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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十一話「血の契約と口約束」

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調査の結果

康太たちが血の魔導書を求めてそれなりに時間が経過したころ、ようやくそれらしい魔導書を見つけた康太たちはその魔導書の術式と概要をメモして再び個室の方に戻ってきていた。


血を吸う事で発動、あるいは血を吸い取る魔術を見つけたからである。


見つけることができた魔術は四つ。それぞれ異なる効果ではあるが血に関係し、何より相手から血を奪うという点では共通している魔術である。


「さて・・・これだけ集められたわけだけど・・・ベル、お前としてはどう思う?」


康太たちが集めることができた四つの魔術の概要は次の通りだ。


一つ目はこの魔術の効果を受けた道具によって傷をつけた相手の血を奪う事。傷の大きさによって奪うことができる血の量が変化する。


二つ目は相手から血を奪う事でその分だけ身体能力を強化する。奪った血の量に比例して身体能力が高まる。


三つ目は他者の血を奪う事でその血を媒介に術式を発動する。そうすることで疑似的リンクを形成し相手が魔術を発動しているように見せかけることができる。


四つ目は相手の血に術式を発動することで相手にマーキングをすることができる。血の量に応じて消費魔力が少なくなったり効果範囲や時間が軽減されたりする。


この四つの魔術を見て文はうなりを上げている。これを見る限り確かに血を吸う、あるいは血を奪う魔術というものは存在している。


少なくとも相手が血を吸っていたから『吸血鬼である』という論法はほぼないと思っていいだろう。


恐らく本部の人間が吸血鬼という風に称したのはその封印指定二十八号が何百年にもわたって生き続けているという事と血を吸っていたという二つの点から結論付けたものなのだろう。


だからこそ文は現状あり得る可能性をすべて考え出そうと頭をフル回転させていた。


「私の個人的な意見としては『吸血鬼』である可能性は限りなく低いと思う。さっきのビーの説明もそうだけど、この血を吸う魔術の多さ・・・たぶんここにない魔術も結構あると思う。長く生きているのと血を吸うってだけじゃ吸血鬼とは断定できない」


「俺も同じ意見だ・・・吸血鬼としての弱点は期待しない方がいいだろうな」


「ちなみにさ、吸血鬼の弱点ってニンニクに十字架に太陽に杭とかだったろ?あれ全部迷信なのか?」


吸血鬼としての弱点の話題が出たところで倉敷が手を上げる。吸血鬼の弱点というと今あげたようなものが有名だろう。


他にも狼が天敵とか聖銀の弾丸などが弱点として取り上げられることもあるが、それらのほとんどは迷信から来ているものである。故に康太は首を縦に振って肯定してみせた。


「ニンニクは疫病が流行っていた時の対処法の一つなんだ。さっき説明したけど当時は吸血鬼は疫病を操るみたいに言われてたことがあったんだ。そして当時の疫病は『腐敗臭』が原因だと思われてたんだと。だからより強いにおいで防ごうとしたわけだ」


「なるほどね・・・それが転じてニンニクが苦手っていう風になったんだ」


当時はやった疫病であるペストの医者としてよく大きなくちばしのようなものがついた仮面をつけたペスト医師というものがいた。彼らはその大きなくちばしの中にお香や藁、そして強いにおいを放つ草木などを詰め込んで対策していたのだという。


悪臭というものは確かに何かしらの悪い物事にはついて回る。当時の人間からすればそう考えるのも仕方のないものなのかもしれない。


「聞いた限りじゃ封印指定二十八号は普通に日中でも歩き回ったりしてるし、太陽が弱点ってこともないだろうな・・・だから吸血鬼としての特徴もないと思っていい」


「特徴って・・・力が強いとか霧とか犬とか蝙蝠に化けられるとかそう言うのよね?」


「あぁ。それもほとんどが迷信だけどな・・・力が強いのは当時はやったペストが原因、霧になれるっていうのは当時の人間が死体を盗んだのが原因。犬はさっき説明したけど・・・蝙蝠は俺もよくわからん」


