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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十一話「その有様」

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知らない者

「すいません、お手を煩わせて・・・すごく良い蹴りでしたね・・・まさか近接戦ができるとは・・・」


康太から見ても春奈が放った蹴りは恐ろしく鋭く、体重の乗った良い蹴りだった。あれを移動中に顔面に受ければ意識をなくすのも無理のない話である。


その後移動の勢いそのままに壁に激突したのは仕方のないことだろう。


「あのバカと一緒に行動していたんだ。最低限出来るようにはなる・・・これは本部の魔術師か?」


「えぇ、そう言っていました。すいません、お手数をおかけしました」


「ビーから逃げようとする判断は間違っていない。勝てない相手に勝とうとしないだけ、こいつは優秀な魔術師だろう。副本部長もいい手駒を用意しているらしい。多少数が足りんのは否めないが」


「おそらくは他の場所を調べているんだと思いますよ。俺が出した情報のあぶり出しに気を取られてるって感じっぽいです」


「なるほど、やったことの結果は出ているということか。こいつは常にビーを見張っていたやつということだな。ならなおのこと早めに事を進めたほうがよさそうだ」


このレベルの魔術師が複数人存在した場合、康太でも勝つのが難しくなってしまう。一対一だったからこそまだ圧倒できたが、近接戦もできて射撃戦もできて、しかも連携もできるような魔術師に囲まれるとさすがに勝つのは難しい。


状況が康太に味方をしてくれていればいいのだが、おそらく相手が攻めてくるときはそう簡単にはいかないだろう。


春奈の言うように早く事を進めたほうがよさそうだった。


「こっちの制圧は終わったんですか?」


「あぁ問題なく終わった。あとは地下階層だ。今トゥトゥが水没させているところで、そっちにはジョアがついている」


「姉さんがついているなら問題はなさそうですね。ベル、建物の中にローラローはいるのか?」


「いるみたいよ。地下にいるわ。今地下はほぼ完全に水没してる。そろそろ引き上げないとやばいかもね」


「そのあたりの調整は姉さんがやるだろ。あの人に任せておけば問題ない。とりあえずベルは支部長に俺らが本部の魔術師とぶつかったってことを伝えておいてくれないか?たぶん副本部長の手駒だと思うけど」


「了解。あんたにしてはかなり手加減したのね」


文は気絶している本部の魔術師を見て少し感心していた。五体満足でそこまで大きな怪我も見られない。

康太にしてはすごく気を使って戦っていたのだなということがわかる。


索敵によって上層階を調べても、康太がいかに気を使っていたかがわかる。大きな破壊が一切されず、原形をとどめている。


普段の康太ならばあり得ない戦い方をした結果なのだなと思い、文は小さくうなずいていた。


「でも、それだけ手加減したから逃げられちゃったのね」


「あぁ・・・俺も拘束系の魔術を覚えたほうがよさそうだな。こういう障害物が多い場所だと先回りするのも難しくなるし」


康太の高い機動力をもってしても、多くの障害物があるような場所ではどうしても動きは制限される。


電撃を用いた短距離瞬間移動を用いようにも、障害物が電撃の道を阻害してしまいうまくいかないのだ。

何か相手の動きを著しく阻害するような魔術があれば、相手を逃がすことなく倒すことができるのだが、そううまくはいかないのである。


「火と風、無属性のどれかで拘束系かぁ・・・あんたが雷系の魔術を覚えられれば磁力で相手をくっつけることもできるんだけど」


それは文が普段行っている飛行などの応用だ。相手に磁力を纏わせ、地面や壁、あるいは自分と吸い寄せられるような形で磁力を発動すればそれだけで相手の移動能力を削減することができる。


「魔術にこだわらなくとも、ワイヤーなどを使って相手を縛る方法もある。そのあたりはおいおい探していけばいい。徐々に自分に必要なものが見えてきているのなら何よりだ」


「まだまだ足りないものだらけですよ。正直言って俺の戦い方は無駄が多いので、もう少しスマートに戦いたいんですけど・・・」


無駄が多いといいながら、康太の戦い方は対魔術師を想定した最適解になりかけている。


射撃、近接、どのような状況においても立ち回れるだけの実力をすでに身につけつつあるのだ。


このままうまくいけばどのような魔術師に対しても勝利することができるであろうというだけの力がある。


康太の努力と、今まで培ってきた力が康太をまた一つ強くしているのである。


「話はそのくらいにして、こいつを拘束してさっさと下にいこう。トゥトゥ達の手助けをしてやらなければ」


「ですね。ベル、支部長への連絡任せたぞ。うまく言っといてくれ」


「はいはい。言っておくわ。ローラローは任せたわよ?」


「おう、任せとけ」


文は本部の魔術師を拘束しながら支部長への連絡を取ろうとしていた。


どう報告したものかなと考えながら、とりあえず康太がすごく気を使って戦っていたことをアピールしてやろうと思っていた。


「なるほど、ブライトビーにしてはすごく気を使った戦い方をしたんだね」


『えぇ、普段だったら建物ごと壊す感じでしょうけど、今回はずいぶんとおとなしくしたようですね。相手の魔術師も重傷らしいものは見受けられません』


支部長は康太たちが出て行ったあとしばらくしてから、文からやってきた報告を聞いていた。


康太たちが出て行った後も、本部の情報を常に収集し続けている支部長だが、康太たちが行った情報操作のおかげで副本部長の手勢の魔術師は今事実確認の調査に追われているらしい。


