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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十九話「その手を伸ばす、奥底へと」

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捜索開始

「なんだ、もう帰ってきたのか?ミカは見つかったのかの?」


「ダメ、途中でウィルの糸を外されてたわ。ちんたら探してたら手遅れになりかねない」


アリスは康太に頼まれた通り、店番をしていた。のんびりしているように見えるが、その表情は険しい。アリスなりに神加のことを心配しているのがうかがえた。


「手を貸すか?」


「必要ないわ・・・と言いたいけど・・・そうね・・・助けに行くとき、一緒に来てくれればそれでいいわ。私はたぶん康太を押さえるので精いっぱいになるだろうから、アリスには神加ちゃんを無事なところまで連れて行ってほしいの」


「ふむ・・・必要ないということならばそれで良いが・・・それで」


「ただいまぁ!」


文が戻ってきて数分も経たない間に、康太は店に戻ってきていた。


そして店の表にはバイクも置いてある。随分と早い移動に文は目を細めた。


「随分と早かったけど・・・空とか飛んでないでしょうね?」


「飛んでねえよ・・・!協会に無理言ってバイクごと通してもらった・・・!さすがにいやそうな感じだったけど、緊急事態ってことで目をつむってもらったよ!」


どうやらバイクで店まで移動してきたのではなく、バイクごと協会の門を通ってきたらしい。


身体能力強化などを施していたのか、だいぶ本気で走ったのか、かなり汗をかいている。まだ九月であることを考慮してもかなりの運動量をこなしたようだった。


「文、どうすんだ!神加を探す方法!」


「焦らなくていいわよ。あんたが先に神加ちゃんの血液を採取しておいてくれたのは、不幸中の幸いだったわ」


そういって文は神加とラベルの貼られた血液を取り出し、適当なメモ帳を一枚取り出す。


「で、どうするんだよ、アリスに調べてもらうのか?」


「バカ、私が今まで何もしてなかったとでも思ってたわけ?まだ精度が不安定だから使いたくなかったけど・・・テストにはもってこいよ」


そういって文はメモ帳に方陣術を刻み込んでいく。そしてその中心に神加の血液の入った容器を置いた。


文が術式を発動すると、容器の中にある血液が淡く輝きだし、血液がゆっくりと容器から出てこようとする。


まるで何かに導かれるようにゆっくりと容器を出た血液は、今度は横に動き出し、針のような形へと変化した。


液体でありながらその形を変えたその光景に、康太は覚えがあった。


「これって・・・前に誘拐犯を探した時の?」


「その魔術の改良版よ・・・あの時は髪の毛と血液と長く身に着けたものが必要だったけど、この魔術はそれを血液だけで探せるようにしたわけ・・・康太、地図!」


「合点!」


康太は文がやろうとしていることを即座に理解し、地図を用意してその地図に印をつける。


「大したものだの・・・あれだけの時間で、魔術を一つ改良するとは・・・しかも単純な威力を高めるような攻撃系魔術ではなく、探索系、しかも長距離用のものでそれをやるか」


アリスは文の評価を大きく改めていた。もとより文は才能に恵まれた魔術師でもある。素質という意味でも、センスという意味でも、処理能力という意味でも文のそれは一般的な魔術師のそれと比べるとずば抜けていた。


アリスもそれを認めるところである。だがそれは戦闘や現場でのものであって、こういった魔術の開発や改良面においてはその才能は発揮されないと考えていたのだ。


現場において発揮される才能というものは、こういった開発などの部分では発揮されないことが多い。なぜなら開発、改良といった部分で要求されるのは発想と閃き、そして独創性だからである。


