立ち回り方は誰に似たか
「それじゃあこれで解散になるけれど・・・ブライトビーは少し残ってくれるかな?」
「なんです?また依頼ですか?」
「いや、そういうんじゃないんだ。今回のことについて、ちょっといろいろと相談したくてね」
相談ならば倉敷が一緒でもよいように思えたが、支部長があえて康太だけを指名したということもあって何か意味があるのだろうと康太は考えていた。
康太は倉敷に視線を送ると、倉敷も何となくその事情を理解したのか小さくうなずいてから支部長室から退出していく。
「それじゃ支部長、私たちも失礼します。それじゃブライトビー、今度は私たちを呼ばないことを祈るわ」
「ありがとうございました。また何かあったら声をかけますよ」
「かけないでよ、危ないことは嫌なんだから」
そういいながらサニーたちも倉敷の後に続くように支部長室から出ていく。
この場に残されたのは支部長と康太だけだ。いったい何の話をするのか、康太には何となくではあるが予想はできていた。
「さて・・・ブライトビー、君に残ってもらったのはほかでもない」
「今回のことについての意見交換ですよね?別にほかの全員がいる状況でもよかったんでは?」
「精霊術師が関わっている案件で、トゥトゥエルがいるのは少々刺激が強いと思ってね。それに、君はこういう考えを結構ズバズバいうから」
倉敷をこの場から出したのは精霊術師が特に関わっている案件だからというのもあるようだった。気を使っているつもりなのかは不明だが、康太からすれば余計なお世話なような気がしてならなかった。
「それで、今回の件は支部長としてはどう考えているんですか?」
「うん・・・君の報告の中でちょっと気になることがあってね・・・方陣術のあった部屋にあった衣服についてなんだけれど」
支部長に報告しておいた情報の中にはそれぞれの部屋の様子も伝えてあった。その中には方陣術の描かれていた部屋にいくつかの衣服が残されていたことも含まれている。
「その場には死体はなかったんだよね?」
「えぇ、ありませんでした。死体だけを処分して衣服を処分しない・・・なんて状況はありえないとは思います」
「・・・つまり、衣服を残して体だけがどこかに行った・・・ということかな?」
「複雑な方陣術の解析はあまり得意ではありませんから、なんとも言えませんが・・・その可能性は捨てきれないと思いますよ」
捨てきれないといいながら、康太はまた別の可能性を思い浮かべていた。それはずいぶんと前の話だ。
それに気づいたきっかけは土御門の二人が一緒にいたという記憶である。そしてそのきっかけを作った人物、幸彦の姿を思い出したからこそ康太はその可能性に気付いていた。
点と点が、線でつながりかけていた。
「支部長、前に俺たちが北海道にウサギを捕まえに行った時のこと、覚えてますか?」
「ウサギ?あぁ、精霊が宿っているウサギの話だね?それがどうかしたのかな?」
精霊が宿ったウサギが逃げ出し、康太たちはそのウサギを捕まえるために北海道へと赴いた。
康太たちは予知の力を使い、ウサギを効率よく探し出していった。だがその中でとうとう最後の一匹を見つけることはかなわなかった。
そして康太は覚えていた。そのウサギの痕跡が不意になくなっていた時のことを。
「最後の一匹、俺たちが捕まえられなかった一匹のことを覚えてますか?」
「あぁ、確か痕跡が途絶えていたんだったっけ?空でも飛んだか、転移したのか・・・後者はないか、準備に時間がかかりすぎる」
方陣術の痕跡と、その場から唐突に消えたウサギのにおいを康太は強く記憶していた。そして今回の事件。つながりはある。
「・・・ちょっと待って、この二つがつながっているって言いたいのかい?」
「可能性はありませんか?逃がされた精霊の宿った動物、襲われて攫われた精霊術師。無関係であるといえますか?」
「それは・・・まぁ精霊というつながりはあるけれど・・・さすがにそれは暴論過ぎないかい?精霊が関わっているだけというのと・・・消えている・・・」
口に出しながらその二つの共通点に気付いた支部長は口元に手を当てて悩み始めている。
ただ精霊を宿しているという共通点であれば支部長も一笑に付したかもしれない。
だがウサギも、そこにいたと思われる精霊術師も消えている。前者のウサギに関しては本当に空を飛んで連れ去られたのかもしれないが、精霊術師に関しては逃げたというよりは、本当にその場から体だけが消えたかのような状況だ。
「いや・・・いやいやいや・・・だけど。でも・・・うん、そうだな・・・」
「結局あのウサギの一件、バックがいたということはわかっていても、その先のことはわかりませんでしたよね?今回の連中がその一味だったのか、それとも別のグループなのか、また末端なのか・・・それはわかりませんが・・・」
「・・・関わりがない・・・とは言い切れない」
支部長の中でも点と点が線でつながっていた。どのような意味があるのかはわからないが、何か意味があってこの二つがつながっているように思えてならない。
動物実験をしてから人体実験を行おうとした、そんな風にも思える。
「今回の連中、情報を絞り出せるだけ絞ったほうがいいと思います。必要とあればアリスの力を借りることも視野に入れるべきかと」
「・・・君がアリシア・メリノスの名前を出すとはね・・・それだけの重要度だということは理解したよ」
康太の勧めに対しても、支部長はアリスの力を借りるつもりはないようだった。それは支部を任されているものとしてのプライドか、それともアリスへの配慮か、あるいはそのどちらもか。康太には分らなかった。
