二話「アリスインジャパン」

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現場への説明

「その理屈でいうと、今回の奴らはそこまで賢くないってことになりますかね?文よりも俺のほうを誘ったわけだし」


「わからんぞ?それこそお前の実情を知っていれば確実にお前のほうを優先させるだろうし、お前の特性をある程度評価点から予想して誘ったのかもしれん。こういってしまうとあれだが、誘われた理由なんて向こうの都合でしかない。こちらが想像したところで答えは出ないだろうな」


その答えを予測することができても、仮にその答えと同じ予想をしていたとしても結局のところその答えを持っているのは誘ってきた向こう側だけなのだ。


たとえ模範解答を記したとしても回答をしてもらえなければ結局のところそれが正しいのかどうかも判断できないのである。


こうして考えても堂々巡り、いつまでたっても先には進めないのだ。


「とにかく、そいつらがまた接触してくるのを待つべきだ。特に今夜はこの学校内に張り込んだほうが賢明だろうな。昼間のお前の行動のせいで八つ当たりでもされる可能性がある」


「うげ・・・せっかく学園祭やってるのに水差されたらたまりませんね」


「その原因作ったのあんただけどね。もう少し穏便に片づけてればこうはならなかったでしょうよ」


「そうは言うがな文さんや、あの状態じゃあれがベストだろうよ」


「ベターであったのは認めるけどベストとはいいがたいわね。それこそ穏便な方法をとろうと思えばとれたはずよ?そうしなかったのはあんたが挑発したからでしょうが」


そう、康太は今回相手を挑発して自分に手を出させることでこの場からご退場願ったが、別に康太がブライトビーであるということを名乗りその場で話を終わらせてしまってもよかったのだ。


そうすれば学校に報復、あるいは八つ当たりしてくるような可能性は取り除けただろう。


もっとも、相手がブライトビーを仲間にしたいという考えがある限りこの高校そのものに手を出してくるとは考えにくい。


仲間にしようとしているのに自分の心証を悪くしてしまっては仲間になる可能性は低くなってしまう。

多少面倒でもある程度手順を踏む必要があるのだ。


もっとも相手が三鳥高校に手を出し、手を出してほしくなければ仲間になれなんてことを言い出したら康太としても考えがある。


もっとも考えがあるといってもそれは非常にシンプルだ。自分たちがいる場所を壊そうとしているのであれば、先に手を出してきたのは向こうなのだからしっかりと後悔してもらうだけの話である。


「まぁどの手段が最適であったかは結果論になってしまうだろうな。だが文の言うようにあの手はあの場ではベターではあったと思うぞ?搦め手としては十分。小百合の弟子とは思えん手際だった」


「まぁ・・・あれは文とかの手伝いがありましたからね・・・」


小百合の弟子らしい行動となると、おそらくあの二人を校舎裏か何かに連れ出して徹底的にボコボコにするというものだろうか。


もしこの場に小百合がいて、小百合が同じ立場だったのならきっとそうするだろうと康太は容易に想像することができた。


想像が簡単にできてしまうのがまた悲しいところだが、奏からすれば小百合の弟子である康太がそのような魔術師に育っていないことは残念であると同時に喜ばしいことであるらしい。


「でも姉さんも基本は穏便策をとるんじゃないですかね?あの人あんまり好戦的な感じはしませんし」


「ん・・・そうだろうが・・・んー・・・まぁ・・・確かにそうかもなんだが・・・」


奏は真理の行動を思い出しているのか額に手を当てて悩み始める。


一体何かやらかしたのだろうかと康太と文は互いに顔を見合わせる。


康太の兄弟子である真理は普段こそ大人っぽい女性だが、スイッチが入ると人が変わる。


いや正確に言えば人が変わるといっても性格が変わるわけではない。容赦がなくなるだけだ。そのあたりは小百合の弟子らしく、小百合の特徴的なところを忠実に引き継いでいるといえるだろう。


そのあたりは康太も同じだが、もしかしたら真理は康太以上にえげつない手段をとったのかもしれない。


「まぁとにかくだ・・・話がだいぶ脱線したがお前自身魔術師としての顔は広げておくに越したことはない。お前がどう判断するかはお前の自由だが自分で自分の道を狭めるのはやめておけ」


