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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十九話「その手を伸ばす、奥底へと」

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示す、その怒りを

魔術師の口は動き続けた。自分が助かるために、そして自分が苦痛にさらされないように、知っていることを話し始めた。


とはいえ時折嘘だなと思うようなことも康太は感じ取っていた。


何度も誰かを尋問したおかげか、康太は嘘に敏感だ。助かろうとしてつく嘘に関しては、特に。


話している以上は邪魔ができない。康太は道具の準備を進めながら、相手が魔力を蓄え、魔術を発動しないように魔力を吸い続け、魔術師の背後にいる文にも注意を呼び掛けていた。


今のところ魔術師の視界に入っているのは康太だけだ。その背後には集中の阻害要員として文、血液の流出防止要員として倉敷、さらに部屋の隅に記録要員としての協会の人間と見えなくなっているアリスがいる。


協会の魔術師はこの男の一言一言を記録し続けている。そんな中、康太はその言葉の一つ一つに反応はしない。


こちらが興味があることを言うまで、いや、言ったとしても康太は準備をやめないだろう。


相手の言葉に反応すれば、当然相手に付け込まれる。


恐怖を刷り込むという意味で目を開けさせているが、その分こちらの対応も注意しなければ足元をすくわれてしまう。


そんなミスをして相手に付け入られたら目も当てられない。康太は特に注意して相手の言葉に耳を傾けていた。


話し続ける魔術師の言葉を要約すると、仲間が精霊術師を使って実験をしていた。だがその過程で素晴らしい素材を発見した。


大量の精霊を入れていると思わしき少女、それが神加だった。


体内にどれほどの精霊を宿しているのかを知ることができる人員が、この魔術師の仲間にはいたらしい。

より多くの精霊を身に宿す精霊術師を探す過程で、神加の存在を知ったのだとか。


この時点で、この魔術師とその他、今回捕まえた魔術師たちが精霊術師たちを捕まえていた魔術師たちの一派であることは判明した。


嘘かどうかはさておき、少なくとも康太は嘘だとは思わなかった。


精霊術師を攫っていたグループが、件の組織とつながっているかどうかの確証は未だ得られていない。


だからこそ、この魔術師から得られる情報は貴重だ。そのくらいのことは康太もわかっていた。故にこの言葉を遮るつもりはない。


ただどんな苦痛を与えてやろうか、どのような絶望を与えてやろうかという考えしか康太にはなかった。


相手が話している間、康太はその思案を続ける。それ以外の考察には価値がないと表すかのように。


そして、自分の思いつく限りの言葉を出し尽くしたのか、魔術師の言葉が止まる。それを待っていたかのように、康太は置いてあった道具の一つに手を伸ばした。


このまま言葉を止めてはまずいと判断したのか、魔術師は待ってほしい、話を聞いてほしいと喚きだす。


まだまだ思い出していないだけで情報はたくさんあるとか、私を助けるために仲間が来るはずだとか、仲間を裏切って情報を手に入れてこようだとか、そういった命乞いに近い部類の聞く必要のない言葉の羅列だ。


康太が近づくたびに、魔術師の声は大きくなる。ずっと話し続けていたために、わずかに声がかすれてきているが、それでも康太に対して命乞いを続けていた。


殺すつもりは毛頭ない。だがそれ以外の苦痛はすべてを与えるつもりだった。


自分の身内に手を出せばどのような結末を迎えるのか、それを知らしめる必要がある。


「頼む!助けてくれ!あんたの力になるから!だから!」


康太はもはやお前の言葉を聞くつもりはないというかのように、魔術師の口に布を突っ込む。


もはや魔術師には声にならないうめき声をあげる以外に、康太に助命を乞うこともできなかった。


倉敷によって体内の液体が無駄に排出されないように、水分のコントロールがされているせいで汗をかくことすらできなかった。血を流し死ぬこともできないだろう。


彼はこれから康太の鬱憤を晴らすための道具になり果てるのだ。


「さて・・・おしゃべりは終わったみたいだから、始めようか」


康太はそういってペンチを取り出した。


先端部分がわずかにさびの付いたそれが、いったいどのような用途で使われたのか、魔術師は想像することもできない。


いや、想像はできた。だがそれをこれから自分が受けるという事実を認めたくなかった。


認めてしまえば、精神が正常でいられる保証もなく、少しでも自分の精神の安定を図るために、わかっていながら、無意識のうちにわからないふりをしていた。


もっとも、そんな無意識下におけるわからないふりも、実演されてしまえばどうしようもないのだ。


「耳と・・・そうだな、歯もいらないな。舌は・・・確か斬ると窒息するんだったか・・・ならそれ以外は全部そぎ落とすか。鼻もいらないな」


言葉の節々から怒りを感じる。抑揚のない声なのに、機械的な声質なのにもかかわらずその声からは奥底から響くような怒りと殺気を感じられた。


なぜこんなことになったのか。恐怖で身を震わせることしかできない魔術師は、他の仲間がどのような結末を迎えたのか知らない。


他の仲間は普通に尋問をされているだけだ。記憶をいじられ薬づけにされて自白させられていることだろう。


康太に選ばれてしまったのは、ひとえに運が悪かった。それだけの理由である。


いや、根本的な理由ではない。康太を敵に回してしまった。それが彼の最大の不運だろう。














協会にいる魔術師はそれを聞いていた。


もう一時間以上続く絶叫、悲鳴、もはや声にすらなっていないようなものも、その扉の向こう側から聞こえていた。


協会の魔術師の多くはそれがいったい何を意味するのかを知っていた。そしてそれを知らぬ者もその絶望の声を聞いて、いったい何が行われているのだろうかと恐怖に身を震わせていた。


