師と弟子は似る
先程まで康太が使っていた術式は、火を起こすのに必要な条件をそろえながら特定の条件を満たす火の弾丸を撃ちだすものだった。その為消費魔力は少ないが処理が多く康太には扱いにくいものであった。
対してアリスが提供した魔術は火そのものを作り出し、特定の条件を満たす火の弾丸を撃ち出す魔術だ。消費魔力は先程まで使っていたものよりも多くなり、威力が高くなるとその傾向はさらに顕著なものになるがその分処理が格段に減っている。
牽制だけのために使うのであれば比較的康太向きの魔術だと言えるだろう。
何発か試射してみるとその違いは歴然なのか、康太はアリスに提供された魔術の方が好みの様で何度も何度も試し撃ちしていた。
「それにしてもよくわかりましたねアリスさん。康太君にはあっちの魔術の方があっているなんて」
「コータが求めているのはあくまで牽制射撃用なのだろう?それならあの魔術で十分。本来魔術は汎用性が高いものが好まれる。その分処理が多かったりするが、そのあたりは鍛錬で何とかすればいいとほとんどの魔術師が考えるだろう」
アリスのいうように現代の魔術において多く求められるのは汎用性だ。一つの魔術を一つの状況にしか使えないのでははっきり言ってよい魔術とは言えない。
康太の扱う再現のようにありとあらゆる状況で使える魔術であることが、現代において、いやもしかしたら今までの魔術でも本来求められる『優秀さ』というものなのかもしれない。
「あれはそう言った汎用性を一切取っ払った一つの用途にしか使えない魔術・・・そう言う意味では優れた魔術とは言い難いかもしれんがの。それでも牽制射撃としては十分な威力を発揮するはず」
「・・・一つお伺いしてもいいですか?なぜ文さんは良い指導者にはなれないと?」
先程アリスが言っていた言葉だ。文は優秀な魔術師ではあるが優秀な指導者にはなれないと。
文は自他ともに認めるほど優秀だ。それは真理も認めるところである。彼女程の素質を持った魔術師はそういないだろう。素質だけではなく彼女は才能にも恵まれている。天は二物を与えずとは言うが、文の場合はそれには当てはまらないかもしれない。
彼女は素質も才能も備えたほぼ完璧な魔術師だ。問題は経験の薄さと、本人の自意識。それはこれから改善されていくだろう。
だがアリスはそれだけの素質があっても指導者には向かないと評した。そこが気になったのだ。
「あれがなぜコータにあの魔術を教えたと思う?」
「それは・・・いい魔術だからですか?」
「その可能性もある。そしてそれは間違っていない。先程までコータが使っていた魔術は確かにいい魔術だ。火属性射撃魔術のお手本のような魔術だ。それこそ優秀な魔術師ならば誰でも覚えているといったあの子の言葉に嘘はない。一種の完成された魔術と言えるだろう」
「・・・それなら彼女が康太君にそれを教えたのは正しい判断だったのでは?」
「いいや。確かにコータを一人の一人前の魔術師として扱ったのであればその判断は正しい。だがコータはまだ魔術を学んでから一年も経過していない魔術師の卵。他にもいくつか経由しなければいけない点が存在する」
「・・・点?」
アリスが妙な表現を使ったことで真理は少しずつアリスが言った言葉の意味を理解しつつあった。
そしてその考えはほぼ当たっている。どういう意味を持ち、なぜ文が間違っていると思ったのか、その原因こそアリスが文が良い指導者になれないと思ってしまった原因でもあるのだ。
「そう、点だ。ほとんどの人間は良くも悪くも、目の前の場所にしか進めない。歩みでも、技術でも、その一歩先にある場所しか届かない。中には階段を二個三個飛ばして一気に駆け上がることができるものもいるだろう。フミはその典型・・・だがコータはその逆、一歩一歩しか前に進めない人間の典型」
「・・・文さんは康太君に高いところを求めすぎている・・・と、そう言う事ですか?」
「まぁそんなところだ。経緯を聞いたところ、フミは一度コータに敗北しているのだとか。そのせいでどこかコータがすごい魔術師なのではないかという考えが頭の隅にあるのだろう。『このくらいはできるだろう』という天才視点での強要。だからこそ初心者には向かない難易度の高い、良い魔術を教えてしまった」
