その魔術師二人
康太が向かったその場所には数人の人が行き交っていた。他の場所に大勢の人がいることを考えると数人しかいないというのは明かに異常とも思える空間だ。
露骨に閑古鳥の鳴いている空間を見ることになるとは思っていなかっただけに、そこに出店しているものからすればその被害は割と大きなものだった。
さすがに早いところこれを解決しなければまずいなと思いながら康太は周囲に索敵の魔術を発動する。
一体何を考えているのかは知らないが、少なくとも何かをするためにこの場に自分をおびき寄せたのだから何かがあるだろうと思いながら周囲を確認する。
出ている店からチョコバナナなどを買いながら表情に出さないように警戒していると二人の人物が自分の後ろをついてくるのがわかる。
少しの間歩いて偶然ではないことを確認すると康太は文にメールをすることにした。今から自分がやろうとしていることを考えれば当然だろう。
前もって先輩方にも伝えてもらわなければならない。これで相手の出方を見るにはやや攻撃的過ぎるのだ。
康太はメールを打ち終わり、文からの返信が来ると同時に小さくうなずいて後方からついてきている二人の方を見て無表情のままその体から大量に黒い瘴気を噴出させる。
この黒い瘴気は魔術師にしか見ることができない。その為一般人からすれば何も起こっていないただの空間が広がっていることだろう。ここから相手がどのような反応をするのかわかる。
ついてきている二人が魔術師なのか否か。一応康太の魔術にも相手の魔力の情報は入っているが、まったくと言っていいほどに魔力はなかった。意図的にそうしているのか、それとも本当に魔力のないただの一般人か。
康太の使う索敵魔術は完璧ではない。相手が魔力を供給すると同時に魔力を使っている、あるいは供給すると同時に放出されるような場合感知しきれないことがある。
だから魔術師にとって目くらましとなるこの魔術で反応を見るのだ。
もし相手が康太のことを見失い、ついてこなくなるか、索敵用の魔術を発動したら確定だ。
現在相手が使っていると思われる魔術は周囲の人間の意識を逸らせる魔術だ。この程度の魔術ならば消費魔力もそこまで高くないだろうが索敵の魔術を同時に発動するとなると話は変わってくる。
魔術を同時に発動しようとすれば当然魔力の補給量は増える。それが一瞬で済むか時間経過で済むかはその本人の素質によりけりだが、一瞬ではないのなら康太の未熟な索敵魔術でも問題なく捕捉できるはずだ。
そして康太の読み通り、相手は索敵用の魔術を使うために魔力を溜めこみ始めていた。
それを確認すると同時に康太は文に電話をかける。
「文か?そっちでも確認してると思うけど確定だ。とりあえず俺がわかりやすくマーキングするから見つけたら確認頼むぞ」
『了解したわ。でもマーキングってどうするのよ、あんたそんなの覚えてないでしょ』
「そこはほら、視覚的に見栄えが良くないものを用意しとくって」
そう言うと康太は魔術師二人にDの慟哭の黒い瘴気を体内に入れていく。
魔力を吸うようなことはしないがその体から黒い瘴気を僅かに噴出させることで魔術師にしかわからない目印を作り出していた。
その作業が終了すると同時に康太は周囲に展開していた黒い瘴気をすべて解除する。後に残ったのは相変わらず少ない人通りに、いつの間にか向かい合っていた康太とその後をつけていた二人の魔術師だ。
だがそこで康太がその二人と向かい合ったことでそれが一体誰なのかを知る。
何故この二人がここにいるのかわからないが、どうして自分に会おうとしていたのかを理解してしまった。
「晴、明?お前らなんでこんな所に・・・」
そこにいたのは土御門の家の天才児、かつての大陰陽師である安倍晴明の名の一文字ずつを継いだ若きエリートだった。
「いや・・・あんたの所の学校で学園祭がやってるってことを小耳にはさんで・・・遊びに来たんす」
「お久しぶりです八篠先輩。まさか目くらまし使われるとは思ってませんでしたけど・・・でもこの黒いのなんですか?」
「いや・・・ちょっとした魔術なんだけど・・・ていうかどうやって・・・ってそうか、協会の門使わせてもらったんだな?」
その通りですと双子は同時に頷く。土御門の人間に限らず四法都連盟の人間は協会とある程度交友がある。
その関係でどういう理由をつけたのかは知らないがこの場所にやってきたのだろう。意図的に人間を操ったのも恐らくはこの二人の仕業なのだろうが、それにしても何の目的があったのか気がかりなところである。
「ていうかなんでまたこんなことを?会いたいなら普通に会いに来ればよかったじゃないか」
「いえ・・・その・・・最初店の方に行ったらあの人・・・先輩の師匠に『できる限り掻きまわしてこい』といわれて・・・」
「可能な限り掻きまわそうといろいろとやったというわけです。お話しできんですいません」
小百合と真理には奏とアリスがこの場にやってくることは話している。この二人という負荷をかけることで康太たちの処理を重くするのが目的だろう。ただでさえ限られた情報戦の訓練という場面だ。少しでも密度の高い術師戦を行わせるために利用したと見るのが自然な考えだろう。
全く勝手にやってくれるものだと康太は眉間にしわを寄せていた。
 




