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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十話「古き西のしきたり」

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取り戻しに

アカヒソラソラから相手の拠点などの情報を受け取った康太たちはとりあえずホテルに戻って戦闘の準備をすることにした。


場所も戦力もすでに分かっている。あとは実際に攻め込むだけなのだがここで問題が一つ発生していた。


「それで・・・お前達はいつまでついてくるつもりだ?」


「もちろんおじさんを助け出すまで!」


「おばさんに止めるように言われてしまってるので・・・」


そう、問題というのは土御門の天才児双子である晴と明の事である。


今回の件に土御門が介入するとなれば家の関係で面倒なことになる。当然それを理由にして藤原などの介入が考えられるだけにこの二人は正直置いていきたいのだが、本人たちはどうやらついてくる気満々のようだった。


「どうします師匠・・・相手の数的にこの二人を連れてくのはさすがに・・・」


「・・・とはいっても家の人間に伝えるのもな・・・」


「いっそのこと縛ってこの部屋に置いておきますか?その方が確実ですよ?」


「中学生をホテルに監禁・・・次の日の新聞に載りそうな内容だが、まぁそれが一番手っ取り早いか」


確かにその状況だけを見れば中学生二人をホテルに縛りつけるという明らかに犯罪の匂いしかしない状況だが、これ以上事態をややこしくしないためにも二人にはこの場に残ってもらう方がありがたいのだ。


もっとも二人が素直にこちらのいう事を聞くような人種ではないのは康太たちも分かっているだけに性質が悪い。


「というわけでお前達を縛って拘束しようと思うが、抵抗するなよ?」


「アホか!そんなこと堂々と言われて抵抗せん方がおかしいわ!俺らは何されてもついてくで!」


「おじさんを放っておくなんてできません。お願いです」


二人がどの程度魔術師としての実力があるのかはさておき、問題なのはこれから向かう場所に土御門がいるという点なのだ。ぶっちゃけこの二人が小百合以上の実力の持ち主だろうと一緒に来るのは遠慮してほしいところである。


これ以上家同士の関係をこじらせないために全く無関係な小百合が商売の邪魔をされたという体で粛清に行くのだ。そこに土御門の家の人間が出張ってきてはそれはそれで面倒な話になる。


後の責任問題の話にまで発展しかねないのだが、どうやらそう言った事情よりもこの中学生の双子は自分たちの手で昭利を助けたいという気持ちの方が勝っているようだった。


子供というのは非常に厄介なものである。子供と言っても康太と一つしか違わないはずなのだが。


「師匠、この二人も一応魔術師ですし、物理的な拘束だと逃げられてしまうかもしれません。いっそのこと連れていったほうがいいのでは?」


「連れて行ってどうする?こいつらは状況的に邪魔になるだけだ。戦力になるならないじゃなくいるだけで邪魔だ」


「まぁそうですけど・・・遠くの建物で見張って逃げようとする奴がいたら逐一報告とか・・・そう言うのってどうですかね?」


実際に今回相手が拠点にしている建物に侵入するのではなく、その周りをあくまで観察するという体ならば一応問題はない。


恐らく同じように土御門、藤原両家の人間が誰かしら哨戒に出ていることだろう。状況を正しく把握するためには外と内の両方から物を観察する必要がある。


外から眺めているだけならば一応この件に干渉しているとはいいがたい。となれば家同士の敵対行動には引っかからないし、もしかしたら土御門の家から派遣された斥候役の人間に回収されるかもしれない。


自分達の近くではなく遠くにいる分なら小百合たちにはむしろ得しかない。


「二人はどうだ?周囲の索敵・・・っていうかその場から逃げようとする奴を見張るっていうのは?たぶん師匠としてはこれが最大限の譲歩だと思うけど」


「・・・ちなみに断ったら?」


「・・・動けなくされると思うぞ?捕縛かボコボコかはわからないけど」


縛って動けなくするか、ただ単に動けなくなるまで殴るのか、それは康太にも真理にもわからない。


しいて言えば小百合の好みと気分の問題だろう。状況的に考えて前者の方が可能性は高いが、小百合の昔からの知り合いという事もあって後者の可能性も捨てきれない。


さすがに中学生を行動不能になるまで痛めつけるというのは心が痛む。康太としても真理としても二人に精一杯の譲歩をしたことで何とかこの辺りで納得してくれないかと祈るばかりだった。