指導という意味で、長期的に見れば間違ったことではないとしても、一つ一つ階段を上らせるということをさせるのであれば明らかに無理な行動だった。誰もが天才のように階段を二段も三段も飛ばして駆け上がれるわけではない。文はそれを本質的に理解していなかったのだ。
頭では康太が初心者であるという事がわかっていても、どこか自分と同じレベルを求めてしまっている。
同盟を組んでいて、康太のことを信頼しているからこそなのかもしれない。そう言う意味では二人の信頼関係が如実に表れた結果ともいえるだろう。
康太も文が教えた魔術ならばと疑わなかった。むしろよくあそこまでできるようになったものだと感心したいくらいだ。
「適切な時期に使用する者の特性を理解して適切な難易度の魔術を教える。それが指導者に求められるものだ。そう言う意味ではまだフミはその点を理解していない。それに比べると、お前たちの師匠はとても優秀な指導者だ」
「え・・・師匠が・・・?」
自分の師匠を褒められるというのは本来喜ぶことなのかもしれないが真理はどうしても素直に喜ぶことができなかった。
師匠が優れているといわれるとどうしても否定したくなってしまう。あの性格なのだから仕方ないのかもしれないが。
「性格や実力、そして魔術的な特性はおいておいて、あいつは何をどの段階で教えるべきという考えはしっかりとある。恐らくだがサユリはコータと同じか、似たようなタイプなのかもしれんの。決して天才ではない、努力によってそれを勝ち得た人間だと私は思っている」
「・・・努力・・・ですか・・・」
「あぁ、以前会ったエアリスとやらはどちらかというとフミのタイプだの。天才型で発想も閃きもある。師と弟子は似るといったところか」
師と弟子は似る。それがどういう意味で言ったのかはわからないが、確かにエアリスと文はタイプは似通っているように思える。
康太と小百合、また真理と小百合が似ているとは口が裂けても言いたくないが、魔術師としての素質的な話をすれば、確かに康太と小百合は似ている。
どちらも魔術師としての素質に恵まれたとは言い難い。
真理は運よく素質に恵まれ、小百合の教え以外にも自分でいろいろと学ぼうとしたために独自の成長を遂げた。
無論魔術師になってすぐのころは普通に小百合からの指導を受けていたが、破壊以外の事はほとんど独学で習得したと言っても過言ではない。
そう言う意味では真理は小百合の教えを百%反映させた弟子とは言い難い。
逆に康太は小百合とその周りの環境を使って学習しつつある。小百合の教えにも従いなおかつ周囲の意見も参考にして色々と手広くやっている。小百合だけではなく彼女の師匠や兄弟子たちにも指導を頼んでいる節がある。
小百合の系列、大本をたどれば小百合の師匠である智代から受け継がれた特徴を色濃く継いでいる魔術師になろうとしている。
一番弟子である真理よりも、二番弟子である康太の方が小百合の正統な後継者なのではないかと思えるほどだ。
そのことに気付きながら、真理は正直複雑な気持ちだった。小百合の跡を継ぎたいなどと欠片も考えたことはない。だから康太がその役を引き受けそうになっている現状はありがたくもある。だが申し訳なくも思ってしまうのだ。
可愛い弟弟子にそんな役目を押し付けてしまっているのではないかという、少々考えすぎなのではないかと思えるほどの感情が真理に襲い掛かっているのである。
「確かに文さんと彼女の師匠は似ていますね・・・それに師匠と康太君も徐々にではありますが似つつあります・・・それが良いことなのかはわかりませんが」
「・・・?なにをいっている?私が似ていると思ったのはお前とサユリだぞ?もちろんコータも似つつあるが」
「・・・え・・・?」
思わぬ発言に真理は本気で何を言っているのだと思い目を見開いてしまった。
今まで自分が師匠である小百合に似ているなどと考えたことはない。むしろ対極にいる人間だと思っていた。
あの傍若無人な小百合と、比較的温和な自分が何故似ていると思われるのか、それがただの憶測であっても逆に確信があったとしてももはや侮辱レベルの内容である。
「またまた御冗談を。一体どこが似ているというのですか。師匠と私じゃ性格も能力も全く違いますよ」
「そう言う表層的なものを言っているのではない・・・私が言っているのは本質的な話だ。むしろサユリはそれを見越してお前達を弟子にしたものと思っていたが・・・」
真理の事はさておき康太の場合は完全に成り行き任せだったのだがと思いながら真理はアリスの言葉の真意を図りかねていた。
