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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十一話「血の契約と口約束」

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いざイギリスへ

資料を読み解き、あれやこれやと作戦に付加する内容を考えて何日も経過し、とうとう依頼開始の時がやってきてしまった。


結局時間はあったというのに具体的な作戦は全くと言って良いほどに浮かぶことはなかった。事態が好転するようなこともなく、そして小百合とエアリスの予想通り本部の方からは小百合に直接指名の依頼が入ってきていた。


結局依頼に向かうことができるのは康太、真理、文、倉敷の四人だけということになる。


三連休の始まりを告げる金曜日の放課後、康太たちはあらかじめ用意しておいた装備を持って協会本部に足を運んでいた。


日本時間で放課後ではあってもイギリス時間ではまだ朝、康太たちが本部に足を運んだときはあまり人はいなかった。


金曜日の午前中ともなれば人が少ないとも当然だろう。だが数人ではあるが残っていた魔術師が康太たちの対応をしてくれることになった。


今回通訳として付いてきてくれている魔術師も時間を都合してくれたのだろう。こちらからすれば有難い限りだった。


「まずは君たちには宿に入ってもらう。作戦の開始のタイミングは君に任せるが、土曜日の午後に作戦を開始すると思ってくれ。それまで君たちにはコンディションを整えてもらうことになる」


日本とイギリスの時差はおよそ九時間だ。この時差を調整するのは容易ではない。特に今回行動を共にする全員が海外での活動はほぼ初めてなのだ。時差の調整などと言われてもできるかどうか怪しいところである。


「そしてこれが今回君たちが活動する上での身分証だ。なくさないように注意してくれ」


そう言って康太たち一人ひとりに手渡したのは康太たちの写真の入った身分証だ。どれも康太たちではない第三者の名字が記されている。恐らくどこかの誰かのパスポートを偽造でもしたのだろうか。


だが漢字こそ違えど下の名前は読み方は同じだった。恐らく呼び合うのを可能な限り容易にするためだろう。細かい気づかいができているあたり有難かった。


イギリスで活動する中で必須のものだと言えるだろうが悪いことをしているようで気分はあまり良くなかった。


「俺が頼んでおいた連絡員兼案内役は?」


「現地の教会に待機している。向こうについたら挨拶してくれるだろう。ある程度の事は彼に任せてある」


彼という事は男なのかと思いながら康太たちは互いに視線を合わせて頷く。もうある程度覚悟はしてきた。これ以上ないというレベルで装備を整えたのだ。これで失敗したらそれこそもうどうしようもない。


「了解した。それじゃあ門を開いてくれ」


「わかった。それじゃあ健闘を祈る」


門が開き、作戦を行う場所に最も近い教会に招き入れられた康太たちはゆっくりと歩を進める。


いつものように門をくぐると、日本の教会とは少し違う内装の場所にやってきていた。康太と文、そして真理は以前の封印指定百七十二号の件でイギリスの教会に来たことがあるが、あの時とはまた違う内装であることに気付けるだろう。


そして康太たちが姿を現すとそこには僅かに白髪を蓄えた若干肥満体形の男性が待っていた。


「初めまして日本の魔術師諸君。今回案内役と連絡要員を務める『フルートーカー』だ。呼ぶときはベックと呼んでくれ」


フルートーカーというのは術師名で、ベックというのは本名の愛称なのだろう。実際に街などで行動する際は術師名で呼ぶよりも本名の愛称で呼ぶ方が自然だと考えたのだろう。康太たちはそれを察して仮面を外しながら彼の握手に応じることにした。


「初めましてベック。俺は『ブライトビー』だ。呼ぶときは・・・コウタで頼む」


康太の後に続きそれぞれが自己紹介を終えるとベックは朗らかな笑みを浮かべて四人を教会の外に連れ出すことにした。


「さて、まずは君たちをホテルまでご案内だ。僕の車に乗ってもらうことになるよ。ホテルの周りの案内はチェックインした後にすることになる」


「あぁ頼むよ。快適な旅になるといいんだけど」


「少なくとも明日まではゆっくり休んでくれ。僕もつきっきりというのは難しいけど可能な限り君たちと行動を共にするようにする」


ベックとしては常に康太たちと行動を共にしたいのだろうが、実際問題四人全員が常に一緒にいるわけではない。そうなってくると誰かとはぐれることもあるだろう。


万が一の時は魔術を使ってでも合流するつもりだろうが、それにしたって限度がある。


イギリスという国は康太たちが知っている以上に広く、同時に異国であるという事だ。


教会の外に止めてあった大きめの車に乗り込むと、康太たちは外の景色を楽しむことができた。


以前来た時は意識していなかったが風景そのものが日本とは違う。通り過ぎる建物、自然、そこに住む人々。それら全てがここが日本ではない別の国であるということを四人に印象付ける。


「こうしてみると海外に来たって感じがするわね・・・前に来た時はそんなこと考える余裕もなかったけど」


「そうだな。あの時はいっぱいいっぱいだったし・・・」


前回来た時は風景など楽しむ余裕はなかった。康太は特に切羽詰まっていたのだ。今回もだいぶ余裕はないのだがまだ作戦開始まで猶予があるだけに風景を楽しめるだけのゆとりを持っている。


これが良いことなのかどうかは判断できないが。



車で移動している中、ところどころ康太は僅かに違和感を覚えていた。所々で物理解析の魔術を使って建物の構造などを見ていたため、消費した魔力を補給しようとしたのだが、その際にほんのわずかではあるが奇妙な感覚があるのだ。