そのおかげで康太たちのもとには戦える魔術師は一人しか送り出せなかったようである。


本部の人間とは言え、副本部長の手勢の中で戦いが行える魔術師、特に康太と戦えるだけの人間は少ないのだなと支部長は得られた情報の多さに感心していた。


「これだと問題なく制圧はできそうかな?」


『えぇ、トゥトゥが地下階層を水没させていますから、あと少しで問題なく制圧できると思われます。ローラローの確保ができ次第、私たちは帰還します』


「了解したよ。最後まで油断しないでね。エアリスやジョアがいるとはいえ、相手が手勢を隠していても不思議はない。僕も本部の方の情報を収集しているけど、あんまりいい噂は聞かないんだよね」


『そうなんですか?具体的には・・・?』


「うん、彼らに与えた情報以外にも、どうやらほかの拠点も確認したらしくてね。本命ではないにせよ、手勢を何人か捕らえてくる可能性は高そうだ。副本部長との勝負は引き分けに持ち込まれそうだよね」


さすがに副本部長もただでは転ぶつもりはないのだろう。康太たちが先行してしまっているという時点で本命であるローラローの確保はあきらめ、即座に目標を切り替えた。


この切り替えの早さと迅速な行動はさすがというべきだろうか。


『さすがに副本部長というだけあって展開が早いですね・・・私たちの行動はどの程度知られているんでしょうか?』


「そっちに本部の魔術師が向かって、しかも戦闘を行ったってことは君らがその場所にいることはすでに知られているだろうね。ついでにそこにローラローがいるっていう確証も持っているだろう。あとは向こうがどれだけ犠牲を出してそれを奪うことを考えるかってところかな・・・僕の手勢も君たちの援護に向かわせてるから、道中で奪われることはないと思うけど」


仮にローラローを敵拠点で捕縛しても、帰り道に本部の人間に奪われましたでは話にならない。


支部長はその辺りを考慮して人員の配置を行っていた。あちらが動くよりも早くこちらが動いていれば牽制にもなる。そういう意味もあって支部長は康太たちへの支援を惜しまなかった。


この状況で強引にローラローを奪えば、本部を糾弾するいいネタにもなる。あまり考えたくはないが、場合によっては本部に対する不満を爆発させ、本部と支部との溝を深める必要も出てくる。


支部長としては頭の痛い内容ではあるが、少なくともこのまま康太が封印指定にされるよりはずっとましだった。


『それではまた何かあったら報告させてもらいます。失礼します』


文との通信が切れた時点で、支部長は大きくため息をつく。少なくとも状況は好転していると思いたいが、まだ何があるかわからないために緊張を解くわけにもいかなかった。


次々届く本部の情報と、康太たちがいる現地の情報を照らし合わせながら、支部長は次々とその内容を頭の中に入れていった。


そんな中、支部長室の扉がノックされる。


また情報が届いたのかと思いながら、資料に目を通しつつ支部長は「どうぞ」と短く返事をする。


すると支部長の予想通り、書類を抱えた魔術師が二人支部長室に入ってくる。


「支部長、続報です。急ごしらえですがまとめておきました」


「ありがとう、お疲れ様。引き続き頼むよ」


「了解しました。それでは」


失礼しますといいかけた魔術師がその場に倒れ、もう一人の魔術師はそれを黙ってみていた。


過労かと一瞬心配した支部長だったが、資料から顔を上げたことで自分の心配が別のところに向くべきであると理解する。


「・・・君は誰かな?うちに君みたいな魔術師はいなかったと思ったけど?」


資料を持っていた二人の魔術師の内、一人は支部長の知らない魔術師だった。知らない魔術師に情報の整理や運搬を任せるほど支部長は間抜けではない。


支部長は今この状況が緊急事態であるということを察していた。


いつの間にか取り出され、いつの間にか突き出されていた拳銃を目にして、支部長は目を細める。


魔術師相手に拳銃を使う。その意味が分からないほど支部長は察しが悪くはなかった。


魔術を発動すれば、いや、発動するそぶりを見せれば撃たれる。


どんなに早く魔術を発動しても、どんなに静かに魔術を発動しても、拳銃のトリガーを指で引く方が早い。


油断していたなと、支部長は眉をひそめた。


「黙っていてはわからないよ。何が目的かな?それとも日本語はわからないかな?」


相手が日本人ではないことも考えて、支部長は英語で何が目的であるのかを問いかけた。


すると相手はわずかに反応する。少なくとも英語であれば理解することができるようだった。


「ならこれからは英語でしゃべろうか。もう一度聞こう。君は誰かな?」


英語でそう告げられた相手は、仮面の下で笑みを浮かべ、支部長に拳銃を突きつけたまま英語で話し始める。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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