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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
九話「康太とDの夏休み」

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襲撃と可能性

ライブ関係者が打ち上げ場所に選んだのは所謂居酒屋だった。


未成年がいる場所には不適切ではないかと思われるが、普通に食事に来ている学生もいるようなタイプの居酒屋兼食事処のような場所であり、今日はそこを貸切にしているようだった。


流石に貸し切りの店に入るというのは康太たちも難しい。魔術で細工をしたとしても違和感を感じ取られる可能性がある。


その為康太たちは近くにあるファミレスで時間を潰すことにしていた。


目標には文の索敵のマーキングが施してある。仮に移動したとしてもすぐに場所がわかるようになっているためにそこまで不安はない。


関係者が大勢いるような場所で不祥事を起こされた場合はどうしようもないが、マネージャーもいるのだから問題はないだろう。


「時間的にあと数分ってところかしらね・・・未成年相手だと」


「そうじゃないか?たぶん大人連中はこの後別の店で二次会って流れだろ。こっちとしてはありがたいけどな」


未成年の人間が主役である以上ある程度の時間で切り上げるしかない。他のスタッフたちは二次会三次会で飲み食いすればいいだけの話だ。


一番疲れている主役をいつまでも連れまわすわけにはいかない。何より彼女は未成年なのだ。いろいろと面倒事の対象になってしまう。


「ん・・・動いたわね・・・もう店を出るみたい」


「了解。んじゃ俺たちも行くか」


頼んでいた料理を口に一気に放り込み、康太と文は会計してからファミレスを後にする。


もちろん目標に見つかるわけにはいかないためにタイミングをずらしながら移動することにした。


ここから駅までは少し距離があるが歩いて向かえる距離だ。


夜という事もあり人通りは少ないが、ライブの終わりという事もあって大通りにはそれなりの数の人がいる。


ファンに見つからないようにするためか森本奈央とそのマネージャーは少し細い道を通って駅まで向かうようだった。


「こっちとしては好都合だな、見つかりにくいし後をつけやすい」


「でもそれは他の人間からしてもそうでしょ?こういう路地を通るってなんか襲われても仕方ないって感じしてるわよ?」


康太たち魔術師にとってはこういった路地裏は基本的に活動するうえでかなり便利なのだが、それは不埒なことを考えている不届き者たちにとっても同じことだ。


犯罪者と同列に扱われるのは癪だったが、やっていることは康太たちも犯罪者とそう変わりない。


目的に悪意があるかどうかの違いだけだ。


「・・・ん・・・?」


「ん?どうした?」


「・・・魔力反応あり・・・この量は・・・魔術師ね」


どうやら魔力探知の魔術をまだ発動していたようだ。マナが不安定な場所であるという事もあり万が一のことを考えて索敵用の魔術は発動し続けていたようなのだがその索敵に魔力の反応があるらしい。


