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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
八話「深淵を覗くものの代償」

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覚えている魔術

「まぁこんなものか・・・最初でこれなら上出来だろう・・・いや最初ではなかったのか?」


「まぁ普段から師匠にボッコボコにされてますから・・・ていうか奏さん文には随分甘いですね」


「ん・・・まぁあの子の弟子だからというのもあるかもしれんな・・・小百合の弟子であるお前と違ってそれほど強烈に指導するわけにもいかんだろ」


そう言いながら奏は気絶している文をソファまで運び濡らしたタオルを額にかけていた。


普段康太が気絶しても床に放っておいているのに比べると随分と手厚い看護であるのは言うまでもない。


あの子というのがエアリスのことを指しているのはすぐにわかるのだが、こうまで露骨な対応の違いは随分と意外だった。


いや意外だったのは対応の違いではなく奏が文に対して優しくしているという点だ。康太自身もだいぶ優しくしてもらっている自覚はあるが彼女が文に向けるそれは康太に対するそれとは別物のように感じる。


昔からの知人の弟子。確かにそう言う見方もあるだろうが結局は他人の弟子だから丁重に扱っているという風にも捉えられる。


奏の対応が一体どういう意味を持っているのか康太は図りかねていた。


「文自身はどうなんです?強くなれそうですか?」


「身体能力も反応速度も決して低くない。この様子だと肉体強化の魔術も修得済みだろう。近接戦闘へのセンスは確かにある。だが恐らく本人は近接戦よりも中距離から遠距離戦を好むタイプだな」


「・・・得意な戦いと好きな戦いが違うってことですか?」


「まぁそう言う事だ。いや本人からすれば得意なのも好きなのも中遠距離戦だろう。私は今近接戦もできるように指導しているだけだ」


むしろこの子にとって近接戦は苦手分野だったのだろうなと言いながら奏は一息つきながらコーヒーの入ったコップを手に取って椅子に座る。


「確かにこいつの魔術って、基本的に接近戦にはあまり対応してませんし・・・前に戦った時も近づいたら逃げていきましたし」


「だろうな・・・だがそれではいかんのだ。あらゆる戦い方ができるようにならなければ総合的な戦闘能力は上がらん。お前と戦ったときに近接戦闘ができるようになっていれば結果は違っていただろうさ」


四月に文と戦ったとき、あの時に文が今以上の近接戦闘の実力を身に着けていたのであれば、むしろ逃げずに康太を叩きのめしていたかもしれない。


だがそれは一般的かつ普通の魔術師の戦いではない。それができる魔術師は確かに限られている。だからこそ康太はこういった戦い方を身に着けたのだ。


文もまた、同じように普通とは違う魔術師の戦い方を身に付けつつある。


「お前ももう少し遠距離に対応できる魔術を身に着けるべきだな。今のところ中距離遠距離で対応できる魔術は一つか二つ程度だろう?」


「えぇ・・・もう少し楽に発動できる魔術があれば良いんですけど・・・こう射撃系の魔術でもあればまた違ったんでしょうけど・・・」


康太が覚えている魔術の中で遠距離、中距離攻撃に対応できる魔術は今のところ二つだけ。そのうちの一つは再現の魔術だ。もう一つは最近覚えた魔術。これだけでははっきり言って対応できないと言っているに等しい。


蓄積の魔術も使い方によっては距離があっても使えるだろうが、これは純粋な射撃攻撃とはいえない。再現の魔術も延々と打ち続けることができるわけではないためにそこまで乱発できるものではないのだ。


「・・・お前の属性の適性としては何だったか?無属性の魔術を多く使用しているように見えるが」


「えと・・・俺は無属性が一番得意で、次に風、その次に火です。微風を吹かせる魔術はだいぶ安定して使えるようになってきましたけど・・・」


「風属性は修得済みか・・・ふむ・・・だがあれは良くも悪くも人を選ぶからな・・・攻撃力もそこまで高くはない・・・となると火の属性を考えるべきか」


直接的なダメージや攻撃力を考えた場合、無属性と火属性に比べて風の属性は若干劣るところがある。


かまいたちを作れるほどの強力な風を作れればまた違ったのだろうが、康太はまだそこまでの実力がない。


となれば小さな炎でも作ることができれば随分変わってくるはずだと奏は考えているようだった。


「でもまだ風属性も完璧にできていないので・・・師匠や姉さんからは一つ一つ属性を覚えていく方がいいだろうと・・・」


「ふむ・・・その意見には私も賛成だ。あまり多くに手を伸ばしすぎてもどっちつかずになるのが目に見えているしな・・・となれば・・・そうだな・・・今持っている魔術で射撃に似たようなことができるようになるしかないだろうな」


お前をもっと早く魔術師にできていたら、と奏は若干悔いているようだがその後悔ははっきり言って意味がない。


康太は魔術師になった。だがそれは康太が望んだわけではない。康太は小百合に巻き込まれた形で魔術師になったのだ。最終的にそれを選択したのは康太自身であるとはいえ状況的に断れる空気でもなかった。


魔術を覚えるのは楽しいし、何より魔術を使えるのは楽しい。だからこうして一つ一つ階段を上がっているのもまた楽しいのだ。だから奏がしている後悔は意味がない。こうして一段一段上がっている行程こそ康太が楽しんでいる行程の一つなのだから。


本人が悔いていないというのに第三者が後悔しているというのはなかなかに奇妙な図式だが、これはこれでいいものだ。


なにせ自分のことを誰かが悔いてくれているのだ。誰かに想われるというのは決して悪い気はしないのである。


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