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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十一話「血の契約と口約束」

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血の魔術

「なるほどね・・・ようやくここに呼んだ事情が分かったわ。それならこいつも役に立てそうだしね」


「そうだな。血に関係してるなら水属性の術の可能性が高いし・・・でもそのくらいの情報なら本部が掴んでるんじゃないのか?それにその魔術を特定できたとして相手が吸血鬼じゃないって保証はないぞ」


「それなんだよな・・・相手を目の敵にしてる連中がそのことを調べてないとは思えない・・・資料に載ってたらそれはそれでいいんだけど・・・それに吸血鬼じゃないだけで別の化物である可能性も否めないしな」


吸血鬼であるというのはあくまで封印指定二十八号の行動を聞いた後世の魔術師がつけた名前だ。本人が吸血鬼であると名乗ったわけでもなければ吸血鬼であると断定されたわけでもない。


むしろ吸血鬼以外の選択肢だって山ほどあるのだ。


「鬼か妖怪か妖精か・・・もしかしたら神様かも知れないな」


「神様にはあったことがないわね・・・精霊になら割とよくあるし幽霊っぽいのはこいつに憑りついてるし」


「まぁでも可能性としてないとは言い切れないのが怖いところだな・・・とにかく血に関係する魔術を調べていこう。ベルとしてはなんか手掛かりとかあるか?」


水属性専門の倉敷もそうだが、文も一応水属性の魔術の心得がある。最近魔導書を読める環境を手に入れた倉敷よりも文の方が水属性魔術には詳しいだろう。


「そうね・・・血に関係する魔術は結構あるわ。肉体強化系、治癒系、主に肉体に作用するものもそうだけど血そのものを操る魔術もあるわ」


血液を媒介にして発動する魔術はそれなりに数がある。例えば肉体強化の部門において血液の強化は水属性の魔術に部類する。血液そのものの性能を高めることで傷の治りを早めたり、全身への酸素の供給を容易にしたりとやれることは多い。なにせ血は体の隅々まで行き渡っているのだ。


血を強化するという事は肉体に関わるほとんどの部分を強化することに他ならない。無論ある程度限度はあるが。


「今回の場合だと他の奴から血を奪うって感じなのか・・・?そんな魔術あるか?」


「んー・・・無いとも言い切れないわね・・・とりあえず書庫の方に移動しましょうか」


康太たちは一度個室を出て協会の魔導書図書館の方に場所を移す。この図書館もエアリスの所と同じように魔導書のカテゴリー別に本が収められている。


だから辞書の隣に冒険譚があったり歴史書の隣に料理本があったりとおさめられている本そのもののカテゴリーはバラバラだ。


そんな中康太たちは水属性の魔術が収められている一角へと足を運ぶ。血に関係している魔術は当然だが水属性に部類している。もしあるとしたらこの辺りにあるはずだと踏んだのだ。


「これ全部水属性の魔術か・・・やっべテンション上がるわ」


「テンション上がるのはいいけど騒がないでよ?睨まれるの私達なんだから」


「そっか・・・トゥトゥは協会の魔導書図書館は来たことないのか」


「あぁ、俺らからしたら協会そのものに来にくいからな・・・今度個人的に連れて来てくれると俺はすごくうれしい」


「依頼に成功したら連れて来てやるよ・・・とりあえず探すか」


倉敷の精霊術師としての苦悩はさておいて、康太たちはとりあえずそれぞれ分かれた魔導書の中身を確認していく。


水属性の魔術と一言で表してもその種類は膨大で多岐にわたる。文の使うような霧を発生させる魔術もあれば倉敷のように水を鞭のように扱う魔術もある。康太たちは知らないが雨を降らせる魔術だってあるのだ。水属性の中から血を扱うカテゴリーを探すだけでもだいぶ苦労する。


だがそこは魔術協会の魔導書図書館だ。ある程度水属性の中でもカテゴリー別に並べられている。


ある程度同じようなカテゴリーの魔術が並び、ある程度似たような魔術へと推移していき、少しずつ術の内容が変化していっている。


そして康太が気になったのが魔導書の端に書かれている魔術の要約だった。


エアリスの所の魔導書はこのようなものはないのだが、この魔導書に記されている魔術がどのようなものかを記したものが方陣術の文字で記されている。


恐らくより多くのものが見るために付けられた追加事項のようなものだろう。普段康太はエアリスの所で魔導書を読むとき大抵文に選んでもらっている。文はどのようにして魔導書の中身を理解しているのだろうか。


