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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十八話「対話をするもの、行使するもの」

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理不尽の象徴

「よし、準備できたぞ。それでは上映開始」


そういいながらアリスは壁に映像を投射していく。そして同時にカメラで録画し始め、その映像を記録していく。


そこに映し出されていたのはあの建物の地下の一室の映像だった。横に転がされているためか、建物の上下がくるっているものの、その中の様子はしっかりと見ることができていた。


建物の中には何人もの魔術師が立って、方陣術の中心に一人の精霊術師らしき人物を座らせた状態で術式の発動を試みているようだった。


「あの術式は、以前見たものと同じなのかな?」


「前回のやつは少々位置と角度の関係で見えにくかったからわからん。今回も角度が悪いことに変わりはない。同じものかと言われると自信は持てん」


「ん・・・もし同じであれば、方陣術の中心に配置された彼も消える可能性がある、ということか・・・」


「見ていればわかる」


支部長との会話よりも映像の出力に集中したいのか、アリスは目をつむって自分の中にある記憶を再現し続ける。


方陣術が光り輝くと、方陣術の中心に配置された男性の体の内側から何やら淡い光があふれ出す。


その淡い光に康太は心当たりがあった。似たようなものを何度か見たことがあるからである。


「アリス、あれ精霊の光か?」


「そうだ。精霊術師の中にいる精霊があふれている・・・というかあふれさせられているというべきか・・・いや外見上そう見えているだけか・・・どちらにせよろくなものではないのは間違いないな」


アリスの目がわずかに怒りを含んだことに康太は気が付いていた。アリスの過去、似たようなことでもあったか、あるいは似て非なる、同じようなことがあったか。


どちらにせよアリスにとってこの現象があまり好ましくないことは理解できていた。


淡い光は男性を包んでいき、しみこむように、漏れ出すように、体に光が循環しているようにすら見えた。


その光景に支部長は何が起こっているのかを理解できないのか、視線は映像に向けたままアリスの方に意識を向けた。


「アリシア・メリノス、これはいったい何が起きているんだ?彼らは何をしようとしている?」


「私の記憶と、少し現象は異なっているが・・・同じものであるならば、これは人ならざる者になろうとしているのだ」


人ならざる者。康太はその言葉にどこか聞き覚えがあった。どこで聞いたのか、確かアリスの昔の話の中に似たようなことを言っていたような記憶があった。


「確か、お前の知り合いが精霊だか何だかになろうとしたんだっけか?」


「よく覚えていたな。そうだ。馬鹿な実験をしたものがいた。そしてその場から居なくなった・・・あの時の光景とよく似ている。だが似ていても同じものではない。どこか・・・どこか不安定で、何かが違うように思う」


似ているが違う状態。同じではない何か。だがまったく異なっているわけではない。


そのことから、支部長はこの現象から、相手の目的を考察していた。


「つまり、彼らは精霊術師たちを使って何らかの人体実験を行っている、と・・・そういうことかい?」


「そういうことになるだろうな。ろくでもない結果、ろくでもない内容であることに変わりはない・・・どこでこんなものを見つけたのか・・・あの阿呆、研究結果をその辺に放置でもしていたのか」


なんともずぼらな管理体制だと嘆きたくなるが、結果としてこのような形で再利用されてしまっているのだ。


これ以上嘆いても仕方がないだろう。問題はこの術式でやろうとしていることと、その結果があまり良くないものであるという点である。


方陣術の光が満ちていき、そしてその体が光に包まれていく。部屋の中がまばゆい光で満たされていく中、その体が光の粒子のようになっていくのが映し出されていた。


衣服は体をすり抜けるように地面に落ちていき、体は輝きながら徐々に色合いを失っていき、半透明になっていく。


反対側の風景が透けていき、どんどんとその存在が消えていくかのように見えた。


そして光が最高潮に達した瞬間、その場に残されたのは地面に残された衣服だけだった。その結果を見て魔術師たちは落胆したようなしぐさをしてから残った衣服を部屋の隅へと乱雑に投げ捨てた。


「・・・これがやろうとしていることか・・・反応から察するに失敗だったみたいだけど」


「術式の開発、それにおける実験・・・なんてことはない魔術師の行動ととれなくもないが・・・さすがに精霊術師を実験動物に使うというのは看過できるようなものではない。何より、『人ならざる者になる』なんてことを見過ごすことはできないなぁ」


どのような理由をもって、どのような原理でそのような手法を取ろうとしているのか、康太にも支部長にも理解はできなかった。


だがあれが良くないものであるということくらいはわかる。あれを続けさせてはいけないということくらいはわかる。


それが組織立った行動であるのならなおさらだ。それが何かをもってして何かをなそうとしているのであればなおさら止めなければならない。


「気がかりなのはここからだ。ここまでは以前見た光景とさほど変わらない。ここからの情報の方が・・・おそらくビーはほしかったものだろうよ」


その言葉に康太は目の前の映像を注視する。かけらも見逃すまいと目を見開く。


片づけを進める中で、一人の魔術師が部屋の隅へと移動し何かを取り上げた。部屋の一角に置いてあったのはこの状況を撮影していたであろうカメラの類であった。


「カメラだな・・・あれで報告とかをしてたってことか?」


「おそらくな。ここからだ。見逃すな」


カメラから記憶媒体を取り出した魔術師は、その場に置いてあった封筒の類にそれを入れていく。


そして封筒に何かを書き込んでいた。それがいったい何を意味するのか分からないほど康太も馬鹿ではない。


「どっかに送ろうとしてたってことか?」


「そうだろうな・・・ここだけ拡大してみよう・・・文字はさすがにこの男の視力の問題で読み解けなかったが、切手も貼ってあることが確認できる。魔術に関することを郵便で送るという管理体制のずさんさがうかがえるが・・・」


