彼らの目的
一体どれだけの時間が経過しただろうか、魔術師は自分が知り得ている情報を話し続けた。
魔術師たちが今までしてきた行動。そしてその目的。
曰く彼らの目的は世界征服であるということ。精霊などと契約し、ある程度いうことを聞かせることができることから、星そのものを精霊に近しい状態へと変化させ、星そのものと契約することで世界そのものに対してアプローチをかけられるようにすることこそ最たる目的なのだという。
「違う、俺の聞きたい言葉じゃない」
今まで彼らがやってきたことは多岐にわたっていた。精霊術師を攫い、精霊術師を人ならざる、精霊でもない存在に変換させる実験を行っていた。またかつて精霊を宿した動物を攫い、同じように人ならざる者にしようとしたことがある。
必要と思われる術式を盗み、あるいは実験させていた。ウィルを作り出した神父も彼らの仲間だったのだという。
「違う、俺の聞きたい言葉じゃない」
各拠点について、世界中に散らばっている拠点の中で特に重要なものが上がる。各大陸に二カ所ほど、巨大な拠点があり、巨大な術式を発動させるための準備をしている。術式の正体は複数あり、その一つは龍脈から直接力を引き出すものであるということ。知らないものもあるためにこれ以上の作戦の詳細はわからなかった。
「違う、俺の聞きたい言葉じゃない」
彼らの構成人数、約千人程度からなる魔術師集団で、つい最近発足されたのではなく何十年も前から準備をしてきたとのこと。
拠点の作成、仲間の勧誘、協会への偽装などなど、今まで行ってきた行動は多岐にわたり、本部の中にも彼らの手のものをしのばせることに成功した。
本部のスパイは何人もいるが、最も権力を持っているのは本部の幹部の一人だった。
「違う、俺の聞きたい言葉じゃない」
話すべきこと、思いつくことをすべて話しつくしたのか、魔術師は自分の身の内を話し始める。
自分の能力、そして交友関係、仲間との関係、今まで魔術協会で行ってきたこと、思いつく限りを話した。
「違う、俺の聞きたい言葉じゃない」
最後にはもはや命乞いの言葉しかその口からは紡がれなかった。
助けてほしい。死にたくない。どうすれば生かしてくれるのか。
「違う、俺の聞きたい言葉じゃない」
抑揚のない決まりきった言葉が紡がれるたびに、手にした針が突き刺される。爪と肉の間に刺す場所がなくなると、爪をはがし指に針を食い込ませていく。
そして少しずつ針を刺しては肉をちぎってを繰り返し、やがて骨を露出させていた。
骨が露出されると、その骨の周りの肉を削いでいき、関節部分に釘を突き立てペンチを使って強引に引きちぎる。
徐々に徐々に、指先から少しずつ削っていく作業を行うたびに部屋の中に悲鳴が轟く。
いっそのこと意識を失うことができればどれだけ楽だろうか。いっそのこと狂ってしまえればどれだけ楽だっただろうか。
だがなぜか正気を失うことはできなかった。それどころか、本来流れるべき血液が全く傷口から流れてこなかった。
死ぬこともできず、正気を失うこともできず、喉が枯れることもなく、痛みがマヒすることもなく、意識を失うこともない。
延々と繰り返され、指がすべてなくなってもそれは続けられた。
掌がなくなっていき、手首が失われ、腕にたどり着いたとき、関節ではとりにくいと判断されたのか骨を除去する方法がペンチから金槌とノミへと変化した。
木材を削るかのように金槌とノミを用いて強引に骨を削り落としていく中、神経を直接刺激する痛みが走る。
汗をかくことも涙を流すことも失禁することもできずに魔術師はただただ悲鳴を上げ続ける。
部屋の外までも届く悲鳴は、いったいどこまで聞こえているだろうか。この悲鳴に気付いて誰かが助けに来てくれないだろうかと必死に願うが、それは叶わなかった。
死にたくないと必死に願っても、謝っても、力になると誓っても、放たれる言葉は全く変わらなかった。
「違う、俺の聞きたい言葉じゃない」
腕と足が徐々になくなっていく。削られていく。数ミリずつ、ゆっくりと確実になくなっていく。
足元に自分の体の一部が欠片となって散らばっていくのを感じながら、荒く息をついていると、動かせない顔の、目の、眼球の前に釘が添えられたことに気付く。
そしてそれが何を意味しているのか、理解できてしまい、わかってしまい、魔術師は震えながら、奥歯を鳴らしながら懇願する。
「ゃ・・・やだ・・・やめてくれ・・・いや・・・待って・・・たの・・・おね、お願いだから・・・!」
泣き出しそうなのに、泣いてもおかしくないというのに泣くこともできない。顔だけをゆがめながら必死の懇願をする。
声もうまく出なくなっているこの状況でも、何とか命だけは助かりたい、何とかして逃げ出したいと考える中、目の前につきつけられる絶望を具現化させたかのような鋭い釘に、魔術師は震えを止めることができなかった。
「違う、俺の聞きたい言葉じゃない」
無慈悲に、何一つ変化なく放たれた言葉と同時に、その釘が打ち込まれる。先ほど以上に大きく、人間の声とは思えないような悲鳴が響き渡った。