「・・・ん・・・わかった・・・でもあんたらでどうにもならんと思ったら俺らはすぐに駆けつけるで」


「その必要はないだろうが好きにしろ。そのあたりはお前達の自由意志だ。お前達ももういっぱしの魔術師なのだろう?自分で考えて自分で行動しろ。だが私の邪魔だけはするな。いいな?」


邪魔をしたらどうなるかわかっているだろうなと殺意さえ込めた瞳で二人を睨むと双子はほぼ同時に何度も頷いていた。


小百合がどういう人物であるのかを思い出したのかそれとも先程までのやり取りで理解したのか、どちらにせよ素直になってくれて何よりである。


「師匠昔からの知り合いなんでしょ?もう少し優しくしてあげたらどうです?」


「阿呆が、優しさというのは甘さとは違うぞ。状況判断もできんようでは足手まといのままだ。少しは今回の件で学習してくれるといいんだがな」


指導において重要なのは甘さではなく適度な厳しさだ。小百合の場合厳しすぎるきらいがあるがそれもまた彼女の優しさなのだと康太と真理は思い込むことにする。


そう思わなければやっていられないのは言うまでもないことである。


「さて・・・それじゃあ荷物を受け取りに行くか」


康太と真理、そして双子二人を乗せたトラックで走り出すと同時に小百合はため息を吐きながら何やら眉間にしわを寄せている。


今回向かうのは郊外にある建物なのだが、その建物はほぼ廃屋状態であまり状態も良いとも言えない。


しかもそのあたりは昔倉庫群だった場所もあるらしくいくつかの建物が集合している。


老朽化や立地の悪さから廃れてしまったがそれでも人が雨風をしのぐには十分すぎる場所だと言えるだろう。


そんな場所にわざわざ行かなければいけないというのは小百合たちにとっては大きな手間だった。


「そう言えばビー、お前確か装備を新しくしたらしいが、実戦では初使用か?」


「はい。使うのが楽しみでもあり怖くもありますけど・・・まぁそのあたりは何とかしようかと・・・」


「ふむ・・・あまり意識して使おうとしない方がいいぞ。飽くまでいつも通りの戦いをしろ。使える時には使う、意図的に使おうとすると逆に非効率になる」


「あー・・・部位破壊狙おうとすると手数が少なくなるみたいなもんですかね」


「なぜゲームに例える・・・まぁ言いたいことはわかるが・・・とにかくそう言う事だ」


実際新しい装備を手に入れて、その装備を使おうと躍起になると今までできていた動きができなくなったり大きな隙ができたりといろいろと危険なのである。


特に今回康太が作ってもらった槍と盾は普段康太が使わない動きをしないと発動できないところがある。


そうなってくると普段しない動きのせいで無駄に隙を作ってしまう事もあるだろう。


訓練でもその時間の少なさのせいであまり使えなかったのに実戦で初の使用というあたりなかなか無理がある。


もちろん今さら練習するなんて余裕があるわけもなく、このまま突撃するしか方法はないのだが。


そんなことを考えながら移動していると徐々に窓の外の風景が灰色と街灯の多い街中から緑と暗闇の多い郊外へと移りつつある。


そしてしばらくしてから小百合は眉間に寄せたしわをさらにいっそう強くしながら舌打ちをする。


「・・・ったく・・・どうやら囲まれたな」


「え?誰に?ていうか敵ですか?」


周囲を見てもそれらしい影は見えない。というか暗すぎて周囲の様子を確かに確認できないと言ったほうが正しいだろうか。


「索敵された。しかもこっちを何人かが見ているな。周りにそれらしいバイクがいくつか並走してきている」


「近くにそんなの居ますか?ていうかなんで俺たちを?」


「ただ単にトラックの中のものが狙いか・・・あるいは私たちが今回のことを解決しようとしているのが気に食わない連中がいるのかもな」


「・・・ってことは他の家の人間ってことですか?加茂の連中?」


