より頼もしく
「つまり、決行は九日後ってことか」
翌日、文は自分の拠点にやってきていた倉敷に攻略作戦のことを話していた。
今回の作戦は倉敷も参加する。決して無関係ではいないためにしっかりと報告しておかなければならない。
「そういうこと。あんたもそれ相応の準備をしておいてほしいのよ。そんなに装備品とかにこだわるタイプじゃないのは知ってるけど、一応ね」
「そうだな・・・まぁ頭には入れておくよ。ところで・・・あいつ大丈夫なのか?」
「・・・大丈夫とはいいがたいわね。昨日ちょっと様子見てたんだけど、なんかこう・・・いつもと違う感じがしたわ」
「具体的には?」
「表面的には全然普通にしてるのよ。それがかえって不気味。決壊寸前のダムを見てる気分よ」
「あー・・・やばいな・・・実物見てないから何とも言えないけど、お前がそういうならやばそうだ」
康太のことを今一番知っているのは文だ。私生活も魔術師としての活動も、最も長い時間を共にしている。
理解度的には康太の師匠である小百合よりも高いのではないかと思えるほどである。
そんな文がそのような表現をしたことに、倉敷は強い危機感を覚えていた。
「一応確認しておくけどさ、俺らの・・・俺の役割は、お前らを本丸のところに送り届ける、ついでに余計な連中を排除するってことで、いいんだよな?」
本丸。つまりは件の魔術師のことだ。そこに康太たちを送り届け、なおかつ康太が戦う時にその邪魔をさせないことこそ、自分のやるべきことだと倉敷は認識していた。
だが文は迷うような表情を見せていた。それが最善の手であると理解していても、それを即座に肯定できるだけの自信が文にはなかった。
「私とあんたで康太をサポートする。その魔術師のところに送り届けて露払いを私たちがやる・・・それ以外に方法が見当たらないのも事実だけど・・・」
「・・・八篠の状態が気がかりか?」
「そう・・・あの状態のあいつを一人にしていいものか、迷ってるわ。でも足手まといになるのも事実なのよ」
文が一緒に戦って幸彦の足を引っ張った。その結果、幸彦は死んだ。
その事実が文の中には深く突き刺さっていた。
また康太と一緒に戦って、康太の足を引っ張るのではないか。そのような考えが頭の中に浮かぶのだ。
あの魔術師と戦うのに必須なのは回避能力。はっきり言って防御は役に立たない。そういう意味では康太ほどの適任者は他にいないだろう。
文ではあの攻撃を回避しきれない。一定以上の距離をとれば問題ないかもしれないが、あの時、かなりの距離があったのに回避しきれないこともあったのだ。
相手の攻撃速度を考えると、文の回避能力では心もとない。以前に比べて文も回避能力は高くなっているが、それでもまだあの攻撃すべてを見切るには至らない。
何より件の魔術師だけを気にかけていればいいというだけの話ではないのだ。状況を考えれば、他の魔術師からの妨害だってあり得る。ならば文と倉敷で協力してその有象無象を追い払ったほうが良いのではないか、そんな風に感じてしまうのである。
とはいえ、文が懸念しているのは実力面だけの話ではない。康太の今の状態ではどのような行動をとるか全く予想できないというのがあるのだ。
「あんたは康太の体の話はどれくらい知ってるの?」
「ん?人間じゃなくなったってのと、めっちゃ輝けるってことは知ってる」
「ものすごく大雑把だけど大体あってるわね・・・アリス曰く、あの状態ってすごく不安定らしいのよ・・・何が起きても不思議はないレベルらしくて」
「よくそんな綱渡り状態でいられるよな・・・もう治らないのか?」
「どうかしら・・・そもそも方陣術の結果変えられたらしいんだけど、肝心の方陣術は康太が壊しちゃったからほとんど原型がなくなってたらしいし、解析もほぼ不可能、治すのは無理だと思うわ」
一度変化してしまったものを元に戻すことはできないという不可逆の変質をもたらしてしまったという風にアリスは言っていた。
単純な化学や物理学ならば、元に戻すことも不可能ではなかったのかもしれないが、康太は魔術的に、そして現象的に変換されてしまった。
もっと言えば、存在そのものが全く別のものになってしまったのだ。
科学や魔術など一切使わずにレモンティーをただの紅茶に戻す方法を模索するようなものだ。混ざり合ったものをどうにかすることなどできようはずもない。
少なくとも現段階の文では、いやアリスでさえ康太を元に戻す方法などは思い当たらなかった。
「あいつそれでも普通に生活できてるんだろ?まだ半分人間なんだっけ?」
「そうよ。日常生活では不便はしてないみたい。アリス曰く、これ以上変化が進むとどうなるかわからないらしいけど」
「なるほど、だから一人にはしたくないと」
「あいつ放っておくと何するか本当にわからないからね」
今まで康太と一緒に行動して分かったことだが、康太は良かれと思って突拍子もないことをすることがある。
文としてはその予想もできないことの中に危険な何かがあるのではないかと恐れているのだ。
「まぁあれだ、一時的にでいいなら俺が押さえておくって。倒す事はできなくても時間稼ぎくらいはできるだろうし」
「あんたも言うようになったわね。頼もしい限りだわ」
「お前らと一緒にいるとこうなるんだよ。相手が強すぎたらそういうわけにもいかないけどな」
倉敷は苦笑しながらため息をつく。多少なりとも自信がついたのだろうか、それともあきらめたのか、自分の実力を正しく認識し始めているようだった。




