ライブは終わり
翌日、康太たちの予想に反してライブは非常に順調に進んでいた。
既に昼休憩も終わり、後は最後の曲を残すのみとなっている。
ライブ中に観客の中に魔力を溜めこんでしまった人間が何人か出たがそれも問題なく対応し、ライブ会場の裏手に入り込もうとする者もいなかった。
至って順調、何も問題がないのが不思議なくらいに順調だった。
それが逆に康太たちの不安をあおっている。何かあるはずだと警戒し、神経をすり減らし続けていた。
最後の曲が始まると緊張は一気に高まる。こういう状況に良く何かが起きるものだと決めつけるかのように集中し曲も聞かずに状況を常に把握しようと心掛けていた。
それに対して今回の護衛対象である森本奈央は一心不乱に歌い続けていた。
これが最後だとわかっているからこそ全力を出し、自分の声がつぶれるのではないかと思えるほどの声量を出して観客たちに自分の歌を届けていた。
観客もそれがわかっているのか最後の曲を楽しみ、曲が終わると同時に精一杯の歓声を送っていた。
『・・・ライブ終了・・・特に何も起こらなかったわね・・・』
「そうだな・・・ライブの観客への対応を終了・・・あとは目標の護衛に集中しよう」
『そうね、目標の護衛はいつまで続ける?』
「一応事務所・・・あるいは関係者が車で送るまでにするか。それもある程度はついていこう。面倒があっても困るからな」
『了解よ・・・それじゃ私も移動するわ。そっちに行くからちょっと待ってて』
「了解。待ってるよ」
先日話しておいたように最後まで何が起きるかわからない。疲れ切ったところを襲うような人間がいないとも限らないのだ。
そういうことを考えてある程度備えておいた方がいいだろう。なにせ康太たちは彼女の護衛も依頼されているのだ。
最低でもきちんと送り届けられるまでは護衛しておかなければ、もし何かあった時に目覚めが悪い。
そして奏に申し訳が立たない。ある程度まで護衛したら康太たちの任務は終了。依頼は無事完遂し自分の家に戻れるというものだ。
森本奈央がライブ会場裏に姿を現すと同時に文が康太の近くに歩み寄っていた。護衛対象を確認したことで緊張を高めると思い出したように何やら細工を始める。
「何やってんだ?」
「私が作った術式を破壊するのよ。方陣術を書いたもの自体は地面にゆっくり馴染んでいくけど術式は早めに消しておきたいからね」
「へぇ・・・ちょっと時間かかるか?」
「うん、その間見張っててくれる?すぐ終わらせちゃうから」
そう言って文はその場から小走りで移動していく。恐らく術式を消す用の術も方陣術の中に仕込んであったのだろう。
どのような手段を用いるのかはわからないが問題がなければそれで何よりだ。
そうしていると康太の携帯が不意に震えだす。相手は森本奈央のマネージャーだった。
「お疲れ様です。ライブ凄かったですね」
『ありがとう。それで、君たちは何時までいてくれるのかな?』
今回の依頼、一応奏から来ているものであることもありマネージャーとしては康太たちの動向も確認しておきたいのだろう。
康太としても今後の森本奈央の行動の確認をしておきたかったところだ。また事前準備を怠ってしまったなと康太は自分の不出来を反省しながら森本奈央の姿を確認し小さく息を吐く。
「彼女が安全圏に移動するまでは護衛するつもりです。もちろんばれないように。そちらに迷惑はかけませんよ。とりあえず今後のスケジュールを確認したいんですが」
『あぁ、この後は打ち上げだ。と言っても彼女は未成年だから食事会に参加するだけだけどね。大人たちはそのまま飲み会に移行って感じだね』
「では彼女は食事を食べたらすぐに帰宅ですか?」
『そうだよ。ライブが終わって疲れてるとはいえ自宅の方が休めるからってね・・・近くの駅から電車と新幹線を使って移動する予定だ。僕も同行するから新幹線に乗るまでは任せてもいいかな?』
「わかりました。まだ観客の方が大勢いますので少し時間がたってからの移動の方がいいでしょう。彼女も少し疲れているようですし」
目標の様子を確認した康太はすぐに森本奈央がだいぶ疲れているという事を理解する。
肩で息をしているだけではなく椅子に座ったまま動こうとしないのだ。
だいぶ体力を消耗しているというのがありありとわかる姿だ。
『一応お礼を言っておくよ。何もなかったとしても守ってくれていたっていうのはわかるから。草野さんにもよろしく伝えておいてくれるかな?』
「もちろんです。今回のライブの感想と一緒に報告しておきますよ」
『そうしてくれるとありがたいよ。ちょっと評価をよくしておいてくれるともっとありがたいかな』
「それは承服しかねます。まぁ良いライブだったとは思うので、思った通りを報告しておきますよ」
そんな軽口を挟んでいると文が小走りでこちらに戻ってくる。
どうやら方陣術の消去は問題なく行えたようだ。
康太はこれからの予定を文に軽く話すと再び護衛の任務を続けることになる。
もうすぐ依頼も完遂できる。そう思うとこの暑さも悪くないなと思いながら康太は残っていた飲み物を一気に口に含んだ。