「・・・はい・・・頭に入れておきます」


魔術師として生きていくうえで、いや人として生きていくうえで誰かとかかわっていなければいけないのだ。


それはどのような職業であっても、どのような生き方であっても変わらないだろう。


誰にも関わらずに生きていけるなんてものは限られた人間にしかできない。それこそ選ばれた何かでない限りは難しいだろう。


康太はそんな特別なものはない。徒党を組み、味方を増やし、時には敵を倒していかなければこれから魔術師として生きていくうえで苦労するだろう。


「随分と長話をしてしまった・・・それではな。土御門の二人も道中気をつけることだ。ご両親によろしく伝えておいてくれ。行くぞアリス」


「うむ。私はさっき売っていた綿あめとやらを食べてみたいの。あとはリンゴ飴か」


「わかった。とりあえず出店を回ってみるとしよう」


そういって奏とアリスは意気揚々とその場を去っていった。文化祭を楽しむ姿は二人とも子供のようだった。もっともその姿を常に周囲の先輩魔術師が観察しているのは言うまでもないだろう。


「・・・さて・・・この説明はしんどいわよ?こっちの事情をかなり話さないと」


「そうだな・・・さてどうしたもんか・・・」


康太たちと奏たちが離れたことで、周囲に展開していた先輩魔術師はそろそろ話が聞けるだろうかとこちらをうかがっているのが嫌でもわかる。


敵意を向けられているわけではないのだがこうも露骨に意識を向けられていては索敵がまだ苦手な康太だって相手がどうしたいのかくらいは理解できてしまう。


「あの・・・八篠先輩、俺らはいないほうが話しやすいですかね?」


「あー・・・そうだな。一応お前ら協会の魔術師じゃないし、そろそろ離れておいたほうがいいだろ。一応お前らの話も・・・文のほうからしたんだっけ?」


「すごいおおざっぱだけどね。ちゃんと説明するにしろ身分は隠したほうがいいでしょうね。京都の魔術師が紛れてるなんて知られたらそれはそれで面倒になるわよ」


ただでさえ今回訪れるはずのゲストが増えたことでだいぶ混乱したというのにさらに現場を混乱させるような要素を増やしたくはない。


あくまで康太の知り合いだからこそこの場にいることができるのだ。そんな人物が魔術協会の人間ではなく京都の四法都連盟の人間だと知られたらいろいろと良くない考えを起こすものもいるだろう。


ただの魔術師ならばよかったのだが、二人は良くも悪くも土御門の家の未来を担う次世代の魔術師だ。


しかも家全体が彼らの教育に関して口を出すレベルで過保護なのだ。このような場所にやってこられただけでも十分異常である。


もしかしたら康太たちが気づいていないだけでどこかから見張りをしている可能性が否めないが、見張っているかもしれない関係者にも『何もなかった』と思われるくらい穏便に話を進めたほうがいいだろう。


そう考えると二人はただの康太たちの知り合いということにしておいたほうがいろいろと都合がよさそうだ。


一番いいのはこのまま二人に京都に帰ってもらうことなのだが、実際せっかくここまで来た二人がこのまま帰ってくれるとは思えなかった。


「お前らこの後どうするんだ?うちの高校いろいろと回るつもりか?」


「はい、せっかく来たんで楽しんでいこうかと思ってます」


やっぱりそうなるよなと康太は眉をひそめて文のほうに視線を向ける。彼女も康太の視線の意味を理解しているのだろう。面倒そうに眉をひそめて双子のほうを見る。


「そうなると案内つけないと面倒よね。普通に話しててもイントネーションで西のほうの出身だって一発でばれるわよ?うちの魔術師が話しかけないとも限らないし・・・」


康太と文の知り合いだということは先輩魔術師たちには伝わっている。その時点でこの双子は康太たちに関する情報源となりえるのだ。


康太たちにつながる何かを得ようと二人から話を聞かないとも限らない。そうなるとここにいる間に関しては一緒に行動しておいたほうが代わりに受け答えができて楽ができるだろう。


「そんなにわかりやすいですかね?」


「標準語には結構自信あるんですけど」


「いやまぁ・・・関西弁にはなってないけどさ、やっぱイントネーションが違うわよ。私たちとは圧倒的に」


「うん、俺的には聞いててうれしいんだけどな」


言葉にすると普通に話しているように聞こえるかもしれないが、実際双子が話している言葉はだいぶ訛りが強い。


訛りというよりもイントネーションが違うというべきだろう。関東のそれではないのは間違いない。特に時折ではあるが関西弁のような言葉が出てくることもある。少し話せばすぐにばれてしまうだろう。


