表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十一話「その有様」
1405/1515

四枚羽の戦い

文たちが射撃戦を行っていたタイミングで、康太は敵魔術師たちから魔力を吸い上げ始めていた。


目の前にいるこの魔術師からも吸い上げており、康太の供給魔力量は普段のそれの倍近くに上がっている。


室内ということもあって、互いに距離が制限されている状態では康太の方が有利、と言いたかったが相手もそれなりに近接戦闘を行うことができるタイプの魔術師であるらしかった。


康太に張り付いていたのだから、ある程度康太との戦いが想定されていたのだろう。康太と戦える人物が選定されたと考えるべきだった。


康太が槍を扱っているのに対し、目の前の甲羅の魔術師は小手のようなものを装備している。


小手というよりは小型の盾というべきだろうか。だが盾の部分は拳部分までカバーされており、一回り大きな拳のようにもなっている。


グローブと小手を融合したような防具とも武器ともとれる道具だ。康太の槍の刃を防ぐことができる程度には硬度があるのか、それとも魔術で強化しているのかは知らないが、先ほどから康太の槍がことごとく弾かれている。


康太の槍は決して甘くはない。小百合に鍛え上げられた槍の一撃は鋭く、並の人間では反応すらできないだろう速度を持っている。


だがそれすらも反応し、しっかりと防御している。身体能力強化に加え、反応速度も上げているのか、康太が所々に織り交ぜるフェイントにも引っかからずにしっかりと対応できている。


これほど近接戦闘ができる魔術師は珍しいなと思いながらも、康太は槍を振るい続ける。


だがさすがに相手からすれば近接戦のままでい続けるのはきついのか、時折射撃系魔術を発動して強引に康太と距離を取ろうとしている。


単純な射撃系魔術では康太の接近を止めることはできない。時には障壁の魔術を壁にするように使っているのだが、康太にとって障壁の魔術はそこまで障害とはならない。すぐに槍を使って割られてしまっていた。


射撃系攻撃も決して弱くはない。室内ということもあって射程距離が限りなく短いがその分威力が高い攻撃を連発してくる。


一発でも当たれば多少のダメージにはなってしまうだろうと康太は予想していた。


このままいつまでも時間を引き延ばしているわけにはいかないなと、周辺に一般人がいないことを確認してから康太は姿勢を低くする。


相手も康太が攻撃態勢に入ったことを理解したのか、拳を構えて防御態勢をとっていた。


瞬間、康太が強く発光する。


先ほどまで暗く、索敵を使わなければうまくものを見ることもできなかった室内が一気に昼間以上に照らし出され目くらましとなる。


だが物が見えなくなっているその状態で、魔術師は康太のその姿を見ていた。


頭部から生えた羽、後頭部から延びた尾、そして背中には双剣笹船がまるで羽のように広がっている。


「出たな、四枚羽・・・!」


四枚羽というのはおそらく康太のこの姿のことを言うのだろう。審議の時にも出ていたが、どうやらこの姿の名称として本部の中で広まっているらしかった。


「その呼び方嫌いじゃないけど、もうちょっと格好いいのなかったのか?一応俺の本領っぽい姿なんだけど?」


「それは名付けた人間のセンスに文句を言ってほしいね・・・俺が名付けしたわけじゃないんで」


「まぁそりゃそうか。なんか格好いいの考えておいてくれよ。そうすれば少しはやる気も出るだろ?」


そう言って康太は電撃を強めていく。康太が本気を出そうとしているという言葉に、魔術師は警戒して攻撃に備えようとしていた。


瞬間、康太の体から電撃が放出される。


放たれる電撃に対し、即座に反応して障壁を展開し電撃を防ぐ。反応としてはかなり良い。やはり康太と戦えるだけの人選であることは間違いなかった。


康太の電撃の威力が低いとはいえ、ほぼノーモーションからの電撃を即座に防げるあたり、防御と反応速度に秀でた魔術師であるのは間違いない。


久しぶりに一対一で戦えると、康太は槍を構えながら少しだけ楽しくなっていた。たいていの魔術師は康太に対して複数人で当たろうとする。そのため康太は多対一の戦いが多かった。


一対一でこうして向かい合って戦ってくれる魔術師というのは非常に貴重な存在だ。


目の前に展開された障壁を槍で砕きながら、康太は障壁の向こう側へと突入する。


だがそれを見計らっていたのか、魔術師から勢いよく炎が放たれる。


さすがに何度も障壁を割られれば障壁が康太にとってほぼ無意味だということは理解できたのだろう。

そして康太が障壁を割った後の行動も把握できたようだった。


康太に向けて放たれた炎を、康太は暴風の魔術を使って押し返す。強烈な風によって煽られたことにより炎はより威力を増し、魔術師の元へと戻っていく。そして康太の神化状態によって電撃を含まれていた風は魔術師の動きを一瞬とはいえ拘束していた。


