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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十八話「対話をするもの、行使するもの」

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情報過多

「というわけで精霊術師の頭の中を覗いて一緒に悪役になろうぜ」


「まずお前の頭の中を覗いてやりたい気分だ。もう少し説明をしろバカ者」


いつもの通りというわけで論法にてほとんど説明せずにアリスのもとにいい笑顔でやってきた康太は、とりあえず説明するのも面倒だったためにアリスにここ数時間の記憶を読ませて情報を共有することにした。


康太の頭の中を覗き込んだアリスは、康太が今どのような状態になっているのかをほぼ正確に理解していた。


「・・・躍起になるのはわかるが・・・コータ、少々急いているのではないか?お前がそこまでのことをする必要があるとも思えんのだが」


「まぁまぁいいじゃん。話をさっさと進めたいんだよこっちとしては。それに洗脳されてるかもしれない加害者より、ただの被害者ならまともな情報が得られるかもしれないだろ?」


「確かにそうだが・・・コータ、敵と味方の区別くらいはついているだろうな?」


「わかってるよ。誰彼構わず牙をむくようなことはしない。今回のはちょっと事情が事情だから頼んでるだけだ。そもそもその精霊術師が普通に受け答えできてたら問題なく話を聞いてたっての」


今回アリスに記憶を読んでほしいと頼んだのは被害者が受け答えができないような状態であるが故だ。

普通に受け答えができるのであれば、少々非道な手段を使う必要もなかっただろう。


いつ回復するかもわからないような被害者を待っているだけの暇はない。さっさと情報を得ないといつ被害者が消されるか分かったものではないのだ。


消されるのが命なのかそれとも記憶なのかはさておいて。


「・・・なんだか最近お前に振り回される回数が増えている気がするぞ?フミがいないとお前のストッパー役がいなくなるのが欠点だの・・・早くいつもの状態に戻ってほしいものだ」


「アリスだって俺を止められるだろ?その気になれば俺なんて小指で弾き飛ばせるような実力持ってるくせに」


「私が言っているのは精神的な面での話だ。お前をしっかり監督できるのはフミしかいないと再認識したよ・・・コータ自身気づいていないだろうが、かなり不安定になっているぞ?」


「そうか?いつも通りな気がするんだけどな」


康太自身はいつも通りであるようにふるまっているが、アリスからすれば今の康太はかなりバランスを崩した状態であることは否めなかった。


行動一つ一つが危ういのだ。どの程度と言われるとアリスも少し困るが、幸彦の一件以降、康太は精神的な面でかなり異常がみられる。


こういう時にこそ文の支えが必要なのだが、文は今自分のことで手一杯だ。アリスも文が何をしているのかは把握していないが、この場に文がいないことを少しだけ恨めしく思っていた。


普段ならば康太が何かを頼んできたのであれば、愚痴の一つでもこぼしてやるところだ。必要であれば対価も要求しようと思っていたのだが、今の康太は放っておくと何をしだすかわからない。


文という支え兼ストッパーがいない今、アリスは自分が康太を助けてやらねばという気持ちが強くなっていた。


デビットの一件もあり、そして何より幸彦のこともあり、アリスは今の康太の頼みを無碍にできるほど無神経ではいられなかったのである。


手のかかることだとアリスはため息をつきながら目を細める。


「それで、お前としてはその四人の精霊術師の記憶を読んでどうするのだ?敵の情報があった場合、そ奴らも潰しに行くのか?」


「まぁ潰せるなら潰しに行くけど、たぶん被害者はそこまで知らないだろ。知りたいのは相手の目的と、たぶん他にもいた被害者がどうなったかだ。ある程度予想はしてるけど、確証が欲しい」


「・・・消えたというやつか」


すでに康太の記憶を読んでどういう状況であるかを理解しているアリスは眉をひそめて口元に手を当てる。


確かに康太が気がかりとしているのもわかる。物質的なものがその場から姿を消す場合、どのような術式が組まれたのか全く分からない。


それがただの転移であれば何のことはなかったのだが、状況的にもそれがあり得るとは言えない。


アリスも正直に言えば気がかりであった。その方陣術を実際に見て解析してみたいと感じたほどだ。


康太の記憶から読み取った方陣術ではわからないことも多い。とはいえそこまで積極的に動くつもりはアリスにはなかった。


面倒ごとに望んで首を突っ込むほど、アリスは活動的ではないのである。


「わかった、私がその四人の精霊術師の記憶を読んでお前に見せよう。これは一つ貸しだぞ?」


「わかってるって。何なら長寿漫画をシリーズでプレゼントするぞ」


「ほほう?百巻超えの漫画でも構わないというのか?私は容赦なく注文ボタンを押すぞ?」


「・・・いつの間に通販やるようになったんだよ」


いつもどこから娯楽用品を仕入れているのか不明だったが、いつからか通販を活用するようになっていたらしい。


娯楽に関してはアリスは現代に強く順応しつつある。


さすがは何百年も生きていない。その時々における順応性は確かなものであるといわざるを得なかった。


こうして康太はアリスの協力を取り付けることに成功する。支部長からすれば少々頭を悩ませる状況であることに間違いはないのだが。


康太はアリスを連れて協会に戻ると、さっそく被害者である精霊術師が療養している部屋へとやってきていた。


そしてその場所には当然被害者を監護している魔術師もいる。未だ意識が戻らない精霊術師たちを癒そうとしている彼らは、康太がその場にやってきたことに強く驚いているようだった。


