勧誘するなら
「さて、せっかく来たんだ。私たちは私たちで勝手に楽しませてもらう。お前たちもそれぞれやることがあるだろう」
「え?案内とかしなくて大丈夫ですか?」
「私がいては気が休まらんだろう。せっかくの文化祭だ。お前たちもお前たちで楽しむといい・・・まぁなかなかそういうわけにもいかんだろうがな・・・」
奏はそう言って校舎の一角に視線を向ける。そこには康太たちの行動を逐一確認していた先輩魔術師がいた。
康太たちが一体どのようなことをしているのか、そして康太たちの客という魔術師が一体何者であるかを把握しようとしているのだろう。
あいにくと一介の魔術師程度では奏やアリスの実力を知ることはできないだろう。実際に何度も訓練している康太でさえ奏の真の実力を知らないのだ。ただ見ているだけでその実力を把握できれば苦労はない。
「さすがにいろいろとやりすぎただろう。同盟の者たちにもある程度説明をしてやらなければこれからの関係が気まずくなるぞ」
「・・・まぁこの高校の同盟なんて特に気にするようなことでも・・・」
「そういうな。ただでさえお前は私たちを経由した魔術師以外とのつながりが乏しいんだ。たとえ実力的に劣っていても、高校が同じというだけのつながりでも維持しておくべきだ。それはこれからお前が魔術師になるにあたって必要なことだ」
むろんそれは文、お前も同じだと奏は文のほうを見て目を細める。康太と同じで文も小百合たちや奏たち経由での魔術師以外で個人的に魔術師としてのつながりを持つことが圧倒的に少ない。
魔術師のコミュニティはいくつもあるが康太たちはそのどれにも属していない。単純に協会に足を運ぶことが少ないということもあるが、特に康太は魔術協会から忌避されてしまっている。
もともとは小百合の弟子というだけの忌避だったが、康太が多くの事件にかかわり評価を上げたことでその扱いをどうしようか測りかねている現状なのだ。
康太に近づこうとする魔術師は数少ない。それこそ本部の魔術師か康太の身内、あとは日本支部の支部長くらいのものである。
そんな中で今回現れた仲間にならないかという打診。おそらくこの話によって協会内の康太の立ち位置が大きく変わることだろう。
周りの魔術師がこれから康太をどのように扱うか、どのように接触するか。おそらくそれが今後の注目するところになりそうだった。
「でも俺みたいなやつをコミュニティに入れたいなんてところありますかね?今回のはちょっと例外的な気がするんですよ」
「そうでもないぞ、客観的に見ればお前はなかなか魅力的な魔術師だ。だがその分危険が伴うということも周りの奴らは理解しているだろう。だからこそまだ手が出せん。今回のことの顛末によっては引っ張りだこになるかもな。もちろん文も同様だ。むしろ康太よりお前のほうが引く手あまただろうな」
「え?私・・・ですか?」
「あぁ、康太のように最初からマイナスのついている状態とは違い、お前の場合すでにプラスがついている状態でのスタートだった。評価も康太には及ばないが着実に上げている。本当に賢い魔術師なら康太よりもお前のほうを勧誘するだろう」
康太のように特定の事件によって評価を上げた人間は、それに特化した能力を持っている可能性が高い。
とがった性能とでもいえばいいだろうか、特定の状況下においては高い能力を発揮するがそれ以外のところではあまり実力を発揮できない可能性がある。
特に封印指定関係ではそれが顕著に出るだろう。
康太が急激に評価を上げたのは封印指定百七十二号の一件が発端だ。急激な評価の上昇におそらく賢しい魔術師たちは康太が封印指定の何かしらにかかわったことを感づいているだろう。
逆に康太とほとんど行動を共にし、なおかつ着実に評価を上げている文は康太とは対照的だ。
急激に評価が上がるようなことがない代わりに着実に事件が起きるたびに評価点を挙げている。
事件のたびに評価を上げているのは康太も同様だが、彼女の評価点の上昇は康太のそれとは質が違う。
あらゆる状況に対応できるだけの汎用性と対応力を有していることを彼女の評価点の上昇率が物語っているのだ。
かかわってきた事件に対して彼女は特定の事件だけ評価が高かったり低かったりということがなく、大体がその活動内容や行動内容に沿った適切な上昇を見せている。
封印指定がらみの評価を除いても最高値では康太には及ばないが、平均的に見れば康太よりも上昇量は上なのだ。
この結果から、文が康太よりも対応力を持っており、なおかつ康太と一緒に行動したことから封印指定がらみの事件にかかわっても問題なく活躍できたということを知ることができるだろう。
特化した能力を持った康太よりも万能性の高い文のほうを優先して勧誘しようとするのはなにも不思議なことではないだろう。
何より奏の言うように、康太の師匠である小百合に比べると文の師匠であるエアリスこと春奈は魔術協会の中でも評価の高い魔術師だ。
弟子である文を通じてつながりを持ちたいと考える魔術師は多いだろう。
そう考えると確かに康太よりも文のほうを優先的に勧誘するのが多いというのもうなずける話である。




