叱らなければいけない
「というわけで記憶を読んでもらってきましたよ」
「・・・あぁ、本当にやっちゃったのね。それじゃあさぁ・・・僕の立場的には君を非難しなきゃいけないんだよ?そのあたりわかって・・・君の場合はわかってやってるか」
「えぇ。なので大々的に非難声明を出してください。こう、精霊術師を擁護するようなそんな文章と一緒に」
「・・・君の厄介なところはさ、そういう裏事情を理解したうえで面倒なことをやらかすところだよね。こっちにも利があるからなおさら怒りにくいんだよ。クラリスとは違う意味で面倒くさい」
康太は基本的に行動には理屈がある。時折自分の感情に従うこともあるが、その感情による行動だってある種の理屈と言えなくもない。
特に康太の場合は小百合のように突発的な行動ではなく、いろいろと背景などを鑑みたうえで計算して行動することもある。
支部長としてはそういうタイプの方が面倒くさいようだった。小百合のように感情のままに動く子供のような感覚でない分、その背景を知ってしまうがゆえに対応しにくいのかもしれない。
「まぁわかったよ・・・こっちとしても助かったといえば助かった・・・とはいえ、被害者にひどいことはしていないだろうね?」
「そのあたりはアリスから。どうなんだ?再起不能とかにしたのか?」
「馬鹿を言うな。私をだれだと思っている。アフターケアもばっちりだ。あと数時間ほどで目覚めると思うぞ。洗脳によってぐちゃぐちゃになっていた頭の中を整理してから記憶を読んだ。今は夢の中でその情報を整理しているところだろうな」
「・・・治療と情報収集を一緒にやってくれたということだね・・・感謝するけど・・・本当に大丈夫なのかい?」
「まぁクレームは来ると思いますよ?なので全面的に非難してください。そのほうが今後動きやすいでしょう?」
康太の言葉に支部長は頭を抱える。康太を非難しておいたほうが支部長としては今後動きやすくなるのは間違いない。
康太と支部長の関係性が崩れるということは今のところあり得ない。協会の中で康太の評判が悪くなっても別に困ることもない。
となれば今回の行動によって生じるデメリットはないに等しいのだ。それならば行動をしたことは間違いではないと康太は確信している。
とはいえ、メリットとデメリットだけを考えた行動では第三者の支持を十全に受けることはできない。
時には倫理的、道義的な観点で物事を考えなければならないのだ。
康太たちが魔術師で、いくら法律などから無縁の存在でも、そのあたりを変えることはできない。
所詮魔術師とて人間なのだから。
「わかったよ、公式に君への非難声明を出す・・・協会内部での君のイメージは一気に下がると思ってくれよ?」
「問題ないです。すでにマイナスになってますから。これ以上は下がりようがありません」
「・・・そうとも言えないんだよ?君の場合クラリスの弟子だったって観点からマイナススタートっていうのはわかるけど、これまで問題行動らしい問題行動はそれほど起こしていなかった。どれもこれも依頼を完遂するための行為であるという建前があった。でも今回は自分の情報のために誰かに負担を強いた。この違いは大きいよ」
「とはいっても、もともとある俺の噂、支部長だって知っているでしょう?それを聞けばその程度些細なものですよ」
「まぁ・・・それはそうかもしれないけどさ」
第三者、特に自分と関わりのない人間からの評価など、康太からすればどうでもいいの一言だった。
その程度のことで行動に制限がかかるのであれば、康太は別に評価などいくらでも落ちて構わないと思ってさえいた。
以前までは自分の敵を作らないために高い評価を求めていたが、今は方針が少し変わっている。
敵を作ってでも、身内を守るために行動する。
康太の敵になるのは仕方がない。時として引けないこともあるだろう。だが康太の身内に手を出そうとするのであればそれはもはや許すことはできない。
そういう考えのもと、康太は行動を始めている。
敵が生まれるのであれば倒せばいい。二度と敵対しないように徹底的につぶせばいい。単純な話である。
「それじゃあ、それで得られた情報を教えてくれるかな?前に見た男の情報以上のものはあったのかな?」
以前見た男の中の記憶では、一瞬の瞬きの間に方陣術の中に入っていた人間がいなくなったように見えた。
今回の方陣術の発動の光景か、あるいはまた別の情報か、どちらにせよ康太たちにとって有益な情報であればなおよい。
「そのあたりは今から見せる。しばし待て、またカメラで撮影しておけば皆に伝えることができるだろう?」
そういってアリスは懐から以前購入したカメラを取り出す。部屋の中にセットしながら位置を調整する姿に、支部長はため息をついてしまっていた。
「用意周到で嬉しい限りだよ・・・もう少し相談してから行動してほしかったけどね」
「相談したら俺が勝手に行動したってことにならないじゃないですか。それにもう今更ですよ」
康太の言葉に「それはそうなんだけどさぁ」と支部長はうなだれる。支部長という立場からは康太を叱らなければいけないのだが、事情が事情なだけに叱ることができない。なんとももどかしい状態に支部長は頭を抱えてしまっていた。




