本部の思惑
一時意見交換を中止して康太たちは再び資料を読み込み始めていた。
三つめの段ボールに入った資料を眺めてみるとその中には幾つか先程挙げたような内容のものも含まれていた。
狙撃案や毒殺案。簡単に思いつくようなことは大抵試したことがあるようだった。
狙撃に関しては避けられる、あるいは防がれ、ガスによる毒殺や液体に毒を仕込むのはだいぶ手間をかけたようだったがそのどれもが失敗している。
狙撃はかなり遠くから対物ライフルを使った狙撃を試みたようだが命中せず、通常の狙撃銃による狙撃は防がれるという結果に終わっている。どれも撃つ前にすでにその方向がわかっているかのような対応をとっている。
対して毒ガスや毒を混ぜた液体に関しては味方にも被害を出す結果になっている。魔術を発動してそれに混ぜるような形での攻撃だったのだがそれらはアリシア・メリノスの発動した魔術によってすべて跳ね返され甚大な被害を及ぼした。
この結果を見るに狙撃も毒もあまり良い手であるとは言えないようである。
もっと大掛かりな装備で挑むことができればよいのだが、大きな装備をそれだけ持ち込むのは現代ではほぼ不可能に近い。
毒ならまだしも狙撃銃やそう言った装備を扱える人間そのものが少ないのだ。数をそろえて複数個所からの同時攻撃などができればよかったのだがそれほど簡単に事が運ぶということはない。
そして強大な魔術による一斉攻撃というのも今まで展開した作戦の中には存在した。魔術協会に所属している中でトップクラスの魔術師たちを集結して避けることも防ぐこともできないレベルでの巨大魔術を用いての攻略だ。
他の魔術師たちは足止めに終始し、主力魔術師たちは仕留められるだけの巨大魔術の発動を準備する。
魔術による狙撃という表現が一番近いかもしれないが、これも相手に完全に防がれてしまった。
いや防がれたというよりは妨害されたと言ったほうがいいだろう。巨大な魔術を発動する前に潰されたのだ。つまりその他大勢の魔術師は足止めをすることができなかったのである。
康太たちの考えた案も全て実践済み。実際相手はそれだけの能力を持っているということになるだろう。
本当に人間かどうかを疑いたくなるが、康太はここであることに気付く。
「・・・姉さん、今までの資料の中でアリシア・メリノスが負傷したって内容は有りましたか?」
「負傷ですか・・・私は見ていませんが・・・文さんは?」
「私もないです・・・倉敷は?」
「俺もないな・・・っていうかおい・・・こんだけいろいろやって傷一つ付けられてないってことか?」
四人が資料を何度も読んだうえでアリシア・メリノスが負傷したという記述を見つけることはできなかった。つまりこの資料の中には存在しないということになる。
数えきれないほどの作戦を実行し、そして今回も新しく作戦を始めようという中でまったく傷つける事すらできていないという事実を見て康太たちは愕然とする。
本当によくまたやろうと思ったものだと呆れて物も言えないレベルである。
「ねぇ・・・これさ、言っちゃ悪いけど失敗する未来しか見えないんだけど」
「俺もだ・・・上に申請してやめるように言えないのか?」
「俺一人の意見でどうにかなるような相手かよ・・・もう向こうは動き出してるんだからどうしようもないっての・・・」
「それに康太君にすでに依頼を出してしまっている以上、ここで考えを変えるのは本部の沽券にもかかわるでしょう・・・何か策があると考えるべきなのですが・・・」
さすがに協会本部の人間もこの資料を熟読しているだろう。これほどの脅威を持った相手に対して無策で挑むとは考えにくい。
何か作戦はあるのだろうが康太たちはまだそれを知らないのだ。
「依頼開始の前に作戦の内容も知っておくべきでしょうね・・・本部の方に頼むほかないでしょうか・・・?」
「・・・あー・・・姉さん、これ見てください」
恐らくこの資料を読んだ後に康太たちがこう考えることを予期していたのだろう。段ボールの中に一枚紙切れが残っていることに気付くことができた。
そこにはこう書かれている。
『作戦の性質上、その内容を知るものが多くいると情報が漏洩する可能性があるため今回の作戦は直前まで明かさないものとする。追って指示を出すためそれに従うように』
その紙を見た康太と文はまぁそうだよなと小さくため息を吐く。
本部側からすれば康太の力を自分たちの思うようにつかいたいだろう。もし予め作戦を伝えた場合康太に好き勝手に動かれる可能性がある。それならばギリギリまでその内容を知らせずに振り回すような形で力を使役する方がいい。
康太からすれば迷惑極まりないのだが、作戦開始のタイミングを決めさせてもらえるだけましだと思わなければならないだろう。
「作戦内容は知らせない・・・か・・・今までの作戦全部を複合したものだったとして・・・それでも成功するかどうか・・・」
「そうね・・・今までの作戦で追い詰めることができてたならまだいいんだけど完全無傷ってなると難しいでしょうね」
魔術師戦において全く負傷しないというのは実は結構難しい。範囲攻撃や連続攻撃を完全に防ぐことができるというのはそれだけの実力差がないとできないのだ。多対一の状態で無傷、しかも確実にこちらの戦力を削れるとなるとその実力差は並大抵のものではないだろう。現代の兵器を使っても無理かもしれないとなると既に康太たちの頭の中には敗北する自分たちの姿が浮かび始めていた。




