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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
七話「破壊の源を与えたものたち」

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夕食時の不安感

「この剣って、どれくらい使ってたんですか?」


「一年半ほどだ・・・手入れもしていたんだがやはり限界があってな・・・もともとこういった剣は脆いが、何回か無理をしてな」


康太が小百合に折れたレイピアを渡すと、彼女は懐かしそうにその剣を眺めていた。一つ一つの傷に彼女なりの思い入れがあるのだろう。しっかりとその剣を眺めながら目を細めていた。


「僕たち魔術師は個人的な記録を残すことはできない。でもこうして自分の扱った武具や道具を保存しておくことはできる。もちろん協会に頼めば廃棄してもらえるけどね」


「あぁそっか・・・一応こういう武器って捨てるといろいろ問題になりますもんね」


康太は基本槍を扱っているが、日本には銃刀法という法律がある。ある一定の刃渡りを持つ刃物や銃火器を所持する場合は資格や申請が必要となる。銃に関しては間違いなく一般人は持つことはできない。


いくら自分が使っていたとはいえそのあたりのゴミ捨て場に勝手に捨てておくなどということはできないのである。


もしそんなことをしたらいろいろと面倒が起きる。その為劣化したり破損した武具や道具などは協会に持っていき正式に破棄することになっている。


周囲の目に触れないように、秘密裏に処理されるのが普通なのだ。


「ひょっとして、他の武器も保存してあるんですか?」


「どうだったかな?一応よく覚えてるのがそれってだけだから全部保存してあるかはわからないよ。でも僕や奏姉さんの最初の武器も一応保存してあるみたいだったよ」


最初の武器。


どんなものでも最初に所持した武器というのは思い入れができるものだ。康太の場合は木刀だったが、どちらかというと今所持している槍の方が思い入れとしては強い。


「師匠は剣を使う事の方が多かったんですか?普通に何でも使えるイメージありますけど」


「最初は剣でその後にいろいろ学んだんだ。奏姉さんは武器の扱いが非常に上手くてな・・・あの人と訓練していくうちに大抵のことはできるようになったんだ」


「あー・・・あの人は半端ないからね・・・大抵の武器は一流並に扱えるから・・・一番得意なのが槍だったっけ?」


「あの人の槍術には手を焼かされた・・・結局一度も勝てないままに終わったからな・・・」


一番得意なのが槍と聞いて康太は若干興味を持っていた。小百合以上に槍の扱いが上手いとなると恐らくその実力は康太の何十倍何百倍にも達するだろう。


一度指導してほしいものだと思う反面、恐ろしい人物であるという事は聞き及んでいるために若干会いたくないという気持ちもあった。


「私がお前に槍を勧めたのもあの人の影響があるな。斬撃打撃突き投擲、一つの武器でこれほどの多様性を見せる武器は他にないというのはあの人の言葉でな」


「そうだったんですか・・・槍の扱いはそこそこできるようになりましたけど・・・やっぱまだ勝負にはなりませんかね?」


「素人の方が成長するのは早い。ゼロ点を五十点にするのは容易いが八十点を百点にするのが難しいのと同じように上達すればするほど成長するのは難しくなる。私に勝てないようではあの人にも勝てん」


康太はこの二月まで全くの素人だったのだ。その状態から武器を手に入れ魔術を手に入れ、日々訓練することでただの素人からある程度技術を持った素人にランクアップしただろうが、康太の技術はまだまだ拙い。


この二月から訓練を始めたのだからそれを考えると目覚ましい上達だという事には変わりないが、何年も訓練を続けてきた上級者に比べるとやはり見劣りするところの方が多いのである。


戦いを挑むということに対してすぐに勝ち負けを意識するのは小百合らしいというべきだろう。その光景を見て幸彦は微笑ましそうにしていた。


「・・・何笑ってるんですか?何かおかしなことでも?」


「いやいや、さーちゃんがちゃんとお師匠様してるんだなって思うと感慨深くてね。昔を知ってるからなおの事さ」


「昔のことをいつまでも・・・そう言う幸兄さんは弟子はとらないんですか?今までそう言う話は聞いていませんが」


「僕はもういいかなって・・・奏姉さんもさーちゃんもそれぞれお弟子さんがいるし、何より誰かに何かを教えるって柄じゃないしね」


幸彦には弟子はいないようだが、もう一人の兄弟子である奏には弟子がいるようだ。


一体どんな人なのだろうかと気になるが、それよりも幸彦に弟子がいないという事の方が驚きだった。


幸彦の性格や先程の戦いを見ても指導が下手とは思えない。絶妙な加減の仕方や戦い方、どれをとっても小百合よりはずっとましなように見えたのだ。


「でも幸彦さん普通に訓練はできてましたよね?あれくらいできるなら十分じゃ・・・」


「いやいや、僕じゃ厳しくできないんだよ。指導するに当たって重要なのは優しさだけじゃないからね。優しいだけじゃ甘いのと変わらない。時には厳しく教え込むことが大事なんだ。そう言う意味では奏姉さんやさーちゃんは適任だよ」


「一応褒め言葉として受け取っておきましょう」


優しいだけでは甘いのと変わらない。


時には心を鬼にして指導しなければ意味がないのだ。その意味を康太はよく理解していた。


小百合は確かに厳しいが、その厳しさは実戦に活きてくる。意味のない指導はしない、厳しいからこそ意味がある。そう言う指導を小百合はしているのだ。


実際訓練が実戦で役に立ったことも多い。なにせ小百合との訓練はほぼ実戦のようなものなのだ。康太にとって訓練と実戦の違いはほとんどないのである。


そう考えると、加減をしてしまう幸彦の戦いは、手合わせとしてはいいのかもしれないが修業や指導といった意味ではあまり適していないように思える。それこそ幸彦の甘さが原因と言えるだろう。