だが相手も風に電撃が含まれるということをすでに知っていたらしい。審議の時にこの姿でそれを行っていたからかもうすでに情報が出回っているようだった。


体が動かないのであれば強引に動かせばいいといわんばかりに、念動力によって自分の体を動かして康太めがけて体当たりを放つ。


体格の違いからか、康太の体は吹き飛ばされてしまうが、康太の体に触れたことによって相手はさらに電撃を受けてしまう。


これからは康太に、そして康太の近接攻撃に触れるだけで電撃のダメージが入るということを理解したのか、これ以上近づくことは下策だと判断し射撃系魔術をメインに攻略を組み立てるようだった。


だがそれこそ康太の狙いだった。


近づけば不利となれば相手は遠のく。普段康太が一番慣れている戦い方に相手を引きずり込むことができる。


例え近接戦を得意としている者でも、拳を合わせるだけで、武器を防ぐだけで電撃を受けるとなれば近接戦を避けて戦うほかない。


そうなれば射撃戦、距離をとって戦うほかなくなるが、康太にとってはそれこそが最も慣れた、一番戦いやすい形になるのだ。


自分の得意な状況に相手を引きずり込む。それは戦いにおいて基本であり、最も重要なことだ。


「いつまで逃げられるかな!」


康太は暴風の魔術や旋風の魔術を発動して魔術師めがけて電撃を当て続ける。相手は威力こそ低いものの、電撃を体で受けていることでその動きがかなり阻害されてしまっていた。


密室空間において広範囲に攻撃をまき散らせる暴風の魔術はかなり有用だ。定点発動型の旋風の魔術も相手の障壁を無視して当てることができるために、魔術に電撃が付与される神化状態との相性もいい。


このままじわじわと確実に相手を倒してもいいのだが、正直今のままでは倒すのに時間がかかりすぎてしまうと康太は判断していた。


相手の魔力を吸い続けているということもあって相手の行動はかなり制限されている。ここで一気に決めて早く文たちの援護に回りたいところだった。


とはいえ相手が防御を固めている状態で攻撃を通すのはなかなかに難しい。しかも攻撃で建物を壊してはいけないとなると高威力の拡大動作や熱量転化のコンボも使えない。炸裂鉄球なども外れた時に痕跡として残ってしまうために良くないだろう。


となれば康太がもっている魔術の中でも対人に向いている攻撃を使うしかない。


しかも相手を傷つけすぎてもいけない。今後副本部長との間に無駄な溝を作るのは良いことではない。


「こういう、ちまちましたやり方は俺好みじゃないけど・・・仕方ないか」


小百合のように何も考えずにとにかく壊すということができればよかったのだが、あいにく康太はそういう性格でもなかった。


状況的にそれができるというのであればそれをするが、それが難しいとなれば別の手段を取らざるを得ない。


「こ・・・の・・・!」


痺れているせいで言葉もうまく話せていない本部の魔術師相手に、康太は槍を構え、ウィルによって双剣笹船を駆動させていく。


「喋りにくそうだけど最低限動けはするか。まぁ、出力弱いしこんなものか。ただやっぱりこの状態維持するの疲れるな」


そう言って康太は一時的に神化状態を解く。訓練によって短い時間であれば戦闘にも耐えられるようにはなったが、やはりまだ長時間の維持は難しい。


さらに言えばこの状態で近接格闘を行うのはまだ無理のようだ。


赤黒い鎧姿となった康太に、魔術師は痺れる体を動かしながら対峙する。


ダメージは深刻だ。何より深刻なのは体に残る麻痺と常に吸われ続ける魔力だった。


魔力が常に吸われ続けるということもあるが、この建物を壊せないというこの状況が、康太同様魔術師の攻撃手段をかなり減らしていた。


さらに言えば康太の使う電撃、これが単なる電撃だったのであればよかったが、風や炎といった他の魔術に紛れる形で襲い掛かるために防ぎにくいのがこの魔術師にとっての大きな誤算だった。


