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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十話「古き西のしきたり」

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戦う方法と演技

晴と明を途中の道で降ろすと、小百合はそのまま今回の問題の相手がいる場所へと向かっていた。


真理はバイクに乗ったまま、康太と小百合はトラックである程度近づいたらトラックをおいて徒歩で近づいていた。


「さて・・・どう出るかな」


「どう出るって・・・師匠はとりあえず突っ込むつもりなんでしょ?」


「お前の私に対する認識はよくわかった。まぁその通りだが問題は相手の出方だ」


「あぁ・・・まずは索敵して様子見含めてこっちに数名派兵ってところじゃないですか?」


相手の方が人数で勝っている場合の対処の方法はいくつかあるが、一番多いのが本丸に主戦力を残して数名を斥候として派兵することである。


相手の戦力を確認するため、そして今回のような場合であれば相手の目的も確認するために必要なことだ。


特に康太たちは京都に入って日が浅い。もしかしたらあの時土御門昭利の家に向かった際に既に存在を認知されている可能性があるが、僅か三人でやってきたという事もあって相手は多少油断している可能性が高い。


相手の数はこちらの五倍近く、油断するのも無理のない話だろう。


「ビー、お前ならどうする?」


「俺なら全員総出で潰したいところですけど、相手の戦力も相性も分かってない状況でそれはできないですね。なので手ごろな捨て駒がいるならそれを使います。もちろん観測している状態で」


捨て駒。要するに主戦闘では役には立たないが斥候、そして情報収集役としては役に立つ文字通りやられることが仕事の人間だ。


今回相手は有名どころの魔術師もいれば名前すら通っていない雑魚というべき魔術師もいるのだという。


康太が相手の立場であればそう言った連中を先駆けにしてこちらの出方と手札を窺おうとするだろう。


そしてどうやら小百合も同意見のようだった。


「正しい判断だ。私が同じ立場でもそうしただろうな。ではもう一つ質問だ。そう言う風にやってきた魔術師に対してお前ならどう対応する?」


「・・・そうですね・・・一番簡単な対応は瞬殺することでしょうけど、まだ相手の方が戦力も人員も多いのなら、やりようはあります」


「私の出番はあるか?」


「必要ありません。ちょっと手間がかかるってだけですよ・・・あぁ、姉さんに師匠の守りを任せるとだけお願いします。あと可能なら怖がっていてくださいとだけ伝えておいてくれますか?」


「・・・妙なお願いだな・・・わかった、伝えよう」


康太は槍を取り出し、魔術師装束を身にまとうと自らの装備の変化を確認しながら小さく意気込む。


思えば新しい装備になって初めてまともに戦うことになる。


新装備『ブライトビーの外套』『竹箒改』『ハニカムの小盾』


この三つの装備は訓練でもまだほとんど使っていないのだ。盾に関してはそこまで気にすることはないが、槍に関しては若干形状と重量が変化している。そのあたりは気を付けて使ったほうがいいかもしれない。


そう言う意味でも、今回の相手は丁度いいかもしれなかった。


そして康太と小百合の読み通り、こちらに近づいてくる魔術師が一名。索敵用の魔術を修得していない康太でもわかるほど雑な接近の仕方をしてきている。


物音を立て、大きな動きをしながらこちらにやってきている。こちらの様子を窺おうと隠れているつもりなのだろうが、暗闇の中でうごめいていたその姿はこちらからでもよく確認できた。


康太は一応解析の魔術を使って相手の装備を確認しようとする。


右目だけを開けて片手で筒を作るとその魔術師だけを視界に収め、その身に着けている物体を解析し始める。


一般的な魔術師の外套と、能面にも似た仮面。そしてその手にはナイフと棍棒のようなものが握られている。


武器を使うタイプの魔術師であるというのは理解できた。それが実力不足からくるものか、それとも単にそう言った攻撃を得意とするのかは判別できない。


そして魔術師が康太たちの近くに接近してきたのと同時に、以前感じたのと同じような視線を康太たちは感じ取ることができていた。


見られている。


京都に来たばかりの時に感じた視線と似ている。恐らく同種の魔術を使っているのだろう。それなら話が早いしやるべきことも見いだせる。


康太は近くにいる魔術師に気付いていない振りをしながらゆっくりと前へと進む。そして数メートル後ろにいる小百合たちの方を気遣いながら徐々にではあるが距離をとり、わざと近くにいる魔術師に隙を見せるような動作をしていた。


その隙だらけの行動を見て康太がやろうとしている事を察したのか、バイクを止めて合流してきた真理に耳打ちをして演技を始めさせる。


見られている以上こちらの手の内は明かしたくない。周囲は暗く、幸いにして遠視の魔術でもそう簡単に詳細な戦闘を見ることはできないだろう。


ここに文がいれば光属性の魔術で周囲をさらに暗くし遠視の魔術を阻害することもできたのだろうが、ないものねだりをするのはナンセンスだ。この場にいる戦力で何とかするしかない。