当時はやったペストの症状の中には心機能の衰弱と呼吸困難が含まれた。疫病にかかり体が弱っていることに加え周りに蔓延する死の不安、近親者が無くなったという精神的なストレスから金縛りにあうものも出てくる。


さらにそんな時に呼吸困難などの症状に見舞われた人間は金縛りのせいもあって体を動かすことができない。そして強い力で抑え込まれているかのように息が苦しくなる。そうしたところから吸血鬼は力が強いという風に連想されたのである。


実際は自分の体が上手く動かなくなっているだけなのだが当時の人間は病的なまでにその症状に理由づけをしたがった。その為疫病を運んできた吸血鬼が自分の体を押さえつけているのだと考えたのだ。


そして次に吸血鬼が霧になることができるという説明についてだ。これは当時の魔術師たちの行動に起因する。と言ってもここで出てくる魔術師は当時魔女狩りなどの対象になっていた似非魔術師であって康太たちのような本物の魔術師ではないと思いたい。実際に康太たちはその時代の人間ではないために何とも言い難いのだが。


当時魔術師たちの間では死体をある儀式に使うために墓場から死体を持ち去ることがあった。当然死体を盗んだことがばれると厄介であるため掘り起こした土を戻すのだが、そんな中遺族の中で盗まれた死体の人物の夢を見ることがあった。


掘り起こしてみると死体がない。なのに夢には現れる。そこで彼らが考えたのは吸血鬼になった死体は霧になって隙間から侵入することができるのではないかという事だった。


棺桶の中から死体が消えるというだけの事でそれだけの想像ができるというのは人間の想像力、いや妄想力を褒めるべきだろうか、それともよくもまぁそこまで考えるものだと呆れるところだろうか。


どちらにせよ現代において考えられている吸血鬼のほとんどの特徴は人間の妄想から作られているということになる。


そう考えると現代に存在する吸血鬼の物語は創作の創作にさらに創作を重ねて作り上げている二次創作ないし不特定なN次創作なのだ。


当然創作である以上ほとんどが妄想であるために妄想に妄想を重ねがけしているようなものなのである。


「吸血鬼が完全に人間の妄想だっていうのはわかったけどさ・・・そうなると今回の相手は一体なんなんだ?さすがに何百年も生きてるなんて人間じゃないだろ?」


「多分な・・・精霊とかこいつとかと同列・・・あるいはもっと厄介な何かかもしれないな」


康太は自分の体の中からデビットの残滓を顕現させる。人の形をしてほんのわずかではあるが感情の欠片のようなものも有しているデビットの残滓はまず人であるとは言えない。


では何だと聞かれたらデビットの残滓、あるいは亡霊としか言いようがない。


今回の相手がそれより強い意識を残した完全な幽霊だとしたら説明はつくだろうか。


完全な幽霊というのもなんだか妙な言い回しだが、魔術も使えて意思もしっかりしていてなおかつ普通に行動しているというあたり幽霊ではないように思える。


「魔術師であるという事に変わりがなく、今まで接触してきた人がいるのなら肉体があると思っていいでしょうね・・・血を吸ったっていう証言もあるし・・・肉体を持ってるってことは少なくとも精霊とかとは違う部類じゃないかしら」


「ってことはやっぱ人間とは違う種族の生物って考えたほうが無難か・・・?でもそんなのいるのか?」


「常識的に考えればノーね・・・でもあり得ないって言えるかしら?忘れたの?私達は常識の外側にいるのよ?」


文の言葉に康太も倉敷も返す言葉が無くなってしまう。確かに文のいう通りだ。自分たちは一般人の常識の外側に生きるものだ。一般人の中ではありえない人間以外の知識生命体の存在についてもまともに議論しなければいけない。


