VS予知
康太の再現の魔術は基本的に目に見えない。無属性の魔術であるから当然なのかもわからないが、基本的に念動力をベースとしているものだから視覚的に『見る』ということができない。
それは拳に関しても、槍やナイフの投擲に関しても同じだ。どのような再現においても見るということはできないはずだ。
だが距離をおいていたカツキチは、康太の放った槍の投擲の再現を回避してみせた。
ただ単に横に移動して康太との距離を維持しようとしたのかもしれないが、それにしてはあまりにもタイミングが絶妙すぎた。
康太の再現によって放たれた槍が真っ直ぐにその体に向かっていき、もう少しで着弾するというところで体を動かした。
まさか見えているのか。あるいは見えなくとも感じ取ることができているのか。康太がそう訝しんでいると後方から真理の援護魔術がその巨体めがけて襲い掛かる。
幾多もの炎の球がその巨体めがけて襲い掛かる中、カツキチは近くにある廃材を手に取り火球をすべて打ちおとしていく。いやその姿だけを見たら払いのけていくと言ったほうがいいだろう。
だが相手が炎に気をとられているというのは好都合だ。康太は真理と相手の間に位置どりながら魔術を用いて今度はいくつものナイフの投擲を再現した。
ただ横に回避するだけでは避けられない、それだけの広範囲にばらまくようにナイフを展開する。
これで相手がどのような反応をするかによってどれだけこちらの魔術を把握できているのかがわかる。
そして康太の魔術がまるで見えているかのように、カツキチは足元にあった板状の廃材を蹴り上げ自分の体の前に盾のように展開させてみせる。
康太の放ったナイフの再現はその廃材に吸い込まれすべて防がれてしまった。
確定的だ。相手はこちらの再現の魔術が見えている。あるいは知覚できている。
ただ横に避けるだけでは回避できない攻撃をしっかりと防御してみせたのだ。周りにもっと危険な火の玉があるというのにそれを優先したという事はこれが攻撃であるという事も理解できていたのだ。
どうにかしてこちらの手の内を把握しているのか、それともただ単に知覚しているのか、どちらかはわからないが『まるでこちらのやることがわかっている』かのようだ。
そしてここまで考えて康太は思い出す。この地、京都における魔術のルーツに関しての記憶だ。
陰陽師という日本特有の術式を有した魔術師集団によって継承された魔術。その魔術の中で有名なのが『予知』。
文字通り予め起きる事象を知ることのできる魔術。康太がたどり着いた考えに真理がたどり着くのに時間は必要なかった。
康太が再現の魔術に対する相手の動向からそれを察知し、真理は自らが生み出している炎の魔術に対する反応と唐突にした再現の魔術への対応からそのことを察していた。
明らかにどこから攻撃が来るのかわかっている反応の仕方だ。見えている部分だけではなく人間では見ることのできない部分の攻撃にまで反応している。
相手は肉体強化の魔術だけではなく予知の魔術も使ってくる。どの程度の未来が把握でき、なおかつどのような形で未来が見えるのかはわからないがこちらの攻撃がそれによって把握されているというのは間違いないだろう。
無論予知以外の魔術である可能性も否めないが、相手が予知を使っているという事を念頭に入れておいた方がよさそうだった。
となればとる手段は決まっている。あらかじめ予知の魔術という存在を知っていたからこそできる対策もあるのだ。
予知の魔術に対する対策は確かにある。大まかに分けて二つの対策だが、その方法は実にシンプルである。
予知しても避けられないほどの範囲攻撃か、相手の予知の処理能力を超える程の連続攻撃かのどちらかだ。
前者に関しては文字通りだ。相手が攻撃が来るとわかっていても避けられないほど広範囲に攻撃をまき散らし、その攻撃の中のどれかが当たればいいだけの話である。
もちろんこちらもそれだけ魔力を消費するし手の内を晒すことになるが、相手に確実にダメージを与えることができる。そうして少しずつ相手を削り取っていくのがこの対策の利点である。
そして後者に関しては相手の予知の処理能力に依存してくる。予知の魔術を使っている以上必ず術の発動が必要になる。そして一つの術の発動でどの程度の未来が見えるのかにもよってくるが、一度行動したり回避したりすればその分予知が必要な術式もある。
相手の術式の発動数よりもこちらの術の手数が上回っていればいいのだ。相手が予知をするよりも早く、あるいは相手の予知の速度を超える速さで攻撃を仕掛ければいい。
逆に言えばこの二つができない場合予知の魔術に対して決定打を打てないという事にもなってしまう。
相手は常に自分の行動を先読みし、手の内でさえも読み取ってしまうかもしれないのだ。
情報戦において常に相手の方が優位に立つという状況は魔術師にとってかなりの痛手である。
相手の処理能力を下げるのに一番有効なのは不意打ちと奇策だ。康太たちが行う近接戦闘は普通の魔術師に対しては有効に働くのだろうが、目の前の魔術師に対してははっきり言ってあまり有効とは言えない。
だが手数を増やすという意味では近接戦闘に切り替えたほうが相手の意識を削ぐことができるだろう。