「にしても体だけが消える・・・消滅する・・・なんだか恐ろしいね・・・いったい何をどうすればそんなことになるのか」
「消滅・・・転移だったらあり得たんですけど、状況的に転移は難しいんですよね?」
「うん、君の報告を聞いてもやっぱり転移ができるような状況だったとは思えないんだよね。ウサギ一匹、あるいは人間数人?どちらにせよ転移の魔術の消費魔力はえげつないからね・・・高い素質を持っている人間が数十人から百人規模がその場に集まれば可能かもね」
数十人から百人規模というと、もはやちょっとしたイベントに近い。
そんな状況が作り出されていたらさすがの康太だって気付く。
そういう意味も含めて転移の魔術はありえないという結果にたどり着いたのだ。今回の方陣術の術式を解析すれば、詳しく状況がわかるかもしれないが、少なくとも簡単な話ではないのは康太もわかる。
転移ではないとすれば、体そのものが消えるか、透過、透明化など、考えられるのはいくつかあるが、衣服だけが残されていたという状況が不可解さを加速させる。
精霊、そしてその場から消えているという共通点。この二つがいったい何を表しているのかは康太も支部長も理解を超えているのか迷ってしまっていた。
「まぁとにかく、あとの情報収集は任せます。こういうわけのわからない話は誰かの意見を聞くのが一番です。俺はちょっとアリスに話を聞きに行きますよ」
「わかった。現場から何かが見つかったら報告しよう。君の求める情報なら真っ先に伝えるよ」
「ありがとうございます。ところで支部長、今回の精霊術師の被害者なんですけど・・・」
今回助けた精霊術師たちはかなり憔悴してしまっているようだった。どのような目に遭わされたのかはわからないが、満足に口もきけない状態だったのだ。
その状態を聞いていたために支部長も気の毒そうに首を横に振る。
「彼らのアフターケアは任せてほしい。といっても検査をしてからではないと手は打てないけどね・・・薬なのか魔術なのかもまだわかっていないから、少し時間がかかるかもしれないけど」
「あぁ、それはまぁお任せします。俺が言いたいのはそういうことじゃなくてですね」
「ん?じゃあどういうことだい?」
「えぇ、単純に今回の被害者から情報収集しちゃえばいいんじゃないかと思いまして」
「・・・えっと、話は聞くつもりだけど?」
「記憶を直接読むとかすればいいじゃないですかって話です。ちょうど意識が朦朧としてるなら記憶も読みやすいでしょうし」
「・・・君本当に当たり前のようにえげつない手段とろうとするよね?他人の記憶を読むとか普通はあんまりやらないんだよ?ほら、プライベートとかさ、そういうのもあるしさ」
「犯罪行為なんでもござれの魔術師がいったいいまさら何を言ってるんですか。情報収集のために良心の呵責とかを考えてる暇があるんですか?」
康太の言葉に、支部長は目の前にいるのが本当に康太なのか、奇妙な錯覚を覚えていた。
口調も体格も声も何もかも違うのに、目の前にいるのが彼の師匠である小百合のように思えてしまったのである。
望む結果を得るための過程を厭わない。それが小百合の魔術師としての特色である。そしてその弟子の康太もその特色を色濃く継いでいる。
小百合と長い付き合いの支部長が錯覚するほどに。
「・・・君のその考え方・・・クラリスに似てきたね」
「失礼なことを言いますね。俺は師匠ほど攻撃的ではないつもりですよ。周りにも気を遣ってますし、余計な争い事はごめんですし」
「・・・うん、そうだね」
康太の反論に対して支部長は完全に思考を放棄して空返事してしまっていた。康太に自分の考えについて議論するつもりはなく、何より康太の性格的に争いを好んでいないというのは理解していたからである。
争いは好まない、だが争いとなれば容赦はしない。
「とにかく、被害者から記憶を読みとるっていうのはあまり推奨できないなぁ・・・特に今回の被害者は精霊術師だ。もし勝手にそんなことをしたらまた精霊術師との確執が大きくなっちゃうよ」
「あぁ、そういう事情もありましたね・・・それなら俺が勝手にやったってことにしましょうか?」
「・・・汚れ役を買うということかい?」
「汚れるかどうかはさておいて、支部長がそういうことを指示するのはまずいでしょう。なら俺が勝手にやったことにして、支部長はそれを非難してうまいこと精霊術師たちが受ける印象を操作すればいいんじゃないですか?」
「・・・君は本当にえげつない考え方をするよね・・・そういうの、いったいどこから学んでくるんだい?」
「身近にえげつない代名詞がいるので」
「クラリスがそういった頭脳系の考え方をするとは思えないんだよね・・・あぁ、サリエラさんかな?あの人ならそういう立ち回り方は得意か」
社長職をやっているということもあって奏は組織的な立ち回りが非常にうまい。今回の場合であれば康太が勝手に行った行動に対する支部長の対応などで精霊術師たちは支部長の、ひいては支部の魔術師に対する考えを少し改めるだろう。
無論改めるのは少しでしかなく、その分康太が悪役を担うことになるのだが、そのあたりはもはやいまさらというべきかもしれない。
「そうと決まればさっそくオファーしなきゃですね。アリスに頼んでみます、もしかしたら他にもいい手が思い浮かぶかもしれませんし」
そういって康太は喜々として支部長室を飛び出した。残された支部長が頭を抱えたのは言うまでもないことである。
日曜日なので二回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




