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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」

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肉薄

「お・・・おぉう!?なんだかすごい状況だね・・・!」


康太と奏の拮抗状態を最初に目撃したのは荷物を運んでいた幸彦だった。


康太が壁に奏を追い詰め、まるで迫っているように見えるその状況は一見すれば見てはいけない類のものではないかと思えるほどだ。


康太と奏がそれぞれ槍と木刀をその手に持っていなければ康太が奏に迫っているように見えただろう。


万が一見え方が違っていたら幸彦は謝罪しながらこの場から撤退していたかもしれない。


そのように見えなかったのはある意味幸運というべきだろう。


「ちょっと予想外な状況だね・・・まさか康太君が奏姉さんを追い詰めてるだなんて・・・これはもしかしてもしかするかもかな?」


「幸彦・・・あまり見てくれるな。私としてもこの状況を恥じているところだ。こいつの実力を見誤った結果だな」


「ははは・・・油断しすぎたってことかな?康太君はさーちゃんの弟子なんだから、ちゃんと警戒しておくべきだったかもね」


「あぁ・・・本当にその通りだ・・・魔術でも使わん限りこの状況は変えられそうにないな・・・」


必至に康太が槍を動かして追い詰めようとするのを、奏はもはや自らの筋肉で打開できるとは思えなかった。


それこそ魔術を使わない限りは脱出できない。自分が油断した結果なのだ、最低限の抵抗はするつもりでいるしそう易々と勝たせるつもりもない。


だがだからと言ってこれ以上抵抗して、なおかつ対抗してどのように抜け出すか、それを考えても答えは出なかった。


腕はすでに使えなくなっている。これで力を少しでも緩めれば槍で体を押さえつけられてしまうだろう。その状態になったらまさしく詰みだ。


足での脱出も望めない。なにせ康太の足が奏の足の間に割り込んでいるのだ。この足のせいで体勢を下にずらして脱出するという行動もできなくなっている。


しかも康太の方が身長が高く、上から押さえるようにしているために上に逃げるということもできそうにない。


まさに詰みに近い。ならばどうするか。


いっそのこと武器を捨てることも考えた。木刀を手放し肉弾戦で康太に相対するという事も思慮に入れた。


だが足を抑えられている状態で拳をぶつけたところで康太は止まらないだろう。それどころか完全に両腕も抑えられてしまう可能性がある。


本当に力だけで言うならば康太の方が上だ。この状況に持っていかれる前に対処するべきだったのだ。


唯一の隙は康太が奏の腕を完全に捕縛しようとする瞬間だ。その瞬間には康太の槍も、そして腕も力を込めるのを止めるはず。


奏はその一瞬の隙を突いて行動するつもりだった。


優位な状況、そして止めを刺す瞬間こそもっとも油断するものだ。特に自らの作戦がうまくいった時などはその傾向が強い。


奏は踏ん張りながらギリギリまで康太の出方を窺うつもりだった。そしてほんの少しでも力を抜けばその瞬間に行動を起こすつもりでいた。


だがその考えは目の前の康太の表情を見て覆される。


康太は全く油断していないのだ。それどころか奏が行動を起こすのが前提であるように見える。


そこで奏はもう一度思い出す。目の前にいるのは小百合の弟子なのだと。


普段からして格上との戦闘を行っているのだ。どんなに自分の作戦がうまくいったところで油断できるはずもない。康太はそのあたりをよく理解している。


例え腕を捉えても康太は油断しないだろう。たとえ武器を奪ったとしても康太は警戒し続けるだろう。


こうなってしまっては奏ができることはもうない。康太を甘く見過ぎたことが自分の敗因だなと悟り、小さく息を吐く。


「私の負けだ。力を抜け」


康太と幸彦の前で負けを認めた奏だったが、康太は未だ力を抜くつもりはなかった。


「・・・どうした?私は降参したぞ?」


「・・・いえ・・・あの・・・師匠が何回か負けを認めたと思わせて不意打ちしてきたことがあったんで・・・一応・・・」


康太の警戒の色が全く薄れておらず、むしろ強くなっているのを見て奏は笑ってしまう。


小百合は本当に徹底した指導を施しているのだなという事を理解し、そしてこの弟子はそれをしっかりとものにしているということを知り少しだけ嬉しくなったのだ。


だが同時にその危険性も感じ取っていた。


康太は敵に対して油断というものをしない。徹底的に疑い、追い詰め、叩き潰すという事を繰り返すだろう。


それはすでに戦闘不能になった相手を徹底的にいたぶるという事でもある。最悪それは誰かを死に至らしめる行為だ。こんな子供がそんなことに慣れてしまうことに、奏は一抹の不安を覚えていた。


「・・・なんというか・・・お前はよくよく似ているな・・・」


「え・・・それって師匠にですか?」


「・・・あぁそうだな・・・その通りだ。お前は師匠によく似ている」


師匠に似ている。それが小百合のことを指しているのか、それとも智代のことを指しているのか、康太は理解できなかった。


この戦いが一度終わったのだという事を理解し、康太は力を緩めて一気に奏から距離をとった。


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