魔導書に記されているのはあくまで術式のみだ。その術式を発動するとどのような魔術であるかはわかるが見ただけではそれがどのような魔術であるかはわかりようがない。


いや、康太がわからないだけで文たちは術式からそれがどのような魔術であるかが理解できているのかもしれない。


「なぁベル。こういう魔導書の術式ってさ、見ただけでわかるのか?」


「なによ唐突に・・・私はある程度術式を走らせて内容を理解したりしてるわよ?そんなに手間じゃないし・・・人によっては術式を解析したりもするんじゃない?」


「そんなことできるのか?」


「あんただって似たようなことしてるじゃないの。あれは物理的なものかもしれないけどさ・・・」


文は康太が所有している魔術をほとんど知っている。その為康太が時折している片目を閉じて手で筒を作る動作がどのようなものであるかも理解しているつもりだった。


要するに物理的な解析ではなく、術式的な解析を行える魔術もあるという事だ。もしあるのなら早々に覚えたいなと康太は考えていた。


「ベル、その術式解析の魔術ってエアリスさんの所にあるか?」


「師匠の所に戻らなくてもここにもあるわよ・・・ちょっと待ってて」


そう言って文がこの場を一時的に離れ、数分した後に一冊の魔導書を持って戻ってくる。


どうやらこれが術式解析の魔術の記された魔導書であるらしい。


「はいこれ。調べるついでに練習して覚えちゃえば?修得には時間かかるだろうけど」


「そうだな・・・ついでにこれなんかに写しておいてくれないか?戻っても練習したいし」


「・・・あぁそうか、あんた方陣術使えなかったわね・・・いいわよ、適当なメモ用紙でいいでしょ?」


そう言って文は魔導書の中に記された術式を方陣術でメモの中に書き写していく。


本一冊に収められている魔導書からメモ一枚に収められた魔導書へと変わることで携帯も容易になる。それにここの本は読むのは自由だが持ち出しは基本厳禁だ。そもそも本自体に意味があるのではなく本に収められた術式に意味があるのだ。本を持ちだすよりも今の文のように術式を適当なものにメモしたほうがよほど楽に持ち運べる。


「はいどうぞ。でも気を付けなさいよ?一気に大量の術式を見ると頭がいかれるらしいから・・・ってあんたには言うまでもないか」


「おうよ。既に物理解析で経験済みだ」


康太が物理解析を行う際に片目を閉じて手で筒を作っているのはより多くのものをその目に収めないようにするためだ。


物理解析は小百合の師匠である智代が作った魔術だからすぐに忠告されたが、この術式解析に関しては他の誰かが作ったものだ。どのような効果があるのかを試すためにもあまり多くのものを視界に入れておくのは危険である。


なにせ目に収まっているすべての魔導書の術式を解析し始めたら康太の脳味噌があと十個あっても足りないかもしれない。それほどの情報量が一気に流れ込む可能性がある。


まずはこの術式がどのようなものであるのかを把握しながら発動の練習をし、同時に血に関係する魔術の収められた魔導書を探すことにした。


「お・・・もう発動した・・・」


「調子よさそうじゃない。その調子で頼むわよ」


魔導書を経由して新しい術式を覚える時は最初の発動が一番苦戦するのだが、術式解析の魔術は数度のチャレンジですぐに発動してくれた。


康太が自分の手に持っている魔導書を可能な限り顔に近づけて他のものを見ないようにしているとその術式の情報が頭の中に入ってくる。


だがやはりまだ精度が低いのか、大まかな概要を知ることはできても細かい内容を知ることはできなかった。


今度は二冊同時に視界に収めて術式解析の魔術を発動する。先程と同じように何度か発動し損ねたが、問題なく発動すると二つの魔導書の術式が康太の頭の中に入ってくる。


どうやら術式の解析する基準は康太の視界であるらしい。この辺りは康太の普段使っている物理解析と同じようだ。


物理解析と原理は同じなのだろう。もしかしたら智代はこの術式解析をもとに物理解析を生み出したのかもわからない。


康太からすれば慣れ親しんだ魔術と基本的な事柄が同じだっただけに覚えるのはさほど難しくはなさそうだった。


これからエアリスの所にある魔導書を自分で見て覚えることもできそうだなと喜びながら何度も魔導書を開いてはその術式を解析していった。


「あ、見つけた。二人とも、この辺り血関係の魔術があるわ」


そんなことをしてどれくらいが経過しただろうか、文が康太と倉敷に声をかける。

二人が文の下にやってきて彼女の前にある本棚の中にある魔導書を確認すると、確かに血に関係する魔術が記されている。


「お、ようやく見つけたか。んじゃこの辺りの魔術調べるか」


「どっからどこまでだ?それでも結構あるぞ・・・」


血に関係する魔術と言っても本棚一つくらい埋まりそうなほどの量がある。それだけ血に関係する魔術は多いのだ。


なにせ血というのは人間の命に直接関係してくるものだ。それに関わる魔術というと当然有用性も多くなる。他の水属性の魔術もかなり多かったが血に関係する魔術も相当の数がある。


日本支部だけでこれだけの蔵書があるのだ。本部に行けばもっと血に関係する魔術があるだろうと康太たちは少しだけやる気を減らしていた。


「それで?血に関係する魔術はいいけどどんな魔術を知りたいの?」


「具体的には他人の血を取り込むとか吸い取るとか、そう言う条件のもとに発動する魔術だな。血を吸うことそのものかも知れないし血を吸うことで効果を発揮するのかもしれないからそのあたりはちょっと判断しかねるけど」


「オッケー、んじゃとりあえず全部調べるか」



全部調べるかと倉敷は軽く言ったものの、それだけでもかなりの数の魔導書がある。これらすべての内容を理解したうえで厳選するのにはそれなり以上の労力がかかるだろう。


康太は術式解析の魔術を使いながら魔導書の収められている本棚の端から一冊目を取り出す。


当然その中には血に関係する魔術が収められている。だがどうやら血に関係すると言ってもそこまで過激なものではない。


康太が手に取ったのは血の凝固に関する魔術だった。流れ出ている血や出血などをした際に止血としても使い、その部分を固めることで疑似的な装甲として扱うという魔術だ。


血の流出を可能な限り抑えることができ、なおかつ自分の防御性能を上げることができるという意味では有用かもしれないが康太としては使えそうな魔術ではない。

とりあえず魔導書を戻し別の魔導書を読みふけることにした。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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