連携の重要性
康太は土属性の魔術を使う魔術師めがけてナイフの投擲をしながら距離をゼロにすると再現の魔術によって拳の乱打を、人形遣いの魔術師には槍の投擲を再現し体へと吸い込ませる。
そして相手が怯むと同時に土属性を扱う魔術師の体を足場にして人形を扱う魔術師の下へ跳躍、飛びかかるようにして腕を掴むと捻りあげ地面に、いや正確には足元にある水の中に強引に体重をかけながら頭をねじ込んだ。
康太の攻撃と同時に真理は動いていた。康太の攻撃によって怯み大きく体勢を崩した魔術師めがけて康太も使える遠隔動作の魔術によってその体を掴むと土属性の魔術によってその体を拘束し、巨大な土塊をぶつけることで完全に意識を喪失させる。
そして康太が水に頭を突っ込ませた魔術師に対しては水を強制的に相手の魔術師の体内へと送り込むことで窒息させる。
無論殺すつもりはないので意識を喪失させる程度で済ませたが、これでこの二人を完全に無力化することができた。
「ありがとうございます姉さん、助かりました」
「構いませんよ。ビーも相手に近づくのが上手くなりましたね」
康太の先ほどの動作に真理は少しではあるが感心していた。相手の魔術を確認し的確に隙を作ることができる対応をする。
康太が日々の訓練で学んでいるのは何も近接戦闘の訓練だけではない。むしろ近接戦闘に至るまでのプロセスの方が重要だと言えるだろう。
魔術師というのは基本的に遠距離戦を好む。射撃系や補助系、種類はいくつもあるがその魔術の中でも相手の接近を拒むタイプの魔術はいくつもある。
そう言った魔術をかいくぐり接近戦に持ち込むというのが康太の戦い方だ。
日々の訓練で小百合や真理相手に、時には文やエアリス相手にそう言った近接戦闘を挑んでいる康太は『相手に近づく』ということにとことん慣れているのだ。
先程の例で言えば、相手の人形の腕の魔術。これは自分の体の近くに近づけさせること自体が自分の体の自由を奪われかねないと判断し、近づかれる前に再現の魔術を用いて撃ちおとした。
二人の魔術師に対してほぼ同時に攻撃を仕掛けることで相手を怯ませることができたが、今回の場合真理のフォローがなければもっと手間取っていただろう。
康太だけで挑んだ場合、土属性の魔術を扱う魔術師が康太に対して攻撃を仕掛けていたらかなり手間取ったはずだ。
真理のフォローによって相手の魔術師の意識を康太から足元へと移したおかげで康太は十分以上に楽に戦うことができた。
そして康太の攻撃だけでは完全に仕留めきれていなかった相手への止め。後方でしっかりと状況を見ているからこそできる的確な支援魔術である。
「姉さんのフォローあっての事ですよ。じゃあ急ぎましょう!」
康太自身も今回の戦いで随分楽ができたのが真理のおかげであるという事を自覚している。
多対多の状況において互いにフォローし合える相手がいるというのは思っている以上に状況を優位にするのだ。
「えぇ、まだ相手にしなきゃいけないのがいますからね」
真理も康太の成長を喜びながらもまだ自分たちがやるべきことが残っているという事を自覚し集中を高める。
まだあと一人、恐らく今回の相手の中で最も苦戦するであろう相手が残っているのだ。
主犯格のうちの一人、実力だけで言えば今回の相手の中で一番強いと思われる相手。
今回小百合は主犯である藤原のミキクラを相手にするつもりだ。その間康太たちは近くにいる藤原のカツキチを相手にしなければならない。
小百合の後を追おうと真理が索敵用の魔術を発動して周囲を確認すると小百合の姿はすぐに確認することができた。
ここから数十メートルの位置。そしてそこからさらに数十メートル先の位置に二人の魔術師が走っているのがわかる。
「見つけました・・・二人は見つけましたけど・・・土御門テルリや他の魔術師は見当たりませんね・・・」
「・・・どこか別の場所に移動させたのかもしれませんね・・・あるいは最初からこの辺りにはいなかったとか?」
「奪った商品と人質を本陣ではないところに配置するというのはあまり適切とは言えませんよ・・・あるいは私達と同じようにトラックか何かを隠しているのかもしれませんね・・・そっちの方は調べていませんでした・・・」
今回小百合が康太たちが乗ってきた大型のトラックを用意したように、相手も同じようなトラックを用意していたのであれば話は早い。
二人の魔術師をトラックで待機させ、その荷台に商品と土御門テルリを配置しておけば一つ連絡を出せばすぐに逃げ出すことができる。
恐らくあの魔術師二名はトラックめがけて逃げているのであろう。
立ち向かおうとせずに逃げの一手を使うという事は確実な勝利以外はとらないタイプの相手だ。恐らく主力の二人が負けた時点で撤退することは決定していたのだろう。
引き際をわきまえている相手だと思いながら真理は内心舌打ちをする。
「そうなると急いだ方がよさそうですね・・・ビー、急ぎましょう。ついてこれますか?」
「頑張ります!」
真理が肉体強化の魔術を発動すると同時に康太も自らの体に肉体強化の魔術をかける。
康太の肉体強化の魔術は真理のそれに比べてまだ見劣りする部分が多いがそれでもついていくことくらいはできる。
早いところ小百合と合流してこの可能性を話し、早々に決着をつけなければ面倒なことになる。
追いつくこと自体は時間はかからず、康太と真理はすぐに小百合の背中を確認することができた。




