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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」

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訓練本番

「随分と警戒されているな・・・まぁ近づきすぎたのは認めるが、些か傷つくぞ」


「あ・・・すいません・・・安全圏に行くまで油断するなってよく言われてたんで・・・」


「間違ってはいないがな・・・女性の扱いとしては減点だ。あそこまで私に迫っておいて他に何も感じんのか?」


「?」


本気で首をかしげている康太に奏はため息を吐き、幸彦は笑いをこらえていた。


「奏姉さん、それは無理ってもんだよ、だって康太君は高校生だよ?奏姉さん今年でいくつになると思ってるのさ」


「む・・・まぁそれはそうだが・・・若い男なんて女だったら誰でもいいんじゃないのか?」


「うっわ凄い偏見・・・まぁそれは人によるんじゃないかな・・・?とにかく康太君、一勝おめでとう」


「あ・・・ありがとうございます・・・」


言うだけ言ってまた荷物を取りに戻ったのだろう。幸彦は扉の向こうへと消えていった。


一瞬気まずい静寂が部屋の中を包む中、奏は机の方に一度戻り何かを取り出した。


そしてそれを見た瞬間、康太の中の何かが警鐘を鳴らす。


警戒しろ警戒しろ警戒しろ


何度も何度もそう告げる、目の前にいる奏に対して康太の中の危機管理能力が最大の警戒をしろと言っていた。


今まで小百合との訓練の中でも感じたことがない程の圧力と危機感に、康太は即座に槍を構えて警戒していた。


「そうかしこまることもないだろう。先程とやることは同じだ・・・」


先程とやることは同じ。確かにその通りなのだろう。康太との実力を正しくはかるための模擬戦闘。


だが康太は先程のように簡単に自分の思い通りになるとは到底思えなかった。


「違うのは、私も少しだけ本気になるという事だけだ」


奏がもっているのは康太と同じ、組み立てることで形を成す一本の槍。


智代が使っていた、そして康太も使える構築の魔術を使って作り出された一本の槍を見て、そしてそれを持つ奏を見て康太は冷や汗をかいていた。


勝てる気がしない。


先程までは奏も様子見という事もあり、自分の得意武器ではなく木刀を使って康太の実力を測ろうとしていた。


多少打ち合ったところで康太はすぐに奏にはまともにやったら勝てないという事を悟ったが、今回は違う。


まだ打ちあってもいないのに、すでに勝てる気がしなかった。気迫で負けているとか、威圧されて萎縮しているとかそう言うレベルの話ではない。


ネズミが猫に睨まれるようなものだ。窮鼠猫を噛むという諺があるが、あれは一矢報いることができるという意味であって勝てるわけではない。


先程まではまだ一矢報いるだけの余裕があった。だが今はその余裕すらなさそうだった。


「さて・・・先程はあまりにも手を抜きすぎた。お前ほどの相手にそれはだいぶ失礼だっただろう。不快な想いをさせたようで悪かったな」


「・・・いえ・・・俺の未熟さが原因ですから・・・」


「ふふ・・・だがもうそんな想いをさせるつもりもない・・・嬉しいか?」


「・・・嬉しさ半分ってとこですかね」


「半分も嬉しいと思ってくれるのであれば御の字だ。さぁ、お前の実力を今度こそ見せてもらおう」


奏はゆっくりと腰を下ろし、槍を構える。


その構えは小百合のそれと似ている。当然と言えば当然かもしれない。もとより小百合の武具の扱いは奏のそれを真似たものなのだ。


そして康太はさらに小百合のそれを真似たもの、劣化コピーと言われても仕方がないような実力しかないが、これで自分との差がより明確にわかる。


リーチは同じ。形状こそ異なるも槍の構造としてはほぼ同質のものだ。


互いの武器に優劣はない。あるのは互いの技術の差と身体能力の違いのみ。


互いに槍を使うもの同士、できることもできないことも熟知している。


康太に対する礼儀も含め、奏は自らの槍を使おうとした。


それは康太をなめすぎた自分への戒めであり、康太への謝罪も込められている。


康太はそれをまっすぐに受け止めていた。奏が本気で、とは言わずともある程度実力を見せてくれようとしているのだ。


それを断るつもりは一切なかった。


一矢報いるとまでは言わずとも、最低限の意地は見せたかった。自分だって今まで小百合に鍛えられてきたのだ。多少攻撃を防ぐことくらいはして見せたかった。


小百合曰く奏が最も得意としているのが槍という事だった。


先程の木刀のやり取りでさえ、彼女が本気になったら太刀打ちできないだろうということは容易に想像できるが、問題は目の前にいる奏がだいぶやる気になっているという事である。


槍を持つその表情も、気迫も、威圧感も先程とは比べ物にならない。


一撃で殺されるかもしれないなと思いながら康太は最大限の警戒と共に奏との距離を測っていた。


互いにリーチは同じ。相手が自分に攻撃できるという事はつまり自分も相手に攻撃できるという事である。


自分の槍のリーチはよく理解している。どの距離まで行けば攻撃できるのか、そのくらいはわかっているつもりだ。


互いに間合いを測りつつある中、先に動いたのは奏だった。


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