昔話もそこそこに、康太たちは出来上がった夕食に舌鼓を打っていた。


昼食の時もそうだったが、智代の作る料理はかなり美味であり、真理も手伝ったという事もあってか箸が止まらなくなるほどの絶品だった。


和食メインで野菜多め、だがしっかりとボリュームのある料理の数々に康太は次々とおかずを口の中に放り込んでいった。


今日はそれなり以上に動いていたために食事が美味しく感じるのも致し方のないことだろう。康太にとってこういった料理は非常に嬉しいものだった。


そしてそれは康太と同じく今日運動していた幸彦も同じだった。


康太よりも大きな体躯であるからしてその消費エネルギーも多いのだろう。康太以上にせわしなく箸を動かしながら食事を楽しんでいた。


「やっぱり男の子が二人いるとペースが早いわね。たくさん作って正解だったわ」


「それにしてもよく食べますね・・・やっぱり体が大きいとそのあたりも違うんでしょうか」


「幸兄さんの場合は昔から大食漢だ。もう少し品よく食べてほしいのだがな・・・」


「何を言うんだいさーちゃん。これは作ってくれた人への最大の礼儀作法だよ。美味しそうに、なおかつ冷める前に頂くことこそ一番の恩返しさ」


「全くです。冷めたらおいしくなくなっちゃうじゃないですか。がっつくくらい美味しいって思ってくれたのなら何よりですよ」


康太と幸彦の思考回路は基本的に似ているのか、満面の笑みを浮かべた後再び箸を動かし始めた。


この二人を会わせたのは失敗だったかもしれないなと思いながら、小百合は二人を眺めながらため息をつく。


「まぁまぁ、美味しく食べてくれるならそれが一番よ。それより幸彦、明日はお願いね?あとで運ぶものを教えておくから」


「わかってます。でもそんなに重いものなんですか?それならさーちゃんに車借りたほうがいいかな・・・?」


「そうねぇ・・・小百合、それでもいいかしら?」


「・・・・・・・・・・・仕方有りませんね・・・鍵は後で渡します」


本当なら貸したくないのだがという感情が容易に読み取れるほど長い葛藤だった。だが兄弟子である奏に会うよりは車を貸した方がよほどましだと思っているのだろう。小百合にここまで嫌われる人間というのも珍しい。


いや、嫌われるというより苦手意識を持たれていると言ったほうが正確かもしれない。心の底から会いたくない人物などエアリス以外にはいないのではないかと思っていたのだが、実際はエアリスよりも奏の方が会いたくない人物としては上位に入るのだろう。


「でも智代さん、今回って何を届けるんですか?魔術的な道具ですか?」


「当たらずとも遠からずよ。本当なら小百合に頼むつもりだったのだけど私のつてで手に入ってしまってね。持っていくのも取りに行くのも大変だからあなたたちに頼むことにしたの」


男手があったほうがいいでしょうからねと付け足しながら智代は笑みを浮かべる。


男手が欲しいという事はそれだけ重いものなのだろうが、康太は実際にその物品を見ていないために判断しかねるが明日は相当大変なことになると考えていいだろう。


一つは荷物の運搬という意味で。もう一つは小百合の兄弟子である奏に会うという意味で。


実際どこで何をしている人物なのかわからないために全く想像できないのだが、少なくともとんでもない人物であるということくらいは理解している。


「幸彦さん、明日何か持っていったほうがいいものとかありますかね?菓子折り的なものとか」


「んー・・・奏姉さんはそう言うのは特にはいらないかなぁ・・・あ、でも槍は持っていったほうがいいかもよ?」


「え?槍・・・?なんでですか・・・?」


槍という言葉に康太は一瞬耳を疑う。別に戦いに行くわけではないのだからそんな危険物を持っていく必要はないのではないかと思ったのだ。


そもそもどこに行くのかもわかっていないのに一応刃物のついている棒を持っていくわけにもいかない。


だが幸彦の言葉に真理は何度も頷いていた。


「そうですね、一応用心のために持っていったほうがいいかと。あと魔術師としての装備一式を準備しておいた方がいいでしょう」


「え?ちょっと待ってください、荷物を届けるだけですよね・・・?何でまたそんな警戒態勢なんですか・・・?」


「いやまぁそれは・・・会いに行くのが奏姉さんだからかなぁ・・・」


奏に会いに行くから警戒する。なんというか恐ろしい認識のされ方である。


まだ挨拶のために魔術師としての仮面を持っていくというのならば話はわかる。だが警戒という意味を含めて槍を持っていくというのは些か失礼なのではないかと思えるのだ。さすがに敵意が見え隠れしすぎているようにも感じられる。


「そうね、特に康太君はあの子に初めて会うものね。持っていったほうがいいと思うわ。あの子いい年してやんちゃだから」


「康太、確証はないがたぶん間違いなく面倒に巻き込まれる。ついでに言うとあの人もお前がどんな人物か知りたいと思うだろう。胸を借りるつもりで行ってこい」


それは死にに行けという事でしょうかと康太は言いたかったが口をつぐんだ。先程まで美味しく感じていた食事が一気に味がしなくなるほどに小百合の表情は哀れみを含んでいたのである。


ここまで小百合に同情の目を向けられたのは初めてかもしれない。それほどの瞳だった。


明日自分はどうなってしまうのだろうかと、康太は今から気が気ではなかった。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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