関西弁が好きな康太としてはこのイントネーションの違いはむしろうれしいらしいが、今はその話は置いておくことにする。


「うちの高校を見て回るなら案内するわ。離れられるとそれだけで面倒なことになりそうだしね・・・」


「どっかからかいろいろとみているお兄さんたちがいるしな。でも事情の説明はどうする?」


「代表して一人に来てもらいましょ。いちいち何度も同じ話をするのも面倒だわ。メールで一斉送信してもいいけど・・・それだと私たちがこの二人を守ってるって伝わらないかもしれないし」


「守ってる・・・か・・・なんか保護者の気分だな」


「実際一時的には保護者みたいなもんでしょ。右も左もわからないような新米魔術師さんなんだから」


新米魔術師と言われて双子の二人は、事実であるのだが認めたくないという気持ちがあるのだろう。複雑な表情をしていたがその文の言葉に対して康太は笑いながら二人のほうを見る。


「少なくとも魔術師としての格は俺よりずっとこいつらのほうが上だろ。経験さえ積めばあっという間に俺なんか追い抜かれるだろうさ」


「まぁそうでしょうね。素質じゃこの子たちのほうがずっと上みたいだし。何よりあんた結構基本からズタボロだし」


「相変わらず言いにくいことをはっきり言うな・・・まぁということで俺ら未熟者の保護者役よろしく頼むよ母さん」


「誰が母さんか。どっちにしろ私が説明したほうが角が立たなさそうね・・・あんたはこの子たちの間に入って守ってますアピールしてなさい」


「アイアイサー」


「誰がサーよ。マムでしょそこは」


康太のそんな間違えを指摘しながら文はとりあえず今回の事情を詳しく先輩に伝えるためにメールで先輩のうちの一人を呼び出していた。


「というわけです。早ければ今日の夜にでも対応します。あの二人に関しては私たちがついて回りますので気にしないでください」


三鳥高校の魔術師同盟の実質上のトップである三年生の魔術師を呼び出したところで文は今回の事情を大まかにではあるが説明していた。


内容は主に自分たちのもとに思わぬ客人が現れたことに関してである。


思わぬ客人の第一波としては土御門の双子、これに関しては全く予想していなかっただけに康太たちは完全に不意を打たれた形となる。小百合のせいで無駄に事態をかき回すような動きをしていたのも事態の混乱を招いた一つのきっかけだろう。


第二波は康太を仲間にしようとやってきた魔術師二人。これに関しては康太が直接対応するしか対処法がない。


早ければ今夜にでも彼らはここにやってくるだろう。今度は文化祭の客としてではなくただの魔術師として。


そうなったら康太も康太でやるべきことがある。相手から情報は絞れるだけ絞っておかなければならないのだ。


先輩魔術師は文の説明を受けて康太の後ろにいる双子の魔術師に目を向ける。少なくともこのあたりでは見かけない顔。そして魔術師としてもあったことはないだろう。二人が康太たちとどのような関係であるのかは興味があったが、康太が間に入って二人を守るようにしてるのを見る限り直接接触するのは難しいと判断したのか小さく息をついてから苦笑する。


「君がそういうのならこちらとしては言うことはないよ。夜に関してはこちらから手を貸す必要はあるかな?」


「必要ありません。あくまで今回はあいつの問題ですから。私はちょっと手を貸すかもしれませんけど先輩たちの手を煩わせることもないでしょう」


遠回しにお前たちの出番はないといった文の言葉に何かしら思うところがあったのかもしれないが、実力的にも経験的にも、そして実績的にも康太たちのほうが上なのだ。必要ないと言われればその通りだなとうなずくしかないのだろう。


だが一応はこの三鳥高校の防衛もしなければならない。この文化祭にかこつけて何かしらの妨害がないとも限らないのだ。


「わかった。でも一応配置にだけはつかせてもらうよ?万が一ということもあり得るからね。人払いの意味でも人手は多いほうがいいだろう?」


「・・・そうですね。ではお願いします。今日来た二人組の特徴はすでに把握していますよね?」


「あぁ、背の高い男の人と帽子をかぶった女の人だね。こちらでも把握しているよ。なかなかスマートとは言えない追い払い方だったね」


「あいつが戦闘状態に移行するよりはずっとスマートですよ。ベストではないのは認めますがね」


康太がその気になればあの場で戦闘も十分あり得た。といっても周囲にいる人間に気づかれないように見えない形で相手への攻撃をして文に周囲の人払いを完璧にしてからの戦闘になっただろうが、あの場での戦闘は互いにデメリットしかないのはあの状況を見れば明らかだった。