「可能性はある・・・全く面倒な」


今回の面倒事は土御門と藤原の家が中心になって起こっているが、もちろん他の家だって多少なりとも思うところがあるのだろう。


このまま土御門と藤原の家が正面衝突してくれればそれなりに被害が出て戦力が減ることになる。


にらみを利かせている他の家からすれば小百合たちを邪魔して何とか二つの家を衝突させたいと考える輩もいるだろう。


今回小百合が土御門から正式に依頼を受けていれば土御門の家が守ってくれることもあったかもしれないが、両家の摩擦を減らすために小百合が勝手にやるという体で動いているのが仇になった。


このまま攻撃されるのは非常にまずい。唯一の足を奪われるのは小百合としても避けたいところだった。


「仕方ない・・・ジョア、聞こえているな?辺りにたむろしている連中を掃除しろ。ついでに先行しても構わん」


携帯を取り出してすぐにトラックの荷台部分にいる真理に連絡をつけるが走っているトラックから一体何ができるのだろうかと康太が訝しんでいると、閉まっていたはずのトラックの扉がゆっくりと開いているのがバックミラーから確認できた。


もしかして荷台部分からトラックの上に飛び移るのだろうかと不安そうに後ろの方を見ていると、真理は康太の予想を裏切る動きをして見せた。


トラックの中にいても分かる音、それが何かのエンジン音であると気づくのに時間は必要なかった。


バイクの空ぶかしとでも言えばいいのか、これから動き出そうとしている機械の動きなのは間違いなかった。


「あの・・・師匠、姉さん何しようとしてるんです?」


「なにって、バイクに乗って周りの連中を蹴散らすんだろう?」


「今このトラック走ってるんですよ!?危ないですよ」


「なにを言っている、バイクだって同じくらいの速度で走れるんだから問題ないだろう」


この発言を聞いて康太は本格的に「ダメだこの人」と思ってしまった。走っているトラックからバイクで走りながら降りるなんてことをすればどうなるか運転経験のない康太だって想像できる。


映画じゃないんだからそんなことをすれば事故になりかねない。だが康太のそんな心配をよそに真理はトラックから颯爽とバイクに乗って飛び降り若干体勢を乱したもののすぐに立ちなおしてトラックに並走するように運転を始めた。


「うわぁ・・・かっこいい・・・!何だあれ!あぁいうのやってみたいな・・・!」


実際あの運転は真理の実力だけではなく魔術的な補佐もあっての事だろうが、それにしてもあのようなアクロバティックな動きができるというのは男子にとっては憧れがある。


真理がバイクに乗っている姿というのは初めて見たが、あのように軽快に走っているところを見ると一層バイクに乗ってみたくなる。


「周りの連中はあいつに任せるとして・・・ビー、お前は近づいてきた連中に対処しろ」


「対処しろっていったって、ここから見える奴しかできませんよ?」


「そんなもの上に行けばいいだろうが。安全運転していてやるからさっさといけ」


「何て言い草・・・師匠本当に免許持ってるんですか?」


走っているトラックの上に乗れなんて免許を持っている人間の言いぐさとは思えない。


だが周囲に迫ってきているバイクなどの群れを対処するには真理だけでは人手が足りない。


守りを固めるには康太もトラックの近くで対処しなければならない。そう考えると上部に位置するというのは悪い手ではないのだが、走っている車の上に乗るというのは康太も初めての経験だった。


「あんまり揺らさないでくださいよ!?」


「文句は道に言え。私は安全運転をしているつもりだ」


道にどうやって文句を言うのかと返したくなるが、その時間も惜しい。康太はシートベルトを外すと軽やかに窓や再現によって作り出した疑似的な足場を利用してトラックの荷台の上へと駆け上がる。


