表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十九話「その手を伸ばす、奥底へと」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1262/1515

中間管理職倉敷

「支部長禁術とか作ってたんですね。意外です」


「まぁ僕も昔は結構やんちゃしてたってことさ・・・主に君の師匠に振り回されていた関係でね・・・」


支部長は遠い目をしながら書き終えた術式を机の上に置く。それがどのような術式であるのか、精霊術師の倉敷は術式の解析が行えないために理解することができなかった。


「支部長、これどういう術式なんですか?」


「うん、これは簡単に言ってしまえば液体の性質を少しだけ変化させる術式なんだ」


「液体の性質・・・っていうと?」


「具体的に言えば粘度を変える。例えば水をドロドロにすることもできるし、逆にどろどろの液体をサラサラにすることもできる。多様性こそないものの、いろいろと面白いことができる術だよ」


「そんなものが何で禁術に・・・?」


禁術とはつまり、使うと魔術の存在が露見しかねないような効果を引き起こす、あるいは存在して誰かが使用すると危険なものが該当する。


封印指定には至らなくとも、露見の危険が高く、単純に知られると危ないような状況によっては使えるかもしれない危ない魔術というのが禁術だ。


だが康太からすれば液体の粘度を変えたところで魔術の存在の露見にはつながらないのではないかと思えてしまった。


「なるほど、使い方によっては、一発で変だって思われますね」


「え?これってそんなわかりやすい魔術か?」


倉敷が一瞬で理解していたのに対して康太はそこまで大げさなものだろうかと首をかしげてしまっていた。


「例えばだよ、蛇口から水を注いでさ、排水溝に流れていくだろ?その段階で粘性が高いと水道管が間違いなく詰まる。ただの水で透明なはずなのにスライムみたいな感触があるとどうよ?」


「あぁ、そりゃ嫌だな。少なくとも触れたくなくなる」


「あとはそうだな・・・水をはじいたはずなのに妙にべたついたりする。いや実際は糖分とかがないからべたつきはしないだろうけど、表面張力とかの関係でかなりまとわりつく感じになるかもな・・・禁術に指定されてるってことは、効果時間が結構長いんですか?」


「うん、注いだ魔力によって液体の総量、粘度とその効果時間を調整できる。かなり燃費が良くてね、使ってるところを見られて禁術扱いさ」


ただ液体に変質をもたらすといっても、その用途は多岐にわたる。特に性質そのものを変化させるようなものであれば、一般人の目に留まったときにその奇妙さは明らかなものになるだろう。


特に液体などは一度まき散らすと完全に消去するのが難しくなる。発動する効果と、それによって生じる魔術の露見の可能性という意味で、この魔術は禁術扱いされているのだろう。


とはいえ康太にはそこまで脅威になるような魔術には思えなかった。


「・・・さすが水の精霊術師。すぐにそういうことを思いつくか」


「餅は餅屋ってやつだよ。支部長、その術式いただけるんですか?」


「あぁ、必要なら今教えよう。ただ、わかっているね?これを受け取るってことはつまり精霊術師のまとめ役を担ってもらうってことだよ?」


代価とはつまりそういうことだ。倉敷がこの術式を教えてもらう代わりに、一定期間ではあるが倉敷は精霊術師たちのまとめ役を担うことになる。


それが良いことなのかどうかはさておき、倉敷にとって大きな転機となるのは間違いない。


「禁術一つでどれくらいの期間、まとめ役をやればいいですか?」


「そうだね・・・一年はやってほしいかな」


禁術一つで一年。それが果たして割に合っているかどうかはわからない。こればかりは本人の感覚による。


人によっては迷わず飛びつくだろう。だが少なくとも康太は禁術一つで一年は割に合わないと考えていた。


「どうすんだ?あんまりいい条件とはいいがたいと思うけど?」


「そうか?禁術一つ教えてもらえるんだぞ?普通なら教えてもらえないようなものをだ。一年くらいの価値はあると思うけど?」


「そうか?それなら自分で術式を作ったほうが早くないか?お前そういうの慣れてるんだろ?」


「お前術式作るのにどれだけ苦労するか知ってるのかよ?面倒くさいし危ないし、やらないに越したことはないんだよ。禁術ならなおさらだ」


康太は自分で術式を作ったことがないため、その苦労を理解できないが、倉敷は一時期自分で術式を作成していたのだ。


そのため術式を一から作るその苦労は理解している。


術式を作ったことがあるものからすれば、新しく術式を作るのにかかる時間と天秤にかけた時、一年という時間はとても短く感じられるのだ。


そういう意味では破格の条件といえるだろう。


その術式への多様性よりも、禁術であるという貴重性こそが破格と思える感覚に拍車をかけた。


「まぁお前が決めることだしな。好きにしてくれ」


「あぁ。一応感謝しとくよ。お前のおかげでいろいろ手に入ったし」


「一応とはなんだ一応とは。もっと感謝していいんだぞ?崇め奉れ」


「ざけんな。お前に今まで振り回された件で相殺だ。っていうかどうせまだ振り回すつもりなんだろ?」


「イクザグトリィ。まだまだ修羅の道を歩もうぜ」


「死ね。可能な限り苦しんで死ね」


倉敷は暴言を吐きながら支部長から術式の書かれた紙を受け取る。この瞬間、倉敷は協会内における精霊術師たちのまとめ役という立ち位置を手に入れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