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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十話「古き西のしきたり」

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強敵と弟子二人

「師匠、急いだ方がよさそうです。相手は私達と同じようにトラックか何かを持っている可能性があります。逃げる準備万端の状態かも知れません」


「移動手段があるとは思っていたが・・・まぁそんなところかもしれんな・・・逃げる方向からして私たちが来たのとは逆方向・・・近くか・・・それとも遠くか・・・どちらにせよ足止めだけはしておいて損はないかもしれないな」


真理と康太が追いつくと、小百合はそんなことを言いながら小さくため息を吐く。さっさと足止めをしてこいという事ではなく、自分もそろそろ動くべきなのかもしれないなという考えを持っているようだった。


小百合が相手にするべきはあくまで主犯であるミキクラだ。康太たちが相手をするべきは残ったカツキチだけ。両方を可能な限り早急に倒さなければならない。

可能ならカツキチをミキクラのそばから離れさせるべきだ。


「私達がカツキチを遠くへ移動させます。あとはお願いします」


「・・・わかった。そっちは任せる。私もそろそろ動きたかったところだ」


そう言って小百合はその手に持っていた竹刀袋から一本の日本刀を取り出して見せる。


刀剣の類は小百合が最も得意とする武器だ。それを取り出したという事は彼女もだいぶ本気になっているという事だろう。


「殺しちゃだめですよ?背後関係の洗い出しとかもしなきゃいけないんですから」


「それは私達のやるべき仕事ではない。私たちがやるべきはあくまでテルリと商品の回収だ。それ以外は土御門の連中に任せておけばいい」


この辺り、いや戦闘範囲外からこちらを観察しているであろう土御門や藤原の人間の方を僅かに見ながら小百合は眉を顰める。


組織の体面という事情を勝手に並べ立てて面倒事を自分たちに押し付ける。どちらかというと小百合たちが勝手に動いたのだが、それでも身内の問題を身内で解決しようとしない京都の魔術師に小百合は僅かにではあるが嫌悪感を抱いていた。


もしこの場に自分の師匠がいたら家ごとに説教して回っただろうなと思いながら視線の先にいる敵を見る。


「いくぞ、遅れるなよ」


小百合がそう言って走り出すと同時に康太と真理もそれに追従するように後を追った。自分達から逃げようとする魔術師二人が視界に入ると同時に真理が相手の進路をふさぐように土属性の魔術で道を塞ぐ。


追手が迫ってきているとわかると大柄の男、カツキチはこちらの方を振り向き迎撃態勢を、小柄な方の男は土の壁を何とかしようと魔術を発動しているようだった。


攻撃態勢に入っている小百合を見て近くで戦うのはまずいと判断したのか、カツキチは小百合に向かって突進し始める。


康太と同じように接近戦を得意とする魔術師らしい。情報通りだ。


予め相手がやることがわかっているのであれば取る手段は容易に予想できるし対処も簡単だ。


康太は小百合とカツキチの間に体を滑り込ませ、遠隔動作の魔術を使ってほんのわずかに進行方向をずらすと肉体強化を最大まで上げてその体を止めようとする。


だが元々の体格差のせいもあってか、完全に止め切ることはできない。実際に接近してわかったが、体のつくりが違いすぎる。


身長百九十センチはあるだろうか、小百合の兄弟子である幸彦よりも体格的には優れている。


重い体に大きな骨格。そしてそれを覆う堅牢な筋肉。康太のような身軽な攻撃ではなく重い一撃を得意とする重戦士であるという事は容易に想像できた。


康太が攻撃を止め切れないと判断すると、真理は補助のために相手の足元を崩しにかかり、同時に康太の足元の地面を固め相手の動きを止めやすいように隆起する。


それと同時に小百合の通るための足場を用意し先にいるミキクラの元へと小百合をいざなった。


「くそ・・・どけお前ら!邪魔すんな!」


「邪魔してんのはそっちだっての・・・!師匠の所に行けると思うなよ!?」


精一杯の虚勢のつもりで笑いながら声を張り上げるが、組み合って押し合いをしている状態で既に康太は気づいていた。


肉体強化では、そして肉弾戦では自分に勝ち目はないと。


力のかけ方、そして自分の体にかけられる地力、不安定な地盤であるというのに万全な地盤である自分にここまでの圧力をかけられるその技術。


肉弾戦だけなら幸彦と同等かもしれない、そう思えるほどの実力者であることは把握できた。


だがそれならわざわざ肉弾戦に付き合う必要もないなと、康太は体の中から黒い瘴気を噴出させる。


Dの慟哭を発動し相手の体から魔力を全力で奪い取ると、相手もこの黒い瘴気の効果を理解したのだろう、康太の体を浮かせて蹴りを放つと康太から距離をとろうとしていた。


そう、魔力を吸い取る魔術というのは距離が空くと発動できないという弱点がある場合が多い。康太のDの慟哭にはそれは当てはまらないが、魔力を吸い取るという行動をとれば相手が距離をとろうとするのは今までの戦闘で既に学んできている。


蹴りを受けた康太は防御しながら相手との距離を無理に詰めようとすることはなく、一定距離で牽制をしようとしていた。


その様子を見た真理は、近接戦闘を行える康太がわざわざ距離をとろうとしているという状況を見て相手がそれだけ肉弾戦に自信があるのだという事を理解し、近接戦ではなく中距離戦闘メインに切り替えた。