康太は一瞬だけ真理の方に視線を向ける。槍を強く握って腰を落とした体勢を見た真理が弟弟子がこれから何をしようとしているのか理解できないはずがなかった。
康太が槍を握りしめた状態でカツキチめがけて突進していた。
近接戦闘が不利なのは百も承知。だが相手の処理能力を少しでも下げるためにはこれが最適だと考えていた。
真理の広範囲攻撃は確かに相手に対して脅威になるかもしれないが、今自分たちがやるべきはこの男の足止め兼打倒なのだ。
自分を倒しに来ているという事を相手に強く認識させるためにも、そしてこの場に押しとどめるためにも近接戦闘がベストであると判断したのである。
相手の肉体強化のレベルからして魔術による広範囲攻撃も強引に突破される可能性があると踏んだのだ。
小百合の下へは行かせない。康太は強く思いながら身体能力強化を全開にして槍を振う。
周囲に炎が舞う中、カツキチは康太の振るう槍を簡単に躱して見せた。そして握っている廃材を康太めがけて思い切りたたきつけてくる。
決して遅くはない。むしろ速い。肉体強化をかけていなければ間違いなく痛烈な一撃を与えられていただろう。
だが小百合や奏の振るう一撃に比べれば遅い。
康太は日々の訓練によって小百合や奏から武器による戦闘は嫌というほど叩き込まれているのだ。今さら武器を持った大柄の男に対して後れをとるほど康太の訓練の密度は薄くない。
相手の攻撃を軽く回避しながら槍の連撃を相手の体めがけて襲い掛からせる。体、腕、足、顔。どこでもいいからとにかく攻撃をし続けた。
真理の炎に加えて康太の槍。手数だけで言えば相当なものだろう。相手の予知の処理能力を超えるのも時間の問題かもしれないが、相手がいつまでこの状態を維持してくれるかは疑問だった。
なにせ相手はまだ肉体強化の魔術しか自分たちに見せてはいないのだ。予知の魔術があるという事を差し引いても他の攻撃手段があると考えていいだろう。
だがその攻撃を見せる前に終わらせるのが康太と真理の狙いだった。
炎の乱舞と康太の槍に相手の動きが集中している瞬間、真理はほんのわずかに相手の足元を崩した。
ほんの一瞬、しかも僅かな変化だが、相手はそれを読み取り本来置くはずだった場所から足の位置を強引に変える。その結果ほんのわずかではあるが体勢が崩れた。
康太もそれを見逃さなかった。一度肉体強化の魔術を解除し、今まで振るってきた槍の斬撃や突きを一度に再現する。
自分の中で呪文を唱え、一斉に襲い掛からせる無数の斬撃。槍の範囲内にいてなおかつ僅かに体勢を崩しているカツキチは強引に距離をとることでしか回避はできなかった。
片足での強引な跳躍。体勢も何もあったものではないその回避を見逃すほど康太も真理も優しくはなかった。
康太は盾をカツキチに向けもっとも外側の装甲の一部を外す。
真理はすでに集中を終え魔術の発動動作に入っていた。
康太の盾からは無数の小型鉄球が発射され、カツキチの跳躍した先には炎を纏った巨大な竜巻が姿を現していた。
前方から鉄球、向かう先には炎の竜巻。仕留めることができるかはさておき相手に多大なダメージを与えることができるのは間違いない。
もっともそれは相手が何もしなければの話だが。
康太も真理も、この程度で相手を倒せるとは思っていなかった。だからこそ瞬時に次の戦闘態勢を整えていた。
康太は肉体強化をかけ、真理は次の攻撃魔術及び補助魔術の発動準備に入っていた。
そして康太と真理の予想通り、鉄球を体に受け炎の竜巻に包まれてなおカツキチは無事でいた。
無傷というわけにはいかなかったようだが、少なくとも康太が放った鉄球はどこにもダメージを与えていなかった。
変化していると言えばその両腕に僅かに光る気体のようなものがまとわりついていることくらいだろうか。
あれが一体どのようなものなのか康太は知らなかった。だがそれを知らせようと真理は周囲にあった廃材を念動力で動かし、その中でも尖っているものを相手に向けて投擲してみせた。
カツキチはそれを避けながら自らの腕でそれを叩き落としていく。先端がとがっているものもあったはずにもかかわらずその腕にはまったく傷らしい傷がない。
あの光るオーラのようなものが装甲にも似た効果を持っていると気づくのに時間はかからなかった。
今は腕だけに集中しているが、恐らくあれを体全体に覆う事で康太の鉄球を防ぎきったのだろう。
物理攻撃に対する装甲の役割をする魔術ととらえればいいだろうか。何とも厄介な魔術だと思いながら康太は槍を構える。
先程までのような刃を用いての相手への牽制はもうできそうにない。槍を掴まれた瞬間自分の近接戦闘における優位性、槍の射程距離という利点は失われる。
そうなったら終わりだ。
康太はやるべきことを考えながら意気込んで大きく息を吸う。
できるかどうかはわからないがやるしかない。連続攻撃による相手の予知の処理能力の限界は理解した。だがあの防御がある時点で範囲攻撃による打倒はほぼ難しくなった。
となれば連続攻撃を続けて相手を打倒するほかない。
難易度がさらに上がったがそれ以外に自分たちが取れる手段はないのだ。康太は歯を食いしばってカツキチへと向かっていった。
日曜日なので二回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




