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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」
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得意な武器

「あの・・・奏さんって武器の扱いが得意なんですよね?魔術とかはどうなんですか?」


「魔術か・・・あの人は師匠の持つ魔術の全てを受け継いだ人だ。正確な実力はわからんが少なくとも師匠と比肩できる人物であるというのは確かだな」


「何を言ってるの。あの子の方がもう実力的には上でしょう。私の持ってる魔術は全部渡したんだから。あとはあの子が自分の好きな魔術を覚えてるでしょうし」


智代は口ではそう言っているが、その目ではまだ負けるつもりはないという強い意思を見せていた。


魔術師における優劣というのは何も魔術の数だけではない。康太がかつて文に勝った時と同じように、魔術をどのように扱えるかというのが重要になってくるのである。


たとえ相手が優れた道具を有していたとしても、それを完全に扱えるようになっていなければ無用の長物。そしてそれは魔術も同じことだ。


応用し、適切な状況で適切な魔術を使い、相手をいかに翻弄するか。それこそ魔術師としての強さに直結するのだ。


「智代さんと奏さんは、今まで戦ったことはないんですか?」


「もちろんあるわよ?でも互いに一人の魔術師としての『殺し合い』はしたことがないわね。いつも師と弟子としての訓練だったから」


穏やかな口調のまま殺し合いという単語が出てきたことに、康太は僅かに戦慄するがそれ以上に気になったのは今まで本気で戦ったことがないという点である。


智代は『敵にしてはいけない』と評価されるほどの魔術師だ。敵にすること自体が敗因に数えられてしまうほどの魔術師に比肩できるという時点で奏もかなり強大な魔術師であるという事がうかがえるが、問題はこの二人が今まで実際に矛を交えたことがないという事である。


師匠と弟子なのだから当然かもしれないが、二人は互いの本気をぶつけたことがない。それはある種良いことなのだろう。余計な犠牲を出さずに済んでいるという事でもあるのだから。


小百合や幸彦としても、智代と奏の本当の全力での戦闘を見てみたくないというわけではないだろう。だがそれは恐らくどちらかの死を意味する。


見てみたいという反面、そんな光景は見たくないという思いが二人の中にはあった。


「ちなみに、奏さんは武器の扱いは誰に教わったんですか?相当の数使えるみたいですけど・・・」


「あの人に武器の扱いを教えたのは師匠だ。何でもかんでも吸収していくから日々楽しそうに教えていたそうだ」


「まさか私の使える武器全部使えるようになるとは思わなかったけれどね。そう言う意味では小百合もなかなかよ?得意な武器は異なるみたいだけど」


奏の得意な武器は康太と同じ槍だと聞いた。その実力には天と地ほどの差があるだろうが同じ槍を使うという意味では康太と奏には共通点がある。


だが康太はふと思いつく。自分は小百合の得意な武器を知らないのだ。


「そう言えば師匠ってどの武器が一番得意なんですか?今までいろいろ使ってきてますけど」


今までの訓練の中で小百合は数々の武具を扱ってきた。短刀、刀、槍、長剣、鈍器、それこそその種類には制限など皆無だった。


今まで使った中に彼女の得意な武器があるのであれば、それはそれで頭に入れておきたい情報でもある。


「私が一番得意としているのは刀だ。本当なら鈍器の類の方が性に合っているんだがな・・・うまくいかんものだ」


好みとしては鈍器の方がいいのだろうが、実際の扱い自体は刀の方が得意なようで小百合は少々不満そうにしていた。


確かに鈍器を扱っている小百合は生き生きしていた。思えば刀を扱う時も実際に刃のある真剣ではなく木刀を使っていたように思える。


「姉さんは?どんな武器が得意なんです?」


「私が得意なのは打撃の武器の中でも少々特殊ですね。三節棍と言えばわかりやすいでしょうか」


「あー・・・あのヌンチャクの棒バージョンみたいなやつですか」


三節棍とは通常は棒状の一本の棍を接合部に鎖などを仕込むことによりより複雑な扱いをできるようにした武器である。


康太のいうようにヌンチャクのように扱うこともできれば、強度は落ちるが普通の棍としても扱うことができる。


だが康太は今まで真理が三節棍を使ったところを見たことがなかった。


「でも普段使わないですよね?それってやっぱり俺に加減してくれてるんですか?」


「あー・・・まぁそれもあるんですけど・・・あれ使うとノリノリになっちゃって・・・自制できなくなるんですよね・・・」


「あぁ・・・なるほど・・・」


恥ずかしそうに笑う真理を見ながら康太は今ここで思い出す。彼女は常識人に見えてれっきとした小百合の弟子なのだ。


以前見た徹底的な追い詰め方から察するに、彼女はかなり攻撃的な魔術師であるという事がうかがえる。


それがいいことなのかどうかはさておいて、少なくとも小百合が使える魔術のほとんどを彼女は修得しているのだ。


それこそ康太が覚えている以上に破壊に精通していると言って良いだろう。彼女自身の性格というのもあるだろうが、勢いづくと自分でその勢いを止められなくなるのかもしれない。


「とにかくだ、あの人の所に行くならそれなりに注意しろ」


「は・・・はぁ・・・何かアドバイス的なものは・・・?」


「・・・とりあえず無事に帰って来い。それだけだ」


まるで戦場に行く人間に対する送り言葉だなと思いながら康太は項垂れる。だが項垂れていても仕方がないと再び箸を動かし始める。腹が減っていては何もできない。こういう時こそ腹に飯を入れるべきなのだ。



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