魔術師とは法から逸脱した存在だ。魔術を行使する過程で、法を無視した行いだってする。それは支部だけの話ではなく、協会そのものが率先して行っているようなことだってあるのだ。


その中でも、これは特筆するべきものかもしれない。


ちょうど弟子を連れてきた者、久しぶりに協会を訪れた者、いつものように協会にいた者、その事情を知って視線を伏せる者、ありとあらゆる反応をする中で、その声の主、扉の向こうにいる哀れな者の末路がどのような形になるのか、想像することもしたくなかった。


いつもの部屋。あの部屋、拷問室、立ち入ってはいけない部屋。その部屋は、もはや支部の中ではそのような呼び方で使われている。


血の汚れや匂いがこびりつき、何もない時ですら時折うめき声が聞こえるという噂さえあるその場所で、いったいどのようなことが行われているのかは想像すらできなかった。


その部屋に連れていかれた者の末路を、ほとんどのものが見たことがないのだから。


その部屋に連れていかれるのは、決まってとある魔術師を敵にしたものだった。


ブライトビー。


デブリス・クラリスの二番弟子。彼女の正統後継者との呼び声の高い、破壊の継承者。理不尽の象徴。


一番弟子のジョア・T・アモンが穏健派であり、ほとんど誰かと戦ったとか、誰かを害したという噂を聞かないのに対し、二番弟子の彼は徹底して破壊の限りを尽くしているという噂が支部内では蔓延していた。


その原因というべきなのだろう、それこそがこの悲鳴にも似た絶叫である。


うめき声だけの時もあればこのように大きな悲鳴が響くこともある。この声を聞くたびに、魔術師たちは噂が真実であるということを認識するのだ。


だが今日のこれは一段と長かった。普段であれば一時間もかからずに終わるその悲鳴が、いつまで経っても終わらない。


いつになったらこの悲鳴は止まるのだろうかと、不安になるもの達もいる中、唐突にその声が止んだ。


先ほどまで協会内に響き渡るほどに上げられていた声が止んだことで、協会の中にいた魔術師たちは周囲を見渡す事すらしてしまった。


索敵でその状態を確認しようとした者すらいたほどである。


だが、その必要すらないというかのように、その部屋の扉が勢いよく開く。


そこから現れたのは、他でもないブライトビーだった。


蜂をモチーフとした仮面と、魔術師の外套を身に着けたその魔術師が何事もなかったかのように悠然と歩く。


だがその手には、何かがあった。


それが人間であるということに多くのものが気付いたのは、エントランスに到着し、その存在が転がされた時だった。


片腕と片足がなく、残っている腕も指が数本なかった。


そして、一番多くのものの視線を釘付けにしたのが、その顔だった。


両の耳が削ぎ落され、鼻もなくなっていた。赤黒く変色しているのはその部分を焼いたからだろうか、出血はしていないように見える。


方目、右目には何かが突き刺さっている。いびつな形をしたそれが、錆びた杭であると気づいたものはどれだけいるだろうか。


喉の部分は焼けただれ、肉が露出している。喉をつぶした後であふれた血を焼いて塞いだのだろう。


そしてその口が開かれ、その中を見た瞬間に多くのものが顔を背けた。


歯がすべて抜かれていた。しかもおそらくは、正式な施術などではなく、強引な形で引き抜いたのだろう、歯茎もボロボロになってしまっていた。


中にはわざと乱暴にぬいたのだろうという痕もあった。


情報収集のためなどではない。明らかに八つ当たり、報復に近いものであるというのは誰の目にも明らかだった。


そして康太が槍を構築し、柄部分で思い切り地面を鳴らした。


「聞け!協会の魔術師たちよ!この男は、仲間とともに俺の弟弟子を誘拐し、不埒な行為をしようとした!」


エントランスすべてに響く、日本支部のすべてに響くのではないかと思えるような大声に、ほとんどのものが耳を傾けた。


この魔術師がいったい何をしてこうなったのか、それを理解しなければいけないと本能的に理解していたからである。


「俺の身内に手を出せばどうなるか!この男で示させてもらった!二度とこのようなことが起こらないよう、こいつには思い知らせた!」


その言葉の節々に怒りが込められ、なおかつこの言葉が、この場にいる協会の魔術師たちへの警告であり、さらには、この男の仲間たちへの報復の伝達であることもありありと感じられた。


「俺の身内に手を出したらどうなるか、思い知れ!俺は、俺の身内に手を出した者を許すつもりはない!」


それが、どこかにいる、幸彦を殺した魔術師に向けて発せられているものだと、事情を知っている者は理解していた。


だからこそ事情を知っている者たちには、その怒りに満ちた声が悲痛な声に聞こえて仕方がなかった。


恨み、憎しみ、怒り、そして悲しみを含んだその声の本質に気付いたものは、いったいどれだけいるだろうか。


康太が傷つけたこの魔術師に対して、どれほどの怒りが含まれているのか、どれほどの恨みを、あの魔術師に向けているのか。


その場に残された傷だらけの魔術師が、その一端を物語らせていた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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