本質的と言われても具体的な内容が全くないためにどこがどう似ているのか全く分からない。
どこか似ている点があっただろうかと真理が真剣に考えていると、気づいていなかったのかとアリスは小さくため息をついてから真理、そして康太の方へ視線を向ける。
それは文も感じたことがあることだった。自分では決してわからない、他人だからこそ分かるそれをアリスは告げた。
「お前たち二人とも、覚悟を決めた時の目がそっくりだ。なんといえばいいか・・・こうなったら仕方がないというか・・・もしもの時はという想像をした時の目がよく似ていた。コータもお前も、サユリの目にそっくりだったぞ」
「え・・・?アリスさんそんなの」
いつ見たんですかと言おうとして自分の言葉が意味を持たないことに気が付いた。彼女は見ようと思えばいつだって誰だって見ることができるだろう。
康太は恐らくであった戦闘中の時に、そして真理は小百合と話している時の様子でも見られたのだろうか、どちらにせよアリスには見る機会はいくらでもあった。それを見て彼女がそう思ったのだ。きっとその考えは、真理と小百合が似ているという考えは的中しているかもしれない。
いざとなった時の躊躇いのなさ。それこそ小百合と弟子たちが似ていると思ったところでもある。
小百合と付き合いの長いエアリスと、康太と常に一緒にいる文ならばこの似ている点に気付けただろう。実際文は真理の異常性をしっかりと感じ取っていた。
真理自身は常識人かつ普通の魔術師であるように努めた。実際ほとんどの魔術師が彼女が小百合の弟子であるなどと知っていたところで意識するのは難しいだろう。
だからこそ真理は協会内でも同情の目を向けられるのだ。あんなに普通な娘があの『デブリス・クラリス』の弟子だなんてという風に思われるからこそ。
だが実際真理は、彼女の指導を最も長く受けた一番弟子なのだ。誰よりも小百合の技術を受け継ぎ、誰よりも小百合の間近で行動し、誰よりも色濃く彼女の影響を受け続けた。
そんな彼女が普通であるはずが、否、普通であることができるはずがない。
本人も気づかぬうちに、いつの間にか真理は普通という枠から外れていたのだ。それはもう少しずつ。長い年月をかけて。
アリスの言葉を受けて真理はだいぶ落ち込んでしまっていた。
嫌いとまではいかなくともあまり人格的に尊敬できない師匠小百合に本質的に似つつあるという事実が彼女に重くのしかかってきているのだ。
仮に一人前になって今後弟子を持つようになっても彼女のように接することはしないように努めようというのが真理の考えだっただけに、もしかしたらあんなふうになってしまうのではないかという可能性が出てきたことで真理の中にはかなり焦りと不安の感情が生まれていたのだ。
「そんなに気にすることかの・・・弟子は基本的に師匠に似るものだ。ある程度は仕方のないことだと思うぞ?」
「いや・・・あの師匠に似ているって言われるのは結構くるものがありますよ・・・だってあの師匠なんですよ・・・?」
「・・・お前達は何故自分たちの師匠に対してそこまで敬意がないのか不思議でならん・・・ここにサユリがいないからというわけでもないようだし・・・」
きっと真理と康太はこの場に小百合がいたとしても普通に暴言を吐き続けただろう。それはそれで信頼の形なのだろうがアリスからするとなかなかに複雑な関係のように思えてならなかった。
というか師弟の関係そのものがどこかおかしいように感じられてしまうのだ。実際は別にそこまでおかしな話でもないのだけれど。
「ですがアリスさん、師と弟子が似るというのはやはり今まであってきた人達を見ての判断ですか?それともアリスさんのお弟子さんが、という話ですか?」
「・・・どちらもと言えるな。私の魔術師の知り合いは大抵弟子を持っていたし、大抵その弟子は知り合いに似ていた。性格とか実力とかではなく本質的にな・・・私の弟子も同じだ。似なくてもいいところばかり似てしまってな」
そう言いながらアリスは苦笑しながら康太の方を見る。康太の体の中にいるデビットの残滓。かつての弟子のなれの果てを康太の姿と重ねながらアリスは吐き捨てるように小さくため息を吐いた。
「まったく・・・私と同じで大ばか者だったよ。周りの人間がやらないようなバカなことをやり続けて、最期までそれを突き通した。途中であきらめて逃げていればいいものを・・・最後まで逃げなかった・・・本当にバカな弟子を持ったものだ・・・」
