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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十話「神の怒りは、人の恨みは」

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小百合の危惧

「というわけで支部長に話を通してきました。決行日は十日後。小百合さんにはおそらく中国方面の攻略をお願いすると思います」


文は支部長との話を終えた後、さっそく小百合にこの話をしに小百合の店にやってきていた。


ちゃぶ台を挟んで向こう側にパソコンに視線を落とし、煎餅をかじり続けている小百合の姿がある。康太はこの場にいない。おそらく地下で訓練をしているのだろう。


「・・・ふむ・・・そうか。移動方法などはあいつ任せか」


あいつというのが支部長のことを指していることは文にも理解できた。


今回の場所は協会の門のある場所から距離がある場所ばかりだ。以前支部長に話を通しておいた通り、門からの移動手段が必要になるわけだが、そのあたりは支部長にすべて任せる形となる。


「はい。私たちでは国外の移動手段の確保は難しいですから」


「だろうな・・・今回は・・・中国か・・・場所はどのあたりだ?」


「この辺りです。周りには岩石がたくさんあって、地形情報的に岩山とかも結構あるような場所ですね」


上空から撮影された写真を小百合に見せると同時に、文はもっていた地図をちゃぶ台の上に広げる。


場所的に人が立ち入るような場所ではない。数十キロ離れたところに集落らしき小さな村があるのは確認しているが、それだけだ。


そんな場所に一定時間滞在していたのであれば、間違いなくその場所に拠点があるとみて間違いないだろう。


「支部長的には、あんまり本気で壊してほしくはないようなことを言っていました。小百合さんは、今回どうするつもりですか?」


どうするつもりか。


自分で聞いておきながら、文はその答えをすでに自分の中にもっていた。というより予想できていたというほうが正確だろう。


「壊す以外の選択肢を私がもつとでも?」


「わかっています。どの程度やるのかというのを支部長は知りたがっていました。具体的には・・・情報が得られるかどうかという意味で」


「私はいつも通り戦うつもりだ。目障りな連中を潰して回る。それだけのつもりだ」


口ではそういいながらも、小百合の視線の節々に康太と似た殺意が込められていることに文は気づいていた。


康太の目に似ているのではなく、康太がこの目に似ているというべきだろう。


康太の目をいつも見ていたからこそ、文は小百合の感情の機微についても何となく知ることができていた。


おそらく小百合は、徹底的に敵を潰すつもりだ。その場所が二度と使い物にならなくなるほどに、自らの鬱憤を晴らすかのように、ため込んだ殺意をすべて叩きつけるつもりだろう。


どうなるか予想できない。


小百合の戦闘を文はそこまで多く見ているというわけではない。数えられる程度でしかないため、小百合の戦闘がどれほど凄惨なものになるのか理解できていなかった。


だが、少なくとも危険なことになることだけは予想できた。


今回の現場の周りに一般人が作った建築物などがないのは幸いと思うべきか、あるいはそれがなかったことを悔やむべきか。


もしあったら小百合の中でストッパーになったかもしれないが、今回何もないのであれば小百合を止めるものはもはやない。


「小百合さんはおひとりで行動するんですか?日本支部から誰か一緒に連れて行ったりは・・・例えば真理さんとか」


「あれはあれで忙しい。私の道楽に付き合うほど暇ではないだろう。ついでに言えば、私を一人にするほどあのバカは間抜けではないだろうよ」


あのバカ。支部長のことを指しているのはすぐに分かったが、小百合は徹底して支部長のことをバカにするが、決して侮っているわけではないようだった。


小百合を一人にすることがどれだけ危険なことか、支部長も理解しているのだ。そして小百合も支部長がそのような手段をとってくる支部長の対策を予想している。


これもある種の信頼関係だろうかと文は小さくため息をつく。


「私は今回康太につきっきりになってしまいますので、小百合さんをお手伝いすることはできません。それだけは理解していてください」


「構わん。あいつは・・・そうだな・・・少し不安定な状態にある。精神面でもそうだが肉体面でも妙なことになっている。お前が支えてやってくれ」


小百合の小百合らしくない言葉に、文は目を丸くしていた。


まるで康太を心配しているかのような言葉だ。こんな発言がまさか小百合の口から飛び出すとは思っていなかっただけに、文は一瞬呆けてしまう。


「・・・なんだ、そんなに変なことを言ったか?」


呆けてしまっている文を見て、小百合は眉をひそめながらため息をつく。


「い、いえ。康太のことを心配しているんだなと」


「心配?私がしているのはあいつ自身の心配ではない」


「・・・というと?」


「あいつがやりすぎた時の話をしている。私ほどではないが、あいつもそれなりに凶暴だ。もし万が一やりすぎるようなことがあれば、お前が止めろ」


小百合が自分のことを凶暴だと認識していることもそうだが、やりすぎという言葉を理解していたことにも驚きだった。


とはいえ、小百合が止めるレベルで何かをしようとするかもしれないという康太の秘められた殺意に、文は少しだけ不安を覚えていた。


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