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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」
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康太の策

突きという攻撃の性質上、攻撃範囲はかなり狭まる。だからこそ回避すること自体はそこまで難しくはないが防御するのはそれなりに難易度が高い。


防御の中でも受け流したり弾いたりする程度ならば康太にもできる。だが真正面から受け止めるとなると防具でもない限り防ぐのは難しい。


その為基本的な突き攻撃の回避方法は三つに分けられる。


まず左右への回避。これが一番簡単かつ確実な方法だ。先も言ったが突きというのは攻撃範囲がかなり狭い。斬るというある程度範囲のある攻撃に対して突き攻撃の効果範囲はその刃の直線延長戦上でしかない。その為軌道を読んでその攻撃範囲からいなくなってしまえば容易に回避できる。


二つ目は弾く方法。突きを行っている力を別の方向に受け流す。これもかなり成功率は高いだろう。


力というのは真正面から受け止める分には同等の力が必要になるが、横から、あるいは別方向からの力でその方向をずらすだけならそれほど大きな力はいらない。


だがその分タイミングを逃せば体のどこかしらに当たってしまう。そう言う意味では先程挙げた左右への回避と組み合わせることで確実な回避が可能になるだろう。


そして三つ目、これが一番難易度の高い対処法だ。それは真正面から受け止める事。


防具などがある場合を除き、これができるのは相当な実力者だけである。


何故なら槍の切っ先を見極め、その軌道を完全に把握し、自らの武器の切っ先を完全にその軌道に沿わせ同等の力で受け止める。


確実ではないにせよ、相手に自分の実力を思い知らせるにはいい受け止め方だ。漫画などで見たことがある者もいるかもしれない。


奏の場合であれば何も切っ先で受け止めなくとも、木刀の柄部分を用いて受け止めてもいいのだ。彼女ならその予想に反した防御あるいは回避行動をしてきても何ら不思議はない。


だが康太はあらかじめある程度予測をしていた。


そしてその予測は大まかながら的中することになる。


康太の直線的な突きに対して、奏は木刀を軽く操り、切っ先を受け流すような形でその軌道を逸らして見せた。そしてその反対側へ体を緩やかに動かすことで容易に回避して見せる。


先にあげた受け流しと左右への回避の複合だ。


考えられる中で最も確実で安全な回避方法。奏がこの方法で回避する可能性はかなり高かった。


相手が自分との実力差を理解している中でわざわざ危険な回避方法をとる必要性がない。最も確実な回避方法を普通に取る。そしてその予想は的中した。


当然ただ回避するだけで終わるとは思っていなかった。回避と同時に反撃が来る、康太はそこまで予想していたのだがその予想は外れることとなる。


奏は回避した後康太を見続けていた。観察されている。攻撃が回避された後どのような行動に出るかを見極めようとしているのだ。


予想はほとんど的中したが、若干外れた。だがこの程度であれば十分許容範囲だ。


康太は突きが回避されるとわかった時点ですでに行動していた。


突進しながら受け流された方向へ槍をそのまま反転、すり抜ける形で体ごと回転しながら柄をその顔めがけて叩き付けようとしていた。


だがその動きも完璧に見切られ、木刀で受け流すまでもなく顔を少し逸らせるだけで回避されてしまった。だが槍というのはその性質上、回転することによって攻撃回数を増す。


康太はさらに反転、今度は刃を用いてその胴体めがけて横薙の攻撃を放った。


横薙の攻撃は回避しにくい。特に胴体部分に関しては回避が難しい。なにせ胴体への攻撃を避けるには体全体を動かさなければいけないのだ。その分回避運動は大きくなるし余計な隙も生まれる。


だからこそここで奏は木刀を使って横薙の攻撃を受け止めた。


槍の回転による攻撃は慣れていないとその分足元が疎かになり、力をかけにくくなる。行ってしまえば威力が落ちる。


熟練した槍使いならば体ごと回転させた状態でも体重を乗せた一撃を放てるのだろうが、そのあたり康太はまだ未熟、軽い一撃しか出せない、だからこそ回転系の攻撃では刃を用いての斬撃を繰り出すことにしているのである。


だが康太の目的はすでに達した。奏は自分の攻撃を木刀で受け止めたのだ。


奏が康太の槍を木刀で受け止めた瞬間、康太は回転を止め槍を奏の方へと押し付ける形で力を込めていく。


当然奏もそれに反発するように力を込めるが、体勢を整えた康太と奏の地力、どちらが上かなど比べるべくもなかった。


体重、そして筋力、どちらも康太の方が上なのだ。


確かに奏は魔術師としては優秀だろう。肉体強化の力を使えば奏の方が高い身体能力を得られるだろう。だが男子高校生の康太と、女性の奏でどちらが筋力が上かなど聞かずともわかることだった。


康太が筋力勝負に出たことで奏は康太が何をしようとしているのかを推し量ろうとするが、康太は絶妙に力加減を変えながら奏を徐々に押しのけていく。


技術も何もない単純な力比べ。もちろん奏の技術をもってすれば受け流して康太に一撃を加えることくらいはできるかもしれないが、すでにそれはできない状況になってしまっている。


康太は奏にかける力を調整しながら、槍と鍔競りあう木刀の位置を微妙に調整していた。


この状態から力を受け流して攻撃するには、槍を上方に受け流し、康太の懐に入るかすり抜ける形で腹部への一撃が一番簡単だ。だからこそ康太は木刀の位置を徐々に下の方へとずらしているのだ。