分が悪い戦いはしない。こちらは数で勝っているのだ、勝てる戦いをすればいいだけの話である。


まず真理は相手が康太と距離を作った時点で小百合の向かった先への移動手段を断つことにした。


巨大な土の壁を作り出して相手が合流できないようにすると同時に風の魔術を用いてその体を空中へと投げ出し今まで自分たちがいた方向、つまりは小百合たちの向かった方向とは逆方向へと吹き飛ばす。


この時点で真理は相手の魔術師の体の重さを理解し、何故康太があえて距離をとったのかを正確に理解した。


近接戦闘で勝ち目がない。


相手がもともと持っている身体能力と康太の身体能力を比べると明らかに康太の方が劣っている。


しかも相手は藤原の中でもかなり優秀な部類に入る魔術師。恐らく身体能力強化においても康太よりも優れているだろう。


近接戦闘の技術に関しては実際に組み付いた康太しかわからないが、少し組み付いて康太がすぐに距離をとろうとしたというところから察するに技術面でも康太よりも勝っていると考えていい。


接近戦は危険。


康太と真理が同じ考えにたどり着くのに時間はかからなかった。


相手の方も距離をとってくれたとはいえ、相手が得意としているのが近接戦闘である時点で必ず接近戦を挑んでくるだろう。


相手が距離をとったのは康太に魔力を奪われるのを嫌ってのことだ。康太の使うDの慟哭がある程度射程のある魔力吸収の能力を持っているとわかればそれこそ短期決戦に持ち込むだろう。


元より相手の本丸の方にすでに小百合が向かっているのだ。時間をかけることに関して相手に利は無い。


相手が全力を出す前に片付けておきたいところだった。


そしてこの考えは康太も真理も同じようで、互いに一瞬だけ視線を合わせると僅かにうなずいて合図をして見せる。


康太は槍を構え、同時に懐に手を入れるとお手玉を二つほど取り出した。


相手はいわば様子見状態。完全な戦闘状態に入っていない今のうちに戦闘不能にしておきたい。


康太は手に取ったお手玉を二つとも真理に投げ渡すと飛ばされていったカツキチの方へと走り、槍を構えた状態で一定の距離をとった。


一定の距離を保ちながら牽制します。だからそのお手玉は姉さんの好きなタイミングで放り投げてください。


そう言う意味をこの行動に込めたつもりだった。そして真理もその行動の意味をほぼ正確に理解していた。


一緒に行動して一緒に戦闘したことも多い。兄弟弟子だからこそ会話せずとも相手がやろうとしていることをある程度察することができる。


連携して相手を倒す。今この二人はそういう考えを持っているのだ。


カツキチの巨体が地面に着地すると同時に、康太は身体能力強化を体にかけ、臨戦態勢を整える。


本当なら再現の魔術を主体として射撃戦に持ち込みたいところだが、相手が身体能力強化をどの程度扱えるのかというのをまだ把握していない。保守的ではあるが身体能力強化を使ってある程度防御と反応速度を上げておく必要がある。


自分はあくまで囮であり牽制、止めは真理がやってくれる。相手の隙を作るのが自分の仕事だと康太は割り切っていた。


可能なら自分も相手に少しでもダメージを与えるべきだと思いながら康太が身構えていると、カツキチの巨体が揺らめいたと思った瞬間一気に距離をつめてくる。


当然康太もそれに反応した。


真っ直ぐに向かってくる巨体めがけて槍を振い、丁度胸元に直撃するように突きの攻撃を放つ。


相手が僅かに体を逸らし、槍を掴もうとするのを確認すると康太は体を反転させて突きの体勢から横薙の攻撃を繰り出す。


身体能力強化がかかった状態の康太の槍の速度は普段のそれとは比べ物にならないほどだった。


だが相手はそれすらも悠々と回避してみせる。


バックステップをすることで康太の槍の射程から逃れたカツキチは槍を構えた状態の康太の動きを観察しているようだった。


一見すればただの槍だ。康太自身が扱う技にも何ら変わりはない。何の変哲もないただの槍術。それがかえって相手の警戒心を呼び起こした。


今の攻撃、連続攻撃をかければ仕留めるとは言わずとも乱戦に持ち込めた。なのにわざわざ後退して様子を窺うという事はこちらに対してある程度警戒を高めてくれたという事だ。


身体能力強化をかけておいて正解だった。生身の状態だったらあの反応速度はできなかったかもしれない。


それだけ相手は速い。あの巨体であれだけの速度で動けるのだ。しかも反応速度も尋常ではない。槍の間合いではやや不安がある。一度懐に入られたら危険だ。


康太は意識を集中し、身体能力強化とは別の魔術を同時に発動しようとする。


苦手だとか失敗しそうだとか言っている場合ではない、相手は格上なのだ。多少不利な状況をひっくり返すには自分も無茶をしなければいけないことは最初から分かっていたことなのだ。


康太は意気込んで再現の魔術を発動した。


土曜日なので二回分投稿


活動報告を一件投稿しました。


これからもお楽しみいただければ幸いです

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