破壊の代償
「ベル!障壁片づけろ!」
康太の叫びに何の返事もなく、文は康太の目の前に展開していた、すでに割られた障壁を解除する。
康太の邪魔をするわけにはいかない。そこで文は別の方法で康太のフォローをすることにした。
康太は一気に魔術師たちへと近づこうとするが、康太の行く手を阻むかのように大量の射撃系魔術が放たれる。
通路すべてを埋め尽くすような密度の攻撃に、康太は自身の防御能力を最大に高めながら槍を用いてそれらを弾いていく。
だがいくつか被弾してしまう。エンチャントの魔術によってウィルの鎧の防御能力は高めているとはいえ、衝撃そのものを消せるわけではない。康太の突進は着弾のたびにわずかに勢いを削がれてしまってた。
だがその状態のままでいるほど文は甘くなかった。
「行きなさい!ビー!」
文は康太の背中に触れ、その体に電撃を纏わせると同時に三つの魔術を発動する。
一つは磁力によって体を浮かせ、高速移動する魔術。もう一つは風属性の暴風の魔術。
そして最後は、康太の防御能力を増させるための、かつて文も教わった無属性のエンチャントの魔術だった。
その手が康太の放つ電撃で火傷を負うことも厭わず、文は康太の背を押した。瞬間、二つの魔術によって押し出された康太は普段ではありえないほどの速度を出して魔術師たちに接近する。
その体に射撃系の魔術が直撃するが、康太の体は止まらない。それどころか勢いを増しながら魔術師たちに接近していた。
このままでは確実に接近される。そう考えた魔術師は障壁を展開し、通路を完全にふさいで見せた。
当然、障壁でふさいでしまえば攻撃が通らなくなるが、一時的に距離を作るにはこれが最適だと判断したのだろう。
だが康太はそれでは止まらない。
即座に障壁の弱い部分を見極めると、鎧状態にしていたウィルを右腕に集め、竹箒改と同化させ巨大な槍を作り出す。
さらに噴出の魔術を併用しさらに加速しながら、康太は障壁の魔術を容易く破って見せた。
もはや魔術師との距離は目と鼻の先だ。魔術師たちには康太の姿がいったいどのように映っただろうか。その考察に意味はなかった。
すれ違いざまに振るわれた康太の槍は、無事だった魔術師の肩口を切り裂いた。そして再現の魔術によってもう一回、もう片方の肩口を斬り裂く。
そして背後に回った瞬間、康太は自分の体ごと回転させながら拡大動作の魔術を用い、一閃、横薙ぎに魔術師たちを斬り裂いた。
背中、足、腕、場所にこそ違いはあれど、三人の魔術師は康太の攻撃をまともに受けてしまった。
だが康太は止まらない。その手を三人に向けると噴出の魔術を放ち、三人を炎で包む。
斬り裂かれ、焼かれ、魔術師たちが怯んだ瞬間、その体めがけて強力な電撃が襲い掛かる。完全に怯んでいた彼らはそれを防ぐこともできず、その電撃を受け、体を大きく痙攣させながら意識を喪失させていた。
「あと二人!奥に行って右の部屋にシノちゃんと一緒にいるわ!」
「了解!待ってろシノ!」
三人の魔術師を瞬く間に倒した康太は、即座に文の指示通りに動く。この距離になれば康太の索敵でも状況を把握することはできていた。
扉を開けるなどということはしない。拡大動作の魔術で拳を拡大した康太は扉を殴りぶち破る。
コンクリートで作られた壁ごと壊す勢いで現れた康太に、中にいた魔術師二人は康太の方に振り向く。
二人の魔術師は何やら方陣術を発動させようとしていた。そしてその中心には鎖につながれた神加がいる。
意識がないのか、完全に横たわってしまっており、康太が扉をぶち破ったその轟音でも何も反応していなかった。
何かをされそうになっているのは明白だった。そしてその方陣術が発動寸前であることも、康太は気づいていた。
瞬間、康太の脳裏に幸彦の姿が重なる。
また間に合わないのか、と言う康太の思考を否定するかのように、康太の体から強い電撃が放たれる。
否、今度は間に合わせるのだと。
噴出の魔術を用い、部屋の中に突入すると、二人の魔術師の間に入り拡大動作の魔術で二人の魔術師を殴り飛ばす。
神加のもとにたどり着くと同時に神加をつないでいる鎖の固定部分を分解の魔術で外すと、康太は神加の体を掴み、ウィルをその体に纏わせた。
「ウィル!シノは任せた!」
噴出の魔術によってウィルごと神加の体を方陣術の外へと弾き飛ばす。そして康太の足元には今にも発動しそうな方陣術。
この方陣術がいったい何を目的としているものかわからない以上、発動させるのは得策ではない。
物理的な破壊。否、間に合わない。
退避すれば間違いなくこの術式は発動する。ならばここで発動する前に壊すしかない。
康太は自分の中の魔力を活性化させ、属性も波長も無茶苦茶にし、方陣術に無秩序な内容を書き加えながら魔力を流し込む。
康太の魔力を方陣術が呑み込んだ瞬間、強烈な光が部屋を覆いつくした。
アリスは文の指示を受けて地下鉄を康太たちと同じように通って魔術師たちの根城にやってきていた。
