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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十話「神の怒りは、人の恨みは」

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康太の協会での生き方

「それは・・・願ってもないことだけど・・・どうだろう、クラリスやエアリスが良しとするかな・・・?あの二人のことだから『なんでお前があんな奴に従うんだ』とか言いそうだけど・・・」


さすがに長年二人と付き合ってきたわけではないらしい。確かに小百合も春奈もそのようなことを言いそうである。


だがこの提案に関しては複数以上のメリットがあった。


「師匠たちが何を言っても私たちが自発的にやればいいだけの話です。専属魔術師になるつもりはないですけど、支部長のお抱え的になれば、一般の魔術師も手を出しにくくなるはずです。支部長も大っぴらにビーの危険性を公表できますよ?」


今まで康太の実力や実績は、一般魔術師と同じようにすることで明言を避けていた部分もある。


康太の危険性が公表されるのが遅かったのはこれが原因である。結果だけしか見ていないためにその過程に何があったのかを知らないものが多い。


だが支部長が直接指名できる、なおかつお抱えに近い立場となることで公平性を欠いたとしても事実を記すことができる。


危険であると大々的に広めることで、康太に無駄に突っかかる魔術師を減らすことができる。


これは巡り巡って小百合や真理、神加に突っかかるものも同時に減らすことができることにもつながる。


多少面倒な依頼が増えるかもしれないが、康太の危険性の正確な伝達、康太の今後の魔術師としての目標、康太の周りの人間の安全性の確保、支部長の補助による協会内での立場の確立、支部長個人に貸しを作れるなどなど様々な利点がある。


重ねてになるが、面倒な依頼が増えるのは避けられない。今まで支部長が抱えていた悩みなども解消される可能性は高いが、その分康太たちが現場で活躍する必要があるのだ。


「僕からすれば万々歳な提案だね。でもそれはブライトビーがオッケーするかな?」


「私が提案したっていえば問題ないとは思いますが、ちょっと時間と精神的に余裕ができたら相談してみます。あいつがどんな魔術師生活を送るにしても、協会とのかかわりを深めておくのはいいことだと思うんです。バズさんがそうでしたから」


文は今でもあの光景が目に焼き付いている。


幸彦の通夜に駆け付けた多くの魔術師の姿。何ができるわけでもない、それで何が変わるわけでもない。

魔術師として活動している者であればすぐにわかるようなそんな些細な行動に、多くの人間が示し合わせたわけでもなく同じ行動をとった。


せめて安らかに眠れるようにと、幸彦に受けた恩を少しでも返せればと、幸彦との別れを惜しむように多くの魔術師が手を合わせに来た。


多くの功績を残したわけでもないかもしれない。地道な活動で、誰かに大きく称賛されたわけでもないかもしれない。


だが幸彦の行動は、彼の活動は多くの人の心に残っていたのだ。


その結果があの光景だと文は確信を持って言えた。


「ビーにバズさんのようになれとは言いません。でも魔術師として活動していくうえで、協会の中の誰かとつながりを持って、協会の中でビーが生きられるようにしたいんです」


「・・・君は本当に彼のことを考えているんだね・・・ブライトビーがうらやましいよ」


こんな風に想ってくれる存在がいることが、康太にとって最大の幸運だといえるだろう。


これだけ想ってくれる存在は見つけようとして見つけられるものではない。


「確かに、僕からいろいろな面倒な依頼を受ければ協会内での地位は確立できるね。専属魔術師とは少し別の・・・常用の切札的な存在になるかもしれない」


常用の切札というのは言いえて妙だったが、康太のフットワークの軽さとその戦力としての有用性を考えれば最適な表現かもしれない。


専属の魔術師を支部長の手足だとするなら、これから康太がなろうとしているのは支部長の刃だ。


危険ではあり、時に自分さえも傷つけかねないがその効果は絶大。


腫瘍を斬り落とすことも、敵を斬ることもできる。敵にも味方にも切りかかるほどの鋭い刃。だからこそ支部長としては康太の使い道をより考えなければ支部長自身の評価にも影響を及ぼす。


「だからこそクラリスの反感を買いそうなんだよなぁ・・・君も同じような立場になってくれるってことならエアリスからも文句を言われそうだよ」


「私はビーについていくだけですから。支部長的にはビーだけを従えてくれればそれでいいですよ。ビーも支部長に従うのは悪い気はしないでしょうし、いやなことならいやっていいますよ」


