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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」

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一服ついでの

その後康太たちは外で警戒していた真理と合流し、一度奏の拠点であるビルの社長室、つまりは奏の部屋に戻ってきていた。


それぞれが装備を置き仮面を外すともう魔術師としての行動が終わりを告げたことを察しようやく安堵の息を吐くことができていた。


「今日はご苦労だった。それぞれ休んでくれ。必要なら近くのホテルを用意するが?」


「僕はどっちでもいいけど・・・康太君や真理ちゃんはちゃんとした寝床が欲しいんじゃないかな・・・?さすがに床やソファで寝るのはつらいでしょ?」


「・・・俺はそれでも大丈夫ですけど・・・姉さんはさすがに・・・」


「・・・そう・・・ですね・・・でも一日くらいなら我慢は・・・」


「私の管轄下でそんな思いをさせるわけにはいかんな・・・こっちに来い。私の仮眠室とシャワーがある。ある程度の身だしなみは整えられるだろう。男どもは適当に寝床を作っていろ」


男と女で大きく対応が違う事に康太と幸彦は苦笑してしまうがこれもまた仕方のないことだ。いくら身内とはいえうら若き女性にシャワーも浴びせずに床あるいはソファで寝ろというのはあまりに酷だ。康太は基本的にこういうことは気にしない性質だがそれは康太が男だからというのもある。


女性の身としてはやはり体は清潔にしておきたいだろう。


「社長室なのに仮眠室とシャワーもあるなんて・・・すごいですね」


「それだけこの場所を生活空間にしてるってことさ。ほぼ泊り込みみたいなものだってぼやいてたからねぇ・・・やっぱり社長ともなるといろいろ大変みたいだよ?」


社長という立場の人間がどのような仕事をしているのか、はっきり言って康太は微塵も想像できなかったがそこまで容易なわけでも、そして誰にでも務まるというわけでもなさそうだった。


普通に考えて組織のトップというのはありとあらゆる面倒事が集約される場所だ。それなり以上に気苦労が絶えないだろう。


「社長っていうと結構憧れるポジションではありますけど、そう聞くと大変そうですね・・・なんかイメージと違うな・・・」


「ははは、社会人ってのは大抵大変なものだよ。イメージしにくいかもしれないけどね。特にさーちゃんなんてまさに世捨て人の典型みたいな感じだし」


「あー・・・そっか・・・それが原因か・・・働いてるところとか全くイメージできないのは」


基本的に学生のうちに社会人の辛さを想像するのが難しいのは実際にそれがどのようなものか実際に見ていないのが原因でもある。


もっとも身近な家族である両親に関しては家にいる時の姿しか見ないために働いているところなど想像できるはずもない。家庭によっては家に居ながら働いている者もいるかもしれないが、それはそれで社会人の大変さを想像する材料となるかといえば微妙なところである。


もし小百合が働いていたのであれば社会人として精を出す小百合を見ることができたかもしれないが、運悪く、いや運よく小百合はそう言った社会貢献という意味での行動をほとんどしていない。


その為社会人としての辛さというのを康太はほとんど見たことがないのだ。社会見学などでたまに公共施設の裏側を見せてもらえる程度で、実際にその働いている場面を見たわけではない。


「康太君はバイトとかはしないのかい?結構いい経験になると思うよ?」


「バイトしたいんですけどね・・・バイトするといよいよ時間の都合がつかなくなるんですよ・・・いま魔術の訓練と部活と勉強で大忙しで・・・ちょっと手が回らなくなってきてて」


これがバイトをしたくない口実であればよかったのだが、実際康太はかなり日常的に忙しい。


まず平日は部活、それが終わったら小百合の下に向かい魔術の訓練。決まった曜日に部活を休んで放課後を丸々魔術の訓練に費やすこともあるが、大抵の平日はそれで終わってしまう。


そして土日は一日中魔術の訓練だ。エアリスの所に行くかどうかはその日によるがどちらにせよそれで一日が終わるのに変わりはない。


最近では文に勉強を見てもらっている始末だ。はっきり言って時間がいくらあっても足りない。バイトをするなら一日が四十八時間くらいないと厳しいだろう。


「あけられて週に一日あるかどうか・・・それじゃ雇ってくれるところなんてないだろうし・・・」


「んー・・・確かに高校生で週に一日じゃ難しいかもね・・・いっそのこと奏姉さんに雇ってくれるように頼んだらどうだい?事務の仕事くらいなら融通してくれるかもよ?」


「あー・・・そっか、そう言う手があったか・・・社長にバイトの直談判か・・・こういう時にコネができると強いですね」


「ははは、そうだね。確かにかなり強いコネだと思うよ」


康太はバイト程度のコネであると考えているだろうが、実際康太がこの三連休で手に入れたコネはかなり強力なものだ。


魔術師の中で敵に回してはいけないと言われている存在『アマリアヤメ』


そしてその弟子であり正統な後継者と言われている『サリエラ・ディコル』


そして魔術協会の仕事を受け持ち、多くのコネと実績を持つ『クレイド・R・ルィバズ』


現実社会においてのコネは奏が一番だろうが、魔術師の界隈においてのコネという意味ではこの三人はどれも勝るとも劣らない意味を持つ。


この三人へのコネを同時に手に入れたことははっきり言って康太にとっては大きな意味を持ち、同時に大きな転機へとつながるだろう。


今まで得てきたそれとは、それこそ比べ物にならないほどに。










「こっちがシャワールームだ、大抵のものはあるから好きに使え。さすがにお前の着替えまでは置いていないがな。そっちが仮眠室だ。こっちも好きに使ってくれて構わない」


「ありがとうございます。使わせてもらえるだけありがたいです」


康太と幸彦がバイトについての会話をしているとはつゆ知らず、奏は真理に仮眠室を案内していた。


真理にとってはここを使わせてもらえるのは非常にありがたいことだった。適当にネカフェの類で一夜を明かそうと考えていただけにこうしてベッドで寝られるというのは思わぬ幸運というものだ。


