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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十一話「血の契約と口約束」

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小百合の思惑

小百合の発言に目の前にいる本部の魔術師は僅かにではあるが動揺しているようだった。


いや小百合の言葉にというよりは康太が見せ始めた黒い瘴気に動揺しているというべきだろうか。


依頼の内容を無視して相手の思惑を言い当てる。康太にもわかるほどにわかりやすい相手の考えだからこそ、相手もそれを言われても驚いた様子はなかった。


気付いていたところで康太たちにとって何のアドバンテージにならない。相手も知っていて、気づいていて然るべき内容だとわかっているからだ。


問題なのはこのタイミングで小百合がその話題を出したことだ。今までは依頼の件に関しての話ばかりだったが、ここで小百合がその依頼に込められた思惑に触れたことで話しの流れは大きく変わった。


「仮にそうだったとして、君がそう考えたうえで何故弟子にこの依頼を受けさせようなどと?」


「単純な話だ。お前達の思惑に乗ったほうがこちらに・・・いやこいつにとって利があると考えたからだ」


この依頼を受けたほうが康太にとって利がある。今までの依頼の話の流れからして得られるのは評価と金銭、そして協会本部における康太の立場の変化くらいのものだ。


成功失敗に関わらず康太の立場は変わるだろう。それこそ良い意味で変わる可能性もあり悪い意味で変わる可能性もある。はっきり言ってそのあたりは未知数だ。


ただ評価を上げるため、そして金銭を得るためだとしても今回の依頼は『割に合わない』ということくらい康太だってわかる。


そこに康太の立場の変化を含めたとしても、その変化がプラスに働くかわからない以上康太が依頼を受ける理由としてはまだ弱い。いやむしろ受けない方が良いとさえ思えるだけの条件がそろいすぎている。


だというのに小百合はあえて受けさせようとしている。一体どのような思惑があっての事か。康太も、小百合と付き合いが長い真理もその思惑を理解することはできずにいた。


「一つ確認するが、今回の依頼の目標・・・件の『生物』に関してだが・・・こいつに何とかさせるという事はすでに居場所は掴んでいるという事だろう?そしてこいつのスケジュールに合わせてある程度足止めもできる状態にある」


「・・・」


小百合の質問に対して帰ってきた答えは沈黙だった。だがこの状況においてそれは小百合の言葉を肯定しているのと同じことだ。


相手はすでに目標の生物を監視下に置いている。康太の準備さえ整えばすぐにでも作戦行動を開始することができる程度には状況を進めているのだ。


後は康太次第。康太の返答の如何によってはすぐにでも作戦を始められる。


康太はあくまで作戦遂行に必要なファクターの一つでしかないのだ。康太がいることによって作戦は開始するが、康太が作戦の全てではない。


協力というのはそう言う事だ。康太が存分に実力を発揮できるようにフォローする。それはつまり康太とその件の生物が思い通りのタイミングで接触することも含まれる。


「この問いに関しては確実な返答が欲しいところだ。どうなんだ?それによっては私としてもこいつを説得できる材料が増える」


沈黙はほとんど小百合の問いに対する答えのようなものだったが、小百合は明確な答えが欲しかった。


勘違いでも意訳できるようなものでもない、明確な答えが。


「・・・その通りだ。こちらは・・・本部はすでに今回の対象を監視下に置いている。今はまだ手出ししていないが、必要とあれば本部の主戦力を総動員して足止めくらいならできる」


本部の魔術師を総動員しても足止めしかできないのかと康太は一瞬戦慄する。そんな状況に自分は投げ出されようとしているのかと本気で嫌そうな顔をした。

もっとも仮面のおかげでその表情が誰かに見られることはなかったが。


「わかった、了解だ。これで私はこいつを説得できるだろう。話は終わりだ。あとはこいつが正式に回答を出すのを待て。返事は支部の方に出させる」


話は終わりだと言って小百合はソファから立ち上がり部屋から悠々と出ていこうとする。


「ちょ!ちょっと師匠!待ってください!」


「ブライトビー」


先に部屋を出ていこうとする小百合を追おうとした康太を、ヘンプ・ドートが呼び留めた。


一体なんだと振り返ると、ソファに座っていた魔術師はいつの間にか立ち上がり康太の方をまっすぐに見ていた。


「正式な返答はよく考えてだしてほしい。君にとっては確かに実入りの少ない話かもしれんがそれでも、それでも重ねてお願いする。この依頼を受けてくれ」


康太が英語に詳しくないせいもあり、その声音から相手がどのような意図をもってこのような発言をしているのかわからない。


もしかしたら単なる通訳のリップサービスも含まれているのかもしれない。ただ釘を刺した、あるいはより重要だからこそ念を押しただけかもしれない。


だがわざわざ呼び止めたという事はその言葉を言うだけの意味があると思っての事だろう。


今のところ康太は依頼を拒否する方向に気持ちが傾いている。仮に小百合からの説得があったとしても自分から死地に飛び込むような真似は絶対にしたくない。


もっともこちらに選択肢があるのは今の内だけだという事はわかっている。


この部屋で、そして康太の去り際にこの言葉を康太に投げかけたのは彼の優しさだろうか。


最後の通告のようにも思えたその言葉に康太はほんのわずかではあるが嫌な予感がした。そしてそれはきっと気のせいではない。


少なくともこの部屋の中では余計な発言はしない方がいいだろうと、康太は何も言わずに部屋を出ていった。








「ちょっと師匠待ってくださいよ」


「そうですよ、説明してくださいよさっきのあれ」


部屋を出た康太と真理はさっさと協会からでようとしている小百合を追いかけていた。


状況が何もわかっていないために二人は小百合に説明を求めたかった。だが小百合は弟子二人の制止も聞かずに協会の門の方向へと歩みを進める。


相変わらず人の話を聞かない人だなと康太と真理はため息をついてとりあえずは小百合の後に続く。


協会の門が開くまでの間、康太と真理は小百合の方をじっと睨み続けていた。言葉ではなく無言の圧力で小百合を動かそうとしたのだが、さすがは万年敵に睨まれているだけはあって康太と真理のにらみに全く動揺する気配すらなかった。


