見える手の内
結果的に言えば二人の魔術師を倒すこと自体は苦労しなかった。
一人は武器を持った接近戦型、武器に炎を宿らせて戦うタイプの魔術師と、以前見たことのある氷の礫を飛ばしてくるタイプの魔術師だった。
単純な攻撃と援護射撃、しかも連携自体そこまでうまいというわけではなく、炎の武器を使う魔術師が接近戦を仕掛けてくるときに礫を射撃としてはなってくるために時折味方であるはずの魔術師にもその攻撃が当たっていたりと、はっきり言ってお世辞にも戦い方が上手いとは言えなかった。
相手の射撃を上手く近接戦の敵に当てながら避け、相手が怯んでいる隙に攻撃を当てる。
単調ではあるが一番楽な方法だったのは言うまでもない。
そして近接の敵を倒し終え、射撃の敵が距離をとりながら少し大きな魔術を発動しようとしたときに隠れていた真理が援護で小さな魔術を発動、牽制し集中を乱したところで康太が思い切り槍で殴りつけて戦闘不能にさせた。
それぞれの技量的にも今まで相手にしたことのある魔術師の中でだいぶ下の方に部類することがわかる。
恐らくこうして使い捨ての情報収集要員としてやってきている魔術師は本当に数合わせだけのための人員だったのだろう。
という事は逆に言えばあらかじめ情報を聞いていた五人と、藤原の二人に関してはそれなり以上の実力を有していると考えて間違いない。
「無様な戦い方だったな・・・あと残りの雑魚は五人か・・・次は四人体制で来るかもしれんな」
「え?俺は次は全員でかかってくると思ってたんですけど・・・」
残りの使い捨てできる戦力は五人。二人でダメなら三人で、と言いたいところだがそうするとその次の時点で雑魚ではなく主力を投入しなければ相手にならなくなってしまう。
その為様子見兼牽制はここで終わり、こちらを倒すべくそれなりに本気になって雑魚をこちらに向けてくると康太は思っていたのだ。
「相手がただ陣地を守っているだけならそれでもよかったんだがな、相手はテルリと商品を抱えている。恐らく手駒の内・・・雑魚が一人と主力一人がそのどちらか、あるいは両方の見張りについているはずだ」
「見張り?護衛とかじゃなくて?」
「前にも言ったが、あの人が本気になればこんな連中相手にもならん。何かしらの弱みを握られていると見て間違いない。主力と雑魚一人ずつがあの人と商品の見張りをしていると見て間違いないだろう」
「・・・あぁ、そう言う事か。一人はもし歯向かってきても盾にできるように。もう一人は何かあった時の連絡要員」
そう言う事だと小百合がため息を吐きながら近くで倒れてる魔術師二名を一瞥して歩みを進める。
土御門昭利が逆らわないという事は何かしらの理由があるのだろうが、万が一にも反逆する可能性がある以上見張りは必要だ。
この一団が土御門昭利とその商品を何に使うのかは知らないが相手がそれを保持しようとしている以上見張りは必須。
しかももし反撃されても痛手にならない人間が一人は必要だ。そしてもし反撃されても確実にその場を離脱できる人間が一人必要。
そうなってくると五人の主力のうち一人。そして残った雑魚の五人の内一人が見張りに立っている可能性が高い。もしかしたら雑魚をもう一人くらい増やしているかもしれないがそのあたりははっきり言って誤差の範囲内だ。
「そうなると、向こうの戦力は主犯二、主力四、雑魚四ってことになりますか」
「あくまで予想だがな。次の戦闘で四人を送り込んで来たらまず間違いないだろう」
小百合の予想は本人も言っているようにあくまで現状自分が相手ならどのような手段をとるかという考えのもとに成り立っている。相手が小百合と同じ行動をとるかはわからない以上可能性があるというレベルの話だ。
だがその予想は割と理路整然としている。わかりやすいというか状況を理解する中で最も的確な考えであるように思える。
小百合もこういう考え方ができるのだなと思っている中、康太と真理はどうしたものかと悩み始めていた。
「どうしましょうか姉さん・・・さっきの二人まではまだ俺のグダグダ演技でやってきましたけど・・・四人同時となると・・・」
「そうですね・・・さすがに私も積極的にフォローしないとまずいかもしれません。可能なら主力を一人ずつ倒せるまでは演技を続けたいのですが・・・」
今回康太たちが弱い演技をしているのは問題となる主力級の魔術師五人を楽に倒すことが目的だ。
雑魚で本当の実力を晒してしまえば当然主力級も全力で連携して襲ってくるだろう。そうなると非常に厄介だからこそ弱い演技をして相手を油断させようとしているのだ。
油断すれば相手は主力級を康太と真理一人ずつに割り当てる形で派兵するかもしれない。そうなれば康太と真理の思惑通りだ。
主力級五人の内まず二人を康太と真理で一人ずつ倒す。そうすると残りの主力級は三人。
小百合の予想が当たっているのであれば戦闘に参加できる主力級は二人。仮に二人が連携して襲い掛かってきても康太と真理も連携して対処すればいいだけの話だ。
その場しのぎで引き入れられた魔術師二人と普段からして一緒にいる兄弟弟子。どちらが連携がうまいかなど考えるまでもない。
ここまで行けばはっきり言って康太たちの考える上では、ほぼ勝負は決まったも同然だった。
だからこそそこまでの行程で少々苦労しているわけだが。
「少しだけ、本当に少しだけ俺の手の内を見せます。もしかしたら俺のほうだけばれるかもしれませんけど、そうなったらフォローお願いします」
