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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十話「神の怒りは、人の恨みは」

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聞きたかった言葉

どれほどの時間が経過しただろうか、魔術師の体はすでにかなり削られてきている。


腕は上腕部分まで、足は太ももまで削られ、ほとんど体を動かすこともできない状態にさせられてしまっていた。


それでも痛みによって苦悶の表情を浮かべ、すでに見えなくなった目で何かを見ようと、眼球を動かそうとする動きがあった。


「ぁあ・・・ぁああぁ・・・ぁああぁあああ」


「違う、俺の聞きたい言葉じゃない」


もはや悲鳴とうめき声しか出せなくなってきている魔術師にも、康太は変わらず言葉を返す。


正気を失うことができないようにアリスが精神を操っているにも関わらず、この男の精神状態はかなり不安定な状態になってしまっていた。


通常の状態であれば発狂し、二度と元には戻らないところだろう。


もはや情報を搾り取ることもできない。ただ康太が相手に対して苦痛を与えるだけの状態となってしまっている今、変化を与えられるのはあの男の言葉だけだ。


康太が望んでいる言葉、それを告げる以外にこの行為を止める方法はない。


康太が肉を削ぎ、骨を削る作業の中、魔術師が口を開く。


「・・・殺してくれ」


その瞬間、康太の手が止まった。


「・・・たのむ・・・もう・・・殺して、くれ」


いつまで経っても死ねない、死ぬことができない。痛みと苦痛だけを与えられる状態に耐えられなくなったのか、魔術師は自ら死を願った。


もはや言葉を話すことも何とか力を振り絞ってできるレベルだろう。何度か舌を噛み切ろうとしたこともあるのだろうが、すべてアリスに回復されてしまい、死ぬことができないような状態になっていては康太に懇願する以外になかったのだ。


「もう、いやだ・・・殺してくれ・・・!殺してくれ・・・!」


ただ殺してくれと願うその言葉をよそに、康太は双剣笹船を取り出すと拡大動作の魔術を使い魔術師の両腕両足を肩口、そして足の股関節の部分から切断する。即座に倉敷とアリスが血液の操作と止血を施し、魔術師はまた死ぬことができなくなってしまう。


両腕と両足の残りの部分が斬り落とされたことで、再び悲鳴が部屋の中に響くが、それを無視して康太は魔術師の頭を掴む。


「ダメだ、お前は殺さない。絶対に死なせない。お前は一生、残りの人生をそのまま過ごせ」


そういって康太は苦痛同調の魔術を発動する。


康太が今まで味わった苦痛全てを一度に与えられた魔術師は大きく体を痙攣させる。アリスの管理能力を超えた強い精神への負担に耐えられなくなったのか、男は完全に意識を喪失してしまう。


男が意識を喪失したのを確認して、康太はゆっくりと息を吐き今まで使っていた道具を片づけ始める。


「もういいの?」


「聞きたいことは聞けた。あとは情報をもとに協会の人間が何とかするだろ」


康太はそういいながら足元に散らばったこの男の肉片を噴出の炎で焼いていく。


肉の焼ける匂いが部屋の中に充満する。人の焼ける匂いは、普段料理などで嗅ぐようなそれとは全く違う、どこか強い不快感を孕んだものだった。


康太が聞きたかったことはただ魔術師の死を望む言葉だけだった。生きたいとそう望むのではなく、自ら死にたいと望むほど強い絶望を与えたかった。


それ以外に康太が望んだことはなかったのだ。


「ブライトビー、今回得られた情報はかなり貴重なものだ。感謝する」


情報の書き取りを行っていた魔術師が康太に礼を言う。だがその声はわずかに震えていた。


康太に対して強い恐怖を抱いているのか、あれだけの行為を行っていてわずかに精神に負担をかけたのか、どちらかはわからないが、足元がおぼついていないようにも見える。


「感謝する必要はありませんよ。あとは情報を精査して、必要な情報だけを確認してください。あと、そいつは殺さないように」


そういって康太は椅子に固定されたままの魔術師を指さして呟く。


「わかった。支部長にも報告して厳重に収容する。それでブライトビー、君はどうするんだ?」


どうするんだという協会の魔術師の言葉に、康太は少し考えてしまった。目的が一瞬とはいえなくなったのだ。


すでに幸彦の敵討ちは終わったといっていい。であれば次は何をしようかと、所謂燃え尽き症候群に似たような形になってしまっていた。


「どうするかな・・・少し考えますよ。支部長にはよろしく伝えておいてください。何かあれば俺を呼ぶことも忘れないようにと」


「わかった、伝えておこう」


やるべきことはすべて終えた康太は道具をすべて回収するとその場にいる全員に一瞬視線を向けて、最後に拘束されたままの魔術師の方を向く。


「ベル、トゥトゥ、アリス、帰るぞ」


そしてそれ以上何も言うことはなく、部屋を出て行った。


文たちは仕方のない奴だというかのようにため息をつきながら康太の後についていく。


部屋を出た瞬間、支部にいた多くの魔術師たちの視線を集めることになる。


康太が行っている拷問の顛末を確認しようとしていた者たち、恐ろしくて関わりたくないと思う者たち、あの悲鳴を聞き続けた者たち。多くの魔術師が康太たちの方を見た。


康太は一切気にも留めず、自分の拠点の一つである小百合の店へと戻ろうとしていた。


これはまた康太の悪評が広まる奴だなと文と倉敷は考えながら内心ため息をついていた。


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