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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十九話「その手を伸ばす、奥底へと」

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子供の善意

「うぅ・・・腹を下しそうだ・・・!サユリめ・・・余計なことを・・・!」


神加によって強引に牛乳を勧められたアリスは断ることもできず、神加と一緒に大量の牛乳を飲む羽目になってしまっていた。


牛乳は嫌いではないとアリスは言っていたが限度というものがある。師匠である小百合が牛乳を飲めば大きくなれるという助言をしたことで神加はそれを信じてしまった。


そのため一緒に成長したいというアリスに牛乳を勧め続けたのである。


地下のアリスのスペースに置かれたベッドの上で、アリスは悶絶している。康太はそんなアリスの様子を見に地下へとやってきていた。


「アリスって成長とかは止めてるだろ?でも余計な栄養素とかが出てきたとき、そういうのは脂肪に変えてるのか?」


「いや、脂肪分に変えるとそれはつまり細胞に変質を与えることになる。私の体は成長を遅らせていると同時に、体の変化そのものも非常に遅らせているのだ」


「・・・つまり?」


「肉が付きにくく、肉は減りにくい。現状維持の栄養素などをとって、それをエネルギーに変えているだけだ・・・余計な栄養素はすべて排出、あるいは別の栄養素に変換できるものは変換している」


「そんなことできるのか。っていうか肉が付きにくいってことは筋トレとかあんまり意味ない?」


「意味がないことはない。私の成長の速度・・・かなり遅いがそれに見合った変化はする。だから毎日筋トレを続ければ・・・そうだな・・・五十年後くらいには少しは筋肉がつくと思うぞ」


ただ筋肉をつけるだけなのに五十年近くかかるとは思わなかっただけに、康太は眉をひそめてしまっていた。


アリスの体は康太もわからないことばかりだ。アリスが大量に牛乳を飲んで腹を下すのかどうかはさておいて、苦しそうにしているのは間違いない。


「そういう体の操作ができるなら体調の操作もできるだろ?牛乳飲んだくらいで腹壊すとかあるのか?」


「体調が悪くならないように調整することは容易だ。だがいくら体の調子を整えても、胃の容量ぎりぎりまで牛乳を詰め込まれればそれだけ苦しいに決まっているだろう・・・!排出までにどれだけ面倒な手順を踏むと思っているのだ・・・!余分な栄養素とはいえ、体の中の古くなった栄養やらと交換してから排出するために時間がかかるんだ・・・!」


「あぁ・・・そういうことか。体の操作をしてるからそういうのもいちいち自分でやってるんだな。大変そうだ」


「自動でやるのと手動でやるのとでは全く手間が違う。普段なら何の問題もないのだが、いきなり多大な量が入ったり、逆に全く入らなかったりすると調整が面倒くさくなる。そうならないように気をつけてはいるのだが・・・あれは反則だ」


「さすがのアリスも泣く子と神加には勝てないか?」


「泣く子など放っておけばよい。涙が出ないようにさせることだって可能だ。精神を落ち着かせることだってできる。だがミカのあれはダメだ。悪意ゼロ、善意しかない。そして自分とともに育ってほしいという願いしかない・・・さすがの私もあれを無碍にはできんよ」


泣いている子供を落ち着かせる程度のことはアリスは簡単らしいが、悪意を持たない幼い子供の善意を無碍にすることはできないようだった。


何というか今後アリスは神加にいろいろと苦労させられそうな気がすると康太は苦笑してしまう。


「ところで、牛乳をどっかに転移させるとか、蒸発させるとかはできないのか?」


「体の中でそんなことをしたら火傷するだろう。まぁ体内に障壁を展開して蒸発させれば何とかなるかもしれんが、さすがにそんなリスクは負いたくない」


「体内に障壁って・・・そんなことできるのかよ」


「できるとも。体の中の構造を理解していれば不可能ではない。おそらくコータもできると思うぞ?索敵で自分の体を調べて、場所の状態を掴めば可能だ。だがその分リスクは付きまとうと思え?体が動けばその空間も動く。全く動かずに障壁を展開するというのはなかなか難易度が高い。動きながらやるとなるとさらに難易度は上がる。私もできるようになるまで五年ほどかかった」


アリスで五年かかる技術だ。康太がいったいどれだけの時間をかければできるようになるのかわかったものではない。


そもそも康太が覚えている障壁系の魔術は炸裂障壁だけだ。もし万が一炸裂障壁が砕けて刃となった場合、康太の体の中が切り刻まれることとなる。それはさすがにごめん被りたかった。


「まぁ体の中にある空間というのは非常に小さい。コータではピンポイントの発動は難しいだろうな。そもそもお前は障壁の魔術をあまり使わんだろう?」


「あはは・・・よけたほうが早いからな」


「ミカはあれほど達者に障壁を扱っているというのに、同じ弟子でもここまで違いが出るとは・・・サユリの弟子は一癖も二癖もあるから困る」


アリスが神加のことを褒めたことで、康太は目を見開いていた。


特に神加の性質や体質ではなく、神加の技術について褒めたことが印象に強く残ったのである。


「神加の障壁の魔術ってそんなに高性能なのか?」


「うむ。私にはまだ劣るとはいえ、造形に関していえば、神加のそれはかなり高いレベルになりつつある。この間見ていて驚いたほどだ」


「あぁ・・・精霊の形を作った奴か」


精霊たちのもとを巡ったときに、神加は精霊の形を障壁を用いて作って見せた。障壁とはもともと盾として使うようなものだ。一枚物のただの板として作ることが多い。あったとしても球体としての発動程度だ。


だが神加はそういったことにとらわれない。子供特有の自由な発想でいろいろなことに使うのだ。


アリスから見て、その自由な発想はある種の才能という風に見えたらしい。


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