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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
八話「深淵を覗くものの代償」

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テスト

蝉の声がガラス窓を貫通して教室中に響く中、小さな時計の音が康太の耳にも届いていた。


教室の中には蝉の声と生徒たちが文字を書く音だけ、生徒はおろか教師の話す声さえもこの教室内には存在しない。


いや、今康太たちが通う学校全体において、特に生徒たちのいる教室に限っては全く人の声はしなかった。


これが今の康太たちの平穏。特に何か問題があるというわけでもなく、日常においてこの光景が当たり前になっているのだ。


笑顔もなく言葉もなく、中には苦しそうな表情をしている者までいる始末。暑さと拷問にも等しいこの状況をこの場の全員が受け入れていた。


これが第三者から見て明らかに異常だと思われるようなことはない。魔術的な何かも発生しておらず、何かの陰謀により呪いなどがかかったというわけでもない。


そう、今この三鳥高校では期末試験を行っているのだ。


高校生、いや学生であるならばテストというものからは逃れられない。なにせ学生にとっての本業は学業なのだから。


それは一般人とは異なる魔術師である康太たちも例外ではない。たとえ超常の力を使えようとも、常識から逸脱した存在になろうとも、この現代社会に生きるものとして普通に生活しなければいけないのだ。


今の社会は大多数から外れた者にとっては生きづらい世の中だ。より大きな組織に組み込まれ、より多くの人とコミュニティを作ることでこそ安定して生きていける。


もちろんそれがすべてとは言わないが、ただの高校生であることを強要される康太たちにとってテストは避けられない事態の一つだった。


魔術師である康太は何とかしてテストを上手いこと攻略できないかと思考を巡らせた。方陣術を使ったカンニング方法、あるいは魔術を用いたカンニング方法。どのような方法でもいいから少しでも楽に勉強を、そしてテストを攻略できる方法を考えた。


実際に方法もいくつか考えたのだ。だがそのどれも魔術師としての感覚が必要不可欠だった。そして運悪く、いや運よくというべきなのか康太の魔術師としての感覚はテスト期間の間までに目覚めることはなかった。


カンニングのことを文に話したところ


『そういうことをやってもいいとは思うけどね、結局は自己責任よ。後々になって後悔するのも苦労するのも自分自身なんだから』


という事だった。


彼女曰く今まで魔術師として生きてきたがカンニングの類は一度もやったことがないのだという。


健全な学生として正しい姿なのか、それとも魔術師として正しい姿なのか、康太には判断できなかったが使えるものは何でも使う康太としてはその考えはどうなのだろうかと思えてしまう。


もっとも彼女が言っていることもまた事実だ。今後もし魔術師が教師だったり、あるいは試験官をしている場所で試験があった場合、自分がカンニングをしていることがすぐばれてしまう可能性がある。


何より自分自身の実力と知識を付けなければこの社会ではやっていけない。長期的な見方をすればカンニングなどせずに自分の力で何とかするのが一番の攻略法だというのは納得できる話だ。


だがだからと言って簡単に諦められるほど、そしてカンニングをしないようにできる程康太は素直ではない。


何とかして楽がしたい。それは恐らく学生の八割ほどが考える事だろう。残りの二割は文のような真面目で長期的なものの見方ができる頭のいい人種だ。


康太はどちらかといえば八割の方に分類される。何とかして、何とかして。


そう思って何度か試したことがある。


小百合の師匠である智代に教わった解析の魔術だ。紙に書かれた文字を解析によって理解できないかと思ったのだが、この解析の魔術は構造や材質などは理解できても細かいところまでは見えてくれない。


特に紙に付けられた黒鉛のほんのわずかな溝程度だと認識してくれないのである。


それに他人のテストなどは案外当てにならないものだ。明確な答えでも見ることができればいいのだが。


これなら透視の魔術でも覚えておくんだったと康太は大いに後悔した。


だが文に勉強を見てもらっていたおかげか、そこまでわからない問題というのはなかった。


だがそのあたりは期末テストだ。どの教科にも必ず一、二問は難易度の高い問題が配置されているものなのである。


確実に解ける問題を確実に解き、難しい問題に時間をかける。単純だがこれが一番確実に点を取ることのできる方法だ。


忘れがちだが康太はこれでそれなりに頭がいい。


中学時代に推薦を貰える程度には勉強もできたしある程度運動もしていた。その為それなりにハイスペックなのである。


問題は最近魔術の訓練や部活動などがあって勉強に割く時間が圧倒的に少なかったという点だ。


文に家庭教師をしてもらう事で何とか体裁だけは整えられるようになったが今後もこの状態が続くとなるとなかなか辛いことになるだろう。


しかも今までと違い更にスケジュールが増えているのだ。これ以上魔術師としての活動を増やすと本当に日常生活にすら支障をきたしかねない。


だからと言って部活を止めるのは憚られる。だが魔術師としての活動をしないといつまで経っても一人前にはなれない。なんというか袋小路にはまっているような感覚に康太はテストとは別の意味で複雑な表情をしていた。


日曜日なので二回分の二回目投稿


こうやって話をまたぐときはちょっと面倒ですね。そういうことも考えて投稿しないと話数だけ増えていきそうです・・・


これからもお楽しみいただければ幸いです

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