対バイク戦
自分より後方にいるバイクは今二台。一台はすでに分解によって撃退することができたためにあとは残ったバイクの対処だけだ。
常に動き続けるトラックとバイクを見て康太はひとつ思いつき、自分の体から黒い瘴気を噴出させる。
Dの慟哭。
現在において康太しか使うことのできないこの魔術は、黒い瘴気を発生させその瘴気を相手の体内に宿らせることで相手から魔力を奪ったり、自らの魔力を相手の生命力に変えて注ぎ込むこともできる。
当然今は相手から魔力を奪うつもりだったが、この魔術の欠点は瘴気の移動速度があまり高くないという点にある。
広く展開することはできても、槍やナイフの投擲には程遠い。走る速度より少し速い程度の速度でしか進めることができない。
だが今こうしてトラックそのものが走っている現状を利用すれば速度に関してはそれほど問題にはならない。
しかもこちらの方が前をとっているのだ。康太は黒い瘴気を広範囲に、道全てを覆うように展開すると小百合に通話を開始する。
『なんだ?』
「師匠、後方に目くらましを張りました。俺が合図したら本当に少しだけ減速してくれますか?」
『わかった。しっかり掴まっていろよ?』
目くらまし。この黒い瘴気は魔術師にしか見ることはできない。正確に言えば魔術師としての視覚を保有している人間しか見ることはできない。
逆に言えば魔術師としての視覚を保有している人間には見えてしまうのだ。普通の人間相手なら何も問題なくこちらを見ることができるかもしれないが、相手が魔術師ならばこの黒い瘴気は目くらましとして作用する。
しかも今は夜中だ。これが暗闇のせいなのかそれとも相手が速度を上げて離れてきているのか、それとも煙幕を使って追跡をまこうとしているのか相手からすれば判断できないだろう。
だからこそ、相手から離されまいと加速する。そして康太の思惑は見事に的中していた。
解析の魔術で相手の位置を確認すると、後方にいた荷台のバイクはこちらに近づいてきている。ゆっくりと、だが確実にこちらに近づいてきている。
そしてようやくDの慟哭の射程距離に入ると康太はその二人にしっかりと黒い瘴気を侵入させ体内にある魔力を吸い取り始める。
「師匠、減速してください」
『わかった、少し速度を下げる』
恐らくはアクセルの踏みを甘くしたのだろう。若干ではあるが速度が落ちると先程まで加速してきていたバイクとトラックは一気に距離をつめていく。
相手は魔力が吸い取られ始めたという事で若干動揺し始めている。そして自らの周りにある黒い瘴気で視界は最悪。
康太は右目で解析の魔術を発動しながら集中を高め、分解の魔術を発動する。
距離も近くなり、ようやくまともな分解の精度が得られたのか、タイヤ、ハンドル、そして胴体部分の部品が一気に分解され運転手は地面に投げ出される。
死んではいないだろうがあの状態では追うことはできないだろう。
味方がいなくなったことを察してか、もう一台のバイクはこれ以上の追跡は不可能だと判断し急に減速し始める。
良い判断だなと思いながら康太は真理の向かっていた右側の方に視線を向けるとどうやらあちらも終わったようで真理のバイクがこちらにやってきているのがわかった。
「お疲れ様でした姉さん!かっこよかったですよ!」
康太がそう言うと、真理は片手だけ挙げて親指を立てて見せる。
あのような戦いをいつか自分もしたいものだと思いながら、康太は再びトラックの助手席に乗り込む。
「終わりました。さすが姉さんですね、あの数を一人で終わらせちゃいましたよ」
「お前が覚えているような魔術をあいつも覚えているからな。壊すことに関してはあいつも十分以上の実力を持っている。特にこういう場ではやりやすいだろうな」
相手がどのような目的をもってこちらに接触してきたのかは不明だが、康太も真理も敵対行動をしてきた相手には基本的に容赦しない。
相手がもしバイクから落下して大怪我をしたとしてもそんなものは自己責任だと思っている。
こちらを攻撃しようとしたのだ、攻撃されても文句は言えないのだ。
そう言う遠慮のなさというか、躊躇いのなさこそが小百合をはじめとする康太と真理の強みでもある。
どんな相手でも躊躇はできない。躊躇えばそれだけ危険な目にあうという事を身にしみて理解しているのだ。
「さて・・・妙な連中に絡まれたが・・・とりあえず少し速度を上げるぞ。真理もついてきているようだしこのまま移動する」
「オッケーです。あとは本丸に突入ですか・・・トラックで突っ込むとかはしないでくださいね?」
「さすがにそんな真似はしない。帰りにも使うんだ。このトラックは傷つけるわけにはいかん」
途中であの二人も降ろしておかないとなと言いながら小百合はハンドルを握りながら先程までの鋭い視線をわずかに緩める。
戦闘状態が終わったからなのか、あの二人の事を考えているのかは知らないが、珍しいこともあるものだと康太は少しだけ意外そうにしていた。




