表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十九話「その手を伸ばす、奥底へと」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1258/1515

学校がまた始まる

九月、夏休みが終わり、康太たちは学校に通う学生生活へと戻っていた。


長い夏休みを終えて始まった学校に、ほとんどのものが鬱屈とした表情をしている。中には充実した夏休みを送った者もいるのか、晴れ晴れとした表情の者もいるが、それらはごく少数だった。


「あぢぃ・・・九月って言ったってほぼ八月みたいなもんじゃんか・・・くっそあちい」


「暑い暑い言わないでよ、こっちまで暑くなるじゃないか」


「暑いもんは仕方ないだろ・・・おい八篠、俺を扇いでくれ」


「ふざけんな、こっちだって暑いんだ。自分だけで手一杯だっての」


康太は自分のクラスで部活仲間の青山と島村の二人と夏休み明け久しぶりに会ったということで話をしていた。


康太は夏休みの間あまり部活に参加しなかった。一度顔を出した程度なのでこの二人と会うのは実に久しぶりだったのである。


この夏でいろいろありすぎた。魔術師に関係ない一般人の日常に戻るのも久しぶりであるため、康太は言動に可能な限り注意していた。


「そういえば八篠はこの夏休み何してたの?部活にもあまり来なかったけど」


「それがさ、聞いてくれよ。家の用事だのなんだの、方々飛び回ってるって感じ。親戚の訃報があったりしてさ・・・」


「マジか。じゃああんまり遊んだりもできなかったのか?」


「んー・・・山行ったり海行ったりはできたけどな。それでもほとんど一瞬だよ。実際泳いだりはできてないし、山って言っても本当に登って下りただけだし」


そりゃ残念な夏休みだったなと青山から笑われるが、笑えないことが多かったのが今回の夏休みだった。


康太からすれば一生忘れられない夏休みだろう。そういう意味では記憶に残る、印象に残る夏休みだったのは間違いない。


「二人はどうだったんだ?どっか遊びに行ったりしたのか?」


「僕は彼女と遊んだりしてたよ。一緒に勉強したり、遊園地行ったり。あと結構部活に顔出してたりもしたけど・・・暑いから熱中症にすごい気を遣ったよ」


島村の言葉に青山は思い切り舌打ちをする。


「彼女持ちはいいよなぁ、こちとら半分は部活やってたぞ。お前らもうちょっと顔出せよな、八篠はまぁしょうがないかもだけど」


「悪いな。そういやうちの野球部、今年どうだったんだ?」


「あと一歩で甲子園だったらしいよ?すごい悔しがってた。今年は三年生少なかったから、来年は甲子園いけるんじゃないかって話してた」


「お、もしかしたら来年は学校全体で応援に行くことになるかもしれないな。甲子園ってどこだっけ?大阪だっけ?兵庫だっけ?」


「兵庫県だよ。例年すごい人になるらしいけど・・・うちの学校全員いけるのかな?それなりに生徒いるけど」


「行けるんじゃないか?そのあたりは学校が何とかするだろ」


もし来年の夏、甲子園に行くことになれば、現地の魔術師に多少挨拶をしなければならないだろう。


西の四法都連盟、兵庫の管轄がどの家なのかは知らないが、土御門を介して挨拶をしておいたほうがいいかもしれない。


ただでさえ康太は協会内での悪評が絶えない。何もせずに勝手に行動したらそれこそ協会の悪評をそのままにとられかねない。


自ら悪評を広めた感もあるが、それでも行動しにくいような状況を作ることは避けなければならない。


「っていうかこの夏全然雨降らなかったじゃん?水とか大丈夫かな?」


「え?そうか?結構雨降ってたようなイメージあるけど」


「八篠はいろんなところ行ってたからだろ?こっちの方は全然降らなかったぞ?」


「マジか、最後に雨降ったのどれくらい?」


「えっと・・・八月の頭とかじゃない?本当に全然降ってないんだよ」


康太はいろんなところに行っていろいろ活動していて、なおかつ倉敷に雨を降らせたりしていたために雨が最近降っていないという印象はなかった。


だがどうやらこの近辺は最近まったく雨が降っていないらしい。ほぼ一カ月雨がないとなるとなかなか厄介なことになりそうだった。


「そりゃ水不足にもなるかもな・・・でも山の方はどうなんだ?こっちが降ってなくても、ぶっちゃけ山の方が雨降ってればオッケーだろ?」


「そりゃそうかもしれないけどさ、これだけ雨が降ってないといろいろと不安になるよ・・・作物の関係とか」


「何なら雨乞いでもするか?この辺り一帯を水の底に沈めるレベルで」


「もはや天災レベルなんだけど。そんなことできる人がいたら確実に世界滅ぶよね」


実際はただ雨を降らせる程度のことならばかなりの数の人間が、というか魔術師が可能なわけである。


天災レベルで雨を降らせるとなると、かなりの魔術師が協力しなければいけないが、それでもできないわけではないのだ。


それをしないのは単純にそれだけの理由がないからというのが大きいだろう。


世界など滅ぼすよりもよほどやることがある。魔術師はそれほど暇ではないのである。


「でも雨が降らなかったおかげでいろいろ遊べたからうれしかったけどね」


「これだから彼女持ちはよ。なぁ八篠」


「まったくだよな。もうちょっとその幸せを俺たちにも分けてくれよ彼女持ち」


