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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十九話「その手を伸ばす、奥底へと」

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動き出す

「またずいぶんと派手にやったよね」


康太は拷問を終えた後、支部長室にやってきていた。


事情はどうあれ、あれほど派手に宣言したのだ。多くの魔術師たちが康太への対応を改めざるを得なくなった。


そして支部長も、康太に対して告げなければならないことが多かった。


「あれだけ派手に宣言したんだ、今後どうするのかは・・・まぁ聞くまでもないよね」


「えぇ、バズさんを殺した奴を探します。探して・・・」


殺すという言葉を康太はあえて口にしなかった。だがどのようなことをするのかは支部長は理解していた。


その気持ちがわからないわけではないために、それ以上何かを言うことはなかったが、支部長としても少し複雑な気持ちであるようだった。


「ビー、片づけ終わったわよ」


「お、悪いな任せちゃって」


「気にしないで。ほとんどトゥトゥがやってくれたから」


使っていた部屋の片づけをしていた文が倉敷とアリスを伴って支部長に戻ってきた。


倉敷が頑張ってくれたのであれば後でねぎらわなければならないなと苦笑しながら、康太は倉敷の肩を軽くたたく。


「悪いな、急に呼び出して」


「本当にな。こっちの予定も無視して呼び出しやがって。高くつくぞ?」


「わかってるって。今度なんかおごるよ」


康太はそういいながら、再び支部長の方を向く。


「てなわけでお騒がせしました。残りの連中も同じ目に遭わせたいところですけど・・・」


「情報は君の方でもだいぶ抜き取れただろうから・・・こっちもちゃんと抜き取って整合性をとってからにしてほしいなぁ。少なくとももう少し時間がかかるよ?」


「やっぱりそっちだと時間かかりますか」


「君みたいに強引な手段を使っていないからね。少なくとも何日か待って相手の精神が疲弊したところでやらないと確実とは言えないよ」


自白剤や魔術を行使しての尋問は相手の精神力が弱まっているときにやってこそ最大の効果を発揮する。

まずは相手を弱らせるところから始めないといけないのだ。


そういう意味では康太の拷問は非常に適切だ。相手に痛みを与えながらついでに相手の精神を弱めるという効果を持つ。


もっともその結果相手を死に至らしめる可能性があることを考えると最適とは言えないのだが。


「で・・・君たちが追うその魔術師なんだけど・・・今のところまだ情報がなくて」


「あ、支部長、すいません。その件で一つよろしいでしょうか」


支部長の言葉を文が遮った。文が支部長の言葉を遮るというのは非常に珍しい。基本的にすべて話し終わってから次の話につなげるのが文の話術だ。


だが今回それをしなかったことで、文の話が緊急性が高い、あるいは重要度が高いということを支部長に意識づけさせた。


「私たちが追っている魔術師ですが、私の魔術を使えば追跡が可能になると思われます。なので世界的に協会の門を使用する許可をいただきたいです」


「・・・んん!?どういうこと!?」


文の発言に驚いているのは支部長だけではなく康太と倉敷もだ。一体どういうことなのだろうかとほとんどのものが目を見開く中、文は小さく息をついて一つの容器を取り出す。


そこに入っているのは神加の血液だ。今回文が神加を捜索するために使用したものである。


「今回、シノちゃんがさらわれたときにこれを使って捜索しました。まだ精度は低いですが、相手の血液さえあれば、相手の位置を方向で知ることが可能です。確か、例の魔術師の血液を保管していたと思ったので、それをいただきたいです」


「・・・はぁ・・・それは・・・すごい魔術だね・・・」


文の魔術はもともと春奈が有していた魔術をさらに改良したものだ。本来であれば一朝一夕でできるものではない。そのため文はかなり根を詰める形で改良にいそしんでいた。


文が作ろうとしていた魔術の意味を知って、康太は文の方を見る。


「ずっとあの魔術を作ってたのって・・・このためか?」


「そうよ。あんたがあれを追うってなったら、こういう風にどこまでも追える魔術が必要だって思ったのよ。一つの情報だけじゃ逃げられるかもしれないから」


文がずっと、康太のために行動していたのだということを知って、康太は胸の奥が熱くなるのを感じていた。


康太のそばにいなければいけない時にも、文が康太のそばにいなかったのにはそういう意味があったのだ。


康太ならば何かと理由をつけて復活する。


弱った康太を焚きつけるのは、おそらく文よりも強引な小百合の方が適していると考え、文は心を鬼にして自分にできることに徹したのだ。


魔術の改良によって、康太が本当にしたいことをかなえるために。


「ただビー、これでいつでも追えるようになったとはいえ、精度が高いわけでもないし、相手が移動し続ける可能性だってある。何度も調査して、そこから場所を特定して襲撃という形をとるわ。あんたはそれまでに、準備を整えて」