康太が一方的に殴られたとはいえ、相手を追い払うという意味では十分以上の成果を得ている。それこそ奏の言葉を借りるわけではないが小百合の弟子とは思えないほどの搦め手である。


「ところで、これだけは聞いておきたいんだけど・・・君たちは・・・いや、彼は今夜どうするつもりなのかな?」


「どう・・・とは?」


「言葉の通りだよ。もし件の二人組が来たとして、どうするつもりなのかな?話し合うのか、それとも戦うのか」


先輩魔術師の言葉に含まれたその二つの選択肢。正直に言えば今の段階ではどちらもあり得るというほかない。


康太はどちらかというと後者のほうに重きを置いているだろう。もし相手が康太の情報を知りすぎているというのなら無理やり拘束してでも情報を聞き出す必要がある。


少なくともただの話し合いで済むような段階を超えるのは間違いない。


「状況と康太の機嫌によりけりとしか言えませんね。あいつがその気になったらすぐに戦闘が開始されるでしょう。そのフォローは私がする予定です」


「んー・・・こっちとしては戦闘は避けてほしいんだけどな・・・一応文化祭最中って感じだし・・・ある程度人も残ってるかもしれないからさ」


三鳥高校の人間に魔術師の存在を露見させないようにするためにはある程度派手な行動は避けなければならない。


特に戦闘などはもってのほかだ。彼の立場的には戦闘は避けてほしいのだろうがそんな言葉を聞く康太ではない。何より三鳥高校の都合よりも自分の都合のほうが優先される。


「それは康太本人にお願いします・・・まぁあいつの場合、その場になったらいっても聞かないでしょうけど」


「あはは・・・そのあたりはさすが『デブリス・クラリス』の弟子って感じだね。好戦的なところはよく似てるってところか」


「・・・あいつ自身はそこまで好戦的ではありませんよ。ただ一つの線を超えると容赦がなくなるってだけです」


その点は康太だけではなく真理も同様だ。ある一線を超えると相手に対する容赦が一切なくなる。

そうする以外に方法がない、あるいはそうするしか自分にはできないと判断した場合、あきらめにも似た判断によって徹底的に相手をつぶす。


好戦的とは決して言い難い性格をしている二人の弟子だが、小百合の弟子だからという理由で好戦的とみなされるのは本人としてもいい気分ではないだろう。


事情を説明し終えた文は先輩に別れを告げて待っていた康太たちのもとに歩み寄る。


「随分としっかりと伝えたな。情報出しすぎじゃないか?」


「そうでもないわよ。先輩も言ってたけど文化祭中ってこともあって夜でも人がいるかもしれないから人手は多いに越したことないわ・・・癪ではあるけどね」


本来文からすれば余計な人間を巻き込みたくはなかっただろう。ただでさえ康太の話に深く関係のある相手になる可能性があるだけにできるなら康太と文だけで対応したかったところだ。


文自身も可能なら自分だけで康太のフォローをしたかったのだろう。その言葉と表情からは複雑な心境がにじみ出ている。


だが現実問題文化祭ということもあって人が多い。それらに気づかれないように行動をするのは文の全力を持ってもなかなか骨が折れる。


アリスの手を借りられればその程度のことは問題なくできたのだろうが、康太も文もアリスの力を借りることに関しては消極的だった。


今回の相手が封印指定に関しての情報が相手に漏れている可能性があるというのもその理由の一つなのだが、アリスの力を頼るということ自体を康太と文があまり良しとしないのが原因である。


確かにアリスの実力は康太と文のそれとは比べることもできないほどのものだ。はっきり言って天と地ほどの差があるといっていいだろう。


彼女の力を借りれば解決できないような状況はほとんどないといっても過言ではない。それほどの存在だ。

だが彼女の力を借りるということはつまり康太たち自身が自分たちの成長の機会を逃すということでもある。


康太たちはまだ魔術師としては未熟者だ。完全に円熟した実力を持った魔術師ならば、自分ではどうしようもなくなった場合誰かの力を借りるのかもしれないが康太たちにはまだまだ伸びしろが残っている。