「二人とも彼女つくればいいじゃない」


「できれば苦労しないんだよ!」


青山の悲痛な叫びが教室に響いたところで予鈴が鳴り、休み時間は終わりを告げる。


友人たちはいつも通りだなと康太は少しだけ安心していた。


















「こうして会うのは久しぶりかしらね」


「そうだな、電話では話してたけど、会うのは二週間ぶりくらいか?」


康太と文は放課後、今までのように、学校の購買部のある場所のベンチで話をしていた。


暑さのためか、あまりこの場所には人がいない。部活に精を出すか、早々に家に帰るかの二択だ。こんな場所でただ時間を潰しているだけの人間はほとんどいない。


「どうなんだ最近。なんかずっと引きこもって実験やってるみたいなこと聞いたけど」


「あとちょっとでめどが立つと思うわ。ちょっと根を詰めすぎてたっていうのがあるけど、少しは楽になると思う。あんたの方はどうなの?」


「こっちはいつも通りだよ。修業して、協会の依頼こなして・・・まぁ悪評が一つ追加されたくらいか」


「また変なことしたんでしょ。今度は何したのよ」


「誘拐されてた被害者から情報をもらった」


「・・・それの何が悪いことなの?」


かなり濁した説明であるために文はそれの一体それの何が問題の行動であるのかが理解できなかった。


実際は意識も戻っていないような重体の状態の人間の記憶を強制的に読んだのだが、そのあたりは説明しても意味がないだろう。


「ちょっと強引にやったからな。拷問とかはしてないけど、意識なくした状態の人から記憶を読んだってだけ。支部長からの非難声明をもらっちゃったよ」


「なるほどね・・・まぁ支部長からしたら一応は文句を言っておこうって感じかしら?あの人も相変わらず苦労してるわね」


康太や小百合が無茶苦茶な行動をとるたびに支部長が何かしらのアクションをしなければいけないために、支部長の精神的な負担は大きい。


文からすれば不憫に思えるが、同じようなことをしているために親近感は強かった。振り回されるという意味では文との立場は一致しているといえるだろう。


「それで?これからどうするつもりなの?」


「今のところ情報収集の段階だな。この間捕まえた連中がなんか知ってそうだから、それを搾り取ってもらってるところだ。支部長直々に命令してるから、それなりに時間をかければ確実に何とかなるだろ」


「ふぅん・・・他に何か進展はあった?」


「えっと・・・マウ・フォウさんが前に追ってた金の動きでいろいろ掴んだって話は聞いたな。宗教団体に金が流れてて、今ほかの支部がその宗教団体を調査してるらしい。実際危険なら殲滅って話になってるな」


「宗教団体ねぇ・・・なかなか面倒くさそうな話になってきたわね。そういうのって基本的にあまり良いものじゃないでしょ?」


「イメージは俺も同じ。胡散臭くて信者をだましてるイメージ。実際どうなのかは知らないけどな」


巨大な宗教でも小さな宗教でも、結局のところ金は必要になってくる。宗教とは文化の一つだ。そういったものを邪険にする者はいないが、中にはそういった事情を利用するものもいるのも事実である。


弱った人間を救う者たちもいれば、弱った人間から搾取する者もいる。どちらが宗教として正しい姿なのかはわからないが、康太も文も宗教と聞いてあまり良いイメージは持てないのも事実だった。


「その宗教団体は、例の組織と繋がりはあるの?」


「わからない。金が流れてたっていう点で何かしら怪しい部分があるのは間違いないんだけどな。それがただその宗教団体を潤すためなのか、研究とかそういうことに使用してたのかは判断できない」


「あとは調査待ちってところかしら・・・調べられるのを待っていなきゃいけないっていうのはなかなかもどかしいわね」


「仕方ないわな。俺ら調査系の魔術師じゃないし。戦うしか能がないからこういう暇な時間を謳歌しようじゃないか」


「平和って言ったほうがいい気がするけどね・・・そういえば神加ちゃんはどうなの?最近元気にやってるの?」


「あぁ、夏休み終わって学校に行ってるよ。熱中症が心配だけど、神加ならうまくやるだろ。精霊たちもついてるし」


今回の夏休みで、神加の中にいる精霊たちが多少術式を発動することが可能であるということを知ったために、康太は神加が熱中症になるという可能性はほとんどないと考えていた。


体温調整、周囲の気温の調整、風を起こしたりとおそらく精霊たちに頼めば大抵何でもできてしまう。

無論大勢の人がいる場所ではそういったことは大々的にはできないかもしれないが、神加一人を守る程度ならば問題はないだろう。


「そう、あの子も元気になってきたから・・・もうすぐ一年だっけ?」


「そうだな。去年の十月?十一月ごろだったっけ?いきなり師匠が神加を連れてきたときは驚いたけどな」


神加が小百合に連れられてきてからもうすぐ一年が経とうとしている。あの頃の神加と今の神加は比べようがないほどだ。


彼女は少しずつではあるが精神を回復させつつある。


良い方向に行っていればよいのだが、これから先大人になっていくにつれて自分の周りの環境に疑問を抱くこともあるだろう。


そうなったときにどのように説明するのか、康太は今から頭が痛かった。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