アリスがそのことに気付いたのは本当に最近の事だったが、自分の弟子がそれこそ人間を辞めることになろうとバカな行動をとり続けた、その事実がアリスにとっては強く重く残っていた。
自分と同じ封印指定に名を刻まれようと、自分の思いを果たそうとし続けた。それを康太に救われ、本来の形に戻される。何とも愚かしい行いだ。もし自分が先にデビットの残滓に出会っていたら思い切り叱責したところだろう。
恐らくデビット本人もそのことに気付いているのだろうか、アリスが近くにいると妙にざわめくのだ。
自分がどれだけのことをし、それを康太に止められ、今でも自分が生きていたころに思い描いていた理想へと進むために人を止めてもなお、康太の力を借りながら今もこうして存在し続けている。
暴走していたとはいえ本来ならば師匠として今まで多くの人を殺めてきたデビットに罰を与えなければならない。その存在そのものを消し去ることもアリスは考えた。
だが康太の存在がそれをためらわせた。康太はデビットを必要としているようだった。若く幼く、未熟な魔術師。
デビットの何かを見たと思われる康太はデビットを受け入れ、またデビットも康太と共にあろうとしているようだった。
だからこそアリスは康太の行く末を、そしてデビットの行う事を見ようと思ったのだ。
自分の後始末を押し付けるわけにはいかない。もしまた何かあるようなら今度はデビットを完全に消し去る、そう言うつもりでいた。
だがアリスとて、愛弟子の残滓を消し去るなどという事はしたくない。何より自分と同じく馬鹿げたことを人を止めても続けようとするデビットの行動に何も思わなかったわけではない。
もう少しだけ見ていよう。そう思っただけの話だ。
「・・・ではアリスさんのお弟子さんは・・・もう・・・」
「あぁ、どうやら私がある程度教え終わった後に死んだらしい。詳しいことは私も知らんが・・・最近そのことを知った・・・あいつらしくもない・・・だがあいつらしい、そんな様になり果てていたようだの」
いつか康太にこの話をしなければならないだろう。デビットが自分の弟子であり、その不始末を押し付けてしまったことを、そしてその謝罪を。
真理はアリスが長く生きていることから、弟子たちは皆死んでいると思っている。そしてそれはほぼ正しい。
実際アリスの弟子達は皆、一人を除いて全員死んでいるだろう。唯一残ったその一人というのも生きているとは言い難い状態になってしまっている。
もしかしたらその弟子のまた弟子、そしてその弟子という風に脈々と受け継がれているかもしれないが、それはそれだ。自分の弟子ではない時点で気にするような事ではない。
「あれを見てもう弟子はとらない方がいいと思ったものだ・・・私が弟子をとるときっと碌なことにならない・・・もっともたぶんという話だがの」
「そう言うものでしょうか・・・素晴らしい技術を持っているようですしそれを継承することも・・・」
「術は継承できても技術は伝えられん。結局自分で磨くしかないのだ。何より私もそろそろ落ち着いて生活したいのだよ」
今まで本部の魔術師にいろいろとちょっかいを出されていたからか、一人で落ち着ける空間というのはなかなかなかったのだろう。日本支部に転属してようやくできたこの平穏にアリスは満足しているようだった。
康太たちがそんな風に過ごしていると、ある日奏からの呼び出しがかかった。
呼び出されたのは康太と文の二人だった。一体なんだろうかと思いながらも康太たちが呼び出されたのはいつもの社長室ではなかった。
今まで見たこともないような住所だったため少し迷ったが、康太と文、そしてアリスはその場に問題なくたどり着いていた。
そこは豪邸というには少し小さく、だがただの家というには大きい一軒家だった。
そして表札には草野と書かれている。この事からここが奏の家であるというのはすぐにわかった。
「・・・俺初めて奏さんの家に呼ばれたかもしれない」
「私もよ・・・ていうかなんでアリスもいるわけ?」
「面白そうだったのでな。それに呼ばれたからには何かわけがあるのだろう・・・とりあえずいこうではないか」
そもそも毎度のように社長室に呼び出されるのは奏に休みがないからであって、本来休みがあれば普通にこうして家で集まるのが不思議なような気がしたが、その貴重な休みを自分たちのために使っていいのだろうかと不安になってしまう。