「・・・あぁ、ありがとう。お前が相方で本当によかったと思うよ」


「そりゃどうも。自分の力もしっかり扱えるようになっておきなさいよ?」


それが自分の体、人ではなくなってしまった体のことを言っているのだと康太は理解していた。


不安定な状態で戦うわけにはいかない。本格的にこの体の解明をしなければいけないと康太は意気込んでいた。


「わかった。あの魔術師の血液に関しては君たちに預けよう。けれど、当然だけど方角などを示す場合支部の人間も立ち会わせてもらうよ?」


「もちろんこちらからもお願いします。ですが支部長、わかってますよね?」


「うん、君に同行するのは僕の信頼のおける人間だけに限らせてもらうよ。万が一にも情報が洩れるようなことがないようにね」


支部の中、もっと言えば協会の中にどこに敵が潜伏しているかわからないのだ。繊細な情報を扱うのならば当然繊細さが求められる。


特に敵を招き入れるようなことはしたくはなかった。文が扱っている情報の重要性が相手にも伝わるのは避けたい。


「そういうことよビー。あんまり時間はかけられない。あんたはその短い間のうちに、自分の体を自分のものにしなさい」


妙な表現に康太は苦笑してしまう。確かに今の康太は自分の体が自分のものではないような錯覚を覚えている。


いや、その表現は適切ではないだろう。康太はまだ自分の体がどのようなものになっているのかすら正確に理解していないのだ。そしてどのように戦うことができるのかもわかっていないのだ。


そんな状態で敵に挑むのは無謀だ。だからこそ文は康太を焚きつけた。こうして康太が最も望むものをぶら下げて見せたのだ。


「目の前にニンジンをつるされた馬っていうのはこういう気分なのかね?今すぐにでも走り出したい気分だよ」


「馬がニンジンが好きかどうかはさておいて・・・やるべきことをやりなさい。アリス、悪いけどビーの手伝いをしてあげて」


「よいのか?お前の手伝いの方がよほど重要そうだが」


「そっちはトゥトゥに頼むわ。トゥトゥ、私の護衛お願いね」


「お前の護衛とか冗談にしては笑えないな。逆に俺が守ってほしいわ」


「あの魔術を使ってるときはほかの魔術に回してるだけの魔力も集中力もないのよ。お願い」


文の使っている魔術は未だ未完成なのだ。消費魔力もはっきり言って多すぎるし、必要な処理も多すぎる。


文ほどの才能ある者がそのすべてを傾けてようやく発動できるレベルなのだ。はっきり言ってほかの者が使うことすらできないほどの魔術なのである。


改善点も多く、不完全な部分も多い。だがそれを補って余りあるほどの効果を持っているのも確かだ。


倉敷は文の言葉があまり信じられないのか、康太の方に目を向けた。その魔術を発動しているところを見ていないために文が適当に自分を連れて行こうとしているのではないかと考えたのである。


「トゥトゥ、ベルを頼む」


康太にまで頼まれてしまっては嘘ではないのだろう。保険という意味もあるのだろうが、倉敷としてもこの二人に頼まれては断ることはできなかった。


何より、倉敷もこの時を待っていたのだ。幸彦を殺した魔術師を追い詰める。追い詰めて、倒す。それは倉敷の目的でもあったのだ。


「わかった、わかった、わかったよ。やってやる。魔術師だろうが何だろうが蹴散らしてやるよ」


「いい返事ね。ようやく私たちの仲間っぽくなってきたじゃない」


「まったくだ。俺の右腕の称号をやろう。協会内で肩で風を切って歩けるぞ?」


「絶対にそんな称号いらない。俺はお前の下についたつもりはないぞ」


「なら俺の相棒ってことになるけど・・・悪いが俺の相棒の席はベルで埋まってるんだよ」


「誰がお前と組みたいって言ったよ。なるべくお前とはつかず離れずの関係を保っていたいんだよ。都合のいい時だけ頼るみたいな感じの」


「はいはい、頼りにしてるぜ」


「もっと強くなって私たちを楽させてよね」


「なんでお前らのために強くならなきゃいけないんだっての」


軽口を言いながらも康太や文の言葉からは倉敷に対する確固たる信頼が見え隠れしていた。倉敷から発せられる言葉もまた然りだ。


精霊術師と魔術師でありながら、この三人の間には絆のようなものが存在している。この三人ならば何でもできる。そう思えるような力がここにはあった。


「じゃああとはどの場所に行くかだね・・・その魔術でどの方角を示すかによって行く場所が変わるか」


「そうですね。まずは日本国内にいるのかどうか。それから世界のどこにいるのか、それを調べていきましょう」


「それがいいだろうね。北か東か南か西か・・・いったいどこなんだろうね」


日本かロシアかアメリカかオーストラリアか中国か、はたまたほかのどこかの国か。


日本だけではない、世界各国どの場所に行こうとどの場所に居ようと文は探し出すつもりだった。


まだこの魔術の射程範囲を把握できているわけではない。反応が出るまでやるつもりだった。


幸いにして文は支部長の協力をこぎつけているのだ。どの場所にいるのか、それを把握するために協会の門だって使える。


目的が間近に迫ってきている中、康太たちの目は今までのそれとは少し違っていた。


「アリス、悪いけど頼むぞ。結構ハードに鍛えるからな」


「任せておけ、辛くて音を上げるのはどちらになるかわからんがな」


「トゥトゥ、明日から本格的に行動開始するから、準備しておいてね」


「了解、戦闘準備はしておくよ。万が一の時は撤退を考えておけよ?」


康太とアリス、文と倉敷の二つのチームに分かれたのを見て支部長は薄く微笑む。若者がとても頼もしくなったものだと、少しだけ自分が歳を取ったことを実感しながら。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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