康太と支部長は比較的いいたいことは言いあうような間柄になっている。


とはいえ思ったことを口にする程度の関係ではあるが、もし本当に康太が嫌がるような案件であれば康太は断固として支部長の要請を断るだろう。


「それに関しては君の方からブライトビーに話してみてくれるかな?今後そうなってくれるなら、ある意味いくつかの立場を作らなきゃいけないからね」


「立場というと、具体的には?」


「んー・・・親衛隊・・・?近衛隊?私設部隊?名前は何でもいいんだけど、日本支部の中での特殊部隊的な役割を担ってもらえればいいかな」


専属魔術師とは別の特殊部隊。康太を頂点とした部隊の編成を支部長は考えているようだった。


そうなれば協会内での康太の立ち位置を確立できる。強力な魔術師だけがそろうとなると問題も多そうだが、そこは康太がしっかりと導いてくれると思いたかった。


「将来的に、ビーがその部隊を指揮すると」


「そういうこと。まだ草案でしかないから曖昧だけどね。でも悪くないと思うよ?」


支部長としても康太だけに頼るのではなくほかの人員を育成したいと考えていたために部隊というのは良い案かもしれないと思っていた。


それが将来実現するのかどうかはまた別の話である。














急襲作戦を決行する二日前、作戦に参加する魔術師たちは日本支部の一室に集められていた。


理由はいつもの通り、作戦前の情報の共有とそれぞれの役目の確認である。


今回の作戦は大きく分けて三つの班に分けられる。


一つは輸送班。今回現場と協会の門との位置が離れているために、それぞれ最も近い門の場所から専門の魔術師がほかのチームの運搬役として往復の足となる。


一つは戦闘班。これはもはや説明の必要もない。敵性勢力をすべて撃滅する戦力だ。殲滅後の他の班の護衛もこのチームが担うことになる。康太たちは今回この班に該当する。


一つは情報収集班。今回の作戦において重要な役割を担う班であり、索敵、殲滅後の情報収集、もし逃げる者がいれば他のチームの人間に伝えるか追跡など、他のチームとは別の意味でやることの多いチームである。


日本支部の一室に集められたのは何も日本支部の人間だけではない。ここにいるのは今回作戦に参加するすべての支部の人間である。


これだけの大々的な作戦を行うのにもかかわらず、何故本部ではないのか。それは情報の流出を恐れたというのが最たる理由である。


本部の誰か、あるいは一派が情報を流出させている。それは今までの調査からもはや疑いようがない事実となっていた。


そこで今回は本部を一切介さない支部のみでの攻略を行うことになったのである。


参加する支部は今回該当する国と、その隣国。参加する支部の数としては康太の経験する中では過去最大の規模だが、各支部長の信用できる人間だけを集めた人員構成であるために人数自体は今までの大規模作戦と比較してもそこまで違いはないように思える。


一つの拠点の攻略に対して、およそ百人程度割り当てられている形となる。


多少の変化はあるが、割合としては運搬三十、戦闘三十、情報四十といったところか。


今回何故、日本支部が集合の場所になったのか、その理由は今回の場所を発見したのが日本支部所属の文だからである。


準備期間の間も何度か調査に当たり、文はより正確な場所を割り出すことができるように努めた。


支部長たちの調査によって、二カ所に関しては出入り口と思われる場所の確認もできている。


それぞれの支部長、そしてその供回りともいうべき魔術師たちが控える中、康太たちは多くの魔術師の中で支部長たちが話し合うのを見ていた。


今回の役割分担、そして今回の作戦の段階の最終調整を行っているのだ。

そしてそれはもうすぐ終わる。


代表して挨拶するのは別の支部の支部長であるらしい。どこの支部の誰なのかは康太も知らなかった。


「諸君、今回は集まってくれてありがとう。この作戦を開始する前に一言だけ、今回の作戦において多大な貢献をしてくれた日本支部所属のライリーベルに感謝を伝えたい。彼女の活躍によって、我々は今までつかめなかった敵勢力の拠点を四カ所も見つけることに成功した。この場にいるライリーベルにまずは感謝を」


アリスによる翻訳がされる中、まさか自分がこのような言葉を向けられるとは思っていなかったのか、文は困ったように首を横に振る。


確かに今回情報を得ることができたのは文の改良した魔術によるところが大きい。


幸彦との戦いで相手の血液を採取できていたのも幸いだった。何よりそれをウィルが回収していたことも一つの要因だろう。


自分だけの功績とは思っていないとしても、今回の功労者は間違いなく文だ。この場の誰もがそう思っているからか、多くの拍手が文を称える。


しばらくして静寂が再び戻ると、日本支部に用意してあるプロジェクターが起動し、スクリーンに映像が投射される。


「今回攻略する拠点は四カ所。中国、ロシア、アフリカ、南アメリカの四カ所だ。それぞれの地形のデータはすでに知らされていると思うが最新の画像を見ながら改めて説明しよう」


そういって映し出されたのは岩肌が目立つ部分だった。これは小百合が向かう中国の画像だろう。


「中国にある拠点は出入り口も確認できている。航空写真だとこの部分に、岩の内部に入ることのできる場所があり、建造物があることを確認した」


どうやって調べたのかまでは不明だが、おそらく魔術を使ったのだろう。航空写真ではそこまで調べることができるとは思えない。


「この岩石地帯に関しては主に内部攻略戦になる・・・と思いたいが・・・えー・・・どのような形での戦闘になるかはわからない。担当者は細心の注意を払っていただきたい」


説明をしていた人物の視線が小百合の方に一瞬流れたのを康太は見逃さなかった。小百合が中国に向かうということを理解しているのだろう。


どのようなことになるかわからない。確かにその通りだ。


小百合が岩ごと切り裂くことだって十分にあり得る。


せめて原型を残す程度に壊してほしいと思うのは我がままだろうかと文はため息をついていた。


「こちらに向かうまでの移動手段だが、二つの手段を用意させてもらった。一つは航空機による輸送。もう一つは魔術による移動だ。航空機の場合、行きは作戦該当地点からの降下によるダイレクトアプローチをかけてもらうことになる。高高度からの落下に対応できないものに関してはこちらは遠慮してもらいたい」


航空機。どのようにして用意したのかは不明だが、どうやら支部長たちのコネを使ってどうにか用意できたようだった。


事前にある程度康太の方から話をされていた通り、門から遠く離れた場所に活動圏があった場合の対策を支部長たちもとっていたのだろう。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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