「でも私が使っていいんですか?奏さんは今日はどこで寝るんです?」


「私は今日は徹夜だ。魔術師として活動した日は徹夜することにしている・・・美容にはよくないが仕事の関係上仕方がない」


「・・・お仕事大変そうですね・・・」


「あぁ、社長なんぞなるもんじゃないぞ?責任は重いだけでその代わりに得られるものなんて金くらいだ。時間も無くなるし面倒事も増える。いっそのこと小百合のようになろうかと迷っているくらいだ」


苦笑しながらそう言う奏だが、恐らく今の生活も嫌いではないのだろう。若干疲れが見え隠れしているが、それもまた一興という風に思っているようだった。


だがさすがに徹夜をするというのは大変だろうと思っていると奏は笑みを収めて小さくため息をつく。


「康太は・・・あいつは本当に二月から魔術師になったんだな?」


「え・・・?あ・・・はい。そうですけど・・・」


唐突に康太の話題になったことで真理は若干目を丸くするが、奏の声音が真剣そのものであったために素直に答えた。


嘘を言うつもりはない。何より嘘を言ったところで意味がない。康太もそんなことで嘘を言う性格ではない。本人に聞くのが一番ではないかと思ったのだが奏の真剣なまなざしがそれを制止した。


「あの・・・康太君が何か粗相を・・・?」


「粗相か・・・それならまだよかった。むしろあいつは今日『よく働いた』。それこそ幸彦よりも働いたと言ってもいいくらいだ」


「え・・・?そんなに?」


奏は康太が実際に戦っているところを見ていないため、幸彦よりも戦闘において貢献したかどうかはわからないが、そのくらいは見なくとも判断できる。


恐らく康太は幸彦のフォローをしただけ、そこまで主力として活動はしていないだろう。だがそれを差し引いても康太の今日の活躍は幸彦のそれに勝るとも劣らないものだったと奏は感じていた。


「あいつの考え方・・・とでもいえばいいかな、実際の戦闘はさておいて状況判断能力とそれに対する解決への思考法、そして思い切りの良さはかなりのものだ・・・魔術師になってから半年も経っていないとは思えないほどにな」


「・・・それは・・・良いことなんじゃ・・・」


「そうだな、良いことととらえることもできる。だが私は危うさを感じた。あいつのそれが生来のものなのか、それとも小百合の弟子になったことで『そうなってしまった』のか・・・どちらなのかでまた意味は変わる」


「それって・・・康太君が師匠から悪影響を受けてるってことですか?」


「そうとは言わん・・・むしろ私は影響を受けていない方が危険だと思っている」


真理はてっきり小百合から危険な思考を受け継いでいるからそれを止めさせるように忠告するものとばかり思っていたために少しだけ驚いていた。


自分は比較的まともだと思いたいが第三者である文に言わせれば康太も真理も普通とは言い難いらしい。


そう言う意味では小百合から影響を全く受けていないとは言い難いだろう。だが奏はその影響を受けていない状態の方が危険であると感じたようだ。


「人間の考え方というのは基本的に日常的な生活や経験によって変化する。新しい場所や立場、境地に至ることで初めて全く違う考え方ができるようになる。当然その考えに至るまでには時間がかかるが、康太の考え方は一般人のそれとは明らかに違う」


「・・・半年程度では考えを変えるには至らないんじゃないか・・・そう思うんですか?」


「私の私見的な考えではあるがな・・・魔術との邂逅があいつにとってそれほどまでに衝撃的で、今までの価値観をひっくり返すものだった可能性も否めない。だからこそ測りかねている。あいつ自身が異常なのか、それともあいつを取り巻く環境が異常なのか」


奏の言葉に真理は何とも言い難い表情をした後悩んでしまっていた。以前文が康太の異常性に触れていたことがある。それと似たようなことを奏も感じ取っている。これが果たして偶然なのかどうか。


そして奏のいう取り巻く環境の異常性に関しては、その一部である真理としては判断しかねる。


自分の環境は普通だと思っていただけにそれが異常であるかどうかの判断が難しいのだ。文ならこの場でいい意見をくれたかもしれないが生憎彼女は今ここにいない。


「それで、奏さんはどうするべきだと?」


「これは勘だが・・・これからあいつは魔術的な事件や出来事に巻き込まれていくだろう。お前はあいつの近くにいて見守ってやれ。おかしくなる前にお前が道を示してやるんだ」


「・・・私にできるでしょうか・・・?私も他の魔術師におかしいとか言われたことあるんですけど・・・」


「それなら問題ないだろう。お前は小百合の一番弟子だ。何よりお前の人柄は私も知るところだ。お前なら問題ない」


信頼されるのは勿論嬉しい。だが同時にその信頼は真理に責任という形となってのしかかっていた。


弟弟子の未来という形でのしかかったそれは、真理の肩に決して軽くない重みを感じさせるのには十分すぎた。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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