「誰かに伝えるために、特定の誰かだけに届くようにした・・・さすがにこれ以上のことはわからないか?」


「あとはお前たちが倒した魔術師たちの記憶を読めばわかるだろうな。相手の位置、相手の情報、わかることはいくらでもある。手がかりの一つを掴んだと思うべきだろうな」


「・・・あぁ、十分だ。十分すぎる。あいつらの誰かが情報を持っているってことがわかって、裏に誰かがいるってわかった。これだけであいつらから情報を搾り取るだけの理由になる。そうですよね支部長」


康太の声音が変わっていることに支部長は気づいていた。その目が変わっていることにも気づいていた。


この情報を得たことが康太にとって大きな変化を産むことも理解していただけに、支部長としてはこの変化を素直に喜ぶことはできなかった。


「あぁ・・・彼らの情報すべてを僕らがもらい受けよう。そうしないといけない事情ができてしまった」


いかなる手段を用いても相手から情報を搾り取れるだけ搾り取る。相手の事情や状況など関係なく、身体的機能も精神的安定も無視して搾り取れるだけ搾り取る。

それだけの準備が康太にはあった。


「支部長、情報収集は俺がやりますか?」


「・・・いや、君がやると最悪死にかねない。こちらで確実な手段を使うよ。安心してほしい、薬だろうと魔術だろうと、ありとあらゆる手段を使って情報を手に入れる。支部長権限でも何でも使って、彼らの初恋の相手から黒歴史まで調べ上げて見せるさ」


「・・・わかりました。それではお任せします」


さすがの康太も支部長にここまで言われては引き下がらないわけにはいかなかった。


支部長も事の重要さはわかっているのだろう。それ以上深く言うことはなかった。


アリスはひとまず情報として記録したカメラの記録媒体を支部長に渡す。


「必要とあれば私も手を貸そう。これはさすがに私としても看過しがたい」


「そうかい?君の協力があるなら百人力だ。必要になったら声をかけさせてもらおう・・・ブライトビー、一つだけ、一つだけ確認したい」


「・・・なんでしょう?」


「君への非難声明なんだが・・・どこまで書いていいのかな?」


「どこまで・・・とは?」


「うん、今回の君の行動・・・まぁあらかじめ僕が君に禁止したわけでもないから、支部長に逆らったというわけではない。けれど精霊術師とは言え被害者に情報提供を強要した、というような内容になる。ある種君の人格否定のようなことを書かなければならないのだけれど」


どうやら支部長としては康太の人格否定や、特定の悪口にも近いような内容を書かなければいけないことを気にしているようだった。


本来であればそのあたりは気にせず、堂々と書いてほしいところだが、そうもいかないのが支部長の人柄というべきだろう。


「好きに書いてください。師匠に書いているようなのと同じような内容でも構いませんよ?」


「彼女に対しては一応非難声明は数える程度しか書いたことはないからなぁ・・・あんまり参考にしたくないんだよね」


それでも何回かは書いたことがあるのだなと康太は苦笑してしまう。さすがは俺の師匠だといいたいところだが、康太としては全くもって嬉しくない事柄だった。


「まぁ、師匠と同じ内容をかくっていうのはちょっとあれかもしれませんけど、似たような内容でいいんじゃないですか?一応師匠の弟子なわけですし」


「うん、わかった・・・じゃあちょっと似せて書いておくことにするよ。後でいろいろ文句とか言わないでくれよ?」


「大丈夫ですよ。今回のことに関しては俺に非があるんですから。支部長は堂々としていてください」


康太の言葉に支部長は多少気が楽になったのか、非難声明の作成と確保した敵魔術師の尋問部隊の編成に入るようだった。


こうなってしまえば康太たちのできることはもうない。必要な情報を伝達して、康太たちは協会を後にする。


数日後、康太の行動に対する支部長からの非難声明が出された。


主に康太の行動が協会としての利益や方針からずれており、それを警告するような文面ではあったが、その中の一文が、多くの魔術師の目を引くことになる。


『被害者たる精霊術師に対して、非道な情報収集を行うという理不尽さを象徴するような行動は、協会として看過できない』


康太の行動について、理不尽という言葉が使われ、精霊術師に対する待遇に関することがさらに言及される一文が記載されたことで、康太の評判は下がり、精霊術師に対しての見方がほんのわずかだが変化した内容だった。


おおむね康太の想定通りの結果といえるだろう。ただ一つ、康太が想定していなかったことがあるとすれば、康太の協会内での呼び名に『理不尽の象徴』というものが加わったことくらいだろうか。


『破壊の権化』たる小百合の弟子が、『理不尽の象徴』という名を冠することがどういう意味を持つのか、それを理解している魔術師がどのような反応をするのか、それはまた別の話である。


たぶん誤字が五件分たまっていると思うので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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