「店に戻ったら説明してやる。それまで少し我慢しろ」


協会の門が開き康太たちが住む町の最寄りの教会へと移動し仮面を外したところで小百合はようやく口を開いた。


恐らく協会内ではあの話はこれ以上したくなかったのだろう。理由はなんとなく察することができるとはいえ康太と真理はあの場で説明しなかったことに疑問を感じていた。


「必要ならあの場で説明してもよかったのでは?相手への牽制にもなりますし、何より相手の反応を見ることで康太君も答えを出しやすくなるでしょうし」


「無理だな。あの状況でこいつがあれ以上相手から情報を引き出すのは無理だ。相手の動揺にしろ康太はそう言った経験が極端に少ない。ただでさえ視覚情報が限られているのに聴覚情報まで当てにならないんじゃこいつが何かを察するなんて不可能だろう」


小百合のいう事をそのまま頷くのは少々癪に障るが、確かに康太は相手の反応から相手の心理を確実に読み取る術を持たない。


素顔が見えている相手ならある程度は読める。仮面で隠していても声音や仕草、そう言った部分から相手が動揺しているか否か、どのような反応したかくらいならわかる。


だが相手の言語まで違い、なおかつ声音もほとんど聞きなれない英語から感じ取れというのはさすがに無理がある。


言語が違うだけで相手に与える印象も、相手が受け取る印象も全く変わってくる。特に動揺しているかいないかを判別するのは至難の業だ。


というか康太の場合まず普通に英語を理解することすらできない。相手の言葉選びやその発音の正誤という点から判別することがまずできないのだ。


康太たちはとりあえず拠点である小百合の店に移動しながら先程の話の内容を振り返っていた。


依頼の内容と康太の話の運び方、そして小百合が切り口を変えたことで急変した会話の流れ。


小百合が一体何を目的としているのかは不明だ。康太にとってメリットがあるような言い方をしていたが、康太にも真理にもそれほどメリットがあるとは思えない。


無論高い評価と大量の金銭というのは魅力の一つだが、自分の命と天秤にかけられるようなものではない。そこまでするだけの価値が今回の依頼にあるとは思えないのである。


「師匠、俺のこと説得するみたいな事言ってましたけど・・・俺今回の件受けるつもりありませんよ?」


「それはわかっている。私がお前を説得する。そう言った以上お前はもう依頼を受ける以外の選択肢はない」


「なんつー無茶苦茶な・・・絶対嫌ですよあんな危なそうなの」


「今言い争っても無駄なことだ。店に戻ったらきっちり説得してやるから安心しろ。この場でいくらこんな堂々巡りな話をしたところで無駄だ」


少しは待つことを覚えろと小百合は笑う。まるで犬の躾でもするかのような言い方だ。


犬と同列扱いされるのは非常に不本意ではあるが、小百合が戻ったら話をすると言っているのだ。今はそれに従っておいた方がいいだろう。


「ていうか師匠、今回随分と回りくどい呼び方しましたけど・・・やっぱ情報を与えるのが目的ですか?」


「まぁな。お前達が正しく察してくれて何よりだ。あいつはお前達にきちんと情報を与えたか?」


「えぇ、支部長のおかげで助かりました。必要とあれば自分が依頼をしてることを理由にしてもいいって言ってくれましたし」


「あいつらしくもない気の使い方だな・・・まぁ今回は事が事なだけに仕方のない話か・・・なにせ規模が大きすぎる」


小百合としても今回の依頼の規模が康太一人の手に負えないことくらいは理解できているのだろう。


だからこそ正確な判断ができるように回りくどい真似をしてでも康太と真理に現状を理解させる必要があったのだ。


康太と真理が正しくその意図を察したおかげで交渉は随分と楽に進んだだろう。

もっとも当初の目的とは真逆の形での結果になったのだろうが。


三人はそんな話をしながら店に戻り、とりあえず明かりをつけてから軽く茶と茶菓子を用意して三人でちゃぶ台を囲む。


これから本格的に今回の依頼に関しての話をするのだ。多少の長丁場でも構わないからしっかりと納得できるだけの解答を得たいところだった。


「で、師匠は何で今回の件を受けたほうがいいなんて言い出したんですか?康太君に利があると言っていましたよね?そのあたりを教えてくれますか?」


話を切り出したのは真理だった。兄弟子としては弟弟子が危険な目に合うのは可能な限り避けたいのだろう。心配してくれているという事が非常に嬉しいがそんなことを思うよりも前に小百合の答えを聞くべきだ。


康太が耳を傾けると小百合は小さくため息を吐く。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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