射撃系魔術で応戦すれば、康太は意にも介さず襲い掛かるだろう。今まで何人もの魔術師とそのように立ち回ってきたのだ。


そのことをこの魔術師はほぼ正確に理解していた。


射撃戦では勝ち目はない。だが近づけば当然電撃によって動きを封じられる。戦いようがない相手とはまさにこのことだろう。


康太に勝つためには近接戦を行わなければならない。だが近接戦を行えばそれだけ電撃によるダメージを受ける。何より電撃によって体の動きが一瞬とはいえ封じられてしまう。それは康太ほどの相手にとっては致命的だ。


射撃戦で勝つには康太の回避能力、突破能力を超える威力と密度の魔術をぶつけなければならない。


だが康太は常に相手の魔力を一定量吸い続けている。その状態では高い威力の魔術を回避不能なレベルでの高い密度でぶつけることはできない。


このような密室空間ならばこの屋内を射撃系攻撃で埋め尽くすのは難しくはないだろう。だがそれは威力が伴っていなければの話だ。


康太を怯ませることができるレベルの威力を保持するためには多量の魔力が必要となる。その魔力を康太に奪われてしまっているために、相手からすればどのような手段を用いても勝つことができない、はっきり言って最悪の部類に属する戦いを強いられることになってしまっているのである。


康太が鎧状態に戻ったことで、電撃が付与されることはなくなったが、魔術師からすれば近接戦闘を行えるとは思えなかった。


いつでもあの状態になれるというのは把握済み。近接戦に応じた瞬間に電撃を付与し、動きを封じるつもりであるのは見え見えだった。


だがさらに鎧を操り、槍だけではなく羽のようにしていた剣まで使いだしたというところで魔術師はすでに勝つことをあきらめていた。


だからこそ、勝つ以外のことを目的として見出していた。


「どうしたよ、来ないのか?」


「・・・悪い悪い。けど俺の目的はお前に勝つことじゃないんでね」


その言葉に康太は眉をひそめた。そして魔術師が動いた瞬間に走り出す。


壊した壁から逃げようとする魔術師めがけて遠隔動作の魔術を発動し、その足を引っかけ転ばせる。


「逃がすかよ!」


「逃げるに決まってるだろこんなの!」


勝てないと判断するや否や逃走。しかも相手の目的はただこの場から逃げることではない。


あくまで彼らの目的はローラローとその仲間の確保だ。康太と戦って勝つことではない。


勝つことができればそれが一番よかったのかもしれないが、それができないとわかったからには身もふたもなく逃げ出す。


目的を果たすためには手段を選ばない。戦闘能力も高いうえに状況判断も可能という厄介なタイプだ。

引き際をわきまえているという意味ではかなり優秀な部類になるだろう。


この状況でこの魔術師を逃がすと面倒なことになる。状況をかき回されるのは康太たちからするとよくない。


転んでもすぐに態勢を整えて念動力の魔術を同時に発動して逃げようとする魔術師に、康太は遠隔動作の魔術を発動しながらなんとかその場にとどめようとする。


康太はもとより拘束系の魔術を持っていない。そのほとんどが攻撃か補助系の魔術であるために、相手をその場に引き留めるといったことがとにかく苦手だった。


相手に先回りすることも考えたが、相手もそれなりに高い速度で移動している。このまま追いかけっこを続ければ間違いなく文たちが戦っている場所にやってきてしまうだろう。


「逃げるとか本部の魔術師のくせに恥ずかしくないのか!正々堂々戦え!」


「お前が言うか!正々堂々とかお前が言うか!魔力持ってくし、よくわかんない状態になるし!卑怯なのはお前だろ!」


「ざけんな!こっちは正々堂々卑怯なんだよ!そっちも正々堂々やらんかい!」


「知ったことか!こちとら仕事で来てるんだ!命までかけられるか!」


「手加減してやってんのにその言い草はなんだ!建物壊さないようにすごい気を使って戦ってんだぞこっちは!」


「それはこっちも同じだ!」


逃げながら、そして追いながら二人は罵詈雑言を吐き捨てあう。その声が建物の外に響かないように少し離れた場所でアリスが防音のための魔術を発動しているのは二人は知る由もない。


逃げ回っている魔術師が、さらに下の階に到着しようとした瞬間、その顔面目掛けて鋭い蹴りが直撃する。


完全に後方からきている康太に気を取られていた魔術師はその蹴りをまともに受けてしまい意識を喪失し、そのままの速度のまま壁に激突してしまう。


「ビー、何をやっている。仕留めるならしっかり仕留めなさい」


「エアリスさん!」


蹴りを放ったのは春奈だった、いつの間にか戦闘を終わらせたのか、階段のところまでやってきていたようである。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