テストは終わり
「おわったぁぁぁぁぁぁ!夏休みだぁぁぁぁ!」
最後のテストの終了を告げるチャイムと同時に教室内に先程までとは打って変わってざわめきが生まれていた。
それはようやくテストから解放されたという嬉しさもそうだが、苦難の後に待ち構えている夏休みという長期休暇を前にした歓喜の声も含まれている。
そしてその声を上げたのは康太だけではなかった。
何人かの男子生徒は同じように歓喜の声を上げている。それを見て監視していた教師は静かにしろよと言いながら苦笑いしているが、彼らの気持ちも分かるだけにあまり強く注意するつもりはないようだった。
解答用紙を集めてすぐ、監督役の教師はいなくなりそれと同時に全員が帰り支度をし始めたり固まって解答を確認したりとせわしなく動き始める。
「おう八篠!夏休みだぜ夏休み!一カ月間何するよ!?」
「そりゃ遊ぶに決まってんだろ!でもその前に大会あるからそれまでは部活かな」
「ていうか二人とも、まだ一応数日残ってるんだからさ・・・」
青山と島村が夏休みの如何について話しかけてくるものの、確かに島村のいうようにまだ数日学校は残っているのだ。
テストも終わりはっきり言ってほとんど消化試合のようなものだがそれでもテストが終わったからと言ってまだ学校が終わったわけではない。
あと数日は学校があるのだ。テストの返却もそうだが終業式というなくてはならない儀式もどきが待っているのである。
「ていうかさ、八篠四月に比べて筋肉無駄に増えてない?気のせいかな?」
「ん?たぶん気のせいじゃないと思うけど・・・」
「それだと走るとき邪魔じゃないか?この夏休みは減量しまくれ」
「ふざけんなよ、むしろ夏休みなんてダラダラしまくるわ。たまに部活に顔出すかもしれないけども」
夏休みに減量などという苦行をするほど康太は部活に熱心ではない。何よりこの筋肉は付けようと思ってつけたものなのだ。
普段の魔術の訓練で戦ったりしているせいで体の筋力は一割ほど増されているように感じる。何より贅肉が増えているわけではないのだ。
元々陸上をやっていたという事もあり康太の贅肉はそこまで多くない。しかも最近はほぼ毎日のように予定が入っているために休む暇もない。
これで太ろうものならどれだけの量の食事をとらなければいけないのかわかったものではない。
「でも夏休み何する?部活もほとんど自主参加みたいなものになるみたいだし」
「まぁ普通に考えて陸上部の練習なんて自主練みたいなもんだからなぁ・・・」
「海とか旅行とか行きたいよな・・・とりあえず今日は遊ぶだろ!」
「残念だけど今日は部活だよ。久しぶりなんだから参加したほうがいいって」
今まで試験期間という事でほとんどの部活は休みだったために康太たちは最近ずっと勉強ばかりしていた。
そのおかげで今回のテストを乗り切れたというのもあるのだが、それが終わった今、部活動に精を出す必要がある。
特に今回は久しぶりという事もあって参加はほぼ強制のようなものだ。
「テスト明けくらいゆっくりさせてほしいな・・・まぁ体がなまってるのは否定しないけどさ・・・」
「それな、ずっと机に座ってたりしたからどうしてもなぁ・・・軽い運動って言っても限界があるし」
さすがの康太もテスト期間は魔術の訓練以外は精力的には行っていなかった。ある程度小百合の店に顔を出して文や真理と一緒に勉強をしていただけである。
定期的に、特に勉強が行き詰まった時や集中が切れた時など、小百合と訓練していたりしたがそれでも普段の運動に比べると随分と量も質も落ちるだろう。
しかも勉強とかこつけて甘いものをそれなりに摂取していた。もしかしたらこの試験期間中に少し太った可能性も否めない。
今までのように普通に部活ができるか少々不安なところもあった。
だがその不安以上に自分の槍の腕が鈍っていないか不安でもあった。こればかりは死に直結する内容なだけにその不安は大きく重い。
「てかさ、いっそのことサボらね?今日はもういいだろ、頭パンクしそうだよ・・・」
「えー・・・?俺は参加する予定だったけどなぁ・・・八篠は?」
「俺も出るつもりだったぞ。夏休みの予定とか詳しく聞いておかなきゃいけないからな。それなりにやること多いから確認しとかなきゃ面倒なことになる」
「あ、もう休みの予定決めてるんだ」
「決めてるっていうか・・・うん・・・まぁそんな感じ・・・」
休みの予定に関しては決めるのは康太ではなく小百合だ。自分の師匠の気まぐれによって休みにおける康太の行動がすべて決まると言っても過言ではない。
それ以外は基本的に訓練したり遊んだり部活をしたりとそれなりに忙しく行動するつもりだ。
幸いにも暇なことはない。なにせ普段の生活をさらに豊かにしたような感じなのだ。週一で奏の所に顔を出さなければいけないし、部活もしなければいけない魔術の鍛錬だってまだまだやりたいのだ。
そう考えると時間なんていくらあっても足りないくらいなのである。
「くっそ・・・もしかして女でもできたのか?」
「・・・まぁ間違ってはいねえよ。身内だけどな」
「あぁ親戚周りとかそういうのなんだ。やっぱどこの家もそう言うのあるんだね」
上手いこと島村が誤解してくれたおかげで全く面倒で仕方ねえよと言葉を濁しながら次の話題につなげる中、康太は実際訪れようとする夏休みに少々不安を覚えていた。
「で、どれくらいできたわけ?」
部活が始まり少し運動した後、康太と文はいつものように休憩と称して購買部から少し離れたところにあるベンチの一角で座って話していた。