しかも文によって魔力を注がれたわけでもなければ、偶然魔力を蓄えてしまった人間でもない。意図的に魔力を蓄えた人間であるという事は間違いないようだ。


「魔術師って・・・トミー何とかとジェリーなんとかか?」


「そこまではわからないわよ・・・ただ一人よ。少し先の建物の上にいる」


てっきりこの辺りを縄張りにしている魔術師、トミー・ロッドとジェリー・パックマンかと思ったのだが、一人で行動しているとなると少し違和感を覚える。


康太たちがうろついているということがわかっていながら一人でこんな所にやってくるだろうか。


敵対行動をするつもりなら二人同時にやってくるはずだ、そうしないという事は彼らではない可能性が高い。


「ベル、索敵とフォロー頼む。もしかしたら見られるかもしれないからその場合の後始末任せた」


術師名を呼ばれたことでこれから本格的に魔術師として行動するのだなという事を理解した文は小さく息を吸って集中を高めた。


最悪魔術師と戦闘になるという事をすでに覚悟しているようだった。


「・・・わかったわ。こっちは護衛が目的よ?その所忘れないで」


「わかってるって、守りに徹するよ」


前方にいる魔術師が一体何を目的にしているのかは知らないが、康太たちを狙ってきているのであれば目標から遠ざけなければならない。


逆に目標を狙っているのであれば撃退しなければならない。


護衛とは本当に厄介なものだと歯噛みしながら康太はカバンから仮面と槍と装備を取り出しいつでも対応できるようにしていた。


単眼鏡を使って目標を視認しようとも思ったのだが、すでに夜という事もあって周囲は暗い。満足に明かりもない状況ではまともに周囲を確認することは難しかった。


何時でも魔術を発動できるように心がけていると、仮面をつけ終えた文が小さく反応する。


「・・・ビー!前の魔術師を止めなさい。あいつなんかやろうとしてる。目的は護衛対象と見て間違いないわ」


「了解、攻撃開始する!」


康太は勢い良く跳び上がり、再現の魔術を併用して建物の上の方へと駆け上がっていく。


相手の目的が森本奈央だとわかった以上、護衛しているこちらとしては黙っているわけにはいかないのだ。


建物の上に出ることで康太はようやくその人影を認識することができていた。


仮面をつけ魔術師の外套を羽織った人物。まだ遠いために男か女かは判別できないがその手には棒状の何かと箱を持っている。


それが一体なんであるかを判別するため、康太は単眼鏡を取り出しその人物の手元を確認、そして同時に解析の魔術を発動した。


解析の魔術は自らが今見ている者に対して発動する。単眼鏡のレンズ部分の構造と同時に視界の先にあるものを解析し始めるとそれが鉄パイプと大量の釘であることがわかる。

しかもその鉄パイプは先端がいびつに尖っており、もし人に刺さったら間違いなく重症になるのがわかりきっている。


あれをどうするつもりなのか、あんな状況でそれを持っている時点でどうするかは半ば分かりきっていた。


康太がそれを理解すると同時に、視界の先にいる魔術師はそれを同時に落下させた。


その下、丁度落下する場所には森本奈央とそのマネージャーがあるいている。


身体能力強化の魔術を使っても間に合いそうにない。康太は瞬時にそう判断し建物と建物の間に屋根のように炸裂障壁の魔術を発動する。


炸裂障壁の魔術は本格的な防御術ではないとはいえ、自由落下の衝撃くらいは十分に防いでくれる。康太の思惑通り鉄パイプと釘を問題なく受け止めていた。


だが鉄パイプは障壁にぶつかると同時に大きくバウンドし、音を立てて下へと落下し始める。


それを見ていた文は鉄パイプめがけて突風の魔術を発動し、落下軌道を大きく逸らせた。


森本奈央の歩く数メートル先に鉄パイプは落下し、二人を驚かせたが両者に怪我はなかった。


幸いではあったが正直鉄パイプにも気づかせたくはなかった。落下するという事は上に何かあるというのを教えているようなものだ。


康太は文のフォローを信じて先に眼前の魔術師を何とかすることにした。


槍をおおきく振りかぶり、目の前の魔術師に攻撃を仕掛ける。


だがその一撃は簡単に避けられてしまう。当然だ、避けさせるためにわざと大振りにしたのだから。


こちらが攻撃するという事を見せることで敵対行動をとるというのを明確にわからせる。そうすることで相手の意識を森本奈央からこちらに向けさせることができると思ったのである。


そしてその思惑はうまく働いたらしい。相手は回避しながら建物を移動し始める。どうやら魔術師が唐突に現れたことで何かしら面倒なことになると察したのだろう。


だがこちらとしても逃がすつもりはない。いやもっと遠くへ逃げてもらわないと困るのだ。


万が一にもまた襲ってこないようにある程度の距離を保つ必要がある。


康太は後を追いながら魔術を発動し相手への牽制攻撃を仕掛ける。


発動した魔術は再現、再現したものはナイフの投擲だ。ある程度距離がある状況でははっきり言って本当に牽制レベルの威力しかない。体にわずかな切り傷を作るのがせいぜいだろう。


だがそれでも相手は脅威に感じたらしく、こちらに対して反撃の魔術を発動してきた。


何かを投げたかと思えば、それがこちらに向けて高速で飛翔してくる。


康太はとっさに炸裂障壁の魔術を発動すると、障壁に何か硬いものが連続してぶつかってくるのがわかる。


それが鉄でできた何かであるのはすぐに理解できた。


一瞬解析の魔術を発動すると、それが釘やネジといった工具の一種であることがわかる。


しかもそれらはただ投げられてくるだけではなく、自ら意志をもってこちらに襲い掛かってくるようだった。


その光景から康太は相手の魔術が鉄か何かを操る魔術であるという事を理解する。


恐らく触れた鉄を磁力か念動力か何かで操りこちらへの攻撃としているのだ。


威力が低い釘を使っているあたり、相手もまだ牽制レベルであるというのがわかる。だがそれにしたって明らかに殺意がなさすぎる。


自分と目標との距離を確認したうえで康太は一度追うのを止め、少し目標に近づくことにした。


これ以上離れると万が一の時に対応できない。森本奈央を狙う魔術師が一人とも限らないのだ。


なるべく急いで駅まで向かってもらう必要がある。康太は携帯を取り出して文に連絡をし始める。


「ベル、なるべく急いで駅に向かってもらってくれるか?その距離ならタクシー使うより走ったほうが早いだろ」


『それはいいけど・・・体力的に厳しいと思うわよ?あのひと限界まで動き続けてたんだから・・・』


康太が走れというのは簡単だが、森本奈央は三日間極限まで動き続けた。恐らく体力の限界に達しているだろう。


これ以上の無理はさせられない。身体能力強化の魔術でも使えば話は別なのだろうが、さすがにそこまで強力な効果はかけられない。


どうしたものかと悩んでいると康太の体の中から黒い瘴気が漏れだしているのに気付く。


デビットがざわめいている。そのことに気付くと康太は思い出す。


そしてできるかもしれないと康太は一度森本奈央が視認できる位置まで移動するとDの慟哭を発動し、黒い瘴気を森本奈央めがけて放った。


近くにいた文はその光景を見て驚いていたが、止めることもできず黒い瘴気は森本奈央の体の中にしみこんでいった。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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