門の如何
「まぁ門はさておいて・・・とりあえず隊員の募集とスカウトを進めようと思ってます。何人か有望というかほしい人材がいるのでピックアップしておきました。現段階で隊員にすることが確定してるのも書いておきましたので見ておいてください」
「それたぶん真っ先に知りたかったやつなんだけど・・・まぁいいや。えーっと・・・?ん?え!?マウ・フォウも入れるつもりなの!?」
「はい、彼の調査能力は特筆するべき部分ですから。部隊にいてくれたらありがたいなと」
康太が用意した名前のリストを見て支部長はかなり驚いているようだった。そしてそこに並んでいる人の名前を一つ一つ確認して他にまずい名前がないかどうかを確認していく。
支部長的には一番驚いたのがマウ・フォウの存在だったようだ。
「いやぁ・・・彼はなぁ・・・待てよ・・・彼を部隊に入れられれば僕の直轄にもできるのか・・・本部に連れていかれる可能性を潰せるか・・・?いやでも彼が本部行きを望んでた場合難しいなぁ・・・」
「それは俺も考えてました。あの人の調査能力は本部でも十分に通用します。俺ら自身もあの人に迷惑はかけたくありませんから、あの人が本部に行くことを望むのであればあきらめますけど」
マウ・フォウの調査能力は高い。もとより人を探すことを続けていたこともあって、地道な調査と徹底した捜索。これらで彼の右に出るものはそうそういないだろう。
それだけの調査能力を持った魔術師を本部が放っておくはずがない。本部が無理やりにマウ・フォウを本部所属にするようなことがあるのなら、彼を部隊に配属することはかなり良い手だが、もし彼が本部に行くことを望んでいた場合、彼にとってはあまり面白くない結果となってしまう。
その辺りは本人との話し合いが必要になってくるだろう。
そして書類のすでに決まっている人員のところに目をやった時、支部長はため息交じりに頭を抱えた。
「あぁ、アリシア・メリノスを入れるんだね」
「えぇ、本人の強い希望で」
「この展開は予想していたけど・・・にしてもだなぁ・・・彼女がいるかいないかでその部隊の重要度かなり変わるんだよね・・・そのあたりはどうなの?君たちの中でも意見が分かれたんじゃない?」
アリスを身内に入れるということがどのような意味を持っているのかは康太も理解しているつもりだ。
文もメリットとデメリットをはっきりと言っていただけに明暗がはっきり分かれている存在といえるだろう。
「部隊そのものに入れると面倒くさいので、アリスには門外顧問的な役割になってもらおうかと思ってます。運営に口出ししたりするのがいいんだそうで」
「なるほど、本隊への干渉は口だけ・・・実働にも参加しない・・・けれど確実にその場にいると。なかなか嫌なやり方だね。でもこれだと将来的に組織が二つに分かれちゃわない?大きくなっていくにつれてそういうことってよくあるよ?」
「そのあたりは大丈夫です。俺が隊長を引退した段階でアリスも部隊から去るってことなので」
「なるほど、時間制限付きってことね。まぁ、君が引退するかどうかは君の寿命にかかってるってことかな?」
「ぶっちゃけ俺はある程度後進が育ったらあとは任せるつもりですよ?俺自身はのんびり暮らしたいですから」
可能ならば康太は誰とも争いたくなどはない。ただ周りからどんどん面倒ごとがやってくるだけなのだ。
そんなことを言っても支部長は全く信じてくれないわけだけれども。
「まぁ冗談は置いておいて・・・アリシア・メリノス・・・彼女を身内に引き入れるかぁ・・・まぁ日本支部に所属している時点でもう手遅れって感じはあるのかな」
「そうですよ。支部長のように深い懐を持っていないとアリスの上は任せられません。これからも頼みますよ」
「あと何年支部長やってればいいのかなぁ・・・僕もそろそろ後進にこの立場を譲りたいんだけど・・・」
「支部長以外が支部長やったら多分・・・間違いなくうちの師匠たちの手綱を握れなくなりますよ?支部崩壊の危機ですね」
「やめて、簡単に想像できちゃうからやめて。でも実際問題後進の育成っていうのは結構難しいんだよ・・・特に戦うだけじゃなくて処理とか交渉も必要になってくるからね」
「そういう総合的なことをやるチームに心当たりは?そういうところからめぼしい人を探してさらに鍛えるように依頼を出すとか」
「めぼしいのは何人かいるんだけど・・・微妙なんだよねぇ・・・少なくともクラリスたちと渡り合えるかっていわれると首をかしげちゃうかな」
この日本支部の支部長になるための条件は、小百合や康太といった武闘派の魔術師と正面から戦って五体満足で生き残れること。
この時点でかなり条件としては厳しくなっている。というかこの時点ですでに該当者のほとんどが不可能になっているのだ。
仮に正面から戦わなくとも、小百合たちの脅しに負けない程度の胆力を持ち合わせていることが肝要なのだ。
それだけの人間がいないのもまた問題なのだが。
後進の育成、部隊の作成、部隊に必要な施設の作成、やることは山積みだ。しかもそれでさらに依頼も抱えているというのだから、やることが多くて目が回りそうである。
「あ、そういえば聞いてなかった。アリスに門を作ってもらうってのはダメなんですか?」
「ん・・・また話が戻ってきたね。どういうことかな?」
