アリスから見た評価
アリスの小百合に対する評価は実際に康太たちとの訓練を見ることで大きく変わっていた。
先程までは本当にただの傍若無人で弟子に尊敬されていない師匠であるように見えたのだが戦闘となるとなるほどどうして、弟子二人が何の疑問も抱かずに従い続けている理由が理解できてしまった。
それは圧倒的なまでの戦闘能力だ。理知的であり時に暴力的。いや計算されつくした攻撃性と言ったほうが正確だろう。
魔術師に対しての攻撃法、そして魔術を使った攻撃法、さらには人間に対しての攻撃法をとにかく突き詰めたような戦い方をする。
一つ一つの動きに無駄が少なく、単純な動き一つをとっても確実に康太や真理よりも上手であるという事がよくよく理解できる。
まともな魔術師戦をしたらどのような戦い方をするのか気になるところだ。それほど小百合の戦い方はまともではない。
一緒に戦っている文の実力を鑑みて適切に運用し、なおかつうまく囮や攪乱として使う事でさらに康太や真理を混乱させていく。
もちろん評価を改めたのは小百合だけではない。康太、真理、そして文の三人の評価も同様に改めていた。
康太はまだ荒削りながらも槍術と魔術、そして体術のバランスが取れた良い戦い方をする。魔術師の戦闘方法としては多少逸脱しているかもしれないが総合的に見れば割と高い戦闘能力を有していると言えるだろう。まだ魔術師になって日が浅いことを考えれば磨けばもっと光る逸材のように見える。
一方康太の兄弟子である真理は一つの完成した魔術師の姿として康太とは違った意味で光っている。典型的な距離をとる魔術師としての戦い方をしている。だがそれは康太が主に接近戦を主軸においた魔術師だからだ。
時には小百合に接近を許し対処しているのだが、その対処の方法もかなり手慣れた感じがある。中距離しかこなせないのではなく接近戦もこなすことができる。いやむしろ接近戦の方が得意なのではないかと思えるような体捌きをして見せることもあった。
当然と言えば当然だろう。彼女は康太よりも長く小百合の指導を受けていたのだ。近接戦闘が苦手なはずがない。
そして康太と真理二人と対峙している文、先にあげた三人の中で最も評価を改めたのは彼女だった。
つい先日まで文は康太のおまけという印象が強かった。康太が妙に信用しているのと彼女自身の性格がアリスの好みだったから同盟を結んだ。素質は高くてもまだ実戦では上手く立ち回れないようなタイプだと思っていたのだ。
理知的でなおかつエリート気質。そう言う人間は多く見て来ただけにアリスは文の実力をある程度予測していた。だがその予測は大きく裏切られることになる。
文は確かに高い素質と割と高めのプライドを持っている。だがそれを覆すほどの向上心を持ち、なおかつ状況の判断能力が高い。
特に個人戦ではなく団体戦、仲間が近くにいる状況においてはそれを発揮するタイプのようだった。
味方である小百合の動きを把握しながら敵の動きを察知して相手を妨害するような形で魔術を発動。同時に小百合への援護も欠かさない。
相手と自分の位置を常に把握しながら相手には邪魔になるように、味方には援護となるような形で魔術を発動していく。
攻撃だけではなく支援や援護も欠かさない。小百合が破壊をメインにした攻撃魔術しか使えないという事をすでに知っているからか、康太と真理の位置を常に小百合に教え続け彼女をサポートしている。
自分の為だけに戦うのではなく誰かのために戦い、それをサポートすることに長けているように思える。
今まで康太と一緒に行動して康太の面倒を見て来たからか、それとももともとそう言う素質があったのか、文は誰かをサポートするということに関してはかなり高い実力を有していると言えるだろう。
他者との連携によってはじめて本来の自分の実力を発揮することができると見るべきか、いや文の場合頼りになるだけの、相手の攻撃をある程度逸らしてくれる前衛がいることによって本来の高い処理能力と適切な魔術を使用することができるというべきだろう。
そう言う意味では文と康太の相性は非常に良い。前衛での攪乱や奇襲を得意とする康太と後衛での援護を得意とする文がコンビを組めば常に高い戦闘能力を有することができるだろう。
そして現段階においては小百合との相性もかなり良い。
なにせ小百合は康太以上の近接戦闘能力を有している。相手の攻撃を引き付けるだけではなく文の行動を予測しての攻撃や回避を行うというかなり戦い慣れた相方なのだ。
文の場合味方がある程度盾になってくれればその分処理能力が増し、味方が頼りになればなるほどその能力を増していくという集団戦における優秀な頭脳役をこなせるだけの人材であるらしい。
この場にいる魔術師の中ではトップクラスの素質と才能を秘めているだけあって康太以上に磨けば光る逸材であることに変わりはない。
彼女の師匠であるエアリスも一度は見てみたいなと思う中、小百合の重い蹴りによる一撃が康太の腹部に深く突き刺さる。
今まで康太と小百合が前衛でぶつかり合い、真理と文が後衛での援護によって均衡が保たれていたが小百合の方が実力が上である以上この均衡が崩れるのは必定だった。
一度崩れた均衡はちょっとやそっとでは戻ることはなく、このまま康太と真理のチームは小百合たちに徹底的に叩き潰されることになる。
小百合の思惑通りの結果になったその光景を見ながらアリスはなるほどと小さくつぶやいていた。
 