その伸びしろを無視してアリスに頼み、自分たちの成長の可能性を最初から無視してしまっては自分たちのためにならないと思ったのだ。


まるで某青いネコ型ロボットのような利便性を持ったアリスだが、その力に頼りすぎるのは自分たちにとってマイナスであると二人とも理解できているのだ。


そしてこれは主に文の考えなのだが、アリスに頼ったり力を借りるというのは少し格好悪いような気がするのだ。


これは実力とかそういう意味ではなく見た目の問題だ。


アリスは見た目外国人の少女だ。年齢的にまだ小学生であろう見た目をしているために、そんな彼女に力を借りるというのは何かに負けた気がするのだ。


初対面の時点でそんな少女を頼った康太はそんなことは微塵も感じていないだろう。というかむしろ頼ってもこれ以上格好悪くはならないと思っている節さえある。


すでに醜態をさらしているというのはある意味強い。これ以上落ちることがないところまで落ちているのだから。


「さて・・・んじゃこれから案内するんだけど・・・二人に一つ頼んでいいか?」


「いいですけど、何です?」


「未来予知で今夜のここの様子を見てほしいんだ。できるか?」


康太は未来予知の魔術のことを正確には把握していない。どれくらい遠い未来まで見通すことができるのか知らないのだ。


それこそ一年先まで見えるのかもしれないし、数十秒、あるいは数分程度先の未来しか見えないのかもしれない。


康太の頼みに双子は互いに顔を見合わせてから複雑そうな表情になる。


「今夜ってことはまだ相当先ですよね?そうなると俺らの予知だとだいぶブレますけど・・・」


「ブレる・・・?」


「遠い未来だとその分予知が外れる可能性があるってことです。いくつもの可能性を現段階である程度処理しながら未来を見るので・・・人ひとりの行動で結果が大きく変わるってことも結構あります」


「なるほど・・・まぁぶれても構わないぞ。俺としては戦闘があるかどうかを確認しておきたいだけだ。時間を変えて回数こなせばある程度結果は収束するだろ?」


もしこの段階で今夜の未来を見た場合、反応は大きく分けて二種類、そして状況としては三種類に分かれることになるだろう。


反応は戦闘があるかないかの二つだけ。状況は件の二人組またはその仲間が現れない。または現れたが康太が戦闘を仕掛けるような状況にはならない。あるいは現れなおかつ康太が戦闘をするような状況になった。この三つだけである。


現れない場合であれば今夜の行動は徒労に終わるだけだ。何も気にすることはない。


現れたが康太が戦闘を仕掛けないような状況は、相手が康太を仲間にする理由がただ康太が残した結果だけを見ての単純なものであることが条件だ。これも気にするようなことではない。


現れ、なおかつ戦闘が行われるということは、相手が康太を仲間にする理由が『少々特殊』である、あるいは向こうから戦闘を仕掛けてきたからに他ならない。


情報を得るために康太は戦闘を余儀なくされるだろう。相手からの情報を無理やりでもいいから搾り取る。

この三つの状況で他人の行動によって変化するのは相手が来るか来ないかだけだ。相手がどの内容を理由にしたのかはすでに決定している。


嘘を言われる可能性もあるが、そのあたりは康太が自分で判断して怪しいと思ったら戦闘して吐かせればいい。それはそれで相手の申し出を断るきっかけにもなるだろう。


康太の読み的には八割がた戦闘、二割が平静といったところだった。


さらに言えばこの予知によって康太はある情報を得ることになる。


戦闘が行われるという未来が一つでも確認できた場合、それは相手が康太の特殊な状況を理解している、あるいは理解している可能性が高いということを示しているのだ。


康太は理由もなく戦闘を挑んだりはしない。むろん相手から戦闘を吹っかけてくる可能性も否めないが、戦闘を行うという状況に発展し、なおかつ康太がそれを受けて立った場合かなりの確率で相手に何かしらの問題があることになる。