今まで日本で魔力を補給していた時は感じなかった感覚だ。それが所謂国によるマナの変化だと気づくのに少々時間がかかったほどである。


幸いにして魔術は問題なく発動できているために活動に支障はないが、やはり国、というか地域によってマナというのは微弱にではあるが変化するものなのだなと感心しながら車での移動中自分の体にある魔力の違いや感覚を把握していた。


「ついたよ。ここが今回君たちが宿泊するホテルだ」


ベックに連れてこられたのは比較的大きめのホテルだった。近くにある建物もそれなりに高いものが多く、この辺りが人の多い都市部であるというのは容易に想像がついた。


こんな所で本気の戦闘を始めるつもりなのかと思うと少し恐ろしかったが、それよりもまずは体を休めることを優先するべきだと思い康太たちはベックの後に続いてホテルにチェックインすることにした。


案内されたのは大人数用の部屋だ。六台のベッドとリビングが用意されており、ベッド以上の数の人間がいても宿泊できるようになっているようだった。


「食事はルームサービスで運ぶ手筈になっているからこの場所にいて大丈夫だよ。とりあえず荷物をある程度整理して・・・一応この辺りの説明もしておいた方がいいかな?」


「あぁ、頼むよ・・・作戦はこの付近で行われるのか?」


「それはわからない。こっちも詳しいことは聞かされていないんでね」


さすがに末端である康太たちに情報を漏洩させるようなことはしないだろう。というかもしかしたら実際に活動している魔術師全員今回の作戦の詳細を知らない可能性がある。


全容を知らなくても作戦行動はとれる。常に盤上から戦場の全てを見渡しているボードゲームの類とは異なり、現実ではすべての人間が戦況を正確に把握していなくても戦うことができるのだ。


戦況を正確に把握する人間は最低でも一人、それ以外はただその指示に従えばいいだけの駒に過ぎない。


無論戦況を理解した駒が本来の駒以上の働きをすることでより戦況を有利な状況にすることもあるが当然逆もあり得るのだ。


康太たちはてきぱきと自分の装備を取り出すとそれらを一カ所にまとめておくことにした。


今回はまだ現地の視察だ。そこまで重装備で行く必要はないために最低限の装備だけをもってベックの後に続くことにした。


「それとこれが部屋の鍵だ。一応人数分用意したからなくさないようにしてくれ」

ベックから渡されたカードキーをそれぞれ懐に入れると、ベックの後に続いてホテルを後にした。


「さて・・・じゃあまずはどこから紹介しようか・・・ホテル周りの地理だけでいいなら本当にすぐに終わってしまうのだけれど・・・」


ベックはとりあえずホテルの周りにある建物の紹介をすることにしたのだが、人の往来も多く、建物もそれなりにあるホテル周りには数々の店があった。


飲食店だけではなくスーパーや家電用品などを売る店など大小さまざま存在している。


店が多いという事はそれだけ小道も多く、ベックから離れれば迷ってしまいそうな街並みだった。


「どうせだからお土産とか買って帰りたいよな・・・できるのかな?」


「あー・・・そのあたりは遠慮してもらったほうがいいと思うよ?一応君たちの立場を考えるとね・・・」


康太たちは一応魔術協会の依頼を受けてやってきているが、法的に見ればただの不法入国だ。正式な手続きをとって出国したわけでも入国したわけでもないためにここに売っていた物品を国外に持ち出すというのは恐らく密輸ということになってしまうだろう。


ただでさえ面倒な状況になっているのだからこれ以上面倒なことになるのは避けたほうがいいだろうというのは四人とも理解していた。


「そう言えばこっちのお金とか持ってないけど・・・そのあたりはどうなってるの?」


「あぁ忘れていたよ。あとでホテルに戻ったら軍資金っていう形で各個人にある程度渡しておく。一応代表者に渡すことになってるからコータに渡しておくよ」


「マジか、俺金の管理とかあんまり得意じゃないんだけどな・・・」


そもそも金を貰ってもどのように使えばいいかわからないために康太は戸惑ってしまう。そして困ったような表情をして真理と文の方を見ると二人はため息をついて苦笑してしまう。


「わかりました。お金に関しては私と文さんで管理しましょう。帳簿として付けてベックさんに渡しておけばいいでしょうか?」


「そうだね、記録を残しておいてくれるとこっちとしても助かる。もしどうしても買って帰りたいってものがあったら言ってくれ。その場合は後から国際便でそっちに送ろう」


いくらなんでもせっかく海外に来たのに何の土産もなしというのは不憫に思ったのだろうか、ベックの申し出に康太たちは喜びを隠せなかった。


買って帰るようなことは無理だったが、それでも海外のものを直接買うことができるというのは嬉しいものだ。


送れるものにも限度があるだろうが康太たちは今回の依頼の中で唯一と言ってもいいほどの楽しみを見出すことになる。


先程までは買って帰れないという事から大して魅力を感じなかった店が途端に入ってみたくなるから不思議なものだ。


「ごめんなさいベックさん。お手数をかけます」


「気にしなくていいさ。請求も手続きも本部にやってもらうからね。こっちは何もしなくていいってこと」


このベックという男、なかなか強かだなと康太たちは評価を改めながらベックによる周囲の街並みの紹介を受けていた。丸一日行動した後という事もあってなかなか疲労感は抜けなかったが充実した時間を過ごすことができていた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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