何の支えもない状態で走っている車の上に出るというのはなかなかにバランスが崩れて不安定になるが、集中して周囲の状況を探ると先程まで小百合が言っていたことがようやく理解できた。


少し離れた場所で真理が戦闘を行っているのか、小さな炸裂音が聞こえつつあるがその反対側からバイクの音と共にこちらに向けて放たれる視線が絡みついてくるのがわかる。


しかも後ろにもそれらしいバイクの光が見えている。この状況はあまりよろしくないなと思いながら康太は片目を閉じて手で筒を作り視界を制限すると解析の魔術を発動する。


解析の魔術は視界に収められた物体の構造を把握することができる。それは暗闇の中でも有効なようだった。


バイクの光しか認識できなくても解析の魔術は視界に収めてある物体の構造を正確に把握してくれた。


後方に四台、進行方向右側に三台、進行方向左側に四台。四台のうち一台は真理の様でそのあたりで戦闘の光がこちらにも見えている。


となれば自分が対処するべきは後方と右側のバイクだ。


いくら小百合が安全運転をしているとはいえバイクに魔術的な攻撃をされては確実に荒れた運転になってしまうだろう。


そうなったら間違いなく投げ出される。康太は意識を集中して相手との距離を測りながら魔術を発動しようとしていた。


相手とこちらの距離はまだかなり離れている。互いにまだ射程距離には入っていないのだろう。


徐々に気づかれないように距離をつめて多方面から一斉に攻撃を仕掛けるつもりだったのだろうが、小百合の野性的な察知能力の高さのせいでその目論見は水の泡となったようだった。


攻めてこないのはこちらとしても好都合だが、いつまでもこの状態というのは正直あまり良い状況とは言えない。


康太は集中を高めて解析の魔術で右側にいるバイクの動向を詳しく確認しながら手を伸ばす。


これだけ遠い距離で発動するのは初めてだなと思いながら、自らの修得する魔術の中で最も練度の高い分解の魔術を発動する。


分解の魔術は対象の構造を理解していればより効率的に分解することができるが、その距離や部位に関しては康太はほぼ無意識で情報を処理している。


大体視認できる距離に対象があったためそもそもそこまで意識的に距離を正確に測ることもなかったのだが、こういう状況になってしまったのだ。可能な限り数を減らしておきたい。


発動した分解の魔術はバイクの外装部分を引き剥がし、他にもボルトやミラーなどを本体部分から外すことに成功するが、肝心の駆動部分を外すことはできずにいた。


やはりこの距離だとうまく分解の魔術が発動しない。正確には発動はしているのだが分解する部分の指定が上手くできない。


右側の対処に集中していると、後方からバイクの音が近づいてくるのに気が付いた。


康太はすぐさま標的を切り替えると解析の魔術を発動して相手との距離を測ってから分解の魔術を発動する。


だいぶ近づいていたというのもあってか、ハンドルとタイヤを外すことに成功し一台のバイクを無力化することに成功するが、やはりいつものような分解の精度を出すことができない。


対象との距離を正確に測れないというのもそうだが、自分も相手も現在進行形で移動し続けているというのが分解の対象を正確に指定できない原因になってしまっているらしい。


分解部分が指定できないこともあって今まで発揮できていた分解の精度を発揮できずにいるのだ。


こういう部分でもまだまだ修業が足りないなと実感しながら今度は近づいてくるバイクめがけて槍の投擲を再現し牽制する。


見えなくても道路などに当たって金属音にも似た異音を響かせることで相手への牽制になっているのだろう。後方と右側にいるバイクは目に見えて距離をとり始めた。


そして左側を片付けて来たであろう真理がトラックに接近し今度は右側への対処を始めていた。


この調子ならそう手間もかからずに終わるだろう。そう思って康太は右側を真理に任せ、後方への対処に集中することにした。


誤字報告五件分、評価者人数が165人突破したので三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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