魔術師の系列
「それで?なんだってまた兄弟弟子の所に顔を出すことになったのよ?この前の三連休になんかあったの?」
「いやまぁ・・・端的に言えば・・・あの三連休は怒涛だったよ・・・」
康太が三連休に小百合の師匠の下に顔を出しに行ったのは文も聞いている。だがそこで何があったのかまでは詳しく聞いていないのだ。
身内の話をそんなに外ですることもない。そう言う考えもあるのだが文自身なんとなく聞かない方がいいのではないかと思っていたのだ。
他人の家庭環境に口出しを、ではないがやはり他の魔術師の系列に口を出すのは憚られるのである。
それがきいていいことなのか、それとも悪いことなのか判別できない場合は特に。
康太の場合は特に気にしないだろうが問題は小百合たちだ。はっきり言って康太はそう言うことに疎い。事情も理解していない状態で康太に聞くのはあまり良くないように思えたのだ。
「聞いていいかわかんないけどさ、その兄弟子の所に顔出して何してるわけ?なんか手伝いとか?」
「いや、鍛えてもらってる。その人が師匠以上に武器の扱い上手くてさ・・・あとはいろいろ魔術とか?とにかくいろいろ教わってる」
「・・・あの人以上に上手いってどんななのよ・・・想像できないわ・・・」
文は小百合が武器を扱っているところを直に見ている。だからこそ彼女の武具の扱いが素人のそれではないことは理解できた。
だがそれ以上のものとなると少し想像するのが難しかった。彼女の武器の扱いが至高とまで言うつもりはないが、文の周りで武器の扱いに長けている人間など小百合くらいしかいないのだ。比較も理解もそれに及ぶものがないのである。
「お前の両親とかどうなんだ?武器使ったりしないのか?」
「分かんないわよ、私両親が魔術師として活動してるところ見たことないもの・・・特に戦ってるところなんて一度も見たことないわ」
「へぇ・・・そんなもんか?」
文の両親が魔術師であるということは知っているが実際どのような魔術師なのかは康太は知らない。だが実の娘でありもっとも身近な文がそれを知らないというのは若干違和感があった。
「基礎的な魔術を教わった後はずっと師匠のところで修業してるしね。何よりあの人たちも自分の魔術師としての活動はあまり見てほしくないみたい。やっぱり子供は親のそれを手本にしちゃうからってのもあるかもね」
「なるほどな・・・良くも悪くも影響を与えないようにしてるってことか・・・」
康太のいう通り親というのは良くも悪くも子供に影響を与える。文の両親がどのような魔術師なのかは知らないがそれも文に対して影響を与えるだろう。
彼女の両親はそれを避けるために、魔術師として一人前にさせるために文をエアリスに託したのだ。
それを徹底するのであれば自らの魔術師としての姿を見せないのも頷ける話ではある。
だが文は思い出したように口を開く。
「でもたぶんお父さんは武器を扱うと思うわ。見たことはないけど」
「見たことないのに分かるのか?」
「わかるわよ、うちのお父さん結構鍛えてるし。さすがに筋骨隆々って程じゃないけど・・・たぶん何かしら使えると思うわ」
文の両親の事だからてっきり二人ともインテリ系の魔術師だとばかり思っていたのだが、しっかりと鍛えられているという事は文の父親は案外実戦派な人間なのかもわからない。
ただ体を維持しているというだけならそれも違和感はないが、文は武器を扱うものであるとある種の確信を持っているようだった。
「家に武器とかおいてないのか?それこそ剣とか槍とか」
「そんなもの見えるところに置いておくわけないでしょ・・・たぶんお父さんたちの魔術師装束と一緒に置いてあるんだろうけど・・・少なくとも私は置いてあるところを見たことないわ。」
「隠してあるのか・・・そう言うの結構気になるよな・・・」
「昔子供のころ頑張って探したんだけどね・・・やっぱあっちの方が上手ってことなんでしょ。全然見つけられなかったわ」
幼い子供の好奇心を止めることはできない。それこそ両親が見つけてはいけないと言ってもそれを探したくなるのが子供心というものだ。
もしかしたらそれを逆手にとって両親はそのようにしているのかもしれない。いつか娘が自分の魔術師装束を見つけることを期待して。
「あんただって普段は隠してるでしょ?基本的に装備の中に見つかったらまずいものあるだろうしさ」
「あぁ一応な。っていっても俺の場合魔術的に隠すことはできないから物理的に隠すだけになるな。早く暗示やらの魔術完璧にものにしたいよ・・・」
「なに?あんたまだ覚えてなかったの?」
「しょうがないだろ、あれ練習相手がうちの家族しかいないんだから・・・まだ師匠や姉さんから言わせると実用的じゃないってさ・・・いつになったら使えるんだか・・・」
暗示の魔術は魔術師にとっては必要不可欠な魔術だ。練習対象が一般人でなければいけないという事もあり練習にまた時間のかかる魔術でもある。
だがだからこそ覚えた時の恩恵は大きい。少なくとも今のようにいちいち真理に頼るようなことは無くなるだろう。
「少なくともまだまだ先は長そうってのは理解したわ。でも少しはましになったんでしょ?覚えた魔術も多そうだし」
「そりゃあな。いろいろ練習中だ。使えそうな魔術も増えたしな」
小百合の師匠である智代や兄弟子である奏から教わった魔術は康太にとって有用なものばかりだった。それらの練習も考えると康太の夏休みはきっと忙しくなるだろう。