「・・・わかりました。複数戦闘の場合は一気に終わらせた方がぼろも出ませんからね。そのあたりはお任せします」
「あと一つ聞きたいんですけど、遠視の魔術ってこれ見えるんですかね?」
康太はそう言いながら手でお椀のような形を作り、その手を真理に近づけて黒い瘴気を噴出させる。
どの角度からも恐らく真理の目にしか黒い瘴気は見えなかっただろう。相手に手の内を晒すのであればそのあたりは重要だ。
黒い瘴気はあくまで魔術師としての視覚を有しているものでしか視認することはできない。つまり監視カメラなどには映らないのだ。
今回相手が見ている遠視の魔術がどのようなものであるのかを康太は正確に把握していない。
ただ単に視覚の延長なのか、監視カメラのようなもので疑似的に見ているのか分からないのだ。
もし前者ならこの黒い瘴気も見えるだろう。だが後者ならこの黒い瘴気は見えないということになる。
「どうでしょうか・・・正直わからないというのが結論です。遠視の魔術にも種類がありますから場合によっては見ることも可能でしょうし、逆に見えない場合もあります」
「んー・・・どうするかな・・・複数戦ならこいつを使いたいけど・・・もし見えるなら誤魔化しもできそうだし・・・見えてないんじゃ余計に手の内明かしそうだし・・・」
もしこの黒い瘴気が見えたとしても、この瘴気の本当の力を見ることはできない。ただの煙幕代わりとして見ることができたのなら、他の魔術を使って一瞬本気を出すことも考えたのだが、もし遠視の魔術で見えなかった場合は康太が手を抜いていたことがばれる可能性もある。
康太だけならまだしも、演技をしていることがばれたら真理や小百合も弱い振りをしているという事がばれかねない。それはあまり良い状況とは言えなかった。
「・・・仕方ない。ちょっと面倒だけど安全な方をとりましょう。一応姉さんと師匠は物陰に隠れていてください。巻き込まれないように」
「わかりました。ビーはどうしますか?」
「俺は何とかします。新装備使えばある程度は防げますし、ちょっとボロボロになるかもですけど」
三人が進みながらそんなことを話しているとまるで話が終わるタイミングを見計らったかのように魔術師がこちらに向かってきているのがわかる。
複数人の足音と敵意はそれなりに分散しているようだった。数を確認しようとするがそれよりも早く向こうから魔術が放たれる。
さすがに三人もやられたことで相手もだいぶ警戒しているようだ。もっともそれでも当たる気がしないレベルの射撃攻撃だ。
攻撃自体は炎の球をぶつけて来ただけ。いや投げつけて来ただけというべきか。一番射程の長い攻撃でまずは足を止めようとしたのだろう。足音がまだ若干遠いためこちらの攻撃はまだ満足に命中しそうもない。
もちろんそれは相手も同じことだが。
「二人とも下がって。隠れててください!」
康太は二人に声高にそう指示すると前方から迫る魔術師の数を確認しようとしていた。
二人、三人、いや足音から察するに四人いるようだ。恐らく小百合の予想は的中したと考えるべきだろう。
相手の数は判明したが問題はどれくらいの距離を維持してくるかという事だ。相手は今までの康太の戦闘内容を知っていると見て間違いない。
しかも先程から足音は一定距離から近づいてくる気配がない。つまり康太が接近戦がメインの魔術師であるという事を察し射撃戦で制圧しようとして来ているのだ。
選択自体は間違ってはいないし効果的な立ち回りであることは否定しないのだが、周りに木々がある中で射撃を通そうとなるとかなりの命中精度が必要になる。
前方はまだ建物に続いているために道があるが、その両脇は木々に囲まれている。康太の左右斜め前のあたりに二人ずつ隠れているようで、先程から魔術を放ってはいるが、そのほとんどが木々によって阻害されてしまっている。
とはいえこちらに飛んできている攻撃があるのも確かだ。どうしたものかと悩んでから康太は一気に終わらせた方がいいなと小さく息を吐いた後で体から黒い瘴気を噴出させる。
その黒い瘴気は周囲を満たしていき、夜の暗闇を一層暗くさせていく。一メートル先も見えないような黒い瘴気の渦で周囲が満たされたことで相手はだいぶ動揺しているようだった。
まだこの段階ではただの煙幕代わりだ。相手の魔術師の位置を正確に把握すれば相手から魔力を奪うこともできるのだろうが今回はそれはしない。
もし相手から魔力を奪ってこの場から離脱されたら重要な手の内がばれてしまう。
だから康太はただの煙幕としてDの慟哭を使用し、その煙幕に紛れて攻撃をするつもりだった。
懐からお手玉を二つ、それぞれ足音のした方向に投擲し遠隔動作で多少位置の調整をするとお手玉の中に含まれた鉄球を炸裂させる。
周囲に鉄球がばら撒かれ、術者である康太自身にもその鉄球が襲い掛かるが、康太は外套を深くかぶり盾を使って体全身を守っていた。
外套に蓄積の魔術を使う事で一時的な防御は可能だ。周囲の木々や地面にはだいぶ鉄球がめり込んでおり、かなりの被害をまき散らしている。
攻撃から数十秒、相手からの反撃は一切ない。木々のせいで鉄球が防がれあまり高い殺傷能力は得られなかっただろうが相手を無力化することはできたようだ。
ぼろが出る前にこのまま前進したほうがいいだろう。
日曜日なので二回分投稿
ちょっと予約投稿します。反応が遅れるかもしれませんがどうかご容赦ください
これからもお楽しみいただければ幸いです
 