宇宙人だとかそう言う可能性はさておいて人間以外の人外である可能性は否定しきれないのだ。


今のところはの話ではあるが少なくともただの人間相手だと油断しない方がいいのは当然の判断であると言えるだろう。


「でもさ、冷静に考えると仮に人間だったとしても、人間レベルの生き物だったとしてもそれが魔術師ってだけで相当強いよな?なにせずっと魔術師として生きて来たんだろ?」


「そうね・・・経験値だけで言っても私達じゃ足元にも及ばないでしょうね・・・だからこそ面倒なのよ」


今回は本部の魔術師たちの支援があると言ってもそれでもきついでしょうねと言いながら文は康太のやや後ろにいるデビットの残滓の方に目を向ける。


相手が魔術師であるからこそ康太に白羽の矢が立ったのだ。いや正確に言えば康太の持つDの慟哭に目を付けたという方がいいだろう。


この魔術は相手が魔術師であればかなり有用に作用する。一般人が相手でもほぼ完全に無力化することができるのだ。しかも射程距離は従来の魔力吸収のそれとは比べ物にならず、性能自体も比較すらできないほどだ。


相手が魔術師であるという事を前提にした場合、確かに康太の存在は相手にとって脅威になるだろう。


更に他の魔術師たちも協力するとなれば勝率が完全にゼロとは言い切れない。


「仮に相手がベルクラスの素質の持ち主だった場合・・・どれくらいで魔力切れにできる?」


「そうね・・・相手が魔術を使い続けてなおかつ補給もしてこっちからの攻撃もし続けて・・・ついでに吸収してだから・・・運が良ければ一時間以内に決着はつくでしょうね。もしかしたらもっと早くなるかも」


「それでも一時間かよ・・・俺そんな相手に一時間逃げ続けられる自信ないぞ?」


「その前に倒せばいい・・・って言えればいいけど、確かにそうね。逃げたほうが無難かもしれないわ」


相手が多種多様な魔術を扱える時点で康太にとっての勝算は不意打ちくらいしかなくなってくる。


しかも相手が索敵系の魔術を大量に保有していた場合接近することすら難しい可能性が出てくるのだ。


そうなってくるともはや康太にできることは射程距離内で延々と魔力を吸い取るくらいになってしまうだろう。


だが吸い取るだけでは相手にとって牽制程度にしかならない。相手の魔力を吸ってなおかつ相手に魔術を使わせなければ相手の供給口の性能によっては全く魔力が減らないという可能性だってあるのだ。


相手の魔術師としての素質がどの程度かは不明だが、相手に魔術を使わせてその魔力総量を削り取るのが今回の作戦の肝になるだろう。


「相手に魔術を使わせるってことはこっちからすれば避けにくい、魔術でしか防御できないような攻撃をするべきだよな」


「そうなるわね・・・範囲攻撃や瞬間的な包囲攻撃、そう言った避けにくい攻撃が優先されるでしょうね。相手が個人である以上多人数で攻めれば勝機はあるわ・・・当然かなり低い目になるでしょうけど」


魔術というのは扱えば扱うほどに練度が上がっていく。数十年などという時間ではなく数百年という長い年月をその魔術に費やしている場合同時に発動できる魔術の量は一体どれくらいになるだろうか。


もしかしたら十や二十では収まらない数の魔術を同時に発動できるかもしれない。

そうなってくると多人数での飽和攻撃をしても意味がない可能性がある。


「とりあえず今話し合えるのはこの程度かしら・・・あとはあんたの所に目標の情報が来るのを待ちましょう」


「そうだな。とりあえず吸血鬼の線は無くなったってことで・・・覚悟して準備しよう」


「あぁ・・・用意しなくっていいものがわかっただけでましか」


吸血鬼であるという可能性がほぼ消えたところで康太たちは本格的に戦闘の準備をする必要がある。それがわかっただけでも今回調べものをしたかいがあったというものだ。


もっとも今回の調べものの結果絶望感が増したのは言うまでもないことだが。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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