戦闘が行われる可能性が少しでもあるなら万全の体制を敷いてから挑むのが常だ。


最近まともな戦闘がなかったために準備のほうは比較的問題ないだろう。装備を整えることができればそれこそ簡単にフル装備は作れる。


文化祭が行われている校内を案内しながら土御門の双子にそれぞれ今夜の未来を予知してもらうと、康太の予想は果たして的中していた。


最初こそ戦闘の光景を見つけられなかった二人だが、回数をこなしていくにつれて戦闘と思わしき動きをしている魔術師を確認することができていた。


しかもその割合はかなり高い。予知をした中で七割近くが戦闘を行っていた光景を見ることができていた。

その結果を聞いて康太は先ほど考えた三通りの状況の中では相手が現れて戦闘が行われる可能性が極めて高いということになっている。


まだ夜までは時間がある。具体的にどのような話の流れになっているのかはわからないが現段階では高い確率で件の二人組、ないしその仲間がやってくるということになる。


「状況としては好転してないけど、やることがはっきりしていい感じね。少なくとも事前に準備だけはしておける」


「あぁ、やっぱ予知様様だな。あらかじめ情報を得られるってのは本当にありがたいよ。俺も予知覚えたいくらいだ」


康太の魔術師としての特性は索敵など知覚に関係する魔術が覚えやすいという点だ。予知の中でも未来視は一応視覚に関係している魔術だ。もしかしたら康太も覚えることができるかもしれないが土御門の双子は複雑な表情をしている。


「すいません・・・一応予知の魔術は門外不出ってことになってるんです・・・」


「それぞれの家でも予知の魔術は系列が微妙に違ったり種類が異なったりするんです・・・だから・・・その・・・」


「あぁいいっていいって。覚えられたらいいな程度でしか考えてないよ。それにたぶんだけど難易度的に覚えられるか怪しかったからな・・・」


いくら康太が知覚に関係する魔術との相性がいいとしても、現在起きていないような事柄を見ることができる魔術など会得できる気がしなかった。


未来を予知するというと非常に簡単に聞こえるかもしれないが、実際にそれを行えるのは魔術師の中でも一握りだろう。


幼いころからその訓練を積み、才覚のあるもので始めて使用できる魔術であると康太は考えていた。


実際京都で戦った何人かの魔術師の中でまともに予知の魔術が使えたのは康太が戦った中ではカツキチだけである。


しかもそれを実戦に投入するとなるとその難易度はさらに跳ね上がる。


情報を得るだけなら十分に有用かもしれないが、それでも得られるものが視覚的なものだけに限られるのであればかなり使用できる状況は限定されるだろう。


「それこそ文とかなら覚えられるんじゃないのか?門外不出って言っても無理やり奪っちゃえば関係ないだろ?」


「あんた案外ひどいこと言うわね・・・それに私は予知の魔術はパスさせてもらうわ。あんまりあてにならないんだもの」


「あてにならないって・・・なんで?」


康太は出店で買ったアメリカンドッグを口にくわえながら文のほうを見て疑問符を飛ばしている。


予知というのは未来の情報だ、それこそ自分たちが知ることのできない、知りえない情報を知ることができる。


はっきり言ってこれほど有用な魔術はあまりないだろう。


「相手の使う魔術とかを知れるっていう意味なら確かに使えるんだろうけどね・・・ぶっちゃけ未来予知って確定してない未来を見るからあてにできないっていうのと、未来を見たことによってまた未来が変わるからそこまで信用できないのよ」


観測したことによってまた結果が変動する。いわゆる観測者効果というものである。


物事を観測するそのこと自体が結果に影響を及ぼすという考えだ。この予知の場合予知を行ったもの、そしてその予知を話したものもまたその未来を知ることになる。


予知をした時点で見ることができるのは誰も未来を知らない状態での未来だ。だが予知によって未来を知れば、その知識を持った者の行動は変化する。


例えばその予知に向かおうとするか、逆に予知から遠ざかろうとすることで未来が変動するのだ。


「でも中にはすごく強い未来ってのもありますよ?どんなことしても変わらないような強い未来」


「へぇ・・・そんなのあるの?」


「はい、うちの親から聞いたんですけど、前に何をしても変えられなかった未来があるって言ってました」


未来の変動のしやすさというのはその事情の関係の深さと長さに起因する。


ワンアクションでこなせるような事象であればそれこそ変えるのはたやすい。だがあらゆる事象が絡み合って発生する、あるいは人の意志の介在が存在しないような未来の場合は未来の変動はしにくい。


大きな事象の場合、その事象が引き起こす未来を変えるにはそれだけの強い力が必要だということである。そういったことを知ることができるのもまた予知の強みだ。



土曜日、そしてブックマーク件数2700突破、誤字報告が十件分たまったので五回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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