アリスが動くと同時に協会の魔術師たちも周辺の警戒に当たっていた。アリスが現場につくよりも早く遠視の魔術によって康太たちの動きを察知していたからこそ、アリスの動き出しは非常にスムーズだった。
魔術を使い全速力で移動する中で、アリスは早々に康太と文たちの戦闘痕を発見する。
そして地下通路の先で文の姿を見つけていた。
「ベル!」
「アリス、早かったわね」
「これでも急いで駆けつけてやったのだ、感謝するがよいぞ」
文がいる場所の足元には魔術師たちが黒焦げになっていた。腕がないもの、足がないものとそれぞれ康太の攻撃による洗礼を受けたのが見て取れる。
文はこの魔術師たちが死なないように応急処置を施していたようだった。
「ビーはどこに?」
「先に行ったわ。アリスも先に行って、私はもう少ししたら」
後を追うからと言いかけた瞬間、康太が突入した部屋からこの通路さえも埋め尽くさんばかりの光が放たれる。
その光を見た瞬間、アリスは文との会話も打ち切って即座にその部屋へと駆け込んだ。
その場所には壁に叩きつけられながらも方陣術の発動を見守る魔術師、そしてウィルに包まれた神加、方陣術の中心にいる康太の姿があった。
アリスは魔術を用い壁に叩きつけられていた魔術師二人を即座に気絶させた。そして神加がウィルによって守られ、なおかつ気絶しているということを確認すると即座に康太のもとへと駆け付けた。
方陣術の光は収まりつつあり、その中心にいる康太の姿もようやく目視できるようになってきた。
「ビー!無事か!」
アリスが駆け寄る中、方陣術の光は完全に消えていく。方陣術の中心にいる康太はその手を地面につきながら放心していた。
小百合が使う方陣術の破壊方法に関してはアリスも知っている。半ば暴走に近い形で本来の形とは異なる状態にすることで強引に術式を発動できないようにするのだ。
アリスも何度かその修業をしているのを見たことがある。とはいえ、それは暴走する可能性を秘めており、何が起こるかわからないということでもある。
そんな中、康太が行った破壊が良い結果をもたらしたかどうかは定かではない。そもそもなんの術式であったのかもわからない状態でどのような効果が発揮されるかわからないような壊し方をしたのだ。
どのような効果が康太に引き起こされても不思議ではない。
「ビー!返事をしろ!」
アリスが康太の肩を掴んでその体をゆすろうとした瞬間、アリスの腕は康太の体をすり抜ける。
寒気がした。
アリスの理解を超えた現象に、アリスは一瞬自分がおかしくなったのではないかと錯覚を覚えたほどである。
だがアリスの腕は康太の体をすり抜けたままだ。いったい何が起きたのか、一体康太がどうなったのか。
アリスは持てるすべての技術を用いてこの状況を解析しようと試みた。
物理的に、術式的に、そして現象的に、ありとあらゆる知識と情報を頭の中で整理し、この状況がいったい何なのか、康太がいったいどのような状態になったのかを把握しようと試みる。
康太が破壊した方陣術の解析はほぼ不可能だった。康太自身が無茶苦茶に術式を上書きしたのに加え、本来許容できるレベルを超過した魔力が注ぎ込まれ、なおかつ暴走に近い形で発動したということもあって、術式そのものがほぼ消滅していた。
完璧なまでの破壊だと小百合ならば褒めるだろうかとアリスは一瞬考えたが、小百合ならば暴走させないように破壊することも容易だろう。おそらくこのような状態にさせた康太に『まだまだ甘いな』と苦言を呈するはずだと、アリスは内心苦笑する。
だがそんな表情を仮面の下にのぞかせるほどアリスは余裕はなかった。康太の今の状況、アリスはかつて経験したことがある。
いや、自分自身が経験したわけではない。だがアリスは知っている。これが非常に危険な状態であると。
「アリス!シノちゃんは無事!?」
「シノよりもビーが危ない状態だ!ベル!こやつのそばにこい!」
部屋に駆け込んできた文が部屋の状況を確認すると、神加はすでに救出されており、ウィルが保護しているのが見えた。
だがアリスは切羽詰まった声をだし、康太に触れようとしているが、その手は康太の体にぎりぎり触れない場所を維持していた。
「どうしたの?ビー・・・?ビー?返事しなさい!」
康太が放心状態になっており、まったく返事をしない状態になってしまっていることに文は驚いてアリスと同じように康太の肩を掴もうとするが、康太の体をすり抜けてしまう自分の手を見て、康太の体の感触がないことに気づいて、文は驚愕に目を見開く。
「なに・・・これ・・・アリス、これ」
「今解析しているところだ!お前はビーの、コータの名を呼びかけ続けろ!」
アリスの鬼気迫る声に、文はこの状態が尋常ならざる、あり得ないような事態であるということを即座に理解する。そして、康太が今危険な状態にあるということも。
「康太!康太!しっかりしなさい!」
文の声が部屋の中に響く中、神加はゆっくりと目を覚ましていた。
たぶん誤字報告を五件分受けているので二回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