当然だろう。支部長にもほとんど追加の報告もせずにこの場に直接やってきたのだから。ここに康太がやってくるなどと思ってもみなかったのである。


「ぶ、ブライトビー。何をしに来たのかね?」


「少しこいつらに用があるだけですよ。少ししたら帰ります」


「・・・彼らは絶対安静だ。まだまともに意識が戻っていない。眠っているような状態なんだ。荒っぽいことは・・・」


「しないですよ。俺を何だと思っているんですか」


看護をしていた魔術師は、康太が何かしらの情報収集に来たことを察していた。


さらに言えば康太にまつわる噂はお世辞にも良いものとは言えない。この魔術師もその噂のいくつかを知っているだけに康太が精霊術師たちに近づくことに対してあまり良い印象を受けることができなかった。


「アリス、頼む」


「任されよう・・・全く仕方のない奴だ」


康太の後ろからやってきた一人の魔術師アリスが精霊術師の額に指を触れさせると、精霊術師の体が大きく痙攣し始める。


「おい!何をしている!やめさせろ!彼らはまだ危険な状態で」


「知りません。こっちは少しでも早く情報が欲しいんです。それにどうしてこいつらがいつまで経っても目覚めない理由を調べる手間も省けるでしょう?一種の治療のようなものですよ」


「いや、明らかに苦しんでいるようにしか見えないんだが」


「そりゃ脳みその中身を覗かれてればそういう反応もしますよ。どうだアリス、面白い情報はあったか?」


「・・・ダメだの、かなりひどくいじられておる。見ていた光景も壁の方角、まともな情報はない」


「よし、じゃあ次こいつだ。いい情報を頼むぜ」


「それはこいつらに言ってくれ。私は読むことしかできんのだから」


まともな情報を持っていなかった精霊術師にはもはや目もくれず、康太とアリスの興味は別の精霊術師へと移っていた。


記憶を覗き見られた精霊術師はわずかに痙攣しながら虚空を見つめている。意識が戻ったわけでもなく、病状が変化したというわけでもないが、今の一連の流れを見ると明らかに康太たちが原因でこうなったように見えてしまうだろう。


「おいブライトビー、いい加減にしないか!それ以上続けるならこちらにも考えが・・・!」


魔術師が何かをしようとした瞬間、康太の着ている魔術師の外套の一部が形を変え、魔術師の口を押さえつけた。


康太が着ている外套はウィルが形を変えたものだ。別に立ち位置を変えなくとも、構えを変えなくとも、ウィルは康太の思うが儘に動いてくれる。


「考えがある。とてもいいことです。何も考えずに行動するよりはずっといい」


そういいながら康太は魔術師に向き直り、その仮面の奥にある瞳をにらみつける。


「で、何を考えましたか?何をするつもりですか?何が目的ですか?」


その目が、その声が、そしてその体が、これ以上邪魔をするのであれば容赦はしないと告げているかのようだった。


そして魔術師は理解できてしまう。この男に逆らえば大変なことになるであろうということを。噂の通り、魔術師としてどころか、人間としてまともに生きることもできないような状態にされるのではないかと。


だがそれでも、魔術師は何とか抗議しようと開けない口の代わりにうめき声をあげる。


そのうめき声の意味が、康太に対しての抗議なのか、それとも命乞いなのかは康太には分らなかった。


「そこでおとなしくしていてください。少なくとも危害を加えるつもりは俺にはないんですから」


「ビー、こやつもあまり情報はもっていないぞ。何人か魔術師の姿は見ているが、あまり良い情報とは言えん」


「よし、じゃあ次のやつだ。ちなみにこいつも洗脳されてる感じか?」


「洗脳・・・というか頭の中をぐちゃぐちゃにされている感じだの。明らかに利用する意図のない・・・破壊に近い方法だ。お前の使う魔術に少し似ているかの。本質は違うが」


「なかなかいい根性してるな、明らかに壊す目的か。ってことはこいつらに人格的な目的があったってわけじゃないんだな。人間として?精霊術師として?精霊を宿していることに意味があるのか、魔力があることに意味があるのか・・・」


康太はアリスの情報からいろいろと思考を巡らせるが情報が足りな過ぎてまともな考えは浮かんでこなかった。


「なんか決定的な情報はないのか?方陣術が発動しているところとかさ」


「無茶を言うな。めちゃくちゃになっている画像や映像の中から必要なものを取捨選択しているのだぞ。確認作業だけでも面倒くさいというのに必要なデータだけ抜き出せるものか」


「・・・なんか動画編集してるみたいだな。そういうのも得意なのか?」


「やったことはない。だが似たようなものだろう?何せいらない情報が多すぎる。逆に言えばそれなりに情報はもっているということでもあるがの」


それをお前が必要とするとは限らんということだとアリスはため息をつく。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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