技術では敵うべくもない。だからこそ康太は単純な力勝負に持ち込もうとし、その思惑は見事成功したのだ。


「・・・この体勢にして・・・何を狙っている?このままではお前も攻撃はできないだろう・・・?」


「えぇ・・・でもこの状態でいいんですよ・・・いや・・・ここからが問題かな・・・!」


康太は槍に力を込めていき、徐々に奏を後ろの方に運んでいく。


ここは部屋だ、当然ながら押しのけていけば壁がある。康太は難なく奏を壁まで押しのけるとさらに力を込めていった。


「・・・若い男に迫られるのは・・・悪い気分ではないんだがな・・・!」


「そうですか・・・!?ならもうちょっとアプローチかけましょうか・・・!」


既に奏は木刀を柄だけではなく、刀身部分も使って全力で康太の槍を支えている。腕をまっすぐにしてこれ以上押し付けられないようにしているが、それも時間の問題だった。


だが壁に押し付けられたことで幸か不幸か足は自由になっている。ここで蹴りでも入れれば脱出できるかもしれないが、そうするよりも早く康太は自分の足を奏の足の間に刷り込ませた。


急所への攻撃は小百合の常套手段だ。この程度の対応であれば康太もまだできる。足を上手くつかい、ただの蹴りでは急所への攻撃はできないようにして見せると奏は笑いながら歯を食いしばる。


奏の技術は高い。大抵の状況であればその技術を使って上手く対応できるだろう。だがすでに技術でどうにかなる状況ではなくなってしまった。


康太の出方を窺いすぎたせいで、そのタイミングを完全に逃してしまったのだ。

康太は自分との実力差を正確に把握していた。だからこそ単純な攻撃を繰り出すことで奏に『まだ先に何かあるのではないか』と考えさせた。


奏が攻撃を誘っていることから、康太の攻撃がどのレベルのものかを把握しようとしたのだろう。その考えは間違っていないし、康太の実力を知りたいのであれば最も適切な行動だと言ってもいい。


だが問題は奏の考えと康太の考えが必ずしも同じではないというところにある。


奏は康太の実力を見たいからこそ攻撃を誘った。康太がどの程度槍を使えるのかを確認したかったからこそ待ちの構えをとったのだ。


だが康太にとって実力とはただ槍の技術だけではない。どのように戦うか、どのように事を有利に運ぶか。そう言った戦術面でのところまでが実力に含まれると思っている。


最初から二人の状況設定は異なっているのだ。奏は槍の技術を見るという条件での戦いで、康太の槍の技術を見ることが目的だった。


だが康太にとってこの戦いは自分の実力を示すためのもの。その上で一矢報いることができれば御の字。この二つの違いは小さいようで大きかった。


康太にとっての勝利条件は相手に一泡吹かせる事。そう言う意味では康太の思惑はすでにこの上なく成功していると言って良いだろう。


だがまだ行ける。康太はそう判断していた。


勝つにしろ負けるにしろ、相手が油断してくれていたおかげで作れたこの状況を無為にすることはない。


勝負において、勝手に油断した相手が悪いのだ。


そう言う勝負における非情さを、康太は小百合から学んでいた。


槍に込める力を強くし、康太は徐々に槍を移動させていく。


奏は腕をまっすぐにした状態で踏ん張っている。その為これ以上押し込むのは難しいだろう。だがその方向をずらすことくらいはできる。


徐々に徐々に右へ、間違っても木刀の力を抜いて反撃できないように力加減を調整しながら奏の木刀を正眼の位置からずらしていく。


奏も康太の思惑を理解したのだろう、何とかこの状態を維持、あるいは打開できるだけの状況を作ろうとしているが単純な力勝負で男に勝てるはずもない。


体をずらして何とか正眼を保とうとするが、奏の足の間に割って入った康太の足がそれを許さなかった。


「なるほどな・・・私に勝とうとしているわけか・・・!」


「・・・最初は・・・ちょっと一矢報いることができれば・・・くらいに考えてたんですけどね・・・あんまりに様子を見てくれるからちょっと欲が出てきました・・・!」


「・・・くはは・・・お前を甘く見過ぎたか・・・思っていたよりずっとお前は男だったという事だな・・・!」


「・・・褒められてると思っても?」


「あぁ、十分以上に褒めているつもりだ・・・!」


自分が油断していることを理解し、実力差を把握したうえで相手を動かした。先程までの防御で康太の対応が早く、なおかつとっさの判断ができるタイプであるという事は理解していたが奏は康太の評価を改めていた。


とっさの判断というレベルではない、康太は思考の速度が速いのだ。


どのようにすればいいか、どうすればうまく事が運ぶか、その考えをするのが非常に早い。


攻撃に対して半ば反射に近い反応速度で対応するのは小百合の指導によるものだが、攻撃時の対応とその判断の早さは康太が自分で考えて繰り出しているものだ。


それにもかかわらず康太は状況を正しく理解したうえでそれに対しての答えが出せる。


ただ考えなしで戦っているのではない。康太はしっかりと考えを持って戦っている。


「なるほど・・・この状態では私はすでに詰みに近いな・・・!」


「えぇ・・・詰みの状態にするのが俺の目的です・・・まぁ魔術なしでの戦いに限られますけど・・・!」


本来であればこの状態になったとしても奏ならば魔術を用いていくらでも対応できる。


だが康太が魔術を使っていないというのに自分だけ魔術を使うというのは奏のプライドが許さなかった。


そのあたりも康太は把握済みだった。自分が魔術を使わない限り、この人は魔術を使わない。その確信があった。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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