「・・・天は二物を与えたということか・・・なるほど、嫉妬してしまうな」


「あんたにそういわれるのは悪い気はしないけどね・・・あいにくまだ未完成よ・・・精度がそこまで高くないの。何より消費魔力量がバカみたいに多いのよ」


文の素質をもってしても、何とかぎりぎり発動できるレベルの消費魔力だ。これを使っている間はほかの魔術は全く使えないといってもいい。


文の素質をもってすれば即座に魔力は回復できるとは言え、まだ実用に耐えられるレベルとはいいがたい。


未完成というのは嘘ではないのだ。だがアリスはそれを鑑みても、この短時間で一つの魔術のレベルをここまで改良する文の手腕には驚かされていた。


「謙遜するな、それだけのことができる魔術師はそうはいない。私もこの短時間で魔術を一つ改良しろと言われてもできるかどうか怪しい。お前のそれは誇るべきものだ」


「ありがとね・・・康太、準備いいわね!ここから走り回るわよ!」


「オーライ!準備できてるよ!装備も持った、いつでもやれる!ウィル、ついて来い!行くぞ!」


地図に印をした。ここからは移動し続けて文の調査用の魔術がどの場所を指し示すかを探す作業だ。


方角はある程度わかったため、ここからは場所を変えて二点、三点と調査地点を増やして相手の場所を探すことになる。


ある程度の場所が絞れたらその場所に突貫するだけだ。


康太はすでに装備を整えている。いつでも戦えるように準備万端のようだった。


「アリス、もう一つお願いしたいんだけど、いい?」


「なんだ?」


「協会に行って支部長に伝えてほしいの。康太が本気で暴れるから後始末よろしくって」


「・・・なるほど、私が小言を言われそうだの」


「お願い。私たちはちょっと動き回るから、場所がわかったらあんたの携帯に場所のデータ送るから」


「わかった。仕方がないの」


本来ならばもっと別の形で協力を求めてほしかったようだが、アリスとしてはこういう形で協力を求められるのも嫌いではないのか、手をひらひらさせながら店を出て行った。


「文、乗ったな!?」


「乗ったわ。まずは首都高ぎりぎりの裏道で同じことをするわよ!警察に捕まらないレベルで飛ばしなさい!」


「了解!しっかりつかまってろよ!」


康太はバイクを操り、道路を高速で移動していく。平日の夕方ということもあって人通りも車も多い。康太はその車の間を縫うようにしながら移動していく。


風景が次々と後ろへと流れていく中、康太たちは周辺にも気を配りながら目的の場所へと移動していた。


「二カ所目・・・ここでうまく場所がわかればいいんだけど・・・」


路地裏に身を隠した康太たちは、先ほどの神加の血を使って再び神加のいるであろう方角を示させていた。


地図に合わせて方角を示すと、先に記した線と今回の線が交わる。


「ここか」


「もう一か所やるわよ。この場所に近づきながら洗い出すわ索敵の範囲内に入らないように気をつけてね」


「了解。にしても血だけでここまで調べられるようにするとはな」


もともとこの魔術は文が春奈に教わったものだが、この短期間で必要な三つの要素を一つにできるまでに改良を施すというのは康太も予想外だった。


必要な要素を削るというのはそれこそ簡単なことではない。康太の使う魔術で言えば、再現の魔術を肉体の動作のストックなしに発動できるようなものだ。


その魔術の根幹に近いものを変えている。生半可な努力ではなかっただろうと康太はバイクの後ろに乗っている文を意識しながら目的の場所へと走る。


その場所は小百合の店がある場所から四つほど離れた駅のある町だった。康太は推定された相手の拠点から少し離れた場所で止め、再び文に神加の居場所を探してもらうことにするが、それによって作り出された線はわずかに逸れていた。


「やっぱりダメね・・・精度が低すぎてこれじゃあてにならないわ」


「ここからは地道な調査か」


「そうなるでしょうけど・・・この範囲にいるってわかった時点でだいぶ絞れたわ。あとはこの情報をアリスに送って・・・っと・・・」


文はアリスの携帯にこの場所の位置情報を送ると、立ち上がって軽く準備運動をし始めた。


「こっからは私の索敵魔術をメインにするわ。康太、あんたはいつでも突入できるようにしておいて。けど、まだあたりも明るいから攻撃するときには注意してよね」


「了解。もう周りに協会の魔術師がいるんじゃないか?」


「そう?私はわからないけど・・・」


「見られてる感じがする。敵意はない、観察してる感じだな」


「・・・相変わらずおっそろしい感知能力ね・・・索敵にも反応しないんだけど?」


文の索敵にも反応しないということは少なくとも数百メートル以上、もしかしたら一キロ近く離れているのかもしれない。


遠視などの魔術を使ってこちらを観察している可能性もあるため、その程度離れていても不思議はないのだが、康太は遠視の魔術によって間接的に見られている場合でもその視点を感知できる。


真理に教わった感覚ではあるが、康太はしっかりとその感覚を覚えていた。


「アリスがしっかり支部長に伝えてくれたってことではあるわけね・・・喜ぶべきことなんでしょうけど」


「俺が何かやらかさないか観察してるっていうのもあるんじゃないか?なんか物騒な伝え方してたしさ」


「でもあんた、今回本気で戦うでしょ?」


「当たり前だ。うちの可愛い妹に手を出したんだ。両手両足だけで済むと思ったら大間違いだっての」


「両手両足以外に何をなくせっていうのよ・・・やりすぎるとまた支部内で変な噂立つわよ?」


「今更だ!拷問狂だとか化け物だとか言われてる時点でもはや今更!一つや二つ悪名やら悪い噂が増えようが痛くもかゆくもないわ!」


「あぁ・・・それもそうだけど・・・一緒に行動してる私のことも考えてほしいものよ?私まで巻き込みで悪い噂が立ちかねないんだから」


「それも今更だろ。倉敷だって俺と行動してる時点で結構悪い噂立ってるんだから。俺とずっと一緒に行動してる文の場合すごいぞ?」


「・・・前にも聞いたけど・・・いやな感じね・・・何もしてないのに悪い噂ばっかり立つって」


「ほら、悪い友達と一緒にいると一緒に悪いことしてるんじゃって思われるあれだろ?似たようなもんだって、気にすんなよ」


「その場合あんたがその悪い友達なわけだけどね」


文は大きくため息をつきながら集中を高めだす。こっからはいかに早く神加を見つけることができるかという勝負だ。


「康太、私装備関係もってきてないから、戦力にはあんまりなれないと思ってね。いつも通りフォローはするけど」


「オーケー。いつも通り俺は好き勝手やらせてもらうよ。倉敷がいないのがちょっと辛いところだけど」


「仕方ないわ。アリスが到着するのを待つのも時間の無駄だし、私たちだけで急ぐわよ。神加ちゃんが何されてるか分かったものじゃないし」


「そうだな・・・二度となめたまねができないようにしてやる」


康太の声音が低くなり、敵意と殺意に満ちていく中、文は小さくため息をついていた。


暴走しすぎないように自分が康太をフォローしなければという意識が強くなる中、二人は目的の場所と思われる周辺に足を踏み入れる。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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