「支部が先導して門を作るのはダメでしょうけど、もしアリスが門を作れて、本部の指示を受けずに勝手に作ったら、その場合はどうなります?」
本部がアリスのことをコントロールできているのであれば、アリスに門を作ることを禁止することもできたかもしれないが、残念ながら本部はアリスのことをコントロールできていない。
だからこそアリスが支部の所属になることを許可したし、アリスがある程度勝手に動いていても放置している。
封印指定なのだからある程度は動きを制限したいというのが本音なのだろう。支部で活動している分にはその所在が分かるだけまだましな分、多少の問題行動は水に流すというのが今の本部の方針だ。
となってくると、あとはアリスが勝手に行動して門を増やすという行動をとった時、本部がどのように反応するかが決め手になってくる。
「アリシア・メリノスが門を作れるかどうかはさておいて・・・うん、確かに本部からしたら反応しにくいね・・・本部がどの程度君たちの動向を把握しているのかはさておいて・・・見逃される可能性が半分、君たちに直接かかわってくることだから邪魔してくる可能性が半分ってところかな?あるいは難癖付けて何らかの条件を追加されるかな」
「本部の動向次第って感じですけど・・・あとはアリスにちょっと聞いてみますね」
康太はメールでアリスに門を作れるのかどうかを確認する。せっかく部隊の立ち上げなのだ。何かしら特典のようなものがないと盛り上がらない。
どこからでも出入りができる必要はない。支部とその拠点だけがつながっていればいいのだ。
所謂条件付きの門という形になるが、それはそれで有用となる。
「あ、そうだ。門で思い出したよ。君にこの話はしたっけかな?この間攻略してもらった拠点の調査が完了したそうなんだよ」
「あぁ、四カ所同時攻略の。どうだったんです?」
「全壊してた中国は置いておいて、それ以外のところではなかなか情報が得られたよ。君の方で手に入れてくれた情報に加えて面白いことが一つ。彼らの拠点に門らしきものが見つかった」
これは康太は知らないことだが、文が予測していたものだった。
これだけ離れた場所にある拠点に対して何の移動手段も用意していないというのは考えにくい。
さらに言えば移動中に高速移動しているような気配がなくいきなり移動しているという点などから門があるのではないかと文は言っていた。
「門・・・らしきものっていうのは?」
「うん、すでに術式が破壊されていて実際にそこに門があったかどうかはわからないんだ。けれど扉があって、その先には何もなかった。もっと言えば行き止まりだったんだ。特に何が置いてあるわけでもなくね」
「なるほど。倉庫でもないのにただの行き止まりに扉をつける意味はない・・・術式が破壊された痕跡もあったんですか?」
「うん、何かの術式を書いていたのは間違いないんだけど、すでに破壊されていた。削り取るように術式の部分を綺麗にね。あれじゃあ判別のしようがないけれど」
「門があった可能性は高いと」
「そう。協会内で門を作れる人間は限られてる。そのあたりの人間を虱潰しにあたっているところだけど、何人かすでに所在が分からない人間がいる」
「ローラローと一緒に姿を消した・・・ですか?」
その可能性は高いねと支部長はため息をつきながら手元にある資料の一つを康太に見せる。
「それがローラローが逃走したのと同じ時期にいなくなった本部の人間の名簿だよ。まだ全員を確認しきれていないから、この中の全員が向こう側の人間であるのかどうかは確証がないけれど」
そこに書かれていた人数は約四十人ほど。本部の四十人近くが相手側の人間だった可能性があるという事実に、康太は少しだけ驚いていた。
「すごいですね、本部だけでこれだけの数が裏切ってたってことでしょう?本部の面子丸つぶれですね」
「そう、そういうこともあってこれから本部はかなり大変だと思うよ?信頼の回復や支部との関係改善、やることは目白押し、ただでさえいい印象を受けていなかったところにこの裏切者騒ぎだ。今後の対応が気になるところだね」
支部長からしても本部のこの状況はあまり良いものとは言えないらしい。今後本部がどのような態度に出るのかはさておいて、支部に対して強権を行使する可能性もあれば、逆に態度が軟化する可能性もあるという。
その辺りは本部の今のトップ、幹部連が決めることであるが、その幹部の一人に裏切者が混じっていたとあれば他の支部や魔術師たちからの言及は避けられない。
責任問題といってしまえば話は早いが、ことはそこまで簡単な問題ではないのだ。魔術師である以上派閥を形成するのは何らおかしなものではない。問題は本部を、協会そのものを敵に回した行動をとっていたというだけ。
そういう意味では康太だってある意味怪しい。時折本部を敵に回すような行動をとっていたのだから。
「じゃあ、他の相手の重要拠点にも門がある可能性が高いってことですよね?」
「可能性は高いね。けどこのことがばれた以上、それをふさぐ可能性だってある。なんとも言えないけど、また一歩前進したのは間違いないさ」
門を作るためには大なり小なり龍脈が必要になる。今後どのような場所を攻略するのかはさておき、探すのが楽になるのは間違いないだろう。
土曜日なので二回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです
 