例によって文が周囲に結界を張り一般生徒にばれないように会話をしている。当然周囲の先輩魔術師などには気づかれているだろうがそこまでやましいことを話すわけでもない。定期報告会のようなものだ。
「いやまぁ・・・わかんない問題が各教科二、三問くらいあったかな・・・それ以外は大抵できた・・・」
「あ?私が教えたってのにわかんない問題があったわけ?」
「い、いや、頑張って解こうとしたんだぞ?でもやっぱ後半の問題は難しいのが固まってて」
「少なくとも全教科とも解けない問題はなかったはずだけど?私はできたし」
「マジかよ・・・じゃあお前まさか満点か?」
康太の言葉に文は小さくため息を吐きながら首を横に振る。話を聞いている限り文は康太ができなかった問題も難なく解けたようだ。だがそれならばなぜ満点ではないのだろうか。
若干の矛盾に康太が首をかしげていると文は複雑そうな顔をしながらベンチに座り込んで再度、今度は大きくため息をつく。
「私ってさ、なんていうかしょうもないミスをちょろっとするのよ・・・それこそ先生によっては三角とか追加点くれるようなレベルのミス。そう言うののせいで満点ってことはないと思うわ。行ってても九十後半ね」
「それって全教科?」
「まさか、満点を狙ってる教科もいくつかあるわ。でもまぁ私の事だからたぶんどっかしらでミスしてると思う・・・」
文はいい意味で自分を客観的に見れる人間だ。自分の性格だけではなく自分の性質まで良く理解できているのだろう。
というより彼女の場合、今までそうしようとして何度もそう言った凡ミスをし続けている可能性も否めない。
十五年という月日は自らの性質を理解するには十分すぎる時間だ。特に彼女は魔術師。自らのことを察することにかけては康太の何倍も上なのだ。
「ひょっとして文って今まで百点取ったことないのか?」
「それは私を馬鹿にしすぎよ。でも数えられる程度しか取ったことないのよね・・・赤点なんてのはとったことないけど・・・そう言うあんたは?」
「俺か?小学校の頃は百点は結構とってたけど・・・中学からはあんまり取れなくなったな」
「あー・・・まぁ小学校の時のテストってお遊びみたいなものだしね・・・こういっちゃなんだけどそこまで苦労しなかった覚えがあるわ」
小学校でやる勉強というのは中学高校、いやこれから一生生きていく上での基礎となるものだ。逆に言えばそれさえ押さえてしまえばそれ以降の勉学においても基礎ができているために比較的理解しやすくなる。
そう言った部分で勉強の向き不向きが大きく分かれる場所と言ってもいい。運良く康太と文は小学校の勉強ではそこまで苦労しなかったのだ。
「てか満点取れないなら俺と大して変わらないじゃんか。そこまで言う事あるか?」
「あるわね。解けたけど別のところでミスしたのと解けなかったじゃ大いに違いがあるわ。つまりは理解できてなかったってことでしょ?」
「そりゃそうかもだけどさ・・・結局ミスなら結果は変わらんだろ」
「無駄に痛いところ突いてくるわね・・・まぁあんたの言う通りミスには違いないわ。でもあんたより絶対ましよ。ていうかどこがわからなかったのよ」
「数学だとラストの問題。あれってどうやって解くんだ?」
「私は比でやったわ。面倒に見えてあれ結構単純よ?理解してればの話だけど」
「そこなんだよなぁ・・・やっぱ短時間で詰め込んだ知識じゃ付け焼刃か・・・」
勉強とは良くも悪くも継続することによって真価を発揮する。しかも一度や二度短期間でやるのではなく、長期間にわたり何度も何度も行うことによってでしか本当の意味での学力を向上させることはできない。
俗にいうところの、普段やっていれば苦労することはないというやつである。
実際文は日々コツコツと勉強を行っているためにこういった試験においても特別な勉強はしない。やるとしても試験範囲の見直しくらいだ。だからこそ康太に勉強を教えるだけの余裕があったのである。
もっとも、もともと文が勉強が得意であるからというのもあるかもしれない。普段からコツコツと物事を進めることが得意であり好きである彼女にとっては勉強も魔術の訓練もそう違いがあるものではないのだ。
康太も普段がかなりの激務でなければそこまで勉強で苦労するということはなかったかもしれない。
元々勉強そのものは苦手ではないのだ。今は勉強時間が取れないからこそ面倒なことになっているわけで。
「ていうかあんたちゃんと勉強やってたの?魔術師になってから生活習慣が変わったのはわかるけどスケジュール管理くらいしなさいよ」
「わかってるけどさ・・・俺のスケジュールが俺のあずかり知らぬところでどんどん決められていくんだぞ?お前が思ってるよりずっと厄介だっての・・・最近は師匠の兄弟子の所にまで顔出してるしさ・・・」
師匠の兄弟子という言葉に文は興味を持ったのか康太の話に耳を傾けようとしていた。
「あんたのお師匠様の兄弟子って・・・なんかすっごく嫌な予感がするんだけど・・・まともな人?」
「片方はまともな人、片方はえげつない人」
「・・・ちなみにあんたが顔を出してるのはどっち?」
「・・・えげつない方」
そりゃご愁傷様ねと文は笑っているが、それで小百合の兄弟弟子、つまり奏や幸彦の話を終わらせるつもりはないのだろう。嬉々とした表情のまま康太を見つめていた。
誤字報告五回分受けたので二回分投稿
モンハンクロス面白いけど今までの癖で狩技?全然使わねえww
これからもお楽しみいただければ幸いです