康太が一歩、また一歩と進み完全に魔術師に隙を見せると、焦ったのか、それとも仕留められると思ったのか魔術師は棍棒をおおきく振りかぶり康太めがけて叩き付けてきた。


「ビー!」


「うわ!?」


小百合が叫ぶと同時に康太はわざと大きく回避運動をとりギリギリのところで攻撃を回避した。


まるで小百合が叫ぶまで全く反応ができていなかったかのように。


体さばきは素人のそれを模倣し、まるで小百合と出会ったばかりの頃のような動きをしながら康太は槍を構えて襲い掛かってきた魔術師と一旦距離をとっていた。


リーチは自分の方が勝っていても、その槍を持つ手は若干ではあるが震えさせている。


実戦経験が少ないように見せかけているのだ。


相手に確認されている以上、自分の手の内をすべて明かせば数の暴力で一方的にたたかれる可能性がある。


後にいる小百合と真理は木の陰に隠れさせ、戦力にならないかのような行動をとらせている。


一番弱く、なおかつ手札の少ない康太が真っ先に相手に認知され、なおかつ戦力になっていると思わせることが重要なのだ。


そしてここからが一番の肝である。


康太は今まで習ったような槍術ではなく、無茶苦茶に槍を振り回し相手への攻撃、というより牽制を行う。


どうやら相手も武器を使って実際に戦闘する機会は少なかったようで、ナイフや棍棒で槍を防ぐのではなく大げさな回避運動をとって康太の攻撃を回避していた。


どうやら康太と小百合の予想は完璧に的中したらしい。相手に確実に見られている状況でまず間違いなく使い捨てと思われる魔術師がやってきた。


しかも周りに他の魔術師の気配がないことを考えるに単騎での攻撃。


相手もそれだけ慎重になっているという事だろうが康太たちからすれば好都合だった。


そこから先ははっきり言って泥仕合のようなものだった。攻撃して回避して、時に足場の悪さで転ぶ振りをして隙を作り、ギリギリのところで相手の体を思い切り殴り、無茶苦茶な動きで武器を取り上げて馬乗りになって気絶するまで殴りつける。


チンピラの喧嘩でももう少しまともな戦い方をするだろう。というか相手の魔術師がほとんど魔術を使ってこなかったように思えたのが意外だった。もしかしたら戦闘用の魔術を保有していなかったのかもわからない。


「お疲れ様です。見事な泥仕合でしたね」


「無駄に疲れましたよ・・・でもこれで相手も少しは油断してくれたかな・・・?」


康太の目的は相手を油断させること。下っ端の下っ端、使い捨てにされるような魔術師相手に苦戦しているような相手ならば本丸が動く必要はないと思わせる事こそ康太の考えている作戦だった。


実際相手が全員こちらにやってきて戦闘したほうが物事としては早く進むのかもしれないが、相手の中に実力者がいるのがわかっているのであれば可能な限り各個撃破という形に持ち込みたい。


その為には相手に実力者が出る必要性を感じさせなければいいのだ。下っ端数人でかかれば倒すことができるような相手であると認識させることで、本命の戦力を残すことができる。


先に雑魚を片付け、実力者たち相手には全力でかかり一人ひとり戦力を削いでいく。


ただでさえこちらは割ける戦力が少ないのだ。策を弄して相手をからめとるくらいの事はしないと面倒になるだけである。


「今の戦闘が全力ではないことは相手も察している可能性があるが・・・次の出方はどうかな?」


「たぶんもう一人じゃ送ってきませんね。二人、あるいは三人くらいでかかってくると思います。そうなったら姉さんに少しだけ手伝ってもらうかもしれません」


「構いませんが・・・弱弱しい振りをしていた方が良いのでは?」


「そうなんですけど、危なくなったら弱い魔術で援護してくれればいいです。そうしたら俺が何とかします」


「難儀なものだな・・・弱い演技をしなければならないとは・・・」


「仕方ありませんよ。相手の戦力を削るにはこれが一番楽な戦い方です。相手だってバカじゃないだろうから途中で気づかれると思いますけど」


まだ視線はこちらに向けられ続けている。これから先本丸に到着するまでずっと続くだろうがそれでいいのだ。


康太たちは弱く、ギリギリのところで相手に対して勝利し、少しずつ化けの皮をはがしていくという作業だ。


途中で相手もこちらの戦力を正確に判断できるようになるかもしれないがその頃にはすでに相手の喉元に迫っていればいいだけの話である。


そうこう話しながら前進していると康太たちの近くに少しずつ誰か近づいてきている気配がする。こちらに敵意を向けていることからそれが敵性勢力であるというのがわかるがその数は二人のようだった。


二人を同時に相手にしながら弱い振りをしてギリギリで倒すというのは何とも難しい。


そしておそらくだが先程よりも魔術の腕が立つだろう。恐らく戦闘用の魔術をいくつか所有していると見ていい。


そうなってくると先程のような動きでは本当にやられかねない。


本当に面倒だなと今さらではあるが思いながら康太は槍を構えながらさらに前進する。

やられる演技、攻撃する演技、何より弱弱しい演技。


視覚的な情報だけとはいえ動きだけでそれを見せなければいけないのだから苦労する。


左右から二人の魔術師が康太の前に現れた瞬間、康太は眉間にしわを寄せながらため息を吐く。


露払いも楽ではないなと内心舌打ちをしながら。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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