ここまでしてくれるのは素直にうれしいのだが、ここまでされると流石に何か恩を返さなければ申し訳なさで押しつぶされてしまいそうになる。
康太がチャイムを押すと家の中からバタバタと誰かが小走りでやってくる音がする。奏らしくもない落ち着きのない足音に少しだけ疑問符を飛ばしていると、そこからやってきたのは見た目康太たちよりも少し年上くらいの男性だった。
「やぁ、待ってたよ。さぁ上がって上がって」
いきなり奏ではなく見知らぬ男性が現れたことで康太と文は目を見開いてしまう。
どう反応したものか。ひょっとして奏の夫だろうかといろいろと考えを巡らせていると奥の方からゆっくりと奏がやってくる。
いつものスーツ姿とは打って変わり、落ち着いた衣服に身を包んでいる。
まさか彼女のスカート姿を見ることになるとはと驚いていたが今は驚くことが多すぎて何に驚いていいやら戸惑ってしまった。
「章晴、勝手に動くな・・・康太たちが混乱しているだろうが」
「いやだってうちに来るのも久しぶりだってのに男のお客さんまでいるってなったらさ、驚くじゃない?いろいろと楽しみにしてたんだよ?」
「・・・はぁ・・・すまんなお前達。とりあえずいろいろと説明するから上がってくれ」
「は・・・はぁ・・・じゃあ・・・お邪魔します」
康太たちはとりあえず草野の家に入り周囲を見渡すことにする。
一体どんな状況だろうかと思いながら家具やそこにおかれているインテリアなどを眺めるが、やはり普通の家にはないようなものばかりだ。
上流階級とはこういうものを言うのだなと思いながら康太たちがリビングに通され、いつも通りのコーヒーの香りを嗅ぎ取ると、先程章晴と呼ばれた男性がニコニコとした表情で三人にコーヒーを出してくる。
テーブルを挟んで向かい側に座った奏とは対照的にニコニコとした表情で康太たちを眺めていた。
一体奏とはどういう関係なのだろうかと康太たちは真剣に考えてしまう。
そんな康太たちの反応を見て話すつもりになったのか奏は小さくため息を吐く。
「あー・・・とりあえずこいつについて話そうか・・・こいつは草野章晴、私の親戚だ。今年で二十五になる」
「どうも初めまして。草野章晴です。姉ちゃんから話は聞いてます。小百合ちゃんと春奈ちゃんのお弟子さんなんだってね」
初めましてとあいさつされるのはいいのだが、小百合の名前が出たことで康太は眉を顰める。
なにせ小百合の弟子というのはわかるのだが『春奈』の弟子というのがどうにも聞きなれなかったのだ。
康太が疑問符を飛ばしていると見るに見かねた文が口を開く。
「春奈っていうのは私の師匠の下の名前よ・・・エアリス・ロゥ、本名小池春奈。そう言えばあんたに言うのは初めてだったわね・・・」
こういう場面では知りたくなかったなと思いながらエアリスの本名を思わぬところから知ることになってしまう。
良いのか悪いのかはさておき、とりあえず話を先に進めようとする。
少なくとも小百合とエアリス、春奈の弟子であるという事を知っているという事は彼も魔術師なのだろうか。
康太がそう言う疑問を込めて奏に視線を向けると、彼女は小さくうなずいてから近くにいる章晴に視線を向ける。
「こいつは私の二番弟子だ。安心していい」
「二番弟子・・・親戚って言ってましたけど・・・身内を弟子にしたんですか?」
魔術師が肉親を弟子にするというのはいろいろと弊害があるように思われる。日常生活という意味でもそうだが、何より身内だと評価が甘くなるという事もある。適切な指導をするには身内びいき無しで客観的な指摘や考え方が必要なのだ。
「まぁそのあたりは問題ない。こいつと私は地味に遠縁だからな。歳も離れているからそこまで仲が良いというわけでもない。それに私は身内には厳しくするタイプだ」
「あぁ・・・そう言えばそうですよね」
康太もある意味奏の身内に近い人間だが、彼女は康太にも遠慮なく指導し続けている。いや遠慮どころかむしろより力を入れて指導しているように思えるのだ。
小百合と同じかそれ以上で施されるそれは康太たちにとってはありがたく、申し訳ないとともに苦しいものでもあった。
土曜、そして誤字報告